番外編 ティタとディースの過去、時々マディーナ マディーナの章
私はマディーナ。自慢じゃないけど、王都でも名の知られたAランク冒険者よ。王都なんだからAランク冒険者ぐらい当然居るって? こう見えてまだまだぴちぴちの二十二歳よ。コンビを組んでいる奴も二十三歳。まだまだ、これからを担う将来有望な冒険者なんだから。
「とはいえ、Aランクになってもう一年。な~んか刺激が欲しいわね」
正直、王都といっても依頼の内容は大小様々。思っていたよりワイバーンの討伐とかキメラの討伐とか大きい依頼は少ないのよね。
「ああ~、刺激が欲しい!」
「おい、マディーナ。変なことを大声で叫ぶな」
「だけど、ベイ。Aランクになってから何か変化あった? 特にないでしょ」
「まあ、そう言われれば大して変わりは……いや、だからといってだな!」
「おう! お前らここにいたのか。ちょうどいいところに」
「前と後ろでセリフがあってないわよ、ジュールさん。一体どうしたっていうの、アルバのギルドマスターが王都で」
「いやぁ~、話が早くて助かるなマディーナは。ちょっと頼みがあってな、試験官をやってもらいたいんだ」
「試験官? アルバからAランクになる奴でも出てきたの?」
「いや、頼みたいのはなCランク試験官だ」
「はぁ!? いや、Cランク試験官なら大量のBランクか何ならCランクでも大丈夫でしょ!」
「そうか、俺の聞き間違いならいいんだが、さっきマディーナは退屈だって言ってなかったか?」
「言ってたけどそれが何?」
「そいつの試験官になれば少なくとも、ここ数日王都で過ごすよりは退屈しないこと間違いなしだぞ」
「ふ~ん。……十代でAランクになったジュールさんが言うぐらいだから会うだけ会ってみようかな」
「それじゃあ、頑張ってこいマディーナ。俺はのんびり待ってるよ」
「何を言ってるんだベイリス。お前も来るんだよ。ちょうどBランクの試験官も必要でな。Bランク試験のついでにマディーナが付いて来て試験官をする方が自然だろ?」
「待ってくださいよ。俺がまるでおまけみたいに聞こえるんですが……」
「見たいじゃなくて、その通りだな。だが、お前からしたら退屈かもしれんが、見込みのあるやつなんだ。ジャネットといって女剣士なんだが……」
「あら、Bランク試験を受けるのはジャネットなの。それなら受けてあげなさいよベイ」
「知り合いか?」
「暇な時にちょっと依頼を一緒に受けたことがあるのよ。でも、中々の判断力だし将来性ありよ。あっ、マスター、カクテル追加~」
「はい」
「マディーナが言うなら仕方ないか。付いて行った方が揉め事もないだろうしな」
「決まりだな。それじゃあ、すぐに準備してくれ」
「えっ、もう? 早すぎない?」
「いやぁ、三日後が試験日でな」
「ちょっと、そういうところはもう少ししっかりしてよ!」
「すまんな」
こうして私はまだ見ぬDランクのために宿を片して、アルバへと向かったのだった。
「はぁ~、どこの世界にAランクを走らせるDランクがいるってのよ。これで見込み違いだったらただじゃおかないわよ!」
「まあそう言うな。ジュールさんの見込んだ奴だぞ?」
「そのジュールさんよ! 何が『俺はギルドマスターの仕事が忙しいから先に帰る』よ! 逃げただけじゃない!!」
「それに関しては否定しない。だが、俺の方も本当に大丈夫なのか? 王都でも剣士は腐るほどいる。腕が多少いいぐらいじゃどうしようもないぞ?」
「そっちは心配しなくて大丈~夫。あたしの目まで疑うの?」
「実際にマディーナは会ったことがあるんだったな。ちなみに剣の特徴は?」
「あんた、Aランクの癖にCランクのか弱い女性の弱点を聞き出そうっての? 性根腐ったんじゃない」
「あ、いや……そうか。悪い癖だな。すぐに討伐依頼のように考えてしまうな」
「いつも情報集めてくれて私は助かってるけど、今回はフェアに行かないとね! あの子のためにならないわ。だから、きちんと叩きのめすのよ!」
「おいおい、さっきと言ってることが違うじゃないか」
「一緒にいて楽しい子は好きよ。だけど、一緒に冒険もできる子はもっと好きなの。分かる?」
「了解」
そして試験が始まった。ジャネットは一目見て成長したと感じられた。あの調子ならBランクの実力はあるだろう。後はどこまでベイに食らいつけるかね。そんでこっちは……。
(優男とちびがいるだけじゃない。どっちなのよジュールさん……。まあ、どっちでも不安しかないわ。特にガキはまだ十一歳ぐらいじゃないの?)
