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番外編 それぞれのナイトパーティー

 これはナイトパーティーを各人の目線で追ったお話です。



 ジャネット視点


「さて、あたしも個人で楽しむとするかね」


 アスカもあっちに取られたことだし、こっちはこっちで久しぶりに飲むとするか。


「それにしてもジャネットがもう、Bランクだなんてな。相当苦労したぞ俺は」


「ゾルマ、あんただって苦労したけど、あたしだって相当だったよ。剣を何本も買うのにいくら使ったか……」


「そういやそうだな。うちの奴らも必死にいい鍛冶屋を探してるよ」


「いいところ知ってるなら教えてくれよ。今回の戦いで剣がどうなってるか心配してるんだよ」


「ああ、何なら俺のところを教えてやろうか?」


 ドンッとエールを置いて席につくジュールさん。


「良いのかい、ジュールさん?」


「おう! 一緒に戦った身だし、それに俺も中々冒険者として活動できないから、向こうも稼ぎが少なくなっただろうからな!」


「そういうことかい。だけど、Aランクの紹介なら助かるよ」


「おっ、ジュールさんもジャネットもこっちか。ほらまずは飲めよ」


「グラディスさん、もう酔ってんのかい?」


「ああ! 今回は俺も胆が冷えたからな。飲まねえとやってけねぇよ」


「そんなこと言って、うまく指揮してたそうだな。今度どこかのギルドに推薦してやろうか?」


「やめてくれよジュールさん。そんなの面倒だぜ!」


 グイっとコップの中身を空けるとお代わりを頼みながら答えるグラディスさん。この人も結構ベテランで冒険者からの信頼もあるのにもったいないことだね。


「だが、酒代に困らない生活が送れるぐらいには報酬も出るぞ!」


「そのことなんだがよ。そろそろ、暴れるのもたいがいにしろと嫁がうるさくてな。酒ももうすぐ飲めなくなるかもしれねぇんだよ」


「なんだ、流石のベテランも嫁には勝てないってか? 大変だな」


「だが、あいつに逃げられちまったら俺は今度こそ山賊になっちまうからなぁ」


「おいおい、グラディスさん。怖いこと言わないでくれよ」


 元ベテラン冒険者の山賊ほど怖いものはない。こっちのセオリーを逆手に取ってくるからだ。


「でもよう、ジャネット。ほんとにあいつと出会う前の俺は乱暴者で通ってたんだ。パーティーだって組むのに四苦八苦しててよぅ……」


 その話は噂で聞いたことがあったけど、本当だったのかっていうか、この人絡み酒だったんだねぇ。今度からこういう席では近づかないようにしよう。その後もグダグダと二十分ほど話を続けられて去って行った。二度と来るなよ!


「折角の酒が……」


「まあまあ、そう言わずに。あいつも悪気があるわけじゃねえからな」


「クラウスさん」


 今回参戦したと聞いてとても驚いた。確かに雰囲気からも腕は立つと思っていたが、足をやられていると聞いていたからだ。これは戦場では致命的な弱点だ。


「こう、引退を考えるとな寂しくなっちまうもんなんだよ」


「あんたもそうだったのかい?」


「もちろんだ。まあ、わしの時は愚痴を言う相手も半分はもう墓の中だったがな!」


 わっはっはっと笑うクラウスさんだが、本当に冗談にならない。この人の場合は怪我の原因が平地じゃなくてダンジョンからの脱出だったから、死んだ仲間の墓といっても残り物の遺品をただ埋めただけのものだ。そうはなりたくないものだと思う。


「大活躍だったそうだなクラウス」


「まあ、最後にちょっと仕事をしただけだぞ?サンドリザードも一、二ぐらいだな」


「何言ってんですかクラウスさん。二十匹は倒してたでしょう?」


「それぐらい当たり前だ! わしのバスターハンマーは一撃必殺だ」


「よくあんなの持てますね。俺じゃ持つのが精一杯ですよ」


 クラウスさんの元には今回の戦いで活躍を目の当たりにした冒険者が集まってくる。確かに戦闘後ちらっと見ただけだったけど、あれはあたしには持てそうにない。つぶれたサンドリザードには思わず同情しちまうね。


「まあ、クラウスが俺と同世代だったら人気を二分してたかもな」


「ギルドマスターのハルバードとか? 光栄じゃな。だが、後衛が苦労しそうだの。防具代もばかにならないといって」


「そいつは違いねぇ。俺たちも受けてなんぼのところがあるからな」


「そう言う割にジュールさん。大きいのは一つももらってなかったよねぇ」


 ぐいっとエールを飲みながら話に加わる。


「まあな。当たるとやばいというのもあったが、受けられるから受けるというのも芸がない。それなら華麗に避けるのも上位者の見せ場だろ?」


「さすがはアルバのギルドマスターだぜ! そうでなくちゃな」


 ああ、こいつらもう出来上がってるね。向こうでまったりするか。そう思って席を立つジャネットだった。




 ノヴァ&リュート


「なあ、ほんとに俺たちも招待されてるんだろうな?」


「ちゃんと聞いたでしょ? 僕らだって頑張ったんだから間違いないよ」


 そんな会話を二人でしながらギルドへ入る。女将さんからは普段と違って遅れないようにと言われて、時間はまだ十七時四十分ぐらいだ。


「こ、こんにちは~」


「あら、ノヴァにリュート。早かったわね」


「はい。ちゃんとした場所では遅れないようにって大工の女将さんが」


「ああ、あの人なら言いそう。まだ準備の途中だからそっちに座ってて」


「なんだか、随分広く感じるな」


「カウンターも取っ払っちゃったからかしらね?」


 そういえばいつもとは違い、カウンターがないんだ。奥の方に積み上げられている。


「でも、分解なんてできたんですね」


「マスターのハルバードでサクッとね……ちょっと冗談よ」


「あはは」


 ホルンさんも冗談とか言ったりするんだ。普段アスカとしか喋っていないから新鮮だ。しばらく待っていると、アスカとジャネットさんも来た。だけど、その頃にはギルドも人だかりであっちには行けそうもない。


