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【3巻発売中!】転生後はのんびりと 能力は人並みのふりしてまったり冒険者しようと思います  作者: 弓立歩
アスカと最後の季節、春

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アルバへの移動と依頼


 とりあえずノヴァの魔剣作成の話は片が付いた。そう思っていると……。


「んじゃあ、あたしはここで!」


「あれ? ジャネットさんどこへ?」


「いや、王都の鍛冶屋に用があるんだけど……」


 そういえば今回ジャネットさんがレディトに来たのはそういう目的だったっけ。私の鍛冶師探しだけじゃなくてそっちも兼ねてたんだった。


「エレンに言い忘れてたけど、少なくとも一週間は帰らないって言っといてくれ!」


 ジャネットさんはそれだけ言うとさっさと王都行きの依頼を探しにギルドへ行ってしまった。


「私たちはどうする?」


「ん~、今からだと野営になっちゃうよね。泊まってく?」


「フィアルさん、店は大丈夫ですか?」


「う~ん。個人的には早く帰りたいのですが……」


「なら、野営に決定します!」


 ということでいったんは別れたものの、私たちもギルドに向かうのだった。



「あれ? アスカたちも来たのかい?」


「はい、アルバに帰るので依頼をと」


「頑張んなよ」


「はい」


 こうして見ていくものの、さすがにこの時間からだとあまりいいのがない。フィアルさんのところの商会の護衛は予定が先だしどうしようか?


「おっ、これとか銀貨六枚だぞ?」


「よく見なよノヴァ。それは、一パーティー当たりでしょ」


「ちぇ~。他のはなんかないかなぁ~」


 商人系のはほぼほぼ期日が決まってないようなものばかりだ。かと言ってここで依頼を受けないのもなぁ……。


「ふむ。これはどうですか?」


「ん? サンドリザードの生息域調査?」


「ええ。個体数が激減している今、彼らがどのあたりを住処としているのかを調査するものです。これなら明日の昼ぐらいにはアルバに着けそうですね」


「へぇ~、確かにこっち側からは滅多に行きませんね」


「でも、大丈夫なのかよ。あいつら強かったぞ?」


「ああ、ボスに率いられた場合は能力が上昇しますから。通常のサンドリザードなら皆さんはもう大丈夫ですよ」


「そうなんだ……。それなら」


「じゃあ、受けましょう! 依頼料はと……金貨1枚!結構高いですね」


「アルバだけでなくレディトでも今回の話は伝わっていますからね。中々受けたがらないので上げたのでしょう」


 こうして依頼を受けることに決めて持っていったのだけど……。


「あの~、Cランクの人がパーティーにいますか?」


「はい……」


 そんなこと聞かれたの初めてだけど、どうしたんだろう?


「何か問題でもありましたか?」


「えっと、この子はEランクですよね? あまりランクの低い方がこの依頼を受けるのは……」


「私、Cランクです」


「ふぇ~。お嬢ちゃんすごいね~」


 このパターン久し振りだなぁ。こういうところだとやっぱりフィアルさんに受けてもらった方がいいんだろうか?


「というわけですので依頼を受けるのは問題ありません」


「分かりました~。報告に関してはアルバのギルドを通してもらえますから、あちらで完了処理をお願いします」


「ご丁寧にありがとうございます。そうだ! 昨日の盗賊の報酬も貰っていいですか?」


「へっ? ああ、ちょっと待ってくださいね。二名の分ですね。では、銀貨六枚です」


「ありがとうございます」


 昨日の盗賊の報酬も貰い、新たに依頼を受けたら出発だ。


「おっ、決まったみたいだね。じゃあね」


「はい。帰りを待ってます!」


 再びジャネットさんと別れて、そのまま町を出て依頼の方角へ向かっていく。


「ところで、その肩のは何だ?」


「ちょっと前に時間があったから作ってみたの。名付けて『ティターニア』だよ。身近にティタを置いておけるようにしたんだ」


 使い方は簡単。左肩から腰にかけて革を下ろし、右腰で止める。左肩には小さい台が載っており、ここにティタが乗っかる寸法だ。ティタはちょっとごつごつしてるからそのまま肩に乗られると痛い。その部分を解消してくれる画期的なアイテムなのだ。