「どっちからでもいいから早く始めましょう!」
いくら試験用に魔力抑制の魔道具をはめてるからって、こんな相手に負けるとは露ほども思わない。さっさと終わらせて帰ろう。どうやら最初は優男の方らしい。さて、初撃は何かしらね。
「アクアスプラッシュ!」
ふ~ん、水の中級魔法か。適当な魔力の練りに適当なコントロールね。まあ、Cランクとしちゃ普通かな?
「アクアスプラッシュ」
同じ魔法で返してやる。案の定、これでもまだ私の魔力の方が高いので、相手の魔法を貫通する。しかも、それがお得意魔法らしい。次に放ったのはありふれた水魔法だった。
(はあ、もう終わらせよ)
「あま~い、スプラッシュレイン!」
大量の水の矢を跳ねさせて、相手の逃げ道を奪う。
「そこまでだな。終了!」
ジュールさんの声とともに試験は終了だ。となるとこっちが外れか……。いや、両方外れなんじゃないのこれ? 向こうもびくびくしてて弱そうなんだけど。休憩するかと言われたけど、そんなものは必要ない。
ギャラリーには私のことを知ってる人もいるみたいだし、この子はちょっとだけ宣伝も兼ねて遊んであげてもいいかもね。この町で制限付きとはいえ、Aランクの戦いが見られるんだもの。
「……バルズは危ないから外に出ておけ」
わざわざ、バルズとかいうのを外に出してくれるなんてジュールさんも気が利くじゃない。これで少しは暴れられそう。
「お、お願いします」
「じゃあ、始めるぞ……始め!」
「ファイアーボール!」
(所詮この程度か……相殺してから一気に畳みかけよう……)
「ウォーターボール!」
火の玉を水の玉で打ち消す。きちんと視界を遮らない程度に加減までして。これで何もしてこなかったら後でジュールさんに文句を言ってやる!
ヒュンヒュン
ん、弓? 珍しいわね。しかも、まだ余裕があるのか本物の矢じゃなくて火で作った魔法矢なんて。
「なぁに、この子面白いじゃない。スプラッシュレイン!」
さあ、どう出るか?
「それなら、火よ私を包み込め! ファイア!」
火を纏って水の矢を蒸発させながら突進してくる。う~ん。よく考えれば火属性だけならこんなもんかな? そう思って氷の壁で勢いを殺そうとした時だった。
「今だ、ウィンド!」
いきなり相手が風魔法で勢いをつけてきた。ちょ、ちょっと何で今まで火属性しか使わなかったのよ!
すぐに壁を作るのをやめて冷気を進路上に割り込ませる。魔力制限さえなければ作り終えていたものを……。
咄嗟のことでジュールさんに思わず抗議するが、休憩しないからだと言われる。こんなイレギュラーに休憩なんて無駄よ!
その後も魔法を撃ち合うが決め手がない。正直、手詰まり感がある。かと言ってこんな子ども相手に二属性も使うのもなぁ……。あんまり気はすすまないけど仕方ないか。
「いい?」
「ああ……」
予期していたかのようにジュールさんから制限の一部解除のお許しが出る。これで魔力は240から300ぐらいに上がったはずだ。
「行くわよアクアブレイズ!」
「う、ウィンドブレイズ!」
相手が魔法で対抗するもこうなっては防戦一方だ。まあ、相手が悪かったわよね! そう思っていたら、天井付近に飛んでいたウィンドカッターが襲い掛かってくる。
ああもう! 絶対この子魔力操作持ちだ。しかも、この歳でここまで操れるなんて、うらやましい。その後はまた手詰まりになってしまった。何なのこの子、明らかに私の方が魔力が高いのにここ! というところで防がれてしまう。
「風の刃よ、ウィンドカッター! 炎の領域よ、フレイムテリトリー!」
しかし、魔力差は歴然。追い詰めたと思ったら最後の賭けに出てきたらしい。それにしても領域魔法なんて珍しい魔法だ。まあ、対処はしないと。
「アクアテリトリー!」
同様に領域系の魔法で防ぐ。まあ、向こうの魔法も未熟みたいで正面ががら空きだから、他の対応でも良かったんだけどね。もう打てる手はないだろうと安心していると、正面から次々に魔法を撃ちこんでくる。しかも、火と風の両属性を大量にだ。
(こんなの一々防いでいたらきりがない。でも、アクアウォールの展開速度じゃ不利だわ)
属性相性的に風魔法が防げる気がしない。こういう時はどうするかというと……。
「アースウォール!!」
(そう! 大地の壁だ。そしてこの後は……)
「からの、ツインブラスト!」
ツインブラストは特殊な魔法で異なる二属性を同時に放つ魔法だ。難度もあって威力もある。いやぁ~使うと気持ちいいのよね。ん? って今私なにした!