「どうしたんだ?」


「うん、アスカたちも来たって思って」


「今日はあの様子だとあんまり話は出来そうにないな。まあ、元々アスカが主役だって言ってたし、難しいんじゃねえの?」


「そうだよね」


 それからアスカの話を聞いてパーティーが始まった。ティタが生きていてよかった。僕らもティタに関しては物言わぬ岩になったところしか見ていなかったから、安心した。


「はぁい。二人ともこっちに来ない?」


「おい、向こうみたいなババ臭いところよりこっちにこいよ!」


「なんですって!」


「仲良くね……」


 そーっと二人で争いの中を進む。ちらっとアスカとジャネットさんの方を見ると、二人ともそれぞれの場所で楽しそうにしている。アスカはちょっと戸惑ってるみたいだけど。


「あら、ここに来たの?」


 動き回っていると、女性四人男性一人のテーブルに来ていた。団体向けの席だけど、どうやら男性は違うパーティーらしく委縮してしまっている。


「た、助かった。心細くてな……」


 そう言われては放っておけず、そのままノヴァと一緒にそのテーブルに着く。


「よく見たら、今回の功労者パーティーじゃない?頑張ったって聞いたわよ」


「おっ、そうか! ちなみに誰にだ?」


「ノヴァ、もうちょっと丁寧に……」


「いいわよ別に。冒険者同士だし」


「話が分かるぜ! で、誰だ?」


「ユスティウスよ」


「なんだぁ~、あの人かよ」


「失礼だよ。助けてもらっといて」


「そういやあいつらいねぇよな? どうしたんだ」


「あ~、ちょっとレディトのギルドに報告にね」


「報告?」


「今回の件に関して、初動が妥当だったかよ」


「妥当って言っても、三人じゃどうしようもないですよね?」


「まあ、そうなんだけどね。あの三人は今でこそ巡回依頼でこっちにいるけど、元々はレディト拠点なのよね。それも含めて、岩場からレディトではなく、アルバへ行ったことが正しかったかどうか説明しに行ってるの」


「でも、その……犠牲は少なかったんだろ?」


「それは結果論だ。俺もあの場にいたが、元々のアルバの戦力では足止めがせいぜいだっただろう。だが、レディトは王都に通じる拠点だ。Aランクの冒険者も何人かいる。ハイロックリザードと分かっていたなら、そっちに行くべきだという考えもあるからな」


「まあ、そんなこと言っても進行方向にいたんなら絶対無理だと思うけどね私は」


「たしかにそうよねぇ~。話に聞くと魔法も使うし、耐性防御も高かったんでしょ?」


「耐性は僕らでは正確に分かりませんけど、アスカの魔法にも耐えてましたね。土の魔法はこれぐらいでした」


 パッと手を広げて、ハイロックリザードが作り出した石柱を表現する。


「へぇ~、思ったより大きいわ。じゃあ、お礼にご褒美あげよっか?」


 そう言って席を近づけてくるお姉さん。ちょ、ちょっと近いかな……。


「はい!」


 そう言ってお姉さんが 僕のポケットに入れたのは銀貨だった。


「こういう場でもちゃんと情報は選ぶのよ? 別の町ならこの話で何食分かにはなるわよ。もちろん、町毎でね」


「ありがとうございます」


「ん~、この子見込み在るわね。唾つけとこうかしら」


「あなたねぇ。やめなさいよ、その子は予約済みなのよ」


「あぁ? あんた……」


「わっ、私じゃないわよ! ねぇ」


「えっ、ああ、いや~」


 視線を泳がして追及を避ける。


「残念だわ」


「まあ、面倒ごとにはならないようにね。特に旅先での浮気とパーティー内でのことは危ないわよ」


「あんたの実体験なの?」


「もちろんよ。ああ~、思い出しただけでも腹が立つわ!」


「それでお前戻って来たのか。道理で一人だと……」


「あんだって~」


「よしなさい。こんなところで」


「はいはい。そう言うことだからあなたも気を付けるのよ。ちょっとキレイなお姉さんを見つけたからって、非番の日にまで冒険に出て、怪我して帰ってきちゃだめよ」


「えらく具体的っていうか、パーティーとして最低ね」


「せめて、了解ぐらい取ってくれたら私だって、私だってね……」


「ああ~、はいはい。ほら、パスするわ」


「お、俺にか?」


「あんたたち幼馴染なんでしょ。頼んだわよ。こっちはまだまだ食べたりないし飲み足りないの」


 そう言われ、最初にいた男の人と女の人が席を離れていく。一瞬、女の人の目がギラリとした気がしたけど、気のせいだろう。


「なんだか俺、急に寒気が」


「ノヴァも? 実は僕もなんだ」


「あら、あなたたち勘は悪くないみたいね。きちんとその感覚は大事にしなさいよ」


「そうねぇ~、あの子も勝負に出ちゃったしこれは決まりね」


「「あはは」」


 僕らはそろってそれしか言えなかった。どこまで演技だったんだろうか? そうこうしているうちにアスカはもう帰るみたいだ。ジャネットさんと帰るのかと思っていると、どうやら一人みたい。

 声を掛けようかとも思ったけど、ここを離れるのも中々難しそうだったので、そのまま話を続ける。気になることもあるけど今度聞けばいいんだから。



 こうしてパーティーの時間は過ぎていった。



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