新生、アスカ?
とりあえず、ジャネットさんに言われるままお風呂を堪能した私は、着替えて部屋に戻る。上がる時はライギルさんやエステルさんもこっちを見てきて一体全体どうしたんだろう?
「ただいま戻りました~」
「おっ、ちょっとは落ち着いたかい?」
「はい……」
「じゃあ、簡単に説明するよ。まず今はあれから丸二日経ってる」
「ふ、二日!?」
「そう。その間も高熱があったりして、宿のみんなどころか冒険者も街のみんなも心配してたよ。明日でいいから顔を見せに行きなよ」
「は、はい……」
それでみんなあんなにこっちを見てたんだ。それにしても二日も経ってたんだね。そりゃ心配されるわけだよ。
「んで、今回の緊急依頼の結果だけど、死者六名・重傷者七名・軽傷者三名だ。アスカはあの後、倒れたから知らないけど、ジュールさんがしきりに感謝するってお礼を言いに来てたよ。明日にでも行ってきな」
「はい。でも、そんなに被害が……」
「アスカから見るとそうかもしれないけど、これでもハイロックリザードがこのレベルの町に現れたにしては少ない方だよ。町を壊されるのも当たり前、死者だって二桁、三桁でも何らおかしくない状況で、水際で止められたんだから。ゴブリンキングと違って制圧型だしね」
「制圧型?」
「ああ。ゴブリンキングは村を作って、ちょくちょく手下を送ってくる住居型って言われるのに対して、ハイロックリザードは巣から出て来ては、近くの町を壊滅させるため大群を率いる制圧型と呼ばれるカテゴリだ。こっちの方が被害も段違いだ。なんせ、全戦力を一気に投入してくるからね。それに、準備をしてこっちが向かう前に今回みたいに襲ってくる場合もある。記録だと町の半分を廃墟にしたこともあるんだよ」
「だけど、もうちょっと早く対処を私が思いついていれば……」
「アスカ。人には出来ることと出来ないことがある。あんたの魔法でもハイロックリザードは倒せなかった。あたしの剣では外皮にまともに刺さらなかった。最後はジュールさんのハルバードでとどめをさせたけど、それだって仲間がいたからだ。あの状態であんたが先に作戦を思いついていても、どうやってあれだけの魔法使いを連れてくるんだい? まさか、他の奴らにその間死んでも死守しろとでも?」
「そんなことは……」
「でも、結局は同じことだよ。あの作戦もみんながサンドリザードを倒してくれたおかげで、人を集めることが出来たんだ。あっちだってぎりぎりの戦いだったんだよ。起きたことについて過剰に考えるのはやめな」
「だけど、あれだけ頑張ってもみんなは……ティタは……」
「ん? なんだい、お前まだ自己紹介してなかったのか?」
ジャネットさんが視線を下に落としている。よく見るとジャネットさんの膝に何かいるみたいだ。
「ア……スカ」
「な、なに?」
どこかで見たことがある……色は違うけど、この形……。
「ティタ?」
「ティタ……アスカ……チイサナタ」
「しゃ、喋ってる~。ティタなんだね! それに喋れたなんても~。どうして今までお話ししなかったの?」
ばっとジャネットさんの膝から取り上げて、ティタを抱きしめる。
「アスカ……クルシイ」
「ご、ごめんごめん。でも、ちっちゃくなったね」
「本来、ゴーレムの核は傷付いたら崩壊していくんだけど、誰かさんが魔力を送り続けたおかげか、核そのものがゴーレムになったんだ。まあ、こんなに小さくなっちまったけど」
今のティタは二十センチぐらいの手乗りゴーレムだ。うわ~、かわいいなぁ。
「手乗りティタ~。って、ちょっと重い……」
「そりゃ小さくなってもゴーレムだからね」
「だけど、どうしてティタは喋れるようになったんですか?」
「さあね。だけど、魔物使いの中には魔物とかなり意思疎通ができる奴もいるみたいだから、その力なのかもね。アスカは元々ティタと仲が良かったし、ティタの魔力構成は見た感じ半分以上アスカのものだしね」
「そうなんだ~。小さくなってもすごいんだね、ティタ」
《チッ》
ミネルたちもティタに続いて私の手に乗ってくる。三体揃った細工物を作ってたけど、図らずもリアルに同じ構図ができるようになってしまった。
「ああ、それとアスカ。職業のことはどうする? 多分ティタはこのまま放っておいても大丈夫だと思うけど……」
「う~ん。確かにこれだけかわいいティタなら大丈夫だと思いますけど、心配ですしもう一度大きくなるまでは私が面倒見ます」
