新しい装備を求めて
翌日、急きょ集まった私たちパーティーは依頼も受けず東門前に集合していた。なぜギルドではないかというと、先日のハイロックリザード問題で依頼が護衛と巡回しかなく、件数もごく少数なのだ。
このため、昨日の時点でまともな依頼は全てなくなっており、私たちとしては初の依頼なしでのレディト移動だ。
「はぁ~。しかし、よりによってこんな時に依頼枯れとはね」
「はぅ~。金欠なのにぃ~」
「まぁまぁ、アスカ以外の人も同じ状況なんだよ」
「そうだぜ、俺だって買いたいのを我慢してるんだぞ」
そういうノヴァはグラヴィスさんからハイロックリザードとの戦闘で借り受けた剣をレンタルしている。いくらかは知らないけど、あの剣高そうだし大変だろうなぁ。
「結局、その剣のレンタルってどうなってるんだっけ?」
「依頼六十件のレンタル料金が金貨六枚だってよ。高~よな!」
「う~ん。中古とはいえそれ以上するんだけどねぇ。まあ、ノヴァにはまだ目利きは早いかね」
「そ、そうなのか!?」
「当たり前だろ? あのグラヴィスがガキを騙したなんて噂が立ってみな。それこそ信用問題だよ」
「そう考えればそうだよな……出来るだけ早く貯めるか」
「ノヴァにもいい目標が出来たね!」
「アスカこそお金は大丈夫なの? まあ、アスカは細工があるから大丈夫かな」
「それが……材料買うのも困ってるんだよね」
細工の材料は塊で買わないと割高になる。そこでいつも銀なら金貨で銅なら銀貨で支払ってたんだけど、今回の買い物で銀の塊を買うのにも難儀しているのだ。
本当にこの世界の鍛冶依頼がほぼ後払いでよかったよ。先払いならもっと依頼まで時間がかかるところだった。
「そんなんで製作依頼とか大丈夫なのか?」
「まずは商会でこの間に作っていた細工を売るでしょ? そのお金を頭金に申し込むの。後は、出来上がるまでに作って売ってを繰り返して、最悪は巡回依頼とかで稼いだ分も加えて何とかするつもりだよ」
「なんかそれだけ聞くと、生活苦の奴のセリフだよな」
「ノヴァ! もうちょっと言い方あるでしょ。私も気にしてるんだから……」
「悪い、悪い。だけど、アスカの話を聞いてたら俺なんかマシに思えてきたよ」
「そんなこと言ってるけど、アスカは動いてる額も大きいんだよ。あんたらももう少し頑張んないとね」
「へいへい。それじゃあ、少しでも稼げるように行くとするか」
「ああ、ちょっと待ちな。実は急にフィアルが参加したいって言ってきてね。もう来るはずだから」
「フィアルさんが? 珍しいですね」
「どうも、試したいことがあるらしくてね」
ジャネットさんの言った通り、それから数分後フィアルさんが私たちの前に現れた。
「いやあ、すみません。思ったより調理場の方で時間を取られてしまいまして……」
「なら、その分取り返さないとね。行くよ!」
その言葉を合図に私たちはずんずんと進んでいく。だけど、今回は行程も特殊だ。まずは巡回依頼を受けていないということが一つ。巡回依頼はその名の通り、決められたルートの安全性や状況を調査するというもの。
ここに不用意に他の冒険者が割って入っては正確なデータが手に入らない。ギルドの掲示板に実行日が書いてあり、少なくともその日はルートが被らないようにしないといけない。
「みんな~。今日は北側Aルートは無理だから、Cルートにしよう」
「Cルートって雑草だらけじゃねえか!」
「でも、そうしないと依頼もないし収入がないよ?」
「そうだね。アスカの言う通り、このルートが一番薬草発見数が多いからね」
「んじゃ、ちょっと街道歩いていくか!」
「うん!」
こうして進む私たちだけど、まだまだ町の付近は前回の戦いの爪跡が残っている。えぐれた地面や倒壊した木などを片付けているところもまだ見られた。
