ぶちこめ!
盗賊らしき人たちを拘束すると、再び私たちはレディトへ向かって歩き出す。でも、残念ながら薬草の採取は終わりだ。この人たちが暴れたりして面倒ごとを避けるためだって。
「くそっ、俺たちがこんなガキどもに……」
「そうはいってもこちとらCランク相当のパーティーだからねぇ」
「は? 嘘だろ。確かにそこのガキの魔法も強かったが……」
「ん~。まあ、この子もCランクだしねぇ。あんたらの見る目がなかったってことだね」
「さあ、後ろの二人のように引き摺られたくなければキリキリ歩いてくださいよ」
フィアルさんの後ろを見るとジャネットさんとフィアルさんが、それぞれ一人ずつ服にコロのような物を括り付け引き摺っている。途中木や枝なんかにもぶつかって痛そうだ。
「くそっ! こんなことになるなんて」
「勝てそうな相手と勝てる相手を見極められないからこうなるんだよ。命があっただけましと思うんだね」
「確かにな~。外での物取りは即アウトだって言われたしな」
「さすがに僕らもしなかったよね」
さりげなくリュートたちの苦労エピソードというか、経験談が。比較的治安の良いアルバでもそんなことがあるなら、帝国とかどうなんだろう? そろそろ成立百五十年ぐらいのはずだけど安定した国なのかな?
それからもてくてくと歩いていく。休憩という休憩もなく歩き詰めて十六時ぐらいにはレディトに着いた。
「ん、ジャネットじゃないか! 後ろの奴は?」
「無謀にも戦いを挑んできた盗賊だよ」
「そうか。おい! 守備兵長を呼べ。引き取りだ」
「はい!」
比較的若い兵士が門番さんに言われて奥に走っていく。おお! やっぱりどこでも警察や軍隊ってこうなんだな。
※アスカはドラマとかでしか見たことがないので、変なイメージを持っています。
しばらくすると、ここの指揮官らしい人がやって来た。
「こいつらか……ふむ。ここの人相書きにそっくりだな。商人だけでなく定期的に冒険者を襲うことでも被害が出ている。よく連れて来てくれた」
「へぇ~、冒険者もねぇ……なら、面倒だけど隊長さん。ギルドに来てもらってもいいかい?」
「ん? ああ、そちらでも対応する場合があるのだったな。分かった」
「では、私とリュート、ノヴァはこちらにいますよ」
「フィアル頼むよ」
盗賊を捕らえた場合、ギルドでも確認事項があるみたいで私たちは一度へギルドに行くことになった。その際にリーダー格の男ともう二人を連れていく。
「邪魔するよ」
「はいは~いって、メルさ~んお願いします~」
「ん、ああ……」
メルさんと呼ばれた人がこっちに来て対応してくれる。盗賊専門なのかは知らないけど、担当者みたいだ。
「今回捕らえた盗賊だけど、登録があるかを確認しに来た」
「はい。それでは奥の方、水晶に手を」
盗賊に水晶に手をやるよう促すとそれに従って手を置く。すると水晶が赤くなった。残りの二人は色が変わらずそのままだった。
「この盗賊団は三人だけですか?」
「詰所の方に後、三人いるね」
「では、確認の為そちらの方も連れて来て下さい。少なくとも一名は登録のある方のようです。こちらで引き取り適切な対処を行います」
「了解した。そっちの二人はこちらで引き取っても?」
「はい。ギルドの関係者ではないようですので問題ありません」
「じゃあ、面倒だけど引き返すとするかね。アスカはこっちに残ってな」
「は、はい」
「言っとくけど、見張りだよ。あっちと一緒だから気をつけなよ」
「あ、そういうことだったんですね。分かりました」
ん? でも、詰所の人がいたのに向こうって残る意味あったのかな? まあいいか、後で聞こう。一先ずは見張りだね。
「な、なぁ、お嬢ちゃん。縄がきつくてよ、緩めてもらえないか?」
「良いですけど、大丈夫ですか? みなさんから見られてますけど」
う~ん。この人は元冒険者みたいだけど、ランクは低そうだ。多分Eランクとかじゃないかな? さっきからギルドにいる冒険者の人がすっごい目で睨んでるのに気づかないなんて……。
「はっ! あ……やっぱりいい」
「そうした方がいいですよ。あっちの人とかナイフ持ってますよ」
変に暴れられても困るので、ちょっと教えてあげる。ランクが低い人なのか、かなり警戒しているみたい。席を立っただけでもなんだか投げて来そうで、こっちが緊張しちゃう。
「アスカ~、戻ったよ」
「あっ、お帰りなさい」
「来たわね。それじゃあ、そっちの人たちも手を置いて」
「な、なんで、んなこと……」
「血を見たいならそう言ってなよ。ほら?」
ジャネットさんも私と一緒で気が付いたみたいで、そっちに目を向けさせる。
「ヒッ! わ、分かった……」
拒否していた男も元冒険者だった。彼は水晶がどんなものなのか知ってたのかもしれない。後の二人は関係なしと出たので、この盗賊団は冒険者二人、一般四人の構成だったようだ。
「じゃあ、こちらの二人は預かります。さあ、奥に来てもらおうかしら……。そうそう、報酬は後日というか明日にしてね。仕事があって手が離せないから」
「ああ」
ジャネットさんが了解の返事をして、私たちは詰所に帰る。
