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行脚


 ギルドを出た私はジャネットさんの言葉通り、心配をかけたみんなに無事を知らせるため、出かけることにした。


「こういうのをお礼参りって言うんだっけ?」


 ※お礼参りとは神社仏閣に願掛けをして、叶った時に再び感謝を込め礼拝することです。


 まずは、おばあちゃんのところかな? 最近は行くことも少なかったし、ちょうどいいや。


「こんにちは~」


「おや、アスカ。無事だったのかい? 変な噂も流れてるしあたしはてっきり……」


「どんな噂ですか! もう……」


「ほっほっ、ところで今日はどんな用だい?」


「元気な姿を見せようと思ったのと、最近あまり来れなかったので何かないかなって」


「ふむ……。本といってもアスカ向けで知識系のはないねぇ。読み物だったらあるけどね」


「ぜひください! 冬は明けましたけど、まだ肌寒くてベッドで時間を過ごせるものが欲しいんです」


「はいはい。ならこれかね」


「これは……女神と魔王?」


「ああ、おとぎ話とは違って色々考察も入ってる、大人向けの絵本みたいな感じかね?」


「へぇ~、そんなものまであるんですね。あっ、絵本っていうか挿絵に文章が載ってるんですね。ここにきて新しいタイプの本ですね」


「だろう? あんまり売りたくなかったんだがね」


「どうしてですか?」


「こういう変わった本が一冊でもあると、客の食いつきがいいんだよ。品揃えがいい本屋だってね」


「なるほど! ディスプレイ用かぁ~。さっすがおばあちゃん! 色々考えてるんだ」


「まあね。それじゃ、銀貨五枚だよ。古い本だから丁寧に扱っておくれよ」


「はい!」


 おばあちゃんに改めて挨拶をして店を出る。続いてはおじさんのお店だ。


「こんにちは~」


「お、おお! アスカか!」


 ガタンと椅子から飛び退きすぐにおじさんはこっちに来た。


「無事だったか! いや~、冒険者どもが色々言うもんでな。心配したぞ」


「すみません」


「いや、無事ならいい。今月の納期も構わないからゆっくり休め」


「でも……」


「こういう時にゆっくりするんだ」


「はい。ありがとうおじさん!」


「うむ。おお、そうだ! この前の対になってる魔道具は売れたぞ。旅の商人が買っていった。面白そうだと言っていたから、来月も似たようなのを作ってくれ!」


「は~い」


 デザインについては指定はないとのことだったので、また帝国の植物図鑑を広げて選ぼう。さて、続いてはベルネスの前に……。


「そう言えばティタはライズに会ったことなかったね。先に会いに行こっか」


「ライズ?」


「ヴェゼルスシープの子どもだよ。ふわっふわでかわいいの!」


「イク……」


「こんにちわ~、ライズ居ますか?」


「あら、アスカちゃん! 元気になったのね。ちょっと待って、店長を呼んでくるから」


 お姉さんはそう言うと素早く厨房に入って、フィアルさんを呼んで来る。


「アスカ! どこにも異常はありませんか? ジャネットから無事だとは聞いていますが……」


「どこも異常ありません。調子もいいです!」


「良かった……。あの後、倒れてしまうから心配しましたよ」


「ご迷惑をおかけしました。でも、もう大丈夫です」


「そうみたいですね。ライズはいつものように裏にいますから」


 裏に行くと、店員さんのひとりがライズと遊んでいた。


「あら、今日はアスカちゃんが来たのね。残念、ライズちゃんまたね~」


 ライズは珍しい魔物ということもあって、どうやら店の人が交代で見守っているらしい。それにふわっふわな毛とつぶらな瞳で大人気のようだ。


「ほら、ティタ。この子がライズだよ。ライズも初めましてだね、こっちはゴーレムのティタって言うんだよ」


「ワタシ……ティタ。9\Dh」


 うん? さっき、ティタの使ったのが魔物言語かな? 残念ながら私にはうまく聞き取れないみたいだ。多分ティタのことだからよろしくとかなんだろうけどね。


《ミェ~》


 ライズもそれに応えるように鳴く。それを合図にティタがドスンと地面に降りると、ライズと遊び始めた。ひとしきり遊んだ後は、ティタもライズの毛にもたれかかってくつろいでいるんだけど、ライズはちょっと大変そう。まあ、ああ見えてもティタは重いからね。


「ああ、それにしても子羊にゴーレムの組み合わせって癒される~。ここにミネルたちもいれば完璧なのにね~」


 特にこう飛びこんでくるような感じで!