「なら、魔物使い決定かぁ。先に言っておかないとね……」
「ジャネットさん?」
「ああ、こっちの話。今日はまだ身体もしんどいだろうから、ゆっくり休みな。それじゃあね」
「はい。色々ありがとうございました」
ジャネットさんにお礼を言って別れた。その後は早速話せるようになったティタに色々聞いた。
「へぇ~。それじゃあ、ティタも異国生まれなんだね」
「ソウ、ティタ、ウミ……ワタタ」
「いくつくらいかわかる?」
「ウムム……ソウ、ウマレトキ……ガザルアタ」
「ガザル? ガザル帝国かな?」
ちょうど、今読んでいる続・王国史に出てくる帝国だ。海を隔ててはいるものの、何度も王国と戦争を行った国だ。結局は海を渡るということが戦費の拡大をもたらし、内乱の末滅んだって書いてあったな。あの国の成立年は……三百年前で滅んだのが百八十年ほど前。
「ティ、ティタって結構長生きなんだね。ティタさんって呼んだ方がいい?」
「ティタ……イイ」
「そ、そうだよね。何言ってんだろ私。これからもよろしくねティタ!」
「ヨロシク」
でも、こうして考えると魔物ってかなり長寿なんだね。もちろん個体差とか種族差はあるだろうけど。中には創世期からいる魔物もいたりしてね。
「そう考えるとティタはロマンの塊だなぁ~」
「ロマン?」
「そうだよ~」
ティタが生きていたことが嬉しくてその日は抱いて眠った。さすがにごつごつしているし、次の日からは机の上で寝てもらうようにしたけどね。日本庭園じゃないけど、ティタの寝床も考えてあげないとね。
「そうだ! 二日間も眠ってたんだし、アラシェル様にお詫びと祈りをと……」
今週はお祈り強化週間にしよう。出来なかった分も含めてね。
ドンッ
「うぐっ」
ちょっとお腹に衝撃が走る。な、なに!?
「アスカ……」
「ああ、ティタだったんだね。起こしてくれてありがとう!」
もうちょっと優しく起こして欲しかったけどね。身体も硬いゴーレム種だから挨拶程度の感覚なのかも。
「それじゃあ、私はご飯食べるけどみんなも来る?」
《チュン》
いい返事だ。だけど、ティタの食事は普通のじゃ駄目だよね。そうだ! 小さい魔石があったはず。ひとまず今日のところはそれをあげてみよう。そうと決まればマジックバッグを持って食堂に向かう。
「おはようございます」
「おはようアスカちゃん。本当にもう大丈夫なの?ジャネットからは大丈夫って聞いたけど……」
「はい! 心配をおかけしました」
「ほんとだよおねえちゃん! わたしも心配したんだからね。エステルさんも、お父さんも……」
「ありがとう、エレンちゃん」
「もう、次からは危ないことは禁止! 約束だよ」
「は~い」
「もう、わかってるのかなぁ……」
ちょっとだけ怒りながらもエレンちゃんは食事を取りに厨房へ行ってくれる。
「ごめんなさいね。でも、本当にあの子ったらつきっきりで看病するって言いだして。ジャネットさんのお陰で引き下がったけど……」
「そう言えば、ジャネットさんってずっといたんですか?」
「そうね。離れたのは食事とお風呂ぐらいかしら……」
そんなに私、迷惑かけてたんだ。エレンちゃんの言う通りあんな無茶はしないように気を付けないと。今回はティタを救うために仕方なかったけどね。
「その子がティタちゃんなの?かわいいわね」
そーっとミーシャさんがティタに触れる。触り方も恐る恐るというよりは触っていいって感じだ。ティタも冒険者で慣れているのか、特に嫌な感じではなさそうだ。
「あら、本当に冷たいのね。触っていて気持ちいいわ。何を食べるのかしら?」
「魔力の宿った石とか魔石ですね。あげてみます?」
「いいの?」
という割には手を差し出しているミーシャさん。すごく興味津々の様子だ。
「私はミーシャというの。はい、どうぞ」
「ミーシャ……」
そっと、ミーシャさんから魔石を受け取ったティタはそのまま小さな口へと運ぶ。ん~、口もかなり小さくなったから魔石なんかは割る必要があるかもね。
コリゴリ
ミーシャさんから手渡された魔石をさらに割って食べるティタ。
「かわいいわね」
「どこにも売ってませんよ?」
「何でそれを……いえ、機会があれば私もご飯をあげてもいいかしら?」
「大丈夫ですけど」
「じゃあ、決まりね!」
ご機嫌でミーシャさんが奥に引っ込んでいく。さて、ご飯も食べたことだしジャネットさんの言う通り、ギルドに顔を見せに行かないとな。部屋に戻り、一応冒険者の格好をしてから私はギルドへと向かった。