ナイトパーティー
パーティーが始まる前に色々と片付けたい私は、すぐに行動に取り掛かる。
「まずは冬物だけど、上下一着ずつとコート一着を除いてしまってと」
一応まだ冷え込む日があるから、一着だけは残しておく。
「後は……秋物は完全にしまっちゃっていいから、代わりに今買ったばかりの春物を入れて。折角だから夏物をちょっと確認しておこう!」
冬前にしまった夏物の洋服を取り出して状態を確認する。うん! 特に変な臭いもしないし大丈夫だ。
「それじゃあ、後は今日着ていく服だね。ちょっと黒っぽい上着に下はグリーンでいいかな? それとティタを紹介しないとみんなも気になってるだろうし……。となると前に腕につけてたみたいな物をした方がいいよね。リボンはさすがにないか……。後あるのはハンカチか~。今の体は黒っぽいからそれに合う色にしないとね」
ちょっと悩んだけど黄色のハンカチを割くと長さを調節して、ティタの腕に巻いてあげる。
「うん! これでみんなにも紹介しやすいかな? ティタも冒険者のみんなに会いたいでしょ?」
「ウン」
半年ちょっとだけど、かわいがってもらったもんね。まあ、人によってはお世話してもらった人もいるだろうけど。残りの時間を使って、本を陰干ししておく。基本的に机にしまっているけど、こうしてたまには外に出してあげないとね。
「そう言えば、この細工の本も最近は開いてないなぁ~。最初の頃はこれを開いたままちょっとずつ作業してたのが何だか懐かしく感じるよ」
今は真新しい素材もないので、通常の道具でも魔道具でもこの本を開くことはなくなってしまった。基礎が書いてあるだけなので、すでに私の頭の中に入ってしまっているからだ。
最初の頃に買った本でまだ開くことがあるのは北部の花が載っていた本ぐらいかな?
「後は……読み物の方はたまに読み返すぐらいだね。やっぱり図書館欲しいなぁ……作れないかな?でも、難しいよね。だって、本が高いんだもん」
娯楽用だろうと学術書だろうと最低でも銀貨一枚ぐらいするのが当たり前だ。鳥の巣換算なら五泊分にもなる。売るだけでも生活が成り立つぐらい高価なんだから、管理が大変だよね。
司書さんは本の管理だけじゃなくて、窃盗防止の力がいるから、最低でもCランクの冒険者ランクが要りそうだ。
「こういうところは前世がとっても恵まれた環境だったんだなって改めて思うよ。王都にすらないなんてね」
王立図書館はあるものの、王城併設で一般人は建物を見ることも出来ない。もし、どこかで住むことになって時間が出来たら、そういうことも考えたら面白いかもしれない。何せこの世界には魔法があるのだ。魔道具を作ってしまえばどうにかできるかもしれない。そんなことを考えていると、ドアがノックされた。
「は~い!」
「アスカ、準備できてるかい?」
「あ、はい。今行きます」
服は着替えているので、マジックバッグとティタをバッグに入れて私は部屋を出る。
《チッ》
「ごめんね。ミネルたちはお留守番してて。お酒とかも入るだろうし危ないからね」
たまにだけど、宿でもお酒のトラブルが発生するし、今日集まるのは冒険者だから荒っぽくなると危ないからね。
「代わりにお土産持って帰るからね」
そう伝えると納得したのか、ミネルたちは大人しく巣箱に戻っていった。