「マディーナ!」
「やばっ!」
もう止めらんない。耐えて、何とか耐えてよね!
「ええ~い、なるようになれ! ツインブラスト!!」
は? いや、嘘でしょ。あの魔法書高かったのよ? っていうか確かに魔力操作と相性はいい魔法だけど、私でも習得に二週間かかったんだけど……。
「ふんぎゃ!」
それでも魔力差を埋めることが出来ずに後ろの壁に叩きつけられたようだ。
「大丈夫、坊や?」
すぐに駆け寄って無事を確かめる。にしてもよかった~、危うく試験中に事故を起こすところだったわ。でも、話を聞いたら男の子じゃなくて女の子だった。よく見ると髪も長いし、当たり前よね。
「今治すわね、ハイヒーリング!」
怪我を最優先で治すため、水魔法の上位回復魔法を使う。へへ~ん、こればっかりは私が上ね。なんせ金に困ったら治癒師の真似事をしてるぐらいだもの。
その時、ピシリと小さいけれどかすかに杖から音がした。まさかよね……。この杖自体は良いものではない。だけど、魔力操作持ちの私からすれば悪い杖じゃない。魔力をコントロールしきれなければ杖が壊れるということで、修練にはぴったりなのだ。それが、こうなるってことは……。
(思ったより、慌ててたみたいね……)
反省しつつ、実地訓練に向かう彼女を見送る。いやぁ~久しぶりに対人戦で楽しかったかも? ここのところつまらない盗賊ぐらいしか相手してなかったし。
(ん~、でもあの子が本気だったとは思えないのよね~。あれだけ魔法が使えるのにほとんど初級魔法だったし。何よりテリトリー系の特殊な魔法を覚えているのに上級魔法を使っていないのが引っかかる。話した感じだとまだまだ子どもっぽいし、きっと対人経験が少ないのね)
マディーナは知らなかったが、この時アスカは仲間以外との初めての対人戦の実戦だった。それで知らず知らずのうちに使う魔法の威力や狙いもずれていたのだ。
「どうだった、アスカの奴は?」
「予想以上ね。退屈しのぎどころじゃなかったわ。ところで……」
私は杖の魔石を指さす。当然のように石は砕け散った。まあ、制限中とはいえ私の魔力に簡単に耐えられるものでもないからね。交渉の末、新しい魔石を勝ち取った私は悠々と街に繰り出そうとしたら、ジュールさんに止められた。
「暇つぶしなら細工屋にでも行ってみろ」
わざわざ、ジュールさんがお勧めしてくるなんて意外。しかも、武骨なカッコしてるのに細工屋だって! しょうがないから行ってあげますか!!
ジュールさんに言われて渋々ながら細工屋に向かう。あのおじさん苦手なんだよね~。真面目というか融通効かないし。
「こんにちは~」
「ん? 好きなものを見ていけ」
相変わらずのようね。でも、何をいまさら見るって言うのかしら? 王都には細工の町から運ばれる物だってあるし、有名工房のも選び放題なのに。
「はいはい」
「ん~、どっかで見たなお前。どこだったか……」
「さてね」
とりあえず見て回る。
「う~ん。確かに以前よりいいものや飾りとして価値があるけど、こういうのって貴族とかの物よね?」
私は冒険者なんだけど。それともジュールさんはこれでも身につけてちょっとは着飾れってこと?
