魔道具の真価
部屋に戻った私は早速、今日買った荷物を整理する。服は今のところ机の引き出しの空きに入れている。今度、物干しとか作れないか聞いてみよう。上着位なら二、三着かけるところがあるんだけど、足りないし。それこそ、この買った魔道具で何か作れないだろうか? そう思いながら私は片付けていく。
「よし、お片付け完了! さてさて魔道具を使ってみよう」
まずは服の効果と細工の魔道具の効果を知るために、細工のみで神像の下半身を彫っていこう。
「彫るっていっても実際には刃を当てたりしなくてもいいって言ってたよねおじさん。どうやるのかな? こう?」
魔力を魔道具に込めて木を削るイメージをする。
シュッ
「わわっ!」
風切音がしたかと思うと、一気に下半身となる土台側の木が削れた。特に意識していた足のところはすでに形が出来上がっている。
「な、ナニコレ!? すご~い! あの一瞬でできちゃったの?」
木を全体的に削る工程も形を整える工程も飛ばして、いきなりほぼ削り込まれた状態まで進んだ。ちょっとまだいびつなのは、そこまで一気にできると思っておらず、イメージが足りなかったせいだろう。
「そ、そうだ。これだけの魔道具なんだからもしかしてかなりMP消費したかも!」
あまりのことに驚く私だったが、そういえばどれぐらいMP消費があるかを聞いていなかった。ここまで何時間もかかっていた工程なんだからさぞ使ったことだろう。
「ちょっと久し振りだけど使ってみよう。ステータス!」
本当は毎日使うといっていたステータス! のスキルだったんだけど、あれから使うの忘れてたんだ。いい機会だし今度こそ本当に日課として使わないと……。
名前:アスカ
年齢:13歳
職業:冒険者
HP:63
MP:170/240(1240)
力:11
体力:20
早さ:24
器用さ:60
魔力:80(290)
運:50
スキル:魔力操作、火魔法LV2、風魔法LV3、薬学LV2、細工LV1、魔道具使用LV1、(隠ぺい)
MPは……やっぱりかなり減ってるなぁ。でも、朝にお手伝いしたというのもあるし、実はそこまででもないのかな? あれれ? 器用さがずいぶん増えてる。確かに細工は頑張ったけど、そこまで一気に上がるものなのかな?
初心者や低いステータスは伸びやすいとかあったりして。っていうかスキルも増えてる。あんまり変わったスキルが並ぶのは、目立って良くない気がするけど、今度ホルンさんに聞いてみよう。
「そういえば前もスキルの説明見れたよね。新しくLV3になった魔法と、二つの新スキルをちょっと見てみよう」
風魔法LV3……中級と初級の間。初級に加え中級単体のものが扱える。初級に関しては応用魔法も使える。
細工LV1……体を使った細工を行う才能。努力とは別のもので、名だたる芸術家でも持たないものもいる。
魔道具使用LV1……魔力操作を持つものに多く発現。魔道具使用時に効率や効果を高める。まれに想定外の効果も。
へぇ~、細工は才能のスキルなんだ。確かに熟練の技ってスキルみたいだけど、ある時、ポンッて急にスキルとして出るのは変な感じだよね。魔道具使用はなんだか厄介そうだな~。消費が抑えられるのは良いけど、想定外の効果とか魔力操作を持ってると手に入りやすいとかあるし。確か魔力操作自体が珍しいスキルだったよね。
「なんだか、実力つける前にスキルだけ増えていって困っちゃうよ~。っとそんなこと言ってる間に作業作業」
気を取り直して作業を再開する。いったんは今のMPを確認できたので、これからはそこからどのくらい減ったかを確認すればいいだろう。
「集中して、集中して……」
私は足の指の形やそこにつながる足、服とイメージを強くする。そして魔道具を発動させた。
「発動!」
口に出して発動を宣言する。さっきみたいに変にイメージがついて勝手に発動してしまったら、それこそ誰かが来た時に怪我をさせかねないと思ったからだ。あとは、言って発動すれば意識を集中させやすいと思うし。
シュッシュッ
風が木を削り取っていく。鮮やかなその刃は私を傷つけることもなくイメージ通りに像を形作っていく。そして出来上がったのは……。
「や、やったぁ! 綺麗にできてる! はぁ~、この指先とかとっても細かくてつやつやしてる」
出来上がったのは素人でもかなりのものと分かる出来だった。足の指はきちんと溝が入っていて、爪のところの再現度もかなりの出来だ。まだまだ使い始めたばかりでこれだからありがたいなぁ。
「これなら、本番ではもっといいのができる。ありがとう、おじさん!」
この商品を売ってくれた細工屋のおじさんに感謝だ。ちょっと角ばったところもあったけどそれぐらいなら許容範囲だ。
「いけないいけない、今のでどれぐらいMP使ったかな。ステータス!」
きちんとすぐに測っておかないと、次に何か作る時が大変だもんね。
MP:135/240(1240)
さっきから35の消費か~。結構集中してやったと思ったんだけどそんなに使ってないのかな? 最初の削る工程と合わせれば、上下合わせて200もあれば足りそう。これなら一日頑張ったらできるかも! 実際に本番の像に手が届くところまで来たので嬉しくなった。
