表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
198/491

再会した相手は…

 頑張って魔道具を作った翌日、今日は久し振りの依頼受注だ。だだ、新年明けての肩慣らしなので、難しい依頼は受けずに町の東側を出て南側を通り、岩場でティタに挨拶して帰るだけだ。


「ティタ~、久し振りだね! 元気だった?」


《ゴゴ》


 問題ないと腕を上げて挨拶を返してくれるティタ。


 今日はミネルたちも連れて来ていて、みんな勢揃いの様相だ。本当はライズも連れて来たかったんだけど、まだまだ成長途中だからね。もう少し大きくなって足が速くなったらちょっとは安全だろうし、連れて来てあげたい。


「ほら、今日は新年のお祝いにちょっと良い石だよ!」


 私はバッグから魔石を取り出すとティタにあげる。人気のない魔石だけど込められる魔力は大きくてティタにも喜んでもらえると思ったのだ。ティタはそれをひょいと持ち上げると口に放り込む。


《ゴゴゴ》


 嬉しそうに魔石を食べるティタ。やっぱり新年は美味しいものを食べて始めたいよね。


「おお、なんだか今日は元気がいいねぇ」


「そうだな」


「久し振りにアスカに会えて嬉しかったんじゃない?」


「そうかな? そうだと嬉しいけど……」


《チッ》


「嬉しいって? ありがとうティタ。ミネルもね」


 ミネルにお礼を言い、私たちは岩場で休憩タイムだ。まだ時間は十一時半ごろ、ちょっとお昼には早いんだけどせっかくティタと一緒にいるからね。


「さて、今日のみんなのご飯はと……」


 ちらりとみんなが広げたお弁当を見る。ノヴァは女将さんが作ってくれたお弁当。リュートは自分で年末から使った食材の残りかな? ジャネットさんは……。


「干し肉……」


「あん? いいんだよ。どうせまだ店はほとんど閉まってるんだ。こういうのが当たり前なんだよ」


「そんなこと言ってアスカも似たようなもんだろ?」


 確かに私もドライフルーツを子どもたちにあげちゃったから、今日はライギルさんに作ってもらった生ハムもどきだけど、きちんとパンは持ってきてるし。


「でも、私はちょっとおかずっぽいのもありますよ」


「そんなこと言ってライギルさんに無理言ったんだろ? 年末年始くらい休ませてあげな」


「ううっ……」


 みんな最近、私の思考を盗み見てるんじゃないかと思うことがある。何か新しいスキルにでも目覚めているんだろうか?


《チュン》


「あっ、レダたちも欲しいよね。はい!」


 レダたちにもご飯をあげてみんなと一緒に食事を終えた。後は来た道を戻るだけだ。


「それじゃティタ。またね!」


《ゴゴゴ》


 こうして私はティタと別れアルバへと戻っていった。帰りにはオークと少し遭ったぐらいで、特に問題はなかった。オークは数も少ないしさくっとみんなで切り分けた。


「いや~、年の初めとしては楽だね~」


「そうですね。出てきたのも変異種ではなく通常のオークでしたし」


「まあ、いい土産が出来たって感じだよな」


 そんな話をしながら私たちはギルドに入っていく。


「依頼終わりました~」


 挨拶をしてホルンさんのところへ並ぼうとすると何やらどこかで見た人がいる。どこだったっけな?


「あらアスカちゃん。ちょうど良かったわ。こちら依頼を受けてくれた人たちよ」


「俺はディオスだ。こっちはクリス、二人で旅をしてる最中だ。あんたが依頼人か?」


 そう言いながら美形の男性が私の出していた依頼票を見せてきた。


「そうですよ。私はアスカと言います。冒険者をしてます」


「へぇ~、お前も冒険者なのか。普段は採取依頼を受けているのか?」


「ディオス。失礼ですよ。彼女も立派な冒険者です」


「そ、そうなのか。すまないな。俺はまだ冒険者になって日が浅くてな」


「いいえ。私もまだ半年ほどですから、ランクもDランクですし。それで本はどこですか?」


「こら、アスカ。先に清算しないといけないだろ」


「ジャネットさん。そうでした、ちょっと待っててくださいね」


 ささっと清算をして再び二人に向き直る。その間にジャネットさんとクリスさんが挨拶を交わしていた。あんまり見ない光景だけど、おんなじ女性剣士として気になったのかな?


「お待たせしました。それで本の方は?」


「ああ、ここにある。ちょっと変わったのもあるから気にいらんかもしれんがな」


「いいえ、特に指定していないし大丈夫ですよ」


「ちなみに購入にかかった費用はこちらです。全部で金貨五枚なのだけど大丈夫?」


「あっ、はい。ここで渡した方がいいですか? それともギルドカードに?」


「それじゃあ、ギルドカードに入れてもらおうか。実は依頼を受ける機会があまりなくてな、ある程度はカードに入れておきたいんだ」


「分かりました。それじゃホルンさん、委託料の分と経費と成功報酬を処理してください」


「分かりました。じゃあ、費用の金貨五枚と報酬の銀貨五枚をディオスさんのカードに、アスカちゃんは委託料をカードから差し引きますね」


「ディオスさん、これで依頼は完了です。ありがとうございました」


「いや、こっちこそ王都で本を買うだけなのに悪いな。そこそこいいものを入れたと思ってるから、また見てくれ」


 ディオスさんたちも行くところがあるということでギルドを出てすぐのところで分かれた。


「今日は依頼も早く終わったし、ゆっくりしよう」


 宿に着いてジャネットさんとも別れると、食堂でジュースをもらってくつろぐ。すると、新年は人が来ないと言われていたのにお客さんが来た。まだ、年明けて間もないからあんまり人が来ないし、どんな人だろう?


「あれ? ディオスさん」


「アスカか。どうしたんだこんなところで?」


「ここの宿に私はお世話になってるんですよ」


「そうなのですか。この宿はご飯も美味しく、よいところですね」


 改めて二人を眺める。この組み合わせどこかで……。


「あ~~~、世間知らずのお兄さんと彼女だ!」


「なに? どうしたのおねえちゃん?」


「