「たまにアスカはおかしなものを作るよね」


「おかしくないよ。ティタを袋に入れなくても済むためのものなんだから!」


 早速、町を出た私はティタをそこに乗せる。


「落ちないようにね~」


「ワカッタ」


 ちなみにこの台の前の方には一本棒が付いていて、そこにつかまることで落下防止になっている。私が走ったりすると危ないからね。


「んで、岩場の近くまで来たわけだけどよ、南側って海だしこのまま進めばいいのか?」


「そうですね。地図からすると、この先は普段サンドリザードが多いために危険区域指定ですね。今回の依頼は、少しでもここを探りたいということでしょう」


「じゃあ、まずは風魔法を使いますね」


 私は風魔法で警戒をしながら進んでいく。あれだけ倒したわけだからさすがにいないかなと思っていたのだけど……。


《シャァァァァ》


「来る! 右側四匹、左二匹!」


「おう!」


「うん」


 ノヴァが左の敵を斬り倒し、リュートが右側の敵をリーチの長い槍で牽制する。焦って地上を動くところで私とフィアルさんが矢を使って射抜く。


「ふぅ。確かに前回戦った時より弱いね」


「行動も単調だよな」


「ですが気を抜いてはいけませんよ。二人の防具ではいつ致命傷になるとも限りませんから」


「はい」


「でも、なんだか小さくありませんか?」


「そうですね。もしかしたら今まで私たちが戦っていたのが成体で、普段幼体は奥で守られているのかもしれませんね」


「では、今回数を減らしたから若い個体がこうして出てきたんでしょうか?」


 リュートが疑問をフィアルさんにぶつける。


「ええ。恐らくはリュートの予測通りでしょう。とりあえず報告書にはその可能性ありと記載しましょう」


 フィアルさんの仮定は的を射ていると思う。実際、弓の貫通もいつもよりスムーズだったし。その後も少し迂回をしながら進んでいく。


「今度は全部左から五匹!」


「行くよ!」


「二人は足止めを」


「おう!」


「アクアスプラッシュ」


「エアカッター」


 今度は魔法でサンドリザードを倒していく。ハイロックリザードには全く効かなかったからちょっとだけ気持ちいい。


「やはり、魔法耐性もかなり低いですね。本来、私の魔法では貫通まではしないのですが……」


 あっ、フィアルさんはそっちを確認してたんだ。私は何も考えずに倒しちゃったな。フィアルさんの倒した二体を見ると、一体目を貫通して二体目の胴体に槍のような形で突き刺さった跡が見える。


「これは報告することが多そうですね。すぐに新人の教育は出来ないということも付け足しておかなければ」


「どうしてですか?」


「ただでさえ、ボスが率いてない弱いサンドリザードとの経験を積ませるわけですが、今回のように未成熟な個体を倒してしまうと、必要以上に弱い魔物だと思うようになり、普段の巡回依頼さえこなせない冒険者が出来る可能性がありますから」


「確かにな~。俺らが最初に戦った時の奴よりかなり弱いよな」


「あなたたちは慣れもあるでしょうが、そうですね。これならDランクでも楽に倒せてしまうでしょう」


「じゃあ、このまま調査するのはやめますか?」


「いえ、せっかくですから巣があるかぐらいは確認しましょう。ただし、奥には守護者のような個体がいるかもしれませんから逃げられるようにだけはしておきましょう」


 たしかにハイロックリザードとは言わないまでも、戦い慣れした個体は今の状態だと、ジュールさんみたいに攻撃を受けられる人がいないから、厳しそうだ。

 その後も人の手の入っていない地区を進んでいく。ただ、岩場なので視界が開けているのが助かる。


 うぞぞ


「みんな、下から!」


「えっ!?」


「エイ」


 慌てて注意を促すが、相手の動きが早くて対応が少し遅れる。しかし、そこにティタが風魔法を撃ちこむ。


《グォァァァ》


 たまらず、地中にいたサンドリザードが飛び出てきた。


「ウィンドカッター!」


 すぐさまその一体を処理する。ふぅ、辺りにはもういないみたいだ。


「ありがとティタ」


「フフ、ティタ、ヨクワカル」


 そっか、ティタは何十年とここで戦ってきたんだもんね。思えば大きい時も居場所をすぐに感知してたなぁ。


「ありがとうティタ」


「助かったぜ!」


「ティタの魔法はかなり使えるようですね」


「でしょう。なんてったって私の従魔ですから!」


 へへんとちょっと偉そうに答える。こういう瞬間は魔物使いで良かったと思えるなぁ。


「ですが一個体のみというのは変ですね。さっきの戦い方から、かなりの個体のようですが他のサンドリザードはどうしたのでしょう?」


「怯えて逃げたとか?」


「いえ、リュートの言う通りなら、巣が近いはずですからそれはないでしょう。であれば、数でかかってきても良さそうなのですが……」


「こっちの戦力を確認しに来たとかですか?」


「……その線が濃厚ですね。これ以上進むならかなり警戒しないといけませんね」


 調査範囲はこの先のところも入っているので、今までよりも警戒しながら私たちは進んでいく。


「アスカ!」


「はい!」


 私は相手に気づかれるのも構わず探知の魔法を使う。四、七、十一……十六……それ以上!


「二十匹以上はいます!」


「場所的にはこの先が当たりということでしょう。では逃げますよ」


「はい!」


「おうっ! ってどうやってだ?」


「リュート、あなたは自分で。アスカ、ノヴァを頼みますよ!」


「はい。フィアルさんは?」


「私も自分の分は可能ですので」


 私はノヴァと自分に、リュートは自分に風魔法をかけて、一気にアルバ側の岩場にあるティタの根城だったところまで飛ぶ。フィアルさんはというと、水圧を地面に当ててその反動で跳んでいた。着地の時も同様に地面に水を当てて着地している。へ~、そんな使い方もあるんだぁ。地面がちょっとえぐれてるけど……。


「ふぅ。調査とすれば上々ですね。本当は巣の入り口なども見た方がいいのですが……」


「あの調子だと何匹居るのかわかりませんから仕方ありませんよ」


「そうですね」


「うぇ~、酔った」


「ノヴァ、大丈夫?」


「リュート、ちょっと休む」


「はいはい、直ぐにシート出すから」


 飛び慣れていないノヴァは気分が悪くなったみたいだ。まあ、結構な加速だったしね。


「ここまでくればしばらくは安全でしょうし、少し休みましょう」


 というわけで休憩することになったんだけど……。


「祭壇とか壊れちゃってるね」


「ウン……」


 ティタ用に作っていた祭壇は前回の襲来で粉々になっていた。私は風でがれきをどけると、みんなが置いていってくれた魔石だけを取り出す。


「ほら、みんなの気持ちは無事だったみたい。後で食べようね」


「イマタベル」


「……しょうがないなぁ。一個だけだよ」


 その内の一個だけを取ってティタにあげる。前まではこうして当たり前のようにしていた光景も、今は変わってしまったとティタを横目に私は実感したのだった。



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