「これなら上半身も今日中にできそうだね」
何よりいいのがうるさくないという事だ。今までは風の魔法で音を抑えていたけど、それをしなくてもそんなに大きな音が出ない。とはいってもうるさくする気はないのでこれからも使うけど。
コンコン
「おねえちゃ~ん、ご飯の時間だよ~」
「エレンちゃんありがとう。すぐいく~」
すぐに準備と後片付けをして食堂へ下りていく。それにしてもそんなに時間経ってたんだ。やっぱり集中すると時間が分かんなくなるなぁ。
「おまたせ~エレンちゃん」
「おそいよ、おねえちゃん。もう食べようかと待ってたんだから」
「ごめんね。ちょっと片付けしてたの」
「そんなの後でいいのに……」
「ちゃんとやる癖付けとかないとずっとやらなくなっちゃうから」
「それはそうね。エレンも見習いなさい」
「は~い」
「それじゃあ、いただきます」
私とエレンちゃんが先にご飯を食べる。ミーシャさんたちはいつも通り、お客さんの対応を済ませてからだ。
「あっ、そうそうおねえちゃん。明日の夜って時間ある?」
「大丈夫だけどどうして?」
「実は明日の夜は月に一度の商人ギルド定例会議なんだよね。だから夜はお父さんがいないんだ」
「あれ? この店って商人ギルドに所属してるの?」
「ううん。冒険者ギルドのお世話になってるから実際は登録してないんだけど、各商店の情報とかをうちでも紹介して欲しいからって出席することになってるみたい」
「そうなの? 大変だね」
「別に行くこと自体はそうでもないみたいだよ。でも、この時間に人が取られちゃうから……」
「分かった。それじゃあ、明日は朝から夜までね。代わりといってはなんだけど明後日はお休みしてもいいかミーシャさんに聞いといてもらえる?」
「いいけど冒険にでも行くの?」
なんだか冒険に行くのが珍しいみたいないい方だ。
「実は昨日買ってきた魔道具を今試してるんだけど、一日に全部のMPを使うみたいなの。朝とかの仕事で使っちゃうと足りなくなるかもしれないからできたら休みたいの」
「大丈夫だと思う。ちゃんと言っとくよ」
「ありがとう。それと時間ある時でいいんだけど部屋のことで相談があるからそれも言っといてもらえるかな?」
「おっけ~」
ぱくぱくと食事を口に入れながら話すエレンちゃん。私にあれは無理だなぁ。
「今日もごちそうさまでした」
「それじゃあ、私は片付けに行ってくるね」
「じゃあ、私はお湯の準備しておくからあとでお願い」
「は~い、また持ってくね」
この前、ミーシャさんたちと話をして、身体を拭くお湯を用意することでお湯セットを無料にしてもらえるように頼んでOKをもらえたのだ。これでちょっとでも生活費が節約できてうれしい。
「食堂の片付けはまだかかるだろうし、この間に上半身を仕上げないとね」
部屋に戻ると再び作業をするために私は準備を始めた。
「ここからはさっきまでと違ってちょっと着替えてっと…」
私は着ていた服を脱いで、銀色のワンピースに着替える。つけてみるとそれだけで気持ちがいい気がする。確かにこれなら集中できそうだ。
「それじゃあ上半身だけどまずは体からかな。あと、髪がついてくるし手のポーズも…」
ちょっと考えた結果、接着剤がないので手のポーズを決めることにした。前は腕と体の隙間を彫る自信がなかったため、体にピタッと付けたポーズだったが、魔道具ならそんな心配もなさそうだ。
「祈りのポーズ?でも、神様が祈るかなぁ?手を広げる?それも何か違うような…」
何かないかなとぐるりと部屋を見回す。ふいに杖が目に留まった。
「杖なら神様が持っていても変じゃないよね?」
最終的に杖を掲げて、もう片方の手は少し開く感じでイメージする。
「じゃあ、この感じで……発動!」
シュッシュッ
風が舞い像を形作っていく。さっきよりもより鋭く、より豊かに刻まれていく姿は先程までとは明らかに違っていた。
「これが魔道具を合わせた効果なんだ」
素人の私が見てもよくわかる。下半身の作りとは違う洗練され、流れるようなラインがそこにはあった。実際に身にまとっているかのような布の表現。杖をかざす手と無機質な杖の表現。すべてがさっきのものとは別だ。
「こんなにすごくなるなんて……」
今できたのは肩から下の部分だけだ。残りもこのままやってしまおう。
「後は顔の部分と髪の垂れ下がった胸のところだね」
残りの首筋の部分から頭のところまでを一気にイメージする、より正確に。
「発動!」
こうして出来上がった像は見事にちぐはぐだった。美しい顔と髪から腕、杖までのライン。それとは違ってなんだか未熟な部分が目立つ下半身。まるで師匠と弟子が合作した感じになってしまっている。
「さすがにこれじゃあ不味いよね……」
細工の魔道具を使えば綺麗にでき、そこに銀色のワンピースが加われば、さらにすごいものができると分かったけど、この出来上がったものをどうするかという悩みができたのだった。