冒険者ギルドの新体制
昨日のパーティーは楽しかったな~。そう思って今日は朝からのんびりだらだらとしている。
「細工物の納期もなくなったし、今日はどうしようかな~」
時刻はすでに十時過ぎ。朝ご飯をゆっくり食べてベッドでごろごろしていた。
コンコン
「はぁ~い」
「アスカ、居るかい?」
「はい」
ジャネットさんが昨日に続いてなんて何だろう?
「なんですか?」
ドアを開けてジャネットさんを招き入れる。
「ああ。実はさ、昨日ジュールさんが言いそびれたことがあって、十一時頃から集まれないかってことなんだけど……」
「私は大丈夫ですよ。そうだ! ついでにフィアルさんの店で一緒にご飯食べませんか?」
「いいよ。それなら向かうとするか」
「でも、まだ早いんじゃないですか?」
「実は時間がうろ覚えでさ、多分十一時って言ってたと思うんだけど……」
「しょうがないですね。それじゃ行きましょうか!」
パッと着替えて、いざギルドに向かう。今日のところはご飯を食べに行くので、町行きの格好で向かう。
「そうそう、みんなも今日は一緒に行こうね~」
ミネルやレダにティタも加わってルームメイト総出だ。
「こんにちは~」
「あら、アスカちゃん。おはよう、悪いわね二度手間になっちゃって」
「いいえ。それでどんな話なんですか?」
「う~ん。ある意味ティタちゃんにも関係することかしらね」
「ティタに?」
「ええ。直接ってわけじゃないけど。それに話まで後三十分ぐらいあるんだけど、カードの更新でもする?」
「そうですね。ちょっと更新してみようかな?」
こうして暇な時間を使って私とジャネットさんはカードを更新した。
「ん? 何だいこれ?」
「あら、ジャネットさんは前回の戦いで何か掴んだみたいね」
「なんですか?」
気になってジャネットさんのスキル欄を見せてもらった。
スキル:剣術LV5、投擲LV3、調理LV1、格闘術LV4、解体LV1、指揮LV1
指揮ってスキルが増えてる。でも、初めてみるスキルだな。
「これって何かの役に立つのかい?」
「指揮は応用範囲の広いスキルね。パーティー単位から、傭兵団や軍まで効率的に動かすことが出来るようになるわ。補助スキルのようにも見えるけれど、実際は味方を効率的に動かすから攻撃的なスキルね」
「あんなに苦労したのに、格闘とかじゃなくてそっち系か」
「逆じゃないかしら? 危険な状況で周りの被害を抑えながら行動する必要があった結果じゃない?」
「まあ、あるに越したことはないってことかね。アスカの方は?」
「私ですか……特に何かあるとは思えないですけど」
名前:アスカ
年齢:13歳
職業:冒険者Cランク/魔物使い
HP:203
MP:680/680
腕力:67
体力:82
速さ:99
器用さ:230
魔力:215
運:69
スキル:魔力操作、火魔法LV4、風魔法LV4、薬学LV2、細工LV3、魔道具LV4、弓術LV3、特異調合LV1、魔力供与(魔物使い)、従魔化(魔物使い)
ステータスはわずかに速さが上がってるな。逃げ回ってたからだろうけど。後は……魔物使いになったから専用のスキルが付与されてるんだ。
「特に変わりはないですね。魔物使いの専用スキルが付いてるだけみたいです」
「ほんとだねぇ。あれだけ大活躍なのに能力がほとんど伸びてないなんて、ついてないね」
「まあ、何もなかっただけでも運がいいんですよきっと。あれから体調もいいですし」
「本人が納得してるならいいんだけどね」
「あっ、そう言えば今回の話し合いにはファニーさんたちも合流するんですって」
「じゃあ、向こうからは解放されたのかい?」
「そうらしいわ。まあ、あれだけの大群に逃げ方を選べなんて死ねと言ってるようなものだしね」
「でも、ギルドとしちゃあ話は聞いとかないとって感じかね」
「そこは私たちギルドが説明するのに、思いますじゃ通用しないですからね」
「みんな大変ですね。私もそういうの受けるんですか?」
「アスカの分はあたしが終わらせといたよ。ずっと一緒だったんだから二度手間だしね」
「ありがとうございます。きっと、緊張してうまく話せませんでした」
「おおっ、二人とも来てくれたか!?」
「来てくれたかじゃないよ全く……」
「すまんすまん。だが、今日の方がよかったんだ。昨日だと明日また呼び出すところだった」
「そう思えばましか。どうせ今日は飲んだ後だからろくに依頼を受ける奴はいないだろうしね」
「そうなのよね。頑張ってこっちも出勤してるのに全然来ないのよね」
ホルンさんたちは昨日も準備していたのに今日も朝から出て来てたんだ。お疲れ様。
「ギルドマスター、話は何時からなんだ?」
「ん? もうちょっとだけ待ってくれ。そろそろ始めようとは思うんだが……」
それから五分後、ファニーさんたちがやってきた。
