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サンドリザード殲滅戦


 アスカたちが苦戦している頃、アルバの冒険者と合流したリュートたちはサンドリザード殲滅戦を行っていた。


「くそっ! こいつら何体いるんだよ!」


「岩場にいるサンドリザードがハイロックリザードの影響を受けて、総出で来たのかもしれないわ……」


「そんな。それじゃまだまだ来るんですか?」


「多分ね。さっきから倒してもすぐに補充されているでしょう?」


 確かに、冒険者の数も増えているのに常に同数以上のサンドリザードが戦場にいる。


「お前ら、いったん下がれ!」


 アルバからさらに冒険者が加わってくれ、再度休むように促される。


「さすがに疲れてきたし、後退させてもらおうノヴァ」


「ああ、そうだな……」


 緊張しっぱなしだったこともあって、かなり疲労もある。僕たちは後退してそのまま後衛の人の護衛につく。僕は魔槍のMPが減ってきているので、ここでマジックポーションを飲んでMPを回復させ、魔槍の力を再充填する。


「リュート大丈夫か?」


「ああ、今は魔槍の魔力をためてる」


 前を睨みつけながら僕は答える。こうしている間にもどんどん森を抜けてサンドリザードが来ている。


「ぐわっ!」


 前線で冒険者がサンドリザードの攻撃を受けてここまで飛ばされて来た。


「治療を!」


「はい!」


 周りにいた神官風の人に告げて、僕はサンドリザードを寄せ付けないように魔槍を構える。


「姿はない……けど!」


 この間、散々戦っているんだ。位置ぐらい……。


 ドスッと回復魔法を使っている人の前六歩の位置で槍を地面に突き刺すと、手応えがあった。


《ギャァァァ》


「大丈夫でしたか?」


「は、はい」


「そのまま、怪我人の治療をお願いします」


 その間にも前線の冒険者が下がってくる。代わりに後方で待機していた冒険者が前に出て、再び前線は忙しさを増す。正直、ハイロックリザードの相手は嫌だけど、こうしてずっと緊張を強いられるこの戦場もたいがいだと思う。

 アスカには気づかれていないけど、すでに前線の冒険者に犠牲者が出ている。隣り合った冒険者を救おうとしたまではよかったけど、敵の数が多過ぎて対応しきれなかったのだ。助けられた冒険者は呆けていたのですぐに後方に回された。


「おいリュート。俺たちも出るか!」


「駄目だよ。僕らにはここを守る役割があるでしょ!」


「そうよ。ここを破られたら私たちの負けよ。戦線の維持はもちろん町の人が犠牲になるわ」


「ちっ、分かったよ。ってまた来やがった!」


 前線の入れ替わりの隙をついてこっちに来るサンドリザードの数が増えた。ここは何としても凌がないと……。


「はぁ!」


「うおぉぉ!」


 パキィィン


「嘘だろ……うわっ!」


 ノヴァの剣が折れ、そこにサンドリザードのしっぽ攻撃が来て吹き飛ぶ。そのままとどめを刺そうと突進するサンドリザード。


「させるか、アースウォール!」


「ユスティウスさん!」


「間に合ったようでよかったよ。ノヴァ君は他の剣は?」


「持ってねぇ……」


「ちょっと待っていてください」


 それだけ言うとユスティウスさんは土魔法をまといながら前線に行く。さすがはCランクパーティーの一員だ。



「グラディスさん」


「ああん? なんだユスティウスか」


「すみませんが剣を一本貸してもらえませんか? 後方の冒険者で剣が折れたのがいまして……」


「チッ、ほらよ。そいつには替えぐらい持ってろと言っておけ!」


 私は受け取った剣をすぐに後方へと届ける。


「はい、借りてきましたよ。それと替えは持っておくようにとのことです」


「あ、ありがてぇ。よっと、ちょっと重いけどいい剣だな」


「ノヴァもそういうの分かるの?」


「ああ、多分だけどなっ……と」


 近づいてきたサンドリザードを真っ二つにするノヴァ。


「おお、前の剣よりいいな。後でどこで買ったか教えてもらうぜ!」


「なら、こんなとこでやられないでよ!」


「もちろんだ!」


 僕とノヴァで左右を固め、そのやや後ろからユスティウスさんが魔法で援護してくれる。僕らのコンビネーションに安心したのか、後方の回復魔法を使う人たちも前よりは安心して治療をしている。だけど、アスカぐらい治療の速度・範囲がある人は稀だ。これはぎりぎりの戦いになりそうだ。


