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女神像完成

 あれから作業を終えた私はごろごろとしていた。


「でも、こういう時間ってほんとにひまだよね~。本とか売ってないかなぁ?」


 今度買い物に行く時は本屋が無いか確認しよう。



「おねえちゃんいる~?」


「は~い!もう時間?」


「うん」


「じゃあ、すぐいくね~」


 私は身だしなみを整えてから下に降りていく。まだ夜の部が始まる前なのでお客さんはいない。厨房をのぞくとライギルさんが必死に魚料理を作り置きしていた。


「おう、ご苦労さん。魚を焼くのは結構コツがいるからな。肉の方は任せるんだが」


 きっと、私の表情から言いたいことが分かったのだろう。聞く前に答えてくれた。


「そうなんですか。あんまり料理はしたことなかったので……」


「これから冒険者になって野営もするなら教えてやるよ」


「そうですね。またお願いします」


「そうそう、おねえちゃんはもうこの宿の一員なんだからもっといろんなことを覚えてもらわなきゃ!」


「こら、エレン調子に乗らないの! ほら、さっさとアスカちゃんとテーブル拭いてきて」


「は~い! それじゃおねえちゃん、テーブル拭いていこ。そうそう、夜はメニュー変わるから昼の分とって来てね」


「わかった」


 二人で分かれてテーブルを拭いていく。一応は昼の後にも拭いているのだが、飲食店だし念入りにね。テーブルも拭き終え、メニュー表も夜の分へと一新する。さて、夜のメニューはと……。ああ、セットメニューが一つなのか。後は一品ものがずらっと載っている。結構、重たいものが並んでいるという事は本当に冒険者の酒場って感じかな?


「それじゃあ、申し訳ないけど後は頼む。一応宿泊者用の魚料理は確保してるから大丈夫だと思うが、10人前しかないから無くなったら、今日はギルド会議だから出来ないって言ってくれ。なんか言ってきたらミーシャを呼べばいいから」


「分かりました。頑張ってきてください」


「ああ、まあ特に出るだけなんだけどな……」


 微妙な表情を浮かべるライギルさん。まあ、忙しい店だけに穴を作るのが嫌なのだろう。


「しょうがないでしょ。お互い様なんだから」


「……じゃあ行ってくる」


「「「行ってらっしゃい」」」


 ライギルさんを見送ると本格的に夜の部の開始だ。


「それじゃあ二人とも開けるわよ! 夜の部開店です!」


 ミーシャさんの開店合図と同時に昼みたいに入ってくるかな~と思ってたらそうでもなかった。こそっとエレンちゃんに聞いたら、夜はぱらぱらと来ることが多いんだって。


「こっちはセットで魚とエール」


「俺の方は肉のバラとエールとパンとスープだ」


「はい、ちょっと待ってくださいね」


 私は駆け寄って注文を取る。今までは計算しやすい分のメニューしかなかったけど、今日の分は覚えていないため、メニューの下に額を書いて計算する。


「はいはい、オレンさんは大銅貨一枚に銅貨五枚、コーウェルさんが大銅貨一枚と銅貨三枚ですね」


「おう! って、よく見たらアスカちゃんじゃねえか。とうとう夜も出てくれんのか?」


「どうでしょう? 今日はライギルさんがギルド会議に出ててお手伝いしてるだけなので……」


「じゃあ、俺らは得したなぁ」


「ああ。明日は自慢できるな」


「そんな、昼は結構いますよ?」


「だからだよ。夜にいないはずのアスカちゃんとこうして俺らは会ってんだから」


 わははっと二人は笑っているけど、私そんなにレアキャラじゃないんだけどなぁ。それからもお客さんは入ってくるけど昼みたいに混み合うことはなかった。ただ、メニューの数が増えたから一々、注文のところで少し止まってしまうのが申し訳ない。


「アスカちゃ~ん、次こっち~」


「は~い、今いきま~す!」


「あ、おねえちゃん。おさかな残り少ないから注意してね。あと2つだよ」


「は~い」


 注文を取っていき、半分はエレンちゃんが持って行く。片付けがエレンちゃん中心で、もっぱら注文は私だ。メニュー覚えるのに助かるけど、エレンちゃんが聞いてくれた方が早いのにいいのかな?


「あと、ちょっとだ~」


 周りを見てみるとエレンちゃんの言う通りお客さんは三組のみだ。さすがにこの時間から来る人はいないだろう。私もできるだけ邪魔にならないようにテーブルを片付ける。あんまり目の前でやったら気を悪くしちゃうから遠いところだけだけど。


「ただいま~」


「おかえりお父さん。今日はちょっと遅かったんじゃない?」


「ああ、報告がちょっと伸びてな……もうあんまりいないな。アスカちょっといいか?」


「私ですか?大丈夫ですけど……」


 私は厨房の方へ連れていかれる。何だろう?


