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戦果報告

 店を出て買い物を済ませた私はもう少しぶらつくことにした。


「せっかくの街なんだしもう少し見ていってもいいよね?」


 それから北側の青果市場を見た後は、そこからずっと西に進んで、道行く冒険者や住宅地を見て廻る。


「へぇ~北側はこんなんなんだ。結構おうちが並んでるなぁ」


 でも、周りを見ると町の人ばかりで冒険者はほとんどいない。宿は西の方でも南側に多いのだろうか? それとも王都からの冒険者に泊まってもらうために東側なのかな? それだと市場や商店もあるし宿泊費とか高そう。


「おや? お嬢ちゃん久しぶりだね」


「屋台のおじさん! お久しぶりです」


 歩いていると初依頼の帰りに肉串を売っていたおじさんが私を見つけてくれたようだ。


「どうだい調子は?」


「ん~どうなんでしょうか? でも、今日はいっぱい買っちゃいました」


 私は両手に持った荷物を見せる。正直、いったん宿に帰ればよかったと思っているぐらいには大荷物だ。


「そうみたいだなぁ。どうだいうちでも?」


「う~ん。でも、手も塞がっちゃってるし食べられないかな?」


 お姉さんがくれた袋には服が入っているし、汚したくはない。染み抜きなんて中々できないしね。


「そうか。じゃあ、三本以上買ってくれたら包んでやるぜ!」


 三本以上か……それならエレンちゃんたちのお土産にもいいな。


「分かりました。じゃあ、八つください」


「はいよ。大銅貨二枚ね」


「あれ? この間は一つ銅貨八枚でしたよね?」


「なんだ、覚えてたのか? お嬢ちゃんはかわいいしおまけだ。にしても前の時も思ったがいい服着てんなぁ」


「これですか? ベルネスで買ったんです」


「ルイゼの店か。あそこは物はいいけど俺らにはちょっと高いんだよなぁ」


「あっ、やっぱりそうですか。生地もいいとは思ってたんですが。どこか安いとこあります?」


「こういっちゃなんだが、買えるんならベルネスがお嬢ちゃんにはいいと思うがな」


「いえ、宿のお手伝いもしているので掃除とか汚れてもいい服が今ないので……」


「そういうことなら、街の南にあるドルドという店に行きな。質も値段も低いのが売ってるぜ。ちゃんと着れる程度のな」


 そう言ってがっはっはっと笑うおじさんだったが、まるで着るのも難しいボロ布まであるみたいないい方だ。


「それじゃあ、おじさん大銅貨二枚ね」


「おう、またよろしくな!」


 おじさんから包んでもらった串を受け取り、流石にこれ以上は物が持てないので、私は宿に帰った。



「ただいま~」


「おかえり、アスカおねえちゃん! 大荷物だね」


 カウンター越しに元気な声でエレンちゃんが挨拶を返してくれる。こういう風に迎えてくれる人がいるのは嬉しいなぁ。


「そうなの。初めて街を見て廻ったから、ちょっとはしゃぎすぎたみたい」


「ふふっ、おねえちゃんでもそういうことがあるんだね」


「あ、そうそう。この時間って宿は暇だよね? ミーシャさんたちを呼んできてくれる?」


「いいよ?」


 けげんな顔をしながらエレンちゃんは呼びに行ってくれ、なんだなんだと二人が来てくれた。


「これ、屋台のおじさんが多く買ったら包んでくれるっていうんでお土産です。い、一緒に食べませんか?」


 私はちょっと恥ずかしかったけど言ってみた。だって、なんだか子どもがお菓子があるからお茶しようって駄々こねてるみたいなんだもん。


「あらあら、西門のところの肉串屋さんのね。あっちには中々行くことがないから久しぶりね~」


「すまんな、アスカ。気を遣わせてしまって」


「じゃあ、私お水入れてくる~」


 パタタ


 エレンちゃんが水を持ってきてくれる間に、私はテーブルにお土産を広げた。


「そういえば大荷物ね。買い物は楽しかった?」


「はい。でも、買いすぎたしお金も使いすぎたかも……」


「そうだアスカ。ちなみに昼はどこで食べたんだ?あんまり他の店には行くことがなくてな」


「ええと。店の名前は分からないんですけど、ジャネットさんに連れて行ってもらったんです。高かったんですけど美味しかったですよ。パンも柔らかくて……あ」


「ふむ、ジャネットといえば通りを外れたあの店か。確かに高いがそれだけの価値はあると言っていたし、今度行ってみるか……。ちなみにいくらだった?」


「今日のメニューだと大銅貨四枚でした」


 良かった良かった。後半のパンについての言葉は聞き逃してくれたようだ。


「あら、本当に結構するのね。ますます行ってみたいわね、あなた」


「そうだな。アスカがいう柔らかいパンというのも気になるしな……」


 やっぱりちゃんと聞こえてたんだ。やんわりフォローしないと!


