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一級素材


 ハイロックリザードの素材売りが始まった。まずは討伐評価Aランクの私とジャネットさんからだ。最初の素材はメインとなる外皮だ。

 これはかなり貴重かつ有用で、高い刺突・斬撃防御と魔法耐性を併せ持つ超高級素材ということらしい。Bランク以上の冒険者以外で身につけるとなれば、貴族ぐらいとも言われている。


「ちなみにこれぐらいで金貨三十枚だぞ」


 ジュールさんが示したサイズは五十センチ四方よりやや大きいくらいだ。ハイロックリザードって十メートルはあったと思うけど……。


「ジャ、ジャネットさんはどうするんですか?」


「決まってるだろ?」


「そ、そうですよね。こんなに高い……」


「ジュールさん、二つ分ね」


「おお~、さすがジャネットだ!」


「い、いいんですか?」


「アスカ、考えても見なよ。次にこいつが現れてあたしたちが優先的に買える時が来ると思うかい? きっと次はAランクやもしかしたらSランクの冒険者がいて、そいつらが全部買っちまうかもしれないんだよ?」


 そっか、普通はAランクパーティー推奨だったよね。これはチャンスでもあるんだ。いくらあったかな?……何とか二枚分か。ど、どうしよう。こんなに高い買い物初めてだよ~。

 マジックバッグは生活にも使えるし、絶対に必要なものだったけど、これまで装備は初期のものだけだったから基準が分かんないよ~。


「アスカ。胸当ての更新なら一つ分。他にも軽いマントみたいなのや腕当て・ブーツとかならもう一つだよ」


「ジャネットさん、ありがとうございます!私……決心がつきました。二つください!」


「おお~! ってアスカちゃん買えるんだ……」


 何故だか私の時は盛り上がると言うより、みんなからため息が漏れた。もうそんなに素材が残ってないのかな? まだまだありそうだけど……。


「それじゃあ、次はB評価の連中だな。グラディスは?」


「俺の少ない冒険者人生で買ってったら、嫁にまたどやされちまうよ」


「そうか。なら次だな……」


 次々に人が指名されては買っていく。みんな、すごい目をしている。


「ん? 次はジェーンか。お前いるか?」


「皮はいらない。代わりに体の中に石がなかった?」


「石? おう、あったぞ!」


「それ……欲しい」


「そういや、調合ができるんだったな。なら、先にそっちを渡しとこう。確か胆石とかもあったな。まとめて金貨七枚だ。買い手も見つけるのが大変だからな」


「やった……!」


「イイナ……」


「ティ、ティタ。そんなにうらやましそうに見ないの」


 そういえば、ティタも石を食べるんだった。


「じゃあ、……いっこだけ」


「アリガト」


「ジェ、ジェーンさん! すみません」


「いい……この子のお陰でもあるから」


 ジェーンさんはそれだけ言うとすすーっと席に戻っていった。ありがとうございます。


「良かったね、ティタ」


「ウン」


 早速もらった石をかじるティタ。とっても美味しいみたいだけど、もうちょっと場所を選んでほしいかも。


「やっぱりティタちゃんかわいいわね~」


「ほんとね。ジェーン、やるわね」


「あっ、えっ……」


 ジェーンさんあまり人と話さないから、ちょっと困ってるみたい。だけど嬉しそうだ。私もティタが喜んでいる姿を見れて嬉しい。


「あ~続けるぞ。次、ユスティウス!」


「ファニー、何とかなりませんか?」


「ちゃんと後で返しなさいよ?」


「やったぞ!」


「何を言ってるか知らんが早くしろ!」


「は、はい。では、三枚で」


「す、すげぇ! あいつあんな大金持ってたのか?」


「頑張ったな。だが、大丈夫なのか資金は?」


「はい。土魔法使いとしてハイロックリザードのマントにあこがれていたんです。これで、もっと強くなりますよ」


 いや、それはどうなんだろう。だけど、きっと昔からあこがれていたものなんだろうな。それからもどんどん人が流れていく。だけど、やっぱりこの価格はネックなようで売れ残ってしまった。


「じゃあ、残りはギルドで買い取るからな。来月まではここに並べておく。ただし、それ以降は王都の冒険者たちが買い付けに来るだろうから諦めろよ!」


「買えた……」


「はぁ~、せっかくのチャンスが……」


「だけど、あの価格はうちじゃ無理だよ」


 冒険者たちの悲喜こもごもの声が響く。次は外皮の外側、私が作ったおこげの部分だ。


「こっちは正直、かなり傷みも大きい。さっきと同じ大きさで金貨四枚だ。肘当てや関節の守りぐらいなら最適だぞ!」


 こっちはお求め易い価格ということもあって、一気に人が集まった。ちなみにリュートもちょっと買っていたみたいだ。


「残りは……肉か。傷みがひどいというか、食えんのかこれ? 筋ばっかりだぞ」


「まあ、食べたという記念じゃな」


 見るからに筋肉質というか噛み切れるのかというような硬さに見える。しかし、私にはある思いがあった。


「それいくらですか?」


「一応、かたまりで銀貨五枚だ。話の種にはなるだろうが、食えるかもわからんからな」


「なら、五つください!」


 資金が心もとないけど、私の予想なら消費自体は大丈夫なはずだ。


「アスカちゃん、大丈夫? 歯が折れちゃうかもしれないわよ?」


「大丈夫です! 当てがありますから」


「う~ん。この値段なら俺も買おうかな……」


 みんな最初こそ渋っていたけど、私が買うと知ってからはちょっとずつ並び始めた。結局半分ぐらいは売れたみたいだ。残りに関しては後で交渉しようかな?


