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番外編 アスカと神託 & if アスカのお正月

前編はアスカが新年に孤児院に泊まった時の神託のお話。今後本編にちょっと関係するかもしれないお話。後半はアスカがだらけているときにもし頑張っていたらという全く関係のないお話です。登場人物も多少変化がありますが本編につながらないので問題ありません。



 


 少し前、私はアラシェル様から神託をもらった。その内容にとても驚いたのを覚えている。今はその話を誰にすべきかとても悩んでいるところだ。


「でも流石に簡単にできる話じゃないしなぁ~」




 回想


「アスカ、アスカ目覚めなさい……」


「うん。ラーナちゃん?」


「私です。アラシェルです」


「あ、アラシェル様!」


 ばっと飛び起きた私が目を開くとそこは白銀の世界でした。


「ここは?」


「私があなたに神託を授けるための空間です。世界中のどこでもない場所ですよ」


「それじゃあ、今私はどこにいるんですか?」


「今あなたの体は眠っている状態です。安心してください」


「そういうことなんですね。じゃあ、こんな綺麗な場所がアルトレインにあるわけじゃないんだ……」


「同じ場所はありませんが、私もこの世界の神となった身。全く存在しない景色を作り出すことはできません。このような場所はどこかにありますよ」


「本当ですか! いつか探してみます」


 緑の草花が雪化粧に覆われ、山と一緒に白銀に光る。いつかこんな場所に行ってみたいな。


「それで本題なのですが……」


「あっ、そうでしたごめんなさい」


「今日ですね。あなたがあげた石でラーナの石が白く光ったでしょう?」


「はい。あれは一体どういうことなんでしょうか?」


「実はあれからすぐにシェルレーネたちと話をしたのですが、結論から言うとですね、彼女は巫女の資格を得ていました」


「どなたのでしょう?」


「私です」


「ええっ!? でもラーナちゃんはアラシェル様の名前も知らなかったんですよ?」


「確かに彼女は私の名前を知りませんでした。ですが、毎日暇を見つけては祈り続けたのです。その信仰心から彼女は巫女の資格を得るに至りました」


「じゃ、じゃあ……」


「当然、彼女もアスカと同様に空間魔法が使えます。しかも、これは悪いことかどうか分かりませんが、どうも彼女自身に空間魔法の素質があるようで……」


「それなら孤児院じゃなくて誰か別の人が保護してるんじゃあ……」


「赤子の頃は魔力が低く、判定にも上がらないぐらいだったようですね。そのため詳しく調べられることなく、魔力はほぼなしと判定されたようです。それが巫女の資格を得たことで、信仰によりわずかながら魔力が高まったのでしょう」


「ど、どうするんですか?」


「それなら心配いらないわよ、アスカ!」


 アラシェル様の横から見たことのない人が出てくる。この人は……。


「急に出てこないでください、シェルレーネ」


 なんと! 慈愛の女神シェルレーネ様だった。ムルムルにも聞いてたけど、本当に神像の通りというか、親しみやすそうな神様なんだな。


「そこで、私が信者の少ないアラシェルに代わって一手打ちました!」


「そんなことは聞いてませんが?」


「言ってないし、大丈夫だから」


「ぐ、具体的には……」


 アラシェル様が困り顔だ。不謹慎だけど、レア顔を見れてちょっと嬉しいかも。


「要はラーナちゃんを守る人がいればいいんだよね? そこで私は神託とともにセティを新しい巫女に認定しました!」


 新しい巫女? 今シェルレーネ様の巫女は三人なのを四人にしたってこと?


「それは大丈夫なのですか? それに信託とは?」


「きちんと出してるわ。『新たなる神の誕生を祝し、新たな巫女を遣わす。その者は貧しき中に真なる心を持つでしょう!』どうどう? かっこいいでしょ?」


「かっこいいというか、それであなたの巫女を探しに来た人がなぜラーナを助けるのです?」


「えっ? だって、私と友達のアラシェルの巫女なのよ? 助けるでしょ普通」


「あの、アラシェル様はアルバとレディトの一部以外では名前も知られていないんですが……」


 例外的にシェルレーネ様の巫女はムルムル経由で知ってるかもしれないけど、神託だからと言ってわざわざそこまでしてくれるんだろうか?


「そうなの? じゃあ、もう一回神託を出さないといけないか。いやぁ~難しいわね」


「難しいではありません。そう簡単に使ってはならないとグリディアからも言われたでしょう? きちんと私たちに話してから使ってください」


「でも、アラシェルも自分の判断で使ってるじゃない?」


「これはごくごく狭い範囲のことですし、いいんです」


「まあ、使ったものは仕方ないし、セティは新しい巫女になってるから、よろしくね!」


「よ、よろしく?」


「あなた、ムルムルたちとも知り合いなんでしょ? あの子たちに新しい巫女はここにいるよって教えてあげてね」


「は、はぁ……」


 み、巫女って人数いると力が分散されるんじゃなかったっけ? いいのかなそんな簡単に増やして……。


「アスカ、話が逸れましたが、ラーナは私の巫女となってしまっています。その才能についても守ってあげてください。私の力ではまだほとんど干渉することが出来ません」


「はい! ラーナちゃんはきっと守って見せます!」


「頼みましたよ。これを渡しておきます」


 そう言うとアラシェル様は一組の指輪を私にくれる。


「これは?」


「導きのリングです。あなたたち巫女同士がお互いの力を感じ取ることが出来るものです。彼女にこれを渡してください」


「分かりました」


「では、そろそろこの空間を維持できないのでお別れです。あなたに幸運を……」


「ありがとうございます、アラシェル様。それにシェルレーネ様も」


「うん。これからもよろしくね!」



 


「はぁ……まだ、夜明け前か……」


 目が覚めた私は体を静かに起こす。


「ん、これは?」


 手には先ほどアラシェル様から頂いた指輪があった。


「すぐに渡したいけど、どうやって説明していいか分からないしもうちょっとだけ持っていよう」


 こうして私は新たな巫女の誕生を知り、ムルムルに手紙を書くとともに今後どうするかに悩みながら夜明けを迎えたのだった。





 ifストーリー アスカと真面目なお正月



「孤児院の子たちに元気をもらったし、今年の目標を決めよう!」


《チッ?》


「ミネルたちは知らないかな? 一年の初めに目標を決めるんだよ。昔は書初めって言って半紙に目標を書いてたんだよね~」


 そういうわけで私も心機一転、冒険者として何か目標を立ててみよう!


