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番外編 ティタとディースの過去、時々マディーナ ティタの章

 今回はティタが現在の大陸に来た経緯と、ディースの過去、そして王都に帰る前に細工屋に立ち寄ったマディーナのお話です。なんということでしょう!1話が長くなったので3分割です……/(^o^)\




 ティタの過去 ※この話ではティタたちは通常会話をしていますが便宜上のためです。


 私はゴーレム。現在人間でいうところの五十歳ぐらいだ。今私がいる国はガザル帝国というらしい。そして私の住んでいるところは人には『ゴーレムの谷』と呼ばれている。高い魔力が漏れ続けていてそこから私たちゴーレムが誕生しているのだ。とはいえゴーレムたちもずっとここに住み続けるわけではない。


「お前はどうする? ここに残って争うか新しい地を求めるか?」


「私は新しい土地を探すよ。ここは私には合わない」


「お前の実力なら残れると思うが?」


「それでもだよ」


 私は争いごとが嫌いだ。ここのゴーレムたちの道は二つ。五十年以内にここを出て行くか、戦ってここに残り続けるかだ。魔力を帯びた石も無限じゃない。こうやってここのゴーレムたちは資源を大事にしてきた。

 だけど、ここ数年で誕生するゴーレムも魔力を帯びた石も減ってきている。強者たちは数を減らせば良いと言うが、本当にそうだろうか?


「私は他の場所で色んなものを見たい!」


「なら、止めねぇよ。俺は倍率が低くなって助かるしな」


「それじゃあ……」


 こうして私は旅に出た。といっても私の体はまだ六十センチほどしかなく、このままでは生きていけないだろう。現にたまに帰ってくるゴーレムたちは、同胞が核を傷つけられ倒される姿を何度も見てきたという。


「何とか目立たないようにしないと……一先ずは暗闇に紛れよう」


 こうして、闇から闇へ色んな場所を旅する。しかし、思うような土地は見つからなかった。


「このままこの大陸にいては結局、あの谷に戻るしか無い。何か別の手段を考えないと……」


 見るとこの街からは船というものが出ている様だ。あれに乗り込むことさえできればもっと遠くへ行ける。そう、他の同胞たちよりもっと遠くへ! 進む道を決めた私は船への荷物を見る。数日に一度、大きな岩を運ぶことが分かった。形は様々だし、あれに擬態すれば自分でも乗り込めそうだ。


「ん。船は週に一度。次は明日か……」


 覚悟を決めて荷物に紛れ込む。見つかったらゴーレムの足では逃げられないだろう。しかし、他に道はない。そして、決行当日。


「ん、苦しい」


 体をうまく四角く変形させるのが大変だ。しかも、運ばれる間は動くわけにはいかない。いよいよ自分が運ばれる番だ。


「お~い、そっち持ってくれ」


「はいよ! って、何だこれ? 重て~な」


「鉄でも混じってんだろ? 文句言わずに運べ」


 こうして私はうまく船に乗り込めた。




「うん、あれは?」


「どうしたんです旦那。船は明日ですぜ?」


「この船でいいから乗せてもらってもいいか?」


「まあ、お代をいただけたらどちらでも構いませんが。貨物船ですぜ?」


「別に構わん。面白そうだ」




「む~、暗い」


 しかも、ここは人の出入りがたまにあるからうかつに動くことも出来ない。いくらゴーレムが長寿だといっても退屈だ。


「心を無に、心を無に……」


 出来るだけ何も考えないようにして時間の経過を待つ。そして数日が過ぎた……。




「おお~い、着いたぞ~」


 人間の声がする。ようやく目的地に着いたみたいだ。貨物船というだけあって、すぐに荷下ろしが始まった。幸い私は後で積まれたためすぐに下ろされた。


「ようし、いったんここまで下ろせばいいだろう。向こうに戻って休憩だ。後は客を下ろす準備をしろ」


「「へいっ!」」


 人間が遠ざかっていく。ちょっとだけ目を開けると誰もいないようだ。


「この隙に……」


 ズンズン


 目立たないように横の森に入って姿を消す。


   ✣ ✣ ✣


「旦那着きましたぜ!」


「ん? 一日早くか?」


「はい。いい風の日が続いたんですよ」


「やれやれ、明日だと思って、昨日飲み過ぎてこっちはフラフラだぞ。まあいい、下ろしたした荷物はどこだ?」


「は? あっちですが、旦那の荷物はありませんぜ?」


「分かってるよ。社会見学ってやつだ」


「物取り以外ならどうぞ」


「へぇへぇ」


 下らん会話を切り上げて、目的のものを探す。しかし、どこを見てもあいつがいない。


「チッ、入れ違いになっちまったか。折角の旅がつまらん旅になっちまったな……」


 あいつとなら楽しそうな旅になりそうだったのによ……。


 それから数日後、冒険者ギルドに一つのニュースが流れた。Sランク間違いなしと言われていた魔物使いの男が引退したのである。全ての従魔と契約を解除した彼に引退の理由を聞くと、彼は一言だけつぶやいた。『どうしても従魔にしたい奴と会った』その後の彼の足取りは依然として不明である。


   ✣ ✣ ✣


 一方その頃、ゴーレムはというと。


「うむむ。この辺は結構いい石が揃ってる。でも、他にも色んなところに行ってみないと……」


 アルバ近くに良い場所を見つけたものの、まだまだ見ていない土地があるために再び闇夜に消えていった。それから百五十年後……。


「ううむ。あれからこの大陸を回ったけど、安全なところでいい石があるのはここぐらいか。ライバルもいないみたいだしここにしよう」


 アルバの近くの岩場に居を構える。たまにサンドリザードがちょっかいを掛けてくるが、大したことはない。この間、体も大きくなったし強度も増した。あの程度の相手には負けることはない。


「それにしてもガザル帝国がなくなったのは困った。おかげで歳が分からなくなった」


 まあ、ゴーレムに歳なんて意味がないけど、数えるだけでも暇つぶしにはなる。そういえば故郷のゴーレムたちは元気だろうか? この体では目立ってあの船に乗れないと思うが、様子だけでも見に行きたいものだ。

 それからは数日に一度起きては食事をして眠ることを繰り返す。そんな生活が何十年も続いたある時、小さな鳥が話しかけてきた。


「こんにちは」


「こんにちは。ここはサンドリザードが住んでいるから危険だ」


「大丈夫。私はアスカたちと一緒だから」


 首を向けると奥には人間たちがいる。鳥は少女の肩に止まると少女が歩いて来た。とても不思議な子どもだ。何とも言えないが、かつて感じたような……。


「こんにちは」


 私が話しかけても言葉が通じないので手を差し出す。こうすることが友好の証だと聞いたことがあるからだ。それから少女は何度も来るようになった。少女に話を聞いた他の人間たちもだ。敵意もなく今までと違う光景に戸惑いながらもそれが楽しみだった。その代わりに彼らが困っているなら手を貸した。


「魔石を貰えるし、頑張ればアスカが褒めてくれる」


 そう思えば、とても嬉しかった。でも、その日々は終わりを迎えた。あの日、ハイロックリザードに倒された時、私は変わってしまった。あんな風に嬉しいと思うことはもうない。


「ダケド、アスカノタメ。カノジョガヨロコ……ベルヨウ、ガンバル」


 たとえ関係が変わってしまっても、私の心はきっと前のまま。そう思いながら今日も一日を過ごす。


『おやすみなさいアスカ』



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