「うんうん、分かるわぁ~」


「わっ、お姉さん!」


「ふふっ、驚かせちゃった? アスカちゃんがあまりにかわいいから声をかけそびれちゃった。店長がデザートを作ったからどう?」


「ありがとうございます。でも、あの子たちが……」


「うへへ、大丈夫! 私が見てるから……」


「そ、そうですか……じゃあ、お言葉に甘えて」


 何だかちょっと怪しい笑みだったけどせっかくのフィアルさんの好意だし、むげには出来ないもんね。それにデザートだって楽しみだし。


「アスカちゃん、はい。それにしてもデザートだけだなんて珍しい注文ね」


「えっ、あっ、はい」


「店長も張り切って作ってたからね。こっちはスプーンで、こっちは崩れやすいからフォークで力を抜いて取ってね」


「ありがとうございます」


 いつものお姉さんが変なこと言ってたけど、それよりも今はデザートだ! 甘味の少ないこの世界での至福の時間だぁ~。


「うへへ……」


 こうしてデザートを見るまに平らげた私は、ティタを迎えに行って大満足でフィアルさんの店を後にした。


「ティタも気に入ってもらえてよかったね。店のお姉さんもすごく残念そうだったし」


「ウン、ネイア……ヤサシ」


 へぇ~、あの女の店員さんってネイアさんって言うんだ。たまにしか出会わないけど覚えとかなきゃ。さあ、次はベルネスだ。ついでに春物もそろえておきたいな。


「お邪魔しま~す」


「あら、アスカちゃん。こんにちは、久しぶりね」


「はい。冬はあまりお外に出なかったからコートの材料買って以来ですね」


「そんなに経ったかしら? そう言えばちょっと前に緊急避難があったんだけど、きちんと避難できた? 驚いたでしょう」


「あ、あ~、そうですね」


 お姉さんは私が戦ってたこと知らないのかな?


「そういえばアスカちゃんも、冒険者だったわね。ひょっとして誘導役で駆り出されたりしたの?」


「あはは、まあそんな感じですね~」


「大変よねぇ~。いくら低ランクの人でも、もしかしたら魔物が来るかもしれないのに、最後まで避難できないなんて」


「そうですね。でも、自分の身ぐらいは守れますから」


「えらいわねぇ~、そうだ! 今日は何を見に来たの?」


「あっと、石けんの補充と春物を見に来たんです」


「春物ね。そこのエリアになるわ。ちょっと糸が値下がりしたみたいで、今年の春物は安いわよ」


「じゃあ、ちょっと良いのを買っちゃおうかな?」


 どうせ春物はまだ持ってないしね。


「じゃあ、そういうのはカウンター側に多いから、そっちを中心に見ていってね」


「は~い!」


 しばらく、お姉さんの案内通りに服を見ていく。ここはやっぱり、クリーム色とか桜色の服にしようかな? っていってもこの世界じゃ桜色なんて通じないだろうけど。私はその後もじっくり選んで、カーディガンを二着。五分袖ぐらいのを三着。そして、スカートを二着に動きやすそうなパンツを二着買った。


「はい。銀貨九枚と大銅貨三枚ね」


「カードでお願いします」


「では、お預かりします」


 袋にいつものように服を入れてもらって受け取る。


「そう言えばアスカちゃんって宿に泊まってるのよね?」


「そうですけど……」


「これまで買った服とかはどうしてるの? さすがにそこまで服は置いておけないでしょう?」


「季節ごとに箱に詰めてマジックバッグに入れてるんですよ」


「へぇ~、便利そうね」


「実際、便利ですよ。簡単に取り出せますし」


「でも、あれって高いのよね。私じゃ無理だわ」


「確かに、小さいので金貨十枚だから部屋に余裕があれば、その方がいいと思います」


「そうよね。引き留めちゃってごめんなさい。それじゃあね」


「はい。また来ますね」


 ……大体、主要なところは回ったかな? それじゃあ、パーティーの時間までゆっくり宿でくつろぐとしよう。


「買ったものも整理して、服の入れ替えも行わないとね!」


 さすがに今日のパーティーには着ていかないけど。ジュールさんがギルドって言ってたし、早々に汚れるのだけは嫌だ。


「ただいま~」


「おかえり、おねえちゃん。あっ、ちょうどよかった。今ジャネットさんがお昼食べてるんだけど、用事だって」


「なんだろう? ありがとうエレンちゃん」


「どういたしまして!」


 エレンちゃんに言われた通り、奥でご飯を食べているジャネットさんに話しかける。


「ジャネットさん、こんにちは。用事って何ですか?」


「ああ、今日のパーティーだけどあたしが部屋に迎えに行くから、時間は気にしなくていいよってのと、分かってると思うけど冒険者同士の飲み会だから、汚れてもいい服にしときなってだけだよ」


「そのことだったんですね。わざわざありがとうございます」


「その様子だと、街に行ってきたんだろう?」


「はい。みなさんに心配かけたみたいで……」


「ま、これに懲りたら無茶はしないことだね。にしても、えらい荷物だね」


「私、服も着の身着のままで村から出てきたんで、今は季節ごとに全部買わないといけないんです。まあ、これで一通り買い終わりましたから、今後はちょっと節約できると思いますけどね」


「そういや、初めて部屋に行った時もスカスカだったねぇ」


「ジャネットさんこそどうしてるんですか?」


「基本は夏と冬用のみだね。それを着倒してる」


「えっ!? てっきり私と同じようにマジックバッグに入れているんだと……」


「まあ、ちょっとは入ってるけど、アスカみたいに街行きの服なんて買わないからね」


「だ、駄目ですよ! 折角、綺麗なのにそんなんじゃ。今度、洋服入れを作りますから、出来たら一緒に買いに行きましょう!」


「お、おう……」


「約束ですからね!」


 それだけ言うと私は部屋に戻っていく。ジャネットさんに約束を取り付ける時は、こうやって逃げるのがいいのだ。あんないい加減な約束でも、きちんと守ってくれるからね。


「ミネル、レダ、ただいま~」


《チッ》


《チュン》


 最近お出かけばかりしていたので、お留守番だった二羽に声をかけて部屋に入る。今は……十五時ぐらいか。パーティーまで三時間ぐらいはありそうだし、その間に色々済ませなきゃ。





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― 新着の感想 ―
確かに書籍版のイラストを見てもジャネットは綺麗系お姉さんなんだから、妹分のアスカからしたらもっとお洒落してもらいたいよね。 まぁ故郷を出てからずっと冒険者として男中心のコミュニティで生きて来たジャネ…
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