「準備は大丈夫みたいだね?」
「はい!」
「それじゃ、出発するよ」
私はジャネットさんの後を付いて行き、ギルドに向かう。途中で他の人とも出会って、結局ギルドには六人ぐらいで入った。
「こんばんは~」
「アスカちゃんいらっしゃい!」
「ホルンさん! どうしたんですか今日は。そんな格好で?」
ホルンさんの今の姿はギルド制服にエプロン姿だ。
「今日のパーティーはギルドを使うんだけど、酒場のマスターだけじゃ大変でしょう? 私もヘルプで入るのよ」
「ちなみに私も入ってるのよアスカちゃん」
あっ、ライラさんだ。ホルンさんが休みの日しか受付に行かないから、あまり話をする機会はないんだけどとっても優しいお姉さんなんだよね。
「もうちょっとだけ待っててね。人が揃っていないのと、料理がまだなのよ」
「そう言えば、ここの厨房って狭かったですけど、大丈夫なんですか?」
確か、エールを出す以外は軽食しかなかったと思ったけど……。
「それは大丈夫よ。何せ……」
「ごめんくださ~い」
「あ、フィアルさんのところのお姉さん!」
「あら、アスカちゃん。昨日ぶりね。今日はうちの料理を振舞うのよ。ゆっくり食べていってね」
「そうだったんですね。じゃあ、フィアルさんは?」
「残念ながら厨房で料理を作り続けてるから不参加ね。でも、功労者のアスカちゃんがいれば頑張って作ると思うわよ」
「そんな……」
「じゃあ、私は料理を運ぶからまたね。ホルンさん、これはどこに運べばいいですか?」
「これはこの丸テーブルにお願い。後そっちのはここの大きいところにね。残りは?」
「順次作ってるので、始めてもらって構いません。そこそこのペースで作ってるはずなので」
「分かったわ。でも、ありがとう。割引いてもらって……」
「いいえ。町のために戦ってくれたわけですし、こちらも大量仕入れで安くなってますから!」
「今度また個人的にお邪魔させてもらうわね」
「ありがとうございます。それじゃあ、一度店に戻ります」
料理を運び終えると、お姉さんは再び店に戻っていった。辺りを見回すと、結構人が集まっている。ひぃふぅみぃ、すでに五十人以上来ているようだ。
奥にはノヴァとリュートがいるのも見える。というか、ギルドってこの人数が入るんだ。よく見ると受付カウンターも奥にやられているし、頑張って拡張したみたいだ。
「ん、大体揃ったか。後は順次来るだろうからそろそろ始めるか。みんな腹も減ってるだろうからな」
「さすが、ギルドマスターは話が分かるぜ!」
「というか、主役が来たからだがな。主役を待たせるわけにはいかんだろう?」
「そうですね」
「それじゃあ、今日はハイロックリザード討伐緊急依頼終了パーティーだ! 楽しくやろうぜ!」
「「おお~!」」
すごい熱気とテンションでパーティーが始まるかと思いきや、まだみんな動かない。
「と、言いたいところなんだが、今日はまず最大の功労者に言葉をもらおうじゃないか。アスカ、こっちにこい!」
「えっ!」
私、何にも聞いてないんだけど……。
「アスカ、ほら」
ジャネットさんにも促されてみんなの前に出る。でも、何を言えばいいんだろう?
「あ、あの、えっと、アスカです。み、みなさんお疲れ様です。今日は~……」
こ、言葉が出てこないどうしよう。その時ガサゴソとバッグが動く。そうだ!
