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お昼ご飯


 ジャネットさんと一緒にフィアルさんの店に入る。一緒に入るのはお正月の時以来かな? あの時は料理を取りに来ただけだったけどね。


「こんにちは、アスカちゃん。ジャネットさんも。お席は二階の奥へどうぞ」


「ありがとね」


 お姉さんに案内されて前と同じところに案内される。店は繁盛してるみたいだけど、運よく空いていたみたい。


「今日は何になさいますか?」


「ああ、最近新しい料理が出来たって言ってたからそのコースを頼むよ。急だけど大丈夫かい?」


「はい! 少々お時間いただきますがよろしいでしょうか?」


「頼むよ」


「では、ごゆっくり……」


 暖かいお茶を出してくれてお姉さんが下がる。


「どうする? 時間がかかるって言ってるけど、アスカはライズに会ってくるかい?」


「いえ、一緒に待ちますよ。ミネルたちは会いに行きたいと思うので、先に連れて行きますね」


「じゃあ、待ってるよ」


 ジャネットさんといったん別れて、ミネルたちをライズのところへ連れていく。


「こんにちは~」


「ア、アスカちゃん! 来てくれたのね!!」


「あっ、ネイアさんでしたっけ? ご無沙汰してます」


「ええ、今日はライズと遊びに来たの?」


「はい。でも、遊ぶのは私じゃなくてミネルたちだけなので相手をお願いしてもいいですか?」


「ええ、ええ。もちろんよ!! そ、それじゃあ、預かるから。へへへ……」


「お姉さんに迷惑かけちゃだめだよ?」


「ワカッタ」


《チッ》


《チュン》


 じゃあね~と手を振りながらミネルたちと別れて席に戻る。


「どうだった?」


「優しいお姉さんに預けてきました。ライズも結構人気らしいですよ?」


「まあ、割と人懐っこいしねぇ~。そうだ! 話は変わるけど、アスカは買った素材をどこに持っていく気だい?」


「そういえばそこは考えてませんでした。ジャネットさんはどうするんですか?」


「あたしかい? ジュールさんに紹介してもらえる予定だからそこにお願いするつもりさ」


「それだと私の分は無理ですよね~」


 もう当てがあるなんて良いなぁ。私も頼めないか駄目元で聞いてみた。


「無理というか、しない方が良いかもね。戦士用の装備を作る鍛冶師だったら、魔法使いの防具は専門分野じゃないから質が落ちちまうからね」


「そうなんですか。それだと困りますね。でも、知り合いなんていないしなぁ~」


「いっそレディトに行った時に商会の奴に頼んだらどうだい?」


「商会の人にですか? でも、紹介料とか掛かりませんか? 商会だけに!」


「…………んんっ! まあ、色々商品を卸してるわけだし、向こうだってそんな法外な金額は言ってこないだろ?」


「そ、それならいいんですけど」


「まあ、無理ならいつも取引してるところじゃ無くて、フィアルに卸してる商会にも掛けあってみるといい。いや、この場合なら最初から向こうにも頼むつもりって言う方がいいね」


「何でなんですか?」


「そしたら、今の商会にとっちゃアスカの依頼を断れば、心証ー1だろ? だけど、もう一方からすれば心証+1にも2にもなる案件だ。冒険者にとっての防具は命綱なんだからね。そうすりゃ紹介料なんて端しか取れないね」


 う~ん。そんなことしちゃっていいのかなぁ~?