「あ~、疲れた~。あっ! もうみんないるんだ。アスカちゃんも久し振りね。体は大丈夫?」
「はい。ファニーさんは元気でした?」
「身体は大丈夫だったんだけど、ちょっと疲れたわね」
「全くだ。こっちは心身ともに疲れていたのに、あれだけ拘束するなんて」
「ユスティウス、仕方ないさ。一応は聞き取りをしておかないと、ギルドとしての立場があるからな」
やっぱり、ユスティウスさんたちも結構お疲れの様子だ。
「よし、揃ったな。じゃあ、今から説明に移るぞ。まず話は二つある。一つはまあ、微妙なもの。もう一つはかなり嬉しいかもしれないものだ」
どっちもすごく気になる言い方だ。事実、他の人たちもすごく気になってるみたい。
「んじゃ、一つ目だな。まず今やってる巡回依頼だが、これまでは南側の依頼は北側より少なかった。何故だか分かるか?」
「ティタがいたからだろ?」
「そうだ。ティタがいたからサンドリザードの縄張りがアルバ側は狭く、レディト側に伸びていた。今後はこちら側にも伸びてくることが予想されている」
「でも、あいつらはこの前あらかた倒しただろ?」
「確かに今のあいつらは極端に数を減らしているだろう。しかしだ、このままこの町で暮らす人間からしたら、将来的には広がるのは確実だ。そこでだ、対サンドリザードの経験に長けたお前らと新人の冒険者を組ませて備えようという方針になった」
「そ、それって危なくないですか?」
思わず私は聞いてしまった。確かにノヴァとかリュートも戦えているけど、初めて会った時は私もかなり苦労した相手だし危険だと思ったのだ。
「アスカの言う通り危険なことではある。だが、今後再びハイロックリザードが出る可能性がある以上はしなければならん。他の種族と違ってサンドリザードは上位種がハイロックリザードだ。中間種に属するBランクの魔物がいない以上、まずはサンドリザード対策が万全であることが重要なんだ」
「確かに今回の戦いじゃ、普段はオーガとばかり戦ってる人は戸惑ってたわねぇ~」
「岩場なんて自分から行く場所だしな。交通路としては使われていないし……」
「そういうことだ。最大の脅威が奴らである以上、一定の期間が経ったら巡回の回数を増やしていく。もちろんそれに関してはきちんと報酬も出すし、指導役には別途報酬が出るようにする。今回の働きでギルドの存在は町の人にも領主軍にもかなり重要視された。それを忘れないで欲しい」
「まあ、依頼が増えることについては俺たちは構わないが……」
「これに伴って、少しギルドの拡張をすることになるだろう。これまでより高ランクの冒険者も来るようになる可能性がある。これが一つ目だ。続いてだが……先日倒したハイロックリザードの解体処理が終わった! クラウスが相当頑張ってくれた」
「うむ。あれだけの個体を解体するのは疲れたわ」
「「クラウスさん!」」
「ということで、参加した冒険者のうち高い評価のものから、ハイロックリザードの素材を買取する権利が与えられる。最終的に自分以外の買取にかかった金額を評価ごとに再分配するから、みんな楽しみにするように!」
「「おお~!」」
「「やったわ!」」
冒険者たちのテンションが一気に上がる。貴重な素材と、その売り上げがもらえるとあって喜び方がすごい。
「その前に! 今回の戦いでかなり貴重な道具を使ったものもいるだろう。一人金貨二枚まではここから支給するから申請するように! ただし、不正をしたものは……分かっているだろうな? 後、悪いが武器類は駄目だぞ。そっちは元の消耗度が分からんからな」
良かった、一部だけどポーション代金を貰えるんだ。私たちも結構使っちゃったから助かる。だけど、ノヴァを見ると一気にしょぼんとしてしまった。きっと、新しい剣がただで買えると思ったのだろう。
「でも、ハイロックリザードって丸焦げなんだろ?素材として大丈夫なのか?」
「ん? 中々いい質問じゃの。あいつの皮は硬すぎて加工が難しいのはもちろんだが、サンドリザードと違って凸凹部分以外のところも硬いのが特徴だ。要は凸凹した部分は落としても十分な硬さがある。だから、多少外皮が焦げていても問題はない」
「でも、そうなると安くはならないか……折角俺でも買えるかもと思ったのに」
「もちろん、品質は数段落ちるが切り落とした部分も加工して使えるぞ。それでもサンドリザードよりはるかにいい素材だ。魔法耐性もあるしな」
「す、すげぇ! そんないい素材が取れんのかよ……」
口々に冒険者たちが呟いている。私も驚いちゃった。だって、かなり燃やした記憶があったから。
「じゃあ、始めるぞ。ちなみに俺はさすがに貰わんぞ。Aランクとはいえ今回の戦いの功労者じゃないからな。というわけでまずはジャネットとアスカからだ」
こうして、のちにハイロックリザードの切り売り祭と呼ばれる冒険者ギルドの一大イベントが行われた。