「大きなお世話よ!」
ダンッ
あっ、つい叩いちゃった。
「お前……ってマディーナか。随分久しぶりだな」
「今気づいたのおじさん。それに叩いたところで思い出さないでくれる? まるで私が暴れん坊みたいじゃない!」
「いや、町でも森でもあばれ……まて、魔法は使うな! 魔道具が発動する!!」
「やあねぇ~冗談よ。って、魔道具? そんなのほとんど売ってなかったわよね。種類を揃えるようになったの?」
「ん、ああ~まあ最近な。最近は面白いのもあってな。これなんだが……」
「へぇ~、確かに面白いわね。対になっててお互い魔力を受け渡せるなんて。それに、居場所も簡単に調べられるのね。こういうの珍しいし買おうかな」
「だが、そこそこするぞ?」
「おじさんあたしを誰だと思ってるの。Aランク冒険者のマディーナよ? これぐらいじゃびくとも……ん?」
何だかこの魔道具の波長は最近覚えがあるような……具体的に言うとさっきこの身に受けたような気がする。
「ねぇ、おじさん。この魔道具って子どもが作ってたりする?」
「子ども……まあ子どもといえば子どもか?」
「そう、やっぱりアスカが作ってるのね」
あの子、魔法にばっかり力入れてると思ったのに、細工もやるの……。というか私が普段買う物と遜色ないんだけど。よし! 次にあったら一度、私のすごさを見せつけないとね!横道にそれたやつには負けられないわ!!
「ん、知り合いだったのか?」
「いいえ。どこかのギルドマスターのお陰で相手をさせられたのよ」
「それで、Aランク冒険者から見てどうだったんだ?」
「どうかしら? 少なくともBランクになりたての奴よりは強いわね。戦うと決めた時の勢いがすごいもの。もっとも、踏み切れなかったらCランクの枠でしょうけどね」
「なるほどな。確かに一見、戦いには無縁に見えるからな」
「にしても色々あるのね。ちょっと見るわよ?」
「ああ」
私は許可を取ったので、鑑定の魔道具を使用して見ていく。ふむふむ、相変わらずおじさんのは細工としては良いけど、魔道具はないわね。だけど、アスカの物よりもきめ細かい部分が多いわ。というかアスカのやつって値段でヘタウマになったりしてて安定しないわね。
「ねえ。これ、中央部と縁が違う出来だけど理由は分かる?」
「ん? ああ~、それは低価格帯で作ってるやつだな。ちょっと悪く作って値を下げてるんだ」
「何でそんなことしてんの?」
「さあ? アスカの作ったもんだしな。だけど、普及にはこっちの方が良いとか言ってたな。実際、それを買ってからきちんとしたのを買うやつもたまにいるぞ」
「ふぅん」
普及用ねぇ。まぁ、最初に興味を持ってもらわないと後で買うこともないけど、わざわざそんなことまで考えてるのね。
「器用というか面倒な子ね。おっ! これは美女像だ! 私も作らせようかな?」
「こら、それは神像だぞ。変なこと言うんじゃない」
「え~、でもこんな神像見たことないけどなぁ。なになに……アラシェル? やっぱり見たことないわよ。私の知る知る限り本にも載ってないわ」
「そりゃ、地方神らしいからな。アスカの地方で信仰されているらしい」
「あ~。たまに発見される奴か。でも、珍しい地方ね。神像をこんなにカジュアルにするなんて。教会が聞いたら卒倒しそうだわ」
「だが、人気はそこそこだぞ。値段もそうだが、あんまり神々しくもなく身近に感じられるそうだ」
「なるほどね~。私もシェルレーネ様の像は持ってるけど、一つぐらい買おうかな?」
「なら、こっちのがいいぞ。デザインはほぼ同じだが、こっちは銀製だ。一流冒険者にはお似合いだろ?」
「む、そうね。っていうかきちんとそれぞれに加護ついてんのね。言っちゃ悪いけど、おじさんのでも出来がいい像以外は加護ほとんどついてないわよ?」
「ま、まあ、途中で失敗すると身が入らなくてな。とはいえ材料費の関係もあって売らんといかんのだ」
「経営者と職人の差ね。でも、絵から想像したと思えないぐらいリアリティあるわねこの像」
おじさんから銀細工のアラシェル像を渡され改めて思う。特にこの神像は材料の差だけで、オーク材だろうと銀だろうと同じレベルの作りに見える。よほど信心深いようだ。
「それで、どのデザインにするんだ?」
「ん~。この水辺の奴にするわ。これなら、ちょっとぐらい信仰してもシェルレーネ様も許してくれるだろうしね」
「ふむ。マディーナは湖面……と」
「??何書いてるの」
「いやな。結構、アラシェル様の像は個人の好みがあって在庫量の調整が難しいんだ」
「一番人気は?」
