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死闘、アルバ防衛

 結局、退き続けた私たちは、門が大きく見えるところまで戻ってきてしまった。


「こ、これ以上はさすがに退けませんね」


「ファーガソンも同意見かい? ここらで止めないと町に行きそうだね」


「それだと対処が余計に難しくなっちゃうわね。平地の方がまだ楽よ!」


 その時、門の近くから大きな声がした。


「ど、どうしたんだろ?」


「!」


「ファニー!」


「分かった。案内は任せて」


 ファニーさんが一時戦列を離れて、東門の方に行く。


「みんな何とか踏ん張りな! すぐに助けが来るよ」


「よっしゃー! ならもうひと踏ん張りだな」


「ノヴァ、気を抜かないでよ。魔槍はそうそう使えないから」


「おう!」


「助けが来るなら今のうちに……みんな、フォローお願い!」


 合流した時に私たちも態勢が整えられるように何とかしないと!


「竜巻よ! トルネード!」


 風が勢いよく大地から舞い上がる。距離を取れていたおかげで、ハイロックリザードも飛び込んでは来ない。視界が悪すぎるためだろう。周辺の木も巻き込みながら、体重の軽いサンドリザードを巻き上げる。もうMPは限界が近いけど、これを出し惜しんでる余裕もない。


「アスカ! もう来るわ」


 ファニーさんが戻ってきたようだ。後ろを振り返るとジュールさんの姿も見える。


「アスカ、初めての共同戦線がこんな厄介ごととはな! 俺がハイロックリザードとの前線に入る。ジャネット、ファーガソンも行けるか?」


「あたしは大丈夫だよ」


「私もいけますが、手を煩わせるかもしれません……」


「そこは仕方ねぇ! 危なくなったら下がれ。だが、必ず声をかけろよ」


「はい!」


「他の冒険者たちもサンドリザードとの戦いが安定すれば頼む。だが、無茶はするなよ!」


「「「おうっ!」」」


 やってきた数十人の冒険者が、一斉にサンドリザードの群れに襲いかかる。これまでは数で押し負けていたのが、数でもそこそこの優位を保っている。最初の方に吹き飛ばしたサンドリザードたちも加わって来たので本当に助かった。


「よし、サンドリザード隊前衛はグラヴィスが指揮を取れ! 俺はこっちに専念する」


「分かった! みんな、俺の指示に従ってくれ!」


「よっしゃ! Bランク古株の力を見せてもらうぜ!」


 口々に士気が上がる発言をする冒険者たち。後ろは回復魔法が使える人たちと、それを守る人たちで構成されている。


「ノヴァ! リュート! あんたたちも後衛の守りに入りな! 疲労がたまってるだろ」


「わりぃ、ジャネット!」


「そうさせてもらいます」


 二人とも疲れ切っていたのだろう。即座に声をかけて後ろに下がる。これで後は私たちの頑張りだ。

 私はマジックバッグからポーションを出す。以前に自分で作ったマジックポーション(特)だ。MP回復はもちろん、しばらく自動回復もつくから今はぴったりだ。


「おや、アスカも張り込むねぇ……ぐいっ」


 そういいながら、ジャネットさんも上級ポーションを飲んでいる。きっと私に気を遣わせないように自分の傷を回復させているんだろう。


「こんなところで、死んでられませんから!」


「その意気だよ! ジュールさん、中央頼んでもいいかい?」


「ジュールでいい。今は仲間だ」


「はいよ。なら、ジュール。頭は任せたよ!」


「当然だ! 俺のハルバードの威力を見せてやる!」


 こうして私たちは四人でハイロックリザードに挑んでいく。しっぽの攻撃をタイミングを見計らい、できるだけ止められるようにジャネットさんが。時々視界に入ることで気を散らせるようにファーガソンさんが。そして……。


「うおりゃぁぁぁぁ!!」


 ジュールさんが一気にハルバードを振るい・突き・払う。その一撃一撃がすごい音となって辺りに響く。


「おお、さすがはギルドマスターだぜ!」


「Aランクはさすがに違うな……」


「ほら、よそ見をしていたら死ぬぞ!」


 あっちはあっちで順調なようだ。ただし、サンドリザードと戦い慣れていない人もいるのか押し込み、押されている。


「アスカ、今だ!」


「はい。ケノンブレス!」


 私は単体用としては強力な魔法を放つ。これまでは四肢としっぽを器用に使われ、魔法もかすめる程度だった。だけど、ジュールさんが加わった今、そんな状況に変化ができた。


「当たったぞ!」


 ようやくまともにハイロックリザードの体に命中した。ど、どうなの?


《ギャオォォォ》


 ハイロックリザードの背中に切り傷が確認できた。魔法でまともな傷を初めてつけられた。


「よし! この場所を狙えば……」


「ファーガソンあぶねぇ!」


「なっ!」


 そのまま攻撃しようとしたファーガソンさんに、体を無理やり動かしたハイロックリザードのしっぽが襲い掛かる。


「ちぃ!」


 間にジャネットさんが割込み、剣の腹で防ごうとする。


「ぐぅ!」


「うぁ!」


 二人とも吹っ飛ばされて起き上がれない。衝撃で体がしびれているようだ。


「よくも二人を……炎よ、敵を穿て! フレイムブラスト!」


 足元から猛火をハイロックリザードに向けて放つ。MP消費が大きいけど、そんなことなど気にしない。絶対に倒すんだ!


