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食後


「ん~、美味しかった」


 私たちは食事を終えてまったりしている。ジャネットさんはいつも通り、早くに食べ終わっていたんだけどね。


「そうだね。あたしも何度も来てるけど、来るたびに新しいもん食わせてもらってるね」


「でも、お店からしたら大変ですよね。毎回毎回新メニュー何て」


「まあ、それが生きがいみたいなもんだからいいんじゃないの」


「そう辛いものではありませんよ」


「フィアルさん!」


「もう下は良いのかい?」


「ええ、他にもやることがありましたが終わりましたので。それでアスカ、見せたいものとは何ですか?」


「あれ~、やっぱりフィアルさん気になってたんですね?」


「別にそう言う訳ではありませんよ。ただ、アスカがそれほど言うのであればと……」


「分かってますよ。それじゃあ、ちょっと失礼して」


 私は料理の下げられたテーブルにどんっと肉を置く。


「これは……肉ですね。しかし、何の肉ですか? こんな筋張ったものは初めてですね」


「これがなんと!」


「ハイロックリザードの肉だよ」


「ジャ、ジャネットさん! 私の折角のタメが……」


「先に言ったもん勝ちだよ。冒険者ならね」


 くぅ~しかも、綺麗なウィンクまで決められてしまった。まあでも、これが見られたからいっか。


「ふむ。これがあれの肉ですか。ならば納得ですね。しかし、これほどの筋量では食べられないのでは?」


「ふっふっふっ、ここにもあるですよね、圧力鍋! あれがあれば、多分大丈夫だと思うんですよね」


「圧力鍋? 聞きなれない言葉ですね」


「へ? え、でも、宿では使ってますけど……」


「アスカ。別に宿とはパン関連のことだけだろ? あれだって料理に関してで、鍋は調理器具だよ」


「そ、それじゃあ、この私の計画は……」


「いえ、アスカよくぞ教えてくれました! すぐにでも宿の方に頼んで売ってもらいます。ハイロックリザードということを置いても、今後の料理の構想に大きく寄与するでしょう! この肉は直ぐに保管しますから宿へ向かいましょう!」


「わっ、うわっ!」


「ちょ、ちょっと、フィアル落ち着きな」


 必死にジャネットさんがなだめてくれて何とか話ができるようになる。


「す、すみません。焦ってしまって……」


「いえ、私こそ持っているものだとばかり……」


「はあ、あんたたちしっかりしてるようで、変なところで駄目なんだから。ほら、行くよ」


 こうして私たちは宿に戻った。


「ただいま~」


「あ、おねえちゃんおかえり」


「お帰りアスカ。フィアルさんまで珍しいですね」


「ええ、ちょっといい話をアスカから聞けましたので」


「へぇ、そうなんですね。あっ、席に案内しますね」


「そうだアスカ。さっきの物は宿用にも買ってきているんでしょう」


「はい。ならライギルさんを呼んでほしいのですが」


「なんですか? 料理の話?」


「ええ、エステルさんも大変興味がそそられる案件ですよ」


「何だか気になりますね。私も参加しようかな?」


「ぜひ」


 こうして、料理好きな三人がテーブルに会することになった。


「アスカ、わざわざ俺まで呼び出すなんてどうしたんだ?」


「今回ですね。珍しい食材が手に入ったんですよ。それがこの……」


 ちらりと周りを見て先に言われないように警戒する。よし、行ける!


「ハイロックリザードの肉です」


 ドンと肉を出して、言い切った!


「ハイロックリザードって、町を襲おうとしてたあの強い魔物か? しかし、この筋の多さ、これじゃあ食えないんじゃないか?」


「そこで私も聞いたばかりなのですか、ここには圧力鍋なるものがあるらしいではありませんか」


「圧力鍋? ああ、なるほど! 筋は筋だからあれで煮込むつもりだな。確かにそうすればいけるか……」


「ライギルさん。しかし、この弾力は普通の肉とは違います。アスカは出来ると思っているみたいですけど、ただ煮込むだけで大丈夫でしょうか?」


「ふむ。……確かにこの硬さはやばいな。何か案はあるのか?」


「そこは確実ではないのですが、玉ねぎかお酢を使えば行けると思います!」


「お酢はともかく玉ねぎって何?」


 しまった。この世界にはないのかな? いや、名前が違っているだけか……。


「えっと、地上じゃなくて地中に生えるこれぐらいの球体で切ると涙が出てくる奴です」


「あ~、それはファディッシュね。でもファディッシュに別名なんて変わったところに住んでたのね。世界中で同じ呼び方だと思ってたわ」


「ええ、そのファディッシュをすって浸けるんです。それで幾分かは柔らかくなると思いますので」


 そんな風に調理実習中に聞いた気がするんだよね。後は料理人にお任せしておけば大丈夫かな?