「どうしたんですか?」


「いや、実はだな。今日の会議でお前の名前が出てな……」


 ライギルさんはギルド会議のことを分かりやすく説明してくれる。お姉さん私の名前出しちゃったんだ……。


「あいつにはちゃんと言っておいた。だが、ギルドマスターがちょっと興味を持ったみたいでな。変な勧誘とかもあるかもしれんから気をつけろ」


「変な勧誘って?」


「分割払いに興味持ってたからどこで広まってたかとか、商会に入る気はないかとかだろうな。向こうは金になると踏んで捕まえたら離さないぞ」


「ええ~、それはやだなぁ。分割も実際に使ったことはないし……」


 持てる年じゃなかったし、あると知っているだけのことを聞かれても。それに、故郷の村で使われてるなんて思えないから、説明できないよ。


「まあ、作るものがあるなら話に行ってもいいけど、代わりに何か要求されたら帰って来いよ」


「そうします……」


 めんどくさいことにならないといいなぁ。それからはいつも通りに片づけてみんなで食事を取った。夜はこうやって食事をみんなで取ることが多いそうだ。


「そういえば、明日はお休みなのよね。お昼はどうするの?」


「う~ん。多分、部屋にいると思うんですけど……」


「じゃあ、持って行ってあげる」


「本当? じゃあ、ちょっと遅めでお願い」


「いいのか?」


「はい、明日はちょっと集中することがあって、もしかしたら長引くかもしれないので」


「じゃあ、今日は早めに寝ないとね」


「そうだね。これを食べ終わったらすぐに寝るようにする」



「……リベレーション!」


 これで、全能力開放したから明日は全力で出来るはず。一応ステータスを確認すると、魔力もMPもちゃんと元々の数値になっていた。私は宣言通り、その日はすぐに部屋に戻って着替えると寝た。自分では気が付かなかったけどワンピース着たままだったんだ。さすがにこれを寝間着にはできないね。




「ん~、よく寝た~」


 昨日は早くに寝たこともあってかなりいい目覚めだ。早速、朝ごはんを食べて取り掛かろう。


「おはようございま~す」


「おはよう、アスカちゃん」


「おはよ~」


「エレンちゃんはなんだか眠そう」


「昨日はあんまり寝られなかったらしくて……はい、朝ごはん」


「ありがとうございます」


 よ~し、朝ごはんをしっかり食べて頑張るぞ~。


「さて、まずは着替えて……」


 部屋に帰ってきた私は早速、ワンピースに着替える。そして、準備をいつも通りしてから、シェルオークを取りだした。


「今回はやり直しは利かないからちゃんとイメージしないと」


 特に腕の動きは注意しておかないと。ぽろっと折れでもしたら台無しだ。ポーズは何がいいかな……祈りのポーズかな?手が前で組まれてて難しいけど、だからこそ頑張って作りましたと言えるし。


「よし!そうしよう」


 そうと決まれば、イメージを具体的にして……。でも、最初は輪郭を作るようにしてからだね。せっかく開放してMPもいっぱいあるし丁寧に作ろう。


「発動!」


 まずは大きく型を取る感じで削る。大体の形を作って上半身も下半身も輪郭ができた。


「まずは下半身から……発動」


 シュシュシュ


 昨日の像よりなめらかな流線型の仕上がりになる。足の指先もつやつやだ。


「あとはイメージは固まってるから、上半身は腕のところで輪が出来るように、発動」


 シュシュ


 腕や服のところは造形がかなり出来上がった。それとは別に手はちょっとだけ雑だ。体もやや角ばっているのをこれから仕上げる。


「ここでさらに……発動!」


 シュ


 腕のところから手にかけての部分が綺麗になる。それと同時に胸のところも磨かれたような作りになり、残すは顔だけだ。


「その前にもう一度手の部分を確認」


 折れたりしてないかと、変な形になっていないかを確認する。横では自分でも手を組んでみる。違和感もなさそうだ。


「よしよし、あとは最後の顔の部分だ」


 一度目を閉じて会った時のことを思い出す。まだ、二週間も経っていないのにずいぶん遠い日のように感じる。だけど、この世界に来て本当に良かったと思う。その思いをここにぶつけるんだ!


「発動!」


 シュル


 風の刃が優しく削っていく。そしてとうとうアラシェル様の像が出来上がった!


「やった! やった~!!」


 細工を始めて間もない私から見ても、完璧な出来栄えだ。まるで、あの日のお姿を映したみたいだ。後は最後の調整をしてと。


「発動」


 上下の違和感がないようにほんのちょっぴり削る。


「ふぅ~、終わった。さて、残った木をどうしようかな?」


 実は、最初に型取りをした時点でまだ割と木が余っているのだ。これも貴重な木なので使ってしまいたい。


「女神様なんだし、ちょっとぐらい誇張してもいいよね」


 私は再度、魔道具を発動させ、余った木片からティアラを作り出す。それを頭にかぶせると神々しさが増したように感じられる。


「うんうん、これで良しと。でも、こうやってみると神様を着飾って誇張する気持ちも分かるなぁ」


 前世では、金ぴかだったり装飾過多だったりで過剰だなぁと思ったけど、こうやって信仰すると一人一人がちょっとずつよく見えるように努力したのかもと思う。


「後は装身具セットを作ってもいいけど、手は組んでて持てないし大きい塊もあるしなぁ……」


 昨日作った方にならもしかしたら持たせられるかもしれないけど、大きい塊はやや長方形といった感じでもう一体作るにしても等身を考えるとかなり小さくなってしまう。


「ん、待って、等身を考えなきゃいいんだよね?ミニキャラとかどうだろう」


 それなら、今あるこの塊でもそこそこのサイズのものになるし、何よりかわいいものが作れそうだ。


「よ~し、そうと決まれば絵にまずは描き起こさなきゃ」


 像が完成した喜びもつかの間、私は新たな目標に向かってペンを取るのだった。


 

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