「Cランクになる。これは直ぐにでも挑戦するからなしだね。他には……苦手なものに挑戦するのもいいかも!」


 そう思った私は早速、苦手なものに挑戦すべく師匠を呼んだのだった。



「それで、新年早々町の西側に連れて来て何やらせる気だい?」


「はい。ジャネットさんに剣を習おうと思いまして!」


「アスカが剣を? やめときな、振るんじゃなくて振り回されるだけだよ」


「いいえ、私の今年の目標は『前衛、中衛、後衛すべてのレンジで戦えることを目指す!』です。きっとやり遂げて見せます! それに、私ってきっと才能あると思うんです!!」


 だって、転生者って大抵剣持ってるよね。私にだって才能があるはずだよ!



   ✣ ✣ ✣


「なあ、アラシェル。あんたあの子に剣の才能なんてあげてたっけ?」


 暇だから神界からアラシェルお気に入りの子を見ていたグリディアは、剣の才能を感じられないその子の発言に対して疑問を持っていた。戦女神の彼女はその人物の武器の才能くらい見ればすぐに分かる。

 もちろん努力すれば一端ぐらいにはみんななれるのだが……。そこで、神託で力を使ったためアラシェルちゃんモードで省エネに勤めている彼女に聞いた。


「何を言っているの、グリディア。私のような転生を司るものが要求以上のものを与えることはないよ。アスカは魔法が使いたいということと、世界中を回れるぐらいの力が身に付けばいいと言っただけだし。剣の才能なんてこれっぽっちももってないよ。大体、肉体のベースはわたしだから、剣なんて振れる身体つきにはならないよ?」


「そうだよね。だけど、なんだか自信満々だよ?」


「……ひょっとしてまた向こうの本のせいかな? あの子はたまに前世の世界で読んでいた本の影響を受けて自分を見失うことがあるの」


「そうみたいだね。あんな構えじゃ、間違っても的に当たらないね」


 えい! やぁ! と剣を振っているものの、格好をつけたいのか全部が大振りで外れた後は大きく弧を描いて再び振る。あんな動きでは、ボア一匹仕留めるのにも日が暮れるだろう。


「しょうがない。一瞬だけ力を貸してやるか」


 ちょっと意識を集中させて、彼女に稽古をつけている剣士に乗り移る。現実を教えてやることもまたグリディアの仕事だ。



   ✣ ✣ ✣


 がくんと急にジャネットさんの動きが止まった。どうしたんだろう?


「アスカ。やっぱりアンタに剣は向いてないよ」


「そ、そんなこと分かりませんよ! きっと私には秘められた力が……」


「じゃあ、アタシも秘められた力ってのをちょっと見せてやるよ!」


「へっ?」


 目の前のジャネットさんが消えたと思うと、真横から声がする。


「どうだい? まだ、言い張るかい?」


「い、いえ……」


 ジャネットさんの持っている大振りの剣が一瞬で首筋に当てられていた。ほんの僅かだけど向けられた殺気もすごくてへたり込んでしまう。



「悪かった、悪かったから……」


「ふぇ~ん。ジャネットさんが怒った~」


「だから泣き止めって。確かにあそこまでしたのは悪かったよ。身体が勝手に動いちまっただけだって、だから泣き止めよアスカ」


「でもぅ~」


 へたり込んだのちに、殺気による恐怖で涙が止まらないのだ。ジャネットさんには殺気を向けられないとたかをくくっていた私が悪いのだけど……。


「じゃ、じゃあ、今度どこかに連れていってくださいね!」


「あ、それぐらいだったらいいよ」


「約束ですよ!」


 こうして私のお正月一念発起イベントは終わりを告げた。苦手なことに無理に挑戦しない方がいいこともあると知ったアスカだった。



   ✣ ✣ ✣


 そのころ神界では……。


「グリディア! どうしてあんなことしたの? アスカ泣いちゃったじゃない!!」


 アラシェルちゃんモードで絶賛お説教中だった。


「いや、だって、あのまま変にやり続けるよりいいと思って……」


「やり方があるでしょう! 二人の仲がこじれたら責任持てる? 持てないよね!」


「ああ、まあ……」


 相変わらずこの女神は過保護だ。ちょっとぐらいでそんなことにはならないと思うのだが……。


「聞いてる? 大きくなろうか?」


「いや、滅相もない……」


 この後もくどくどとお説教が続いたのだった。ちなみにそのシーンは神界写真展で公開された。題名は『幼女ママの日常』撮影者はシェルレーネだった。


「わたしも怒るときは怒ります!」


 今日も今日とて下界を眺めて過ごすアラシェル神だった。




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― 新着の感想 ―
新たな巫女の誕生かぁ 孤児院に居るよりかは遥かに良い暮らしが出来るようになるだろうけど、その代償として移動の自由は余り無くなるだろうから、どちらが幸せかは本人の意思次第だよね。 異世界モノだと「下手…
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