普段ならさっさとやってしまうのだけど、冒険者でも近づきたくない人も多くて、ちょっと手間取っているみたいだ。
「ほら、行くよアスカ。あんたが低ランクの仕事取ったらまずいだろ?」
「はい……」
基本掃除はEランクとかの仕事なんだけど、大きい魔物の爪跡を見てすぐに帰る人もいるみたい。道が早く元に戻るといいな。
「ん~、休憩タイムだ~」
それからしばらく歩いたのちに休憩する。Cルートは薬草採取ルートということもあり、雑草だらけの道だけど、人目がないことがいい。とてもリラックスして休めるからだ。
「ほらおいで、ティタ」
今日はティタを連れて来てスキルの確認をすることにしている。せっかくティタのスキルが分かってるんだから一度使ってみないとね。
「じゃあ、まずは魔法からだね。やってみて」
「ウン」
ティタが枯れ木に火の玉をぶつける。一瞬で木を黒焦げにした。その後すぐに風の魔法で火を消すティタ。
「ティタすご~い! どうやって火を消したの?」
「ヒ……カゼギュ……キエル」
風を圧縮したってこと? ティタは長い人生で普通の火が何かによって燃えることを知ってるんだ。
「さすがティタは賢いね。火はね酸素をあげると勢いよく燃えるの。代わりに抜いてやるとすぐに消えちゃうんだよ。ちょっと見ててね」
「サンソ……」
私は目の前で小さい球体を作って、火を大きくしたり消したりを何度か繰り返す。ティタも苦労しながらなんとかできるようになった。
「おおっ! もう、身に付いたんだね。さすが!」
「エヘヘ」
「じゃあ、次はと……」
「ねぇ、アスカ。次ってティタはスキル結構持ってるの?」
「そうだよリュート。ちょっと見てみる?」
「良いのティタ?」
「リュート、イイ」
「ありがとう。確かにスキル四つもあるんだ……って巨大化!? すごそうなスキルだね」
「でしょ? きっと、すごいことになるんだと思うよ~」
期待に胸を膨らませながらティタが使用するのを待つ。心なしかティタもちょっと緊張しているようにも見える。
「イク……」
ムクムクムク
ティタの体が少しずつ大きくなっていく。そして……。
「お、大きくなったねティタ」
「そ、そうだね」
そこには五十センチ程度まで大きくなったティタがいた。うう~ん、さすがに人サイズから高層ビルぐらいの倍率は無理だとは思ってたけど、二倍以上に大きくなったんだからすごいことだよね。予想より小さいのは言わないでおこう。
「す、すごいね~ティタ」
「ティタ、スゴイ?」
「うんうん。でも、重量とかどうなってるのかな? 見てみようよアスカ」
「そうだね。ティタちょっと動き回って見て」
大きくなったティタの身体検査をする。大きくなって遅くなったと思いきや、身体を魔力で包んでいるみたいで、逆に早くなっているみたいだ。これなら色々使い道ができるかも……ってあれ? 身体から力が……がくんと膝をつく私。
「ア、アスカどうしたの?」
「身体から力が……」
「ア……」
すぐにティタが巨大化をやめる。すると身体の脱力感が消えた。なんだかいや~な予感がする。そ~っとカードのMPのところを見てみる。
MP:270/680
んん~。あんな短期間でこんなに消費したっけ?ひょっとして……。
「オオキイ……アスカ、マリョク、ツカウ」
がくり、巨大化はどうやらティタのMPじゃなくて直接、主人のMPを使用するスキルのようだ。ちなみにティタの残りMPは……。
MP:320/450
ティタの方が残ってるよ。使い方によっては良いんだろうけど、まさか主人の力を使うスキルがあるだなんて……。
「アスカどうしたんだい?」
私たちの様子が気になったのか、ノヴァと剣の稽古をしていたジャネットさんたちもやって来た。
「実は……」