「ノヴァ、悪いけどアスカから預かってるポーション貸してくれる?」


「ああ分かった。後ろもぎりぎりみたいだしな」


 この冬でかなりノヴァも僕も周りを見るようになったと思う。ありがたく僕は受け取ると後ろの人に渡す。


「MPが切れたらこれを飲んでください。少量でもかなり回復するので、出来れば何人かで」


「こ、これって、冒険者ショップに売ってる……」


「説明不要みたいですね。頼みます」


「はい!」


 再び僕らは前に目を向ける。まだ、戦いは終わりそうにない……。



 さらに戦い続ける僕らは、相変わらずサンドリザードの相手をしていた。


「チェストー!」


「なんだいノヴァ、その掛け声?」


「ちょっと思い浮かんだんだよ。気合入るぞ?」


「恥ずかしいからいいよ。はぁっ!」


 魔槍を払ってサンドリザードの顔を真っ二つにする。数の勢いがすごくてどんどん前線から流れてきている。必死に前方でも食い止めているけど、止めきれないのだ。


「後方! 気を付けて!」


「ぎゃあ!」


 悲鳴じみた声とともに後方から声がする。


「チッ、ロックランス!」


 ユスティウスさんの魔法ですぐに後方のサンドリザードが倒される。


「ノヴァ!」


「ああ」


 これ以上後ろには行かせられない。だけど、手数がどうしても足りない。再編ができれば……。


「もう少し、MPに余裕があれば私も加勢できるのだが……」


「ユスティウスさん本当ですか?」


「あ、ああ。だが、通常のマジックポーションでは焼け石に水の状態だ」


「なら、これを!」


「これは?」


「冒険者ショップにある特製品ですよ」


「すまない、恩に着る!」


 ユスティウスさんも噂では聞いていたのか、特製のマジックポーションを飲む。


「す、すごい効果だ!」


「MPも僅かながら、しばらくの間は徐々に回復します」


「分かった! みんな、いったん戦線を立て直せるように私が前方に行く! 無茶するなよ」


「「はい!」」


 魔法使いが前線に行って無茶してますけどね。その言葉を飲み込み目の前の敵に目を向ける。


「さあ、ここから先へは行かせないよ!」



   ✣ ✣ ✣


「グラディスさん、大丈夫ですか!」


「よお、ユスティウス。元気そうだな」


 グラディスさんはあちこちに傷ができていた。やはりこの数を相手にするのは……。


「今から戦線を立て直します。一度下がってください!」


「お前さんがそんなにMPに余裕があるとはな」


「変わったポーションのお陰ですよ。行きますよ! アースウォール!」


 私は大地の壁を正面に張り、さらにその上部からロックランスを放ち続ける。見えはしないが適当に当たって牽制になるだろう。


「今です。治療が必要なものをすぐに下がらせてください!」


「助かる。お前ら! まともに動けない奴はさっさと下がれ! 後方側から来れる奴はこい! いいな!」


「「おう!」」


「グラディスさんあんたも……」


「バカ野郎! ハイロックリザードにあんなガキを向かわせておいて下がれるか! ポーションだけ持ってこい!!」


「は、はい!」


「全く、指揮なんて面倒なこと考えずに突っ込みたいぜ」


「この状況でそれはやめてください」


「まあ、グラディスの無茶も今に始まった事ではないわ!」


「クラウスさん!? お身体は?」


「片足ぐらいどうとでもなる。相手はわしの主食だからな。それより前線ではちとキツイ、中衛で勝手にやるから準備が出来たら入れ替わってくれよ」


「は、はい!」


「あれが、バスターハンマーかでけぇ……」


「実戦で初めて見たぜ!」


 思わぬ援軍に士気も少しは持ち直したか……。後はジュールさんたちに任す他はない。


「さあ、どこからでもいいぞ! まあ、ミンチになるのはもったいないがの」



   ✣ ✣ ✣


 ユスティウスさんが前に出てすぐに冒険者たちが下がってきた。


「嘘! 前はどうなってるの?」


 後方に控えていた冒険者たちが一気に慌てだした。僕らも武器を構え直す。


「安心しろ。今はユスティウスの奴が戦線を維持している。それにクラウスさんも来てくれたんだ。俺たちは手当てを終えたら直ぐに前線へ戻る!」


「良かった……。すぐに治すわ! みんな、固まって」


 魔法使いの人が三人集まって、冒険者たちに魔法をかける。


「「「エリアヒール!」」」


 三人で同時に唱えた回復魔法で傷がたちまち治っていく。


「よおし! これでまだ行けるぜ!」


「無茶しないでよ」


「しないでお前たちを守れるかってんだ。じゃあな!」


 陽気に別れる冒険者たちだけど、前を見る瞬間に目つきが真剣なものに変わる。この戦いのきつさを一番彼らが分かっているんだろう。


「ぼ、僕らも……」


「やめておきなさい。君たちは最初からいたんでしょ? あなたも隣の子もさっきから腕が下がっているわ。その調子じゃさっきの人みたいになるわよ」


「っ!」


 この一時撤退の間にまた一人前線から運ばれてきた。その人はもう誰が見ても助からない状態だった。同じパーティーの人はせめてと短くお別れを済ませて、また前線に戻っていった。


「あなたたちは今ここで私たちのために戦ってくれる。それだけでもすごいことよ。それを誇りなさい! 決して無茶は駄目よ」


 声をかけてきたお姉さんも唇が震えている。きっとこの人たちだって、自分たちのパーティーの元に駆け付けたいんだ。だけど、それをしては迷惑をかけるからこうして耐えてるんだ。僕は頷いてノヴァに声をかける。


「ノヴァ!」


「あん? なんだよ」


「魔力切れになったら頼んだよ」


「……任せろ」


 僕は魔槍に再び魔力を供給する。


「魔槍よ、僕に力を……」


 魔槍は魔力を吸って、大きな槍になる。だけど、その重量はとても軽やかだ。槍に魔力が循環しているせいだろう。再び前線から流れてくるサンドリザードを三体確認する。


「行くよ、魔槍!」


 魔槍を横に一閃するとサンドリザードの頭がごろりと全て落ちる。


「すげえ切れ味だな」


「うん。次に備えるよ!」


「おう!」


 そして、また戦い続ける。それから数分後、ようやく敵の勢いに陰りが見え始めた。




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