「あの! 今日はちょっと見てもらいたいものというか人というかがあって……」
「アスカちゃん頑張って!」
冒険者のお姉さんに励まされて、言葉を続ける。
「この子がティタです! だ、大分小さくなりましたけど、またよろしくお願いします!」
そう言ってティタをかかげてみんなの前に突き出す。
「あれがティタ?」
「色も違うぞ?」
「でも、ちっちゃくてかわいい」
「あんなゴーレムなら私も欲しい~」
「だけど、お前じゃ倒せないだろ?」
みんな色々な疑問があるみたいだけど、好意的に受け取ってもらえているようだ。
「あ~、色々聞きたいことはあると思うが多分アイアンゴーレムだと思う。アスカの言う通り、今後もよろしくな」
ジュールさんのフォローでみんなも納得してくれたようだ。
「というわけで、これからもよろしく願いします。それじゃ、パーティー楽しんでいってください!」
「「おおっ!」」
「「は~い」」
恥ずかしいけど、私の言葉を皮切りにパーティーが始まった。
「よう、アスカ! 中々の主役ぶりだったよ!」
「ジャネットさん! 何で私だけなんですか?」
「そりゃあ、あたしは同じ評価でも特に働きとしては大きくないわけだし、何よりルーキーが大活躍したって方がみんなもテンション上がるだろ?」
「そんな理由で……せめて教えてくださいよ!」
「あのなぁ、そんな優等生が考えてきましたなんて言葉を聞いたら盛り上がれないだろ? ルーキーがしどろもどろになってる姿を肴に一杯やるのがいいんだよ。それにこっちの方が印象に残るだろ?」
そっか、今日は弔いの意味もあるんだよね……。
「って、さすがに騙されませんよ! 面白がってるだけじゃないですか!」
「あら、アスカちゃん。いつものようにジャネットさんとばかり話してないで、こっちで話しましょう?」
「あ、えっと……」
「私はハミルよ。Cランクになって長いから何かあったら頼ってね」
「おっ、ランクアップできない言い訳としては素晴らしいな。あっ、私はゾルマだ。Bランクの魔法使いだ」
「はぁ!? あなたいつの間にBランクへ……」
「こう見えても、日々の研鑽は欠かさないのでね」
「良く言うね。あんた、Bランクになったのはつい一か月前だろ?」
「それでもお前より早いぞジャネット」
「歳はあんたの方が上だけどね」
「ほら、アスカちゃん。彼らはほっといてこっちに来て。みんな待ってるのよ」
「みんな?」
奥のテーブルに行くと女性冒険者が五人ほど集まっている。見かけたことのある人もいるし、初めての人もいる。
「あなたがアスカね。私は普段レディトと王都を往復しているんだけど、ジャネットがとうとう一匹狼をやめたって聞いて見てみたかったの。今回は大活躍だったそうね」
「あはは、ま、まあ……」
「そうそう、すごいのよ! 私だってあんな大きい火柱あげられないもの!」
しまった、仕方ないとはいえ魔力全開で魔法を使ってたな。
「ハミルが言うんだから相当だよね。あんたの魔力で200ぐらいだっけ?」
「もうちょっと高いけどね。それでも、魔法使いだから補正もかかって結構高いはずなのよ。それを魔物使いのアスカちゃんに威力で抜かれちゃうんだからね」
「たまたま、そう! 魔法の威力自体が高かったんですよ。上級魔法ですし!」
「あら、アスカちゃんってもうそんな魔法にまで手を出してるの? 私が上級魔法書を買ったのはいつだったかしら?」
「それなら私は覚えてるわよ。だって、散々自慢してきたもの。二十二歳の誕生日よ」
「ちょっと、歳を言わないでよね。そっか、あの時ね。じゃあ本当に早いのね。これからも頑張ってね」
「はい」
すごい。みんなの勢いに押されっぱなしだ。というかみんな傍らにはエールを握ってるし、もうお酒が入っちゃってるのか。
「あっ、そうだった! ティタちゃんをちょっと見せてもらってもいい? さっきから気になってたの」
「ずるい! 私も」
「順番よ。こういうのは早い者勝ちなんだから」
いや、そこはティタの意志の範囲でお願いします。ティタもこれまでは身体が大きかったから、ちょっと寄りかかられたり遠目に見られるだけだったのが、直接触られることになって戸惑ってるみたいだ。
「ティタ……しゃべっちゃだめだよ」
小声で私はそう言うとティタをテーブルに乗せる。
「ウ……ン」
「ん? 今ティタちゃん喋った?」
わわっ、まさか返事しちゃうなんて! 先に言っておけばよかった。そーっと私はお姉さんたちの方を向いた。