「アスカ、そんなの買って本当に大丈夫なのかい?」


「大丈夫ですって、ジャネットさん。この町には料理好きが私の知っているだけでも三人もいますから!」


 今回ばかりはお土産と言うより買い取ってもらうと思うけど、珍しさもあるしへ~きだよ。


「もう、終わりか? まだ何かあったと思うんだが……」


「何を言っとるマスター、牙があるだろ」


「おお! そうだったそうだった。剣というには少し短いかもしれんが、短剣には十分だぞ! 価格は……本数もあるし金貨十枚だな」


 そう言うと奥から牙が運ばれてくる。確かに少し短いけど、そのまま剣に加工できそうだ。見た感じ四十本以上はありそうだし、みんなに行き渡るかな?


「特にこれは傷もないし質もいいぞ」


「う~ん、牙かぁ。短剣は欲しいけど、使い道が採取とかだからな~」


「アスカは弓を使うんだろ? 弓の材料にも最適だぞ。何せ魔法のかかりもいいから魔法矢が打ちやすくなるし、先側を削れば刃物として接近戦で使えるようにもなる。こういうことが出来る弓は少ないからな」


「そ、そうなんですか……そう言われちゃうと。でもお金が」


「アスカ、パーティー資金が結構たまってたよね。使っちゃえばいいんじゃない?」


「リュート。だけど……」


「アスカ。さっきも言ったけど、滅多にないチャンスだよ。あの弓も悪くはないけど乗り換えるのも悪くないよ」


「う、う~ん……。じゃあ、そうしようかな」


 みんなが勧めてくれるんだしね。


「よし、それじゃあ、まず一本だな。こりゃ、鍛冶屋は明日から大忙しだな!」


「笑いごとじゃないぞ。ひっきりなしに依頼が来るだろうな」


「まあ、それは向こうに任せておくとするか。ほら続きだ」


「ファーガソン、いいわよね! こっちはきちんと実用性があるもの。趣味装備じゃないわよ!」


「う、まぁ。いい機会だと言えば仕方ないか」


「私のも趣味じゃ……」


「せめて防具にしなさいよ」


「いいや、マント以外ありえない!」


「ほらそこ! 買うならこっちにこいよ」


「は~い!」


 ファニーさんがノリノリで買いに行く。レンジャーって言ってたから短剣にするんだろうな。魔法も付与しやすいならぴったりだろう。


「……よ~し、大体終わったな。一応忠告しておいてやるが、手に入れた素材を適当なところに預けるなよ。こういう時こそ少し時間はかかってもいいところに渡すんだぞ!」


 最後にきっちり、ギルドマスターとしての助言をして終わろうとするジュールさんだったが、すぐにホルンさんに止められる。


「それと、今回の売り上げはギルド引き取りも含めて仮決定してるから、急ぎでお金が必要な人はこの後でカウンターまで来て手続きを済ませてね。最終結果との差額があっても渡せないけどね。それ以外の人は後日で構わないわ、以上!」


「「おおっ!」」


「「はい!」」


 みんなの返事とともに解散する。私たちも当初の予定通り、フィアルさんの店に向かう。思ったより時間がかかったので、今は十二時半ぐらいかな?


「あれ、アスカたちは帰らないの?」


「うん、これからフィアルさんの店でお昼なんだ。二人もどう?」


「あ~、俺は女将さんに昼用意してもらってっから」


「実は僕も仕事、中抜けさせてもらってるから急いで戻らないといけないんだ」


「そうなんだ。二人とも予定があるんじゃしょうがないね。それじゃあね!」


 ノヴァたちと別れて二人で店に向かう。


《チッ》


《チュン》


「こら、ライズのところに行くからってはしゃがないの!」


 もう、この二羽はすぐにパタパタ飛び回るんだから……って鳥なんだから当たり前か。そういえばミネルも巣の方にはしばらく帰っていないだろうし、今度行こうかな。


「ティタを紹介しないといけないしね」


 ムルムルも巫女の確認にこっちへ来るって書いてたし、一緒に行こうかな? 危ないって怒られそうだけどね。でも、話をしてみるのはいいかもしれない。同じ町に来ても毎回新しい発見はないだろうしね。


「アスカ、つっ立ってないでほら入るよ」


「あ、は~い」


 ジャネットさんに手を引いてもらって私は店に入っていった。



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