「男に限ればラフだな。この身近な格好がいいらしいぞ、続いて湖面だ」
「それ売って大丈夫なの?」
「何がだ? 信仰しやすい方がいいだろう」
「まあいいわ。それと、対の魔道具ね。いくら?」
「魔道具の方が金貨六枚で神像は金貨二枚だな」
「へぇ~、安い。神像は王都だともう金貨一枚はいくけど」
「ここは輸送費を取らないからな。何せ職人が俺とアスカしかいないからな」
「なるほどね。確かにここから運ぶならそうなるか……それじゃあね。あっ、これは旅の商人が買ったことにしておいてね」
「おう。なんだか分からんが別に構わんぞ」
代金をカードで支払って店を出る。う~ん、今月大丈夫かな?あの場では一流って言ったけど、その一流だって多い。それに、Aランクともなれば依頼も選んで受けるからさほど収入も多くないのよね。
「実際、治癒師も生活苦からやるわけだしね~」
ま、今は良い物が買えたと思って甘受しましょう。それよりも……。
「美味しい料理を出す店があるらしいのよね~。野戦食のベイには悪いけど楽しまなくっちゃ!」
こうしてお金のことは忘れ、食事を済ましたのだった。翌日……。
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「ん~、よく寝たわ。そろそろ試験は終わったかな?」
身支度をしてギルドに向かう。一時間ほど待つことになったがベイが帰ってきた。
「終わった~?」
「ああ。試験の方は続いているがな。後は簡単な野営知識の確認や注意点だから一時間ほどだが、待つか?」
「いいわ。ベイの顔見てたら結果が分かったもの。次会う時は組む時かな?」
「なら王都に戻るか。長居しても仕方ないだろう?」
「そうね。こっちで依頼を受けても仕方ないし行きましょ」
ベイと二人で来た道を引き返していく。こうして移動しながらだと話も色々出来るから助かる。ランクが上がっていく毎に秘密が増えるからね。
「そうそう。ジャネットはどうだった?」
「強かったぞ。俺がBランクになった時よりはな。だが、まあ負けはしないかな? 癖もあるし全体的に俺の方が強いからな」
「それは当たり前でしょ。あんたAランクなんだから」
「そうは言うが、同じAランクでも俺じゃジュールさんには勝てないと思うがな。良くて十戦三勝ってところだ」
「あの人は見かけによらず早いからね~」
「後はハルバードだな。使う冒険者が少なくて対応しにくいんだよ」
「そんなこと言って、昇格の時の相手だったから苦手意識が残ってるんじゃないの?」
「む、そっちこそどうだったんだ? 退屈しのぎにはなったか?」
「退屈しのぎも何もやる気が出てきたわ! ほら見なさいよこれ」
昨日買ったばかりの魔道具を見せる。
「ん、魔道具か? 中々細工も見事だが……」
「これCランク昇格の十三歳の子どもが作ったのよ。信じられる?」
「面白い冗談だな。細工に時間をかけてなおかつCランクか」
「それが、冗談だったらね~。何せ私が二属性を使ったんだから」
「はっ? 相手はDランクだろう」
「そうよ。でも、面倒な戦い方をされてね。最初は単属性だから舐めてたのもあるけど、弓も使うわ魔力操作を行うわで」
「それは手間だな。で、結局二属性は何にしたんだ?」
「水と土。それでも魔力制限を外したし、変わった子だったわね。あの子が八年後に私と同じぐらいの年になったらどうなるのかしらね」
「とはいえまだ伸びしろがあるか分からんだろう? つまづくかもしれんぞ」
「……そうね」
普通はそう思うわよね。だけど、あの子の場合はすでに伸びてるのよね~。まあ、そこまで言うことでもないし、数年後に出会った時にあの時の子よってベイを驚かせたらいいか。それより今は……。
「そうそう。この魔道具、相手に魔力を渡せる珍しいものなのよ。ベイも付けててね」
「俺が渡せる魔力なんてそこまでじゃないぞ?」
「違う違う。その魔力の流れで居場所が分かるようにもなってるの。これだと迷ったりしても大丈夫でしょ?」
「やれやれ。迷子前提とはな。だが、中々有用な魔道具だな。もう一セットぐらいあってもいいな」
「あんた、誰に渡す気? 面倒ごとは御免よ」
「いや、ただのスペアだ」
「本当かしら……まあいいわ。そこは個人の自由だし。それよりお代は割り勘ね。金貨四枚」
「まあ、この魔道具ならそれぐらいはするか。ほら」
私はその場で金貨四枚をもらう。いや~、総額金貨八枚のところ半分払ってくれるなんていい奴だわベイは。そして、ほくほく顔で王都に向かう私だった。