「何も気に病むことなんてないよ。あっちだって他の商会に商品を卸さないように頼んでるんだろ?」


「直接は言われてませんけどね。ただ、量が作れないので他のところに卸していないだけで」


「それだって相手からしたら同じことさ。このまま独占を続けたかったら、努力をしろってことさ」


「ん~、私は交渉ってほとんどしたことないですし、いい経験と思いましょう」


「そうそう。たまには挑戦も必要さ」


 こうして私の装備の件は一応の決着を迎えたのだった。


「何やら話が進んでいるようですね」


「フィアルさん!」


「おや、店長がこんなところで油を売っていてもいいのかい?」


「ええ。店員は優秀ですし、お昼もピークは終わりましたので」


 そう言いながら、フィアルさんはワゴンに乗せてきた料理をテーブルに置いていく。


「まずはこのあたりで軽く召し上がっていてください。順に運んできます」


「ありがとうございます」


「いえ」


「そうだ! フィアルさん、食べ終わったらちょっと良いですか? いいものが手に入ったんですよ~」


「いいもの……ですか?」


「はい、期待しててくださいね!!」


 何かとは言わずにそれだけ言ってみる。


「アスカが言うのであればさぞいいものでしょう。期待していますよ」


 あれ? もっとこう知りたい知りたい! って感じになると思ったのに……。


「アスカ、そういうのはもうちょっとクールに言わないとね。聞いて欲しそうに言ったら駄目だよ」


「そんな顔してました?」


「バッチリね!」


 ううむ。こんな調子じゃ交渉なんてまだまだだな。まあ、今は出された料理を堪能しないとね。


「最初の料理はサラダとスープだ。サラダは見たままだけど、スープはすごくドロッとしてる。ミキサーとかもないのにすごいなぁ……」


 裏ごしとかするんだろうか。料理の経験はほぼないから分からないけど、口の中で味が広がってかなり美味しい。

 それに飲みやすいように温度もちょうどだしね。そうしてどんどん料理が運ばれてくる。メインの料理は……。


「こ、これは……ローストビーフだ! やったぁ!!」


「アスカ、この料理知ってんのかい?」


「知っているかと言えば食べてみないと分かりませんけど、同じような見た目の料理は食べたことがあります。そしてすっごく美味しいはずです」


 何せ、有名シェフの手作りソースなんだし。私はまずは小さめに口に運ぶ。


「もぐもぐ。ん~、柔らかくて美味し~。ソースもじわっと肉の中までしみ込んでるし、たまんないよ~」


 味も濃いめだけど、気にせずバクバク私は食べ進める。一方でジャネットさんはそこまで食べていないみたいだ。どうしたんだろう?


「あ、あれ? ジャネットさんお口に合いませんでした?」


「ああ、いや、これって途中から味を変えられるように、隣にパンと野菜が付いてるものだと思ったんだけど、その……大丈夫かい?」


「あっ!?」


 そういえば運んできた時にそんなことを聞いたような気が……。きちんとパンの中央には挟むために切り込みも入ってる。やばい! もう一口分しか残ってない。どうしようか……。


「しょうがないねぇ」


 ひょいっと私のパンをつかむとジャネットさんは野菜を入れて、自分の分の肉を何枚か挟んでいく。


「ほら、こうすれば大丈夫だろ? さすがにこれ以上はあたしの分がなくなっちまうからね」


「ジャネットさん……」


「全く。考えなしの妹を持つと苦労するよ」


「えへへ、ありがとう。お姉ちゃん!」



    ✣ ✣ ✣


 アスカたちがそんな食事をしている頃、ティタたちは……。


「あら~、ほんとにティタちゃんは魔石を食べるのね。でも、ちょっとお口が小さくない?」


「ダイジョブ」


「そう? ライズちゃんも店の料理を食べてるし、今度来る時にはいいの入れとくからね。デヘヘ」


 たしか魔石って、そこまでしないわよね? 貯えもあるし、副業も頑張ればいけるわ! ふっ……へへ。


「あら、何ミネルちゃん? 笑顔が胡散臭い? そんなことないわよ~。ほら目を見て~」


 ミネルちゃんは同じ鳥でもレダくんと違って強敵ね。私の好感度アップの魔法が通じないわ。何か耐性の高い魔物なんでしょうね。ここは苦手だけど正攻法で行くしかないか……。ふわふわもごつごつもサラサラも私のものにして見せるわ!



「店長、本当にネイアさんにライズを任せてよかったんですか? あの人たまに変なこと言ってますし……。まあ、気になるほどではないんですけど、な~んか引っかかるんですよね」


「ええ、問題ありませんよ」


 そういいながらシャッシャッと店長はナイフを研ぐ。


「あれ? よく見るとそのナイフ、店のじゃないですよね? それに何垂らしてたんですか?」


「ああ、これは冒険者時代のものですよ。久し振りの出番かと思いまして。しびれ薬もたまに塗り直さないと効き目が悪くなるんですよ」


「冗談……ですよね?」


「彼女が節度ある行動をするうちはですね。あの四匹は揃いも揃って特徴を持っています。ライズは経済的にミネルは希少さ、レダは象徴として、そしてティタは研究に。これらのどれを取っても易々と踏み込ませるわけにはいきませんからね。選別はきちんとしないと」


「彼女だと信頼できないと?」


「信頼は出来ますよ。店で雇っているのだから当然です。ただ、彼女では何かあった時にどうすることも出来ません。後ろ盾がない今では妥当ではないということです。将来的に任せても構わないと思わないわけではありませんが、少なくとも今は『その他』であってもらわないと」


「大変なんですね。冒険者って!」


「私は楽をさせてもらってますけどね。ろくに依頼も受けないのにパーティーに置いてもらえるなんて、普通なら金銭の授受が発生してもおかしくありませんから。店に来てもらった時だけでもサービスしないと」


「でも、席は出来れば空けずに全部埋めたいんですけど」


「すみません。ですが、それで安定した仕入れルートが確保できるのですから我慢してください。レディトに行った後の帰りのルートは彼女たちが、それ以外の時は知り合いの冒険者に護衛を依頼してますからね」


「それはまあ……商会の方からも依頼を受ける冒険者が簡単に見つかるようになって助かったと、この前も言われましたけど」


「テーブル一つでその効果なら、このご時世、悪いことではありませんよ。さて、次の依頼の日には私も同行しますか」


「えっ、本当にどうしたんですか? まさか前の緊急依頼で冒険者としての活動欲が再燃したんですか?」


「何を言ってるんですか? きちんと麻痺毒が効くか試しにですよ。効かなかったら意味がありませんからね」


 そこは効き過ぎたら危ないじゃないんだ……。店長のこういう基準だけはまだまだ私には理解できない。ネイアさん大丈夫だろうか?




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