「良く捕まえてくれた。今回の報酬だ。手配中の奴らだったから捕獲報酬銀貨四枚と一人当たり銀貨二枚で合計銀貨十二枚だ。悪いが向こうで引き取った分は出せない」
「ああ、分かってるよ。それじゃ、確かに引き渡したよ」
「うむ」
こうして、盗賊たちを引き渡して私たちは行きつけの店でちょっと休憩する。
「それでジャネットさん。どうして、別れたんですか?」
「ああ、あんまり言いたくないけどたまに衛兵とかとつるんでるやつがいてね。そういう時に逃げ出せないようにって分けるんだ。後で恨まれて襲われても面倒だろ?」
「へ~、そうだったんだな。ただ休んでるだけかと思ったぜ」
「知ってる奴らだけど一応ね」
「ところで彼らはどうなるんですか?」
「僕も気になります」
「基本は犯罪奴隷としてこき使われるね。大体……二十年ぐらいかな?」
「長いですね。ちょっと厳しくないですか?」
「とはいえ、あの調子じゃ何人かやってるだろうし、そんなもんだろ」
「それに二十年といってもそれより大体早いですよ」
「へ~、大人しくしてたら短くなったりするんですか?」
模範囚って言うんだっけ? 刑期が短くなるってやつ。
「何言ってんだい。あいつらの行先は他国との小競り合いや魔物の多い地域の労働なんかが主だよ。要は犠牲者が見込まれる作業だね」
「げっ、早いってそっちかよ」
「その中でも色々ありますよ。一か月から十年ぐらいと、選べないのが残念な職場ですけどね」
「でも、他国との戦いに奴隷ってありなんですか?」
「国境問題なんかで揉めたりするだろ? だけど、正規兵で戦ったり大規模戦闘はどちらも望んでない。そういう時に投入するんだよ。戦って犠牲も出て、きちんと問題に対して主張し続けてるってね」
「でも、機密が漏れたりしないんですか?」
「その日に武器を持って突撃だけらしいよ。だから、捕まえても無駄だし何なら捕虜交換にだって応じないからね。金払って兵士じゃなく犯罪者が戻ってくるんだから」
「それ以外だと、高ランクの魔物が出るところでの見張りですね。こちらはたまに刑期を終えるものもいるようですね」
「魔物の方が容赦ない気がするけど?」
「良い質問だねリュート。だけど、兵士として戦う時はスキルを封じられてるのに対して、こっちは自分の持ってるスキルが使えるからね。隠密系のスキル持ちとかならうまく逃げながら生きていけるようだよ」
「へぇ~、色々なスキルがあるんですね。私も取れたりするのかなぁ?」
「隠密行動するアスカかい? そりゃなんとも……」
「???」
何だかみんなこらえてるようだけど、そんなに変なこと言ったかな? でも、隠密かぁ~、隠密といったらくノ一だよね。あんな衣装が似合う大人に……なれたらなぁ。
ちょっとだけ背が伸びたけど、ノヴァたちに差を開けられっぱなしだし、どうにかしたいんだけどね。
「まあ、あいつらの人生なんて知ったっこっちゃないよ。それより今はアスカの装備だろ?」
「そうですね。でも、もういい時間ですし明日にしましょうか?」
「まあ、長い話になるでしょうしその方がいいでしょうね」
「じゃあ、飯だな。このままここで食うのか?」
「あたしはそれでもいいよ。いつもここだし」
「私もです」
「へぇ~、二人揃って食べてるなんて僕も興味あるし、ここで食べようかな」
「では、少し早めですが食事にしましょうか。私はお勧めのを頼んでいてください」
「あ、はい」
そう言って席を立ってしまうフィアルさん。どうしたんだろ?
「ああ、フィアルは宿を確保しに行ったんだよ。二人部屋二つかね」
「私たちは五人ですよ?」
「あいつはどこでも寝られるからね。すぐに宿とかだと自分を抜いて確保するんだよ。あんたらは真似しないようにね」
「おう!! やっぱりベッドだよな」
「そうそう。この季節とはいえ寝袋なんてよくやるよ」
数分後にフィアルさんが帰ってきて話していると食事が運ばれてきた。
「俺のは普通に肉だけど、アスカやフィアルのは何だそれ?」
「ああ、ノヴァは見たことないんだっけ? 宿でもたまに出てるロールキャベツっていう料理だよ」
「ほう、ここでも同じ料理が出ているんですね」
「前に話をしたらこちらでも作りたいって話になって……」
「しかし、よく作り方が分かりますね。アスカはそこまで料理しないでしょう?」
「あ~。一応ここのも私の意見から出来てるので……。宿とは味がちょっと違いますけどね。それにこれは何度か作ったこともあったので」
ああ恐ろしい記憶だ。ライギルさんだけに教えてたら私は!? とエステルさんに二十時過ぎから延々と説明させられたんだった。あの日以来、食事の話題は時間を考えるようにしている。
「それは楽しみですね。では一口……これは! 中には肉を潰したものが入っているのですね。スープとの親和性も高く、単純ながら美味しいです。ん? この縛っているものは食べられるのですか?」
「はい。それも植物を乾燥させたものなので一緒にどうぞ!」
「見た目だけのものと思いましたが、全て食べられるとは驚きですね」
その後もしきりに感心して食事を食べるフィアルさんと、それを眺めながら普通に食べる私たちだった。