「了解。どうせもう材料は買ってきてるんでしょ? ライギルさん頑張りましょうか。うまく行けばそこそこの値段と話題を掻っ攫えますよ!」


「うむ。これでしばらくのメニューは決まりだな。フィアルさんにも予備の鍋を渡しておくよ」


「本当ですか! ありがとうございます。そこで、物は相談なのですがこちらの鍋を登録していただけませんか? 毎回こちらでいただくわけにもいきませんし、製作が他でも出来ればよいと思うのですが……」


「それはちょっとな。この鍋は扱いが難しいから怪我をする可能性もあるんだ。値段を高めにすればいいかもしれんが」


「ライギルさんの言う通りですね。最初は私たちもかなり慎重に使いましたし、適当に作って使い方も知らない人に売るのは怖いです」


「なら、売る時にきちんと説明できる人物をつけられれば構いませんか?」


「ああ。だが、この鍋の案自体はアスカだし作ったのは鍛冶屋と俺たちだからな。登録しようにも複雑で難しいんだよ」


「ふむ。でしたら、共同開発ということで代表者に一時的にお金を入れるということでどうでしょう?」


「代表者か……鍛冶屋はそんなことに興味がなさそうだし、それなら俺かぁ~。まあ、これの他にも色々あるから別にいいか。収入の比率はととりあえず、機構を作った鍛冶屋が五だな。後は……」


「わ、私はいいですよ。別に開発には関わっていないですし!」


「いや、アスカの意見がなければ開発にまで行っていないからな。そうだな、俺とエステルが合わせて三でアスカが二だ。これでいい感じだろ?」


「ライギルさん、私もですか?」


「当たり前だろ? 重量や形状について一番神経を使っていたのはエステルなんだから」


「確かにこのなべは持った感じ、重量がありますね」


「元々はもっと重たかったのを一部薄くしたりして軽量化したんだ。そのほとんどがエステルの意見なんだ」


「それは功績として大きいですね。大きめの物を作るにせよ、小型化するにせよ重要ですからね」


「や、やめてください。自分には重いと思っただけで……」


「だが、これを一般家庭にまで売るならそういう視点は大事だからな。とりあえずこの比率で書類を作って、俺が商人ギルドに登録しておく。販売価格は高くなるが銀貨三枚以上にしておこう」


「銀貨三枚って高くないですか?」


「そこでこの町の鍛冶屋ならちょっと安い銀貨二枚と少しぐらいで買えるようにするのさ。そうすりゃ、そこそこ売り上げも回収できるだろ」


「へ~、本家なのに安いんですね」


「本家? 何それアスカ?」


「あっ、え~っと……」


 私は適当にエステルさんに本家の話をする。その道の創始者とかでブランドというか尊敬を集めるみたいな話になってしまったけど。


「なるほどね……。これからも料理用の器具を作ってもらうなら専用の銘を考えてもらったら、高値で売れるし、品質証明にもなるわね。ライギルさん、その線で一緒に依頼しましょう」


「そうだな。剣なんかの鍛冶で有名な銘はあるが、それの料理版か面白そうだ。いやぁ~アスカは料理だけでなく、器具にまで知識が深いとはな」


「ええ。私もこれでまた研究するものが増えましたよ。この鍋もありがとうございます」


 これ以上のテンションの高まりには耐えられないので、私とジャネットさんは目配せして部屋に戻る。


「はう~、やっぱり料理となるとみんなちょっと怖い」


「あはは。まあ、それだけ真剣なんだろ。エステルもあそこまでなるとは思わなかったけどね」


「ああ見えてライギルさんより、スイッチの入りが急なんですよ。初めて見た時は私も驚きました」


「じゃあ、肉はあいつらに任せるとしてアスカの防具だね。次はいつ行こうかね?」


「ちょっと急になっちゃいますけど私、今細工の依頼がないんですよね」


「なら明日にでも行こうか。大丈夫、あたしも暇だからね。ただし、ジュールさんにちらっと聞いたんだけど、どうも紹介してもらえる鍛冶屋って王都にあるらしいから、帰りは一緒じゃないけどね」


「そうなんですか。でも、ジュールさんの紹介ってことを考えれば当然ですね。ついに、王都デビューですね!」


「失礼な。あたしゃアスカと違ってすでに王都デビューは済ませてるよ。最近こっちにずっといるだけさ」


 そういえば護衛依頼で知り合いもいたんだった。とりあえず私の今後の目標は弓と防具を作れる人を探すことになったのだった。



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― 新着の感想 ―
圧力鍋は煮物料理器具の革命とも言える画期的発明だから、技術料だけでもいずれ大金持ちになる可能性大だね。 10年もすれば世界中でベストセラーになる事間違いなしだよ。
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