「や、柔らかいのは本当ですけど、美味しいかは個人の味覚なので」


「いいや、俺も以前からパンはどうにかならないかと思っていたんだ。このところは忙しくて忘れていたが、アスカがうちで食べた時にこれじゃあいけないなと思ってな」


「ど、どんな顔してました?」


 あんまり聞きたくないけど恐る恐る聞いてみる。


「これがパン? みたいな顔をしていたな。のぞき込んだりぐるぐる見回したりして最後は諦めてモソモソ食べてた」


「ご、ごめんなさい……」


「なになに~、何の話~」


 そこにエレンちゃんが飲み物を持って戻ってきた。


「前に言っていたお店があったでしょう? 新しく半年前にできた東通りの外れの。今度そこに行きましょうって」


「ほんと! お父さん?」


「ああ、それより冷めないうちに食べないとな」


「そうね。アスカちゃんがせっかく買ってきてくれたんだもの」


「いっちば~ん」


 最初に手を付けたのはエレンちゃんだ。いつも宿を手伝っててえらいけど、こういうとこは年相応かな?


「それじゃあ、私もいただきます」


 それぞれの食べ方で肉串を食べていく。それにしてもこういうのは個性が出るよね。ライギルさんは欠片を一口ずつ。私とミーシャさんは二回から三回。エレンちゃんはほおばって無理をしたため、二本目からは二回に分けている。


「ふぅ~、おいしかった。ありがとうおねえちゃん」


「どういたしまして。……ごちそうさまでした」


 私が手を合わせているとみんな不思議な顔をしている。


「どうかしました?」


「前からおねえちゃんって食べるときなんかやってるけどなにそれ?」


「ああ、『いただきます』は作ってくれる人や自然や物に食べますと感謝を、『ごちそうさまでした』は糧として食べたということと、作ってくれた人に感謝をかな? 普段から使ってて意味はあいまいだけどね」


「へえ~、そうなのね。この辺りの村とかでも収穫祭で神様に祈りを捧げるところはあるけど、料理人や物に感謝するのは珍しいわね」


「そうなんですか? 私のところでは当たり前だったので。作ってくれる人や物がないと生きていけませんからね」


「確かに珍しいけど俺はいいと思うぞ、アスカの考え。何より俺が感謝されるってことだしな!」


「もう、お父さんったら……」


 それから私は買ってきたものをみんなに説明した。冒険者の必須アイテムとこの間から部屋でやっている細工の道具と銀の服を順番に見せていく。


「へえ~これが魔道具ねぇ~。俺たち一般人にはとんと縁がないな。火つけ石と室内用のライトぐらいか? でも火つけ石だって火の魔力持ちしか使えんから不便なんだよな」


「そうね~。宿じゃちょっとね~。安い代わりに火の魔力がないと使えないのがネックよね…」


 火をつけるのに火の魔力がいる? なんだそれと思って聞いたら、魔力自体はみんなあるけど3とか5の人は当然魔法を使えない。そんな人でも適性の高い属性はあるもので、それに反応する魔石を使ってぎりぎり使えるようになるらしい。だから、一般人でも火の魔法適正が高いとちょっとだけありがたがられるのだとか。


「でもこの服、本当に質もいいしかわいいわね~。ちょっと時間がある時に部屋に行ってもいいかしら?」


「は、はい。構いませんけど……」


「ミーシャ。あんまり、力を入れるなよ」


「大丈夫大丈夫!」


 ライギルさんは何か察したようだけどエレンちゃんはよくわかってないみたいだ。何だろう? そういえば、服を取りだしてる時のミーシャさんの顔は輝いていたなぁ。やっぱりまだまだおしゃれとかしたいんだろうな。


「さて、そろそろ宿も再開しないとな。ありがとなアスカ!」


「いいえ、ライギルさんたちもがんばってください」


 厨房に戻るライギルさんとミーシャさん。エレンちゃんも再び店番に戻ったので、私は荷物を持って自分の部屋へと戻った。


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