「なるほどねぇ。色々予想外のことは起きるもんだね。アスカは本当に最初がティタで良かったね。これがバカなゴーレムだったら、すぐに大きくなって魔力切れを起こすところだよ。そうなったら自分も消えちまうのにね」
従魔契約中は魔力を貰えないと、どんどん魔物は衰弱してしまうのだ。魔物使いが死ねば自由になれるとはいえ、その瞬間は相当弱っている。街中でも自然の中でも生き残れない状況になる。ティタが言うことを聞いてくれる子で良かったよ。
「でも、せっかく大きくなれてもそれぐらいか~。結局、ゴーレムってどのくらいで前みたいになるんだ?」
「ウ~ン、160ネン?」
「げっ、そんなにかかるのかよ。それじゃあ、冒険してる間はちびのままだな」
「えっ、そんなにかかるの?」
「アスカはもう少し、魔物の情報をまとめておいた方がいいですね」
フィアルさんにさりげなく注意されてしまった。
「あはは、てっきり長くても十年ぐらいだと……」
そういえば、あの時はまだ魔物の寿命が長くても三十年ぐらいだと勝手に思ってた時だったっけ。
「まあ、小さいゴーレムも珍しくていいじゃないか。それよりそろそろ行くよ」
「は~い」
休憩を終えて、私たちは薬草を探しながら進む。ハイロックリザードが町近くまで来た所為か、この辺も最近は魔物を見かけないようだ。となるといったいどこに行ったんだろう?
ガサガサ
ん? 何か反応がある。風魔法で調べてみよう……形は人型。大きさとか装備は……う~ん、人っぽいな。ティタを隠しておかないと。
「ティタちょっと入っててね」
「人かい?」
「多分」
それからすぐに目の前に三人組の冒険者が現れた。見た感じ低ランク冒険者のようだ。
「おお、冒険者か助かった。実は俺ら迷子になっちまってな。アルバまで道案内してくれないか?」
「残念だけどあたしたちの目的地はレディトなんでね。街道ぐらいまでなら道順を教えてやるよ」
「なら、レディトまででもいい! 頼む!」
「……しょうがないか。んじゃあ、まっすぐ進んでいきな」
「はは、俺たちまだまだ駆け出しでな。後ろに行くよ」
了解もなしにその人たちはジャネットさんの脇を通り過ぎようとする。何だか感じ悪いかも?
ドゴォ
「うげっ!」
「な、何しやがる!」
「ギルドで、迷子の時は先頭を行くことって教えてもらわなかったのかい盗賊さんよ?」
見るとフィアルさんもリュートやノヴァも武器を構えている。みんな盗賊だと分かってたんだ。
「チッ! おい、出てこい!」
二人のうち一人が声を上げると、奥から四人が出てきた。
「ガキどもだと思って下手に出てりゃあいい気になりやがって……」
「これはこれは。魔物で試す気だったのですが、人間で試せるとは運がよかったですね」
何だかフィアルさんが怖いことを言っている。何を使うつもりなんだろう?
「うるせぇ。おい、やっちまえ!」
「「おお~っ!」」
「アスカ! 相手は魔物、そう思いな!」
「そ、そんなこと言ったって……」
突然のことで頭が付いてこない。でも、彼らはジャネットさんやリュートたちに容赦なく刃を向けてくる。
「それはさせない。相手が魔物なら! ヒートブレス!」
「ひ、ひぃぃぃぃ!」
「ま、魔法使いか!」
「ア、アスカ少しぐらいは人間扱いを……」
「へ? あっ……」
後ろの四人のうち魔法の範囲に入った三人は、一瞬で防具が焼けこげその場に突っ伏している。前にいた二人のうち一人はジャネットさんの初撃で気絶。後は前後に一人ずつ……ん?
「おや、もう降参ですか? 逃げないとは感心ですね」
「いや、フィアルの短剣で切った後からこいつらピクリとも動かないぜ」
「何かしましたね、フィアルさん」
「軽いしびれだと思ったんですが、思いのほか質が良かったみたいですね。あの道具屋とは今後も取引を続けましょう」
「いや、そういう問題じゃねぇだろ」
なぜか、動かない盗賊を尻目にフィアルさんたちは余裕で会話していた。