《グギャォォォ》


 ハイロックリザードの叫び声とともにその体を包み込む。

 ぶすぶす皮と肉の焼け焦げる音や臭いとともに火が徐々に消えていく。


「いけたか?」


「いちち……まだの様だよ」


 剣を杖にジャネットさんが立ち上がる。ファーガソンさんはまだ立てそうにないみたいだ。


「風の癒しよ、エリアヒール!」


 この隙に二人へ回復魔法を掛ける。


「す、すまない。ジャネット、アスカ」


「いいよ。これからきっちり返してもらうからね!」


「そうだな。まだかかりそうだぞ」


 ジュールさんの言う通り、先ほどの魔法は効いたようだけど、それでも相手の戦意は十分だ。まだ、その段階にあるという事だ。


《ギャオォォォ》


 ハイロックリザードの周りに石柱が作られる。まずい!


「あ、嵐よ、ストーム」


 石柱が飛んでくる前に何とかしないと……。嵐の魔法で石柱を切っていくけど、相手の展開速度に間に合わない!


「アースウォール!」


「アクアスプラッシュ!」


 私の魔法効果範囲から出ていた石柱が飛んでくるのを二つの魔法が砕く。


「ユスティウスさん! フィアルさん!」


「遅くなった!」


「大丈夫ですか。アスカ、ジャネット?」


「大丈夫なわけないだろ? さっさと手伝いな! と言いたいところだけど……」


「残念ながらあまりお役に立てるかは……」


「あれだけ強靭な皮膚だ。フィアルもユスティウスも相性が悪い。だが、二人とも抜けられると困る。どっちか残ってくれ」


「なら私が残りましょう。ユスティウスさんは土属性でかなり不利です」


「……頼む。ファーガソン、無茶するな」


「ああ」


 ユスティウスさんはサンドリザードと戦う部隊に合流する。サンドリザードなら土魔法でもまだ効くし、突進ぐらいなら防げるだろうという判断みたいだ。


「みなさん、私の水魔法では効きはしないでしょう。あまり期待しないでください」


「分かってる。フォローを頼む」


「そうそう。しかし丈夫だね! よっと」


 ジャネットさんは相変わらずハイロックリザードの攻撃を避けながら攻撃している。すごい、もうかなりの時間が経過しているのに……。


「私も負けていられない! ストーム!」


 コントロールしやすく、威力の高い風魔法を傷口に向かって放つ。


《ギャオオオ》


 魔法が何とか皮膚に突き刺さるようになる。しかし、そこから貫くことはない。サンドリザードなどの外殻の堅い魔物は、内部が弱いと相場が決まっているんだけど、さすがはAランクの魔物だ。ここまで強靭だなんて……。


「アスカ、よくやったぞ! あそこなら可能性がある。みんな、アスカがあそこに当てられるように協力だ!」


「はい!」


「ああ!」


 ジュールさんの意見で、私の魔法を当てることに作戦が変更された。そこで私は少し高い木の上に陣取った。相手は全長十メートルの体躯に加え、高さも手伝って接地していては狙いにくいのだ。


「準備OKです!」


「よぉし、行くぞ!」


 みんなが一斉に斬りかかる。ハイロックリザードはしめたとばかりにしっぽで薙ぎ払おうとする。それをジュールさんが何とかハルバードで邪魔をする。さらに、ジャネットさんが右目をファーガソンさんが左目を狙う事で、注意を逸らしていく。


「これなら……真空の風よ、ケノンブレス!」


 残りのMPも気にせず最大出力で放つ。この魔法なら貫通力も範囲もあの傷口には十分だ。


《グギャアァァァァー》


 初めてハイロックリザードが雄たけびを上げ、苦痛を顕にする。いけると思った時だった。

 いきなり前方に大量の石の槍が発生し、私に向かってきた。


「そんな! 高速詠唱か!」


 そんな特技があったなんて……。もう駄目!


「アスカ!」


 ああ……ついに貫かれたんだ……短い一生だったな・・・あれ? 痛みがない。恐る恐る目を開けてみる。そこには身体を貫かれながらもその身で石の槍を受けるティタの姿があった。


「ティ、ティタ!」


 もう歩くこともできないぐらい衰弱していたのに……。


《ゴゴ……ゴ》


 何か言いたげにこっちを向くティタ。でも、その傷は明らかに致命傷だ。


「私をかばって……許せない!」


 MPが底をつきかけていた私は迷うことなくマジックバッグから多重回復ポーションを出して、一気に飲み干す。すぐさま魔力が回復していった。


「やばい! みんな離れな!」


「獄炎の猛火よ、渦となりて包み込め! ヘルファイア!」


 私の手のひらといわず身体から深紅の炎がハイロックリザードに向かう。そして風の魔法の力を受け、直撃した瞬間に大きな火柱となって体を包み込んだ。


《グギャァァァ》


 ハイロックリザードの体を焼きながら火勢は勢いを弱めることなくその場に留まる。これは周辺の空気を集めて酸素を送り続けているからだ。魔力で生み出された炎といえど、自然の摂理による影響も受ける。こうして魔法の効果を高めているのだ。


「す、すごい……」


「おいおい、まだCランクだろ」


「まあねぇ。だけど……さっきのを考えると」


「構えろ!」


 僅かずつ火の勢いが弱まり、半分ほどの勢いになったところで、ハイロックリザードがレジストした。本当に戦いにくい相手だ。


「こ、この……!」


「アスカ、落ち着け!」


「でも!!」


「次はお前が死ぬよ!」


「!」


 ジャネットさんの言う通りだ。ちょっと、頭を冷やしてハイロックリザードを見る。いまだに外皮はぶすぶすと音を立てている。何とか後一歩、あの外皮をどうにかできれば……。





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>あっちはあっちで中々の様子だ。ただし、サンドリザードと戦いなれて 最後が不自然に途切れているのは、逼迫してる状況を表現しているのか、単純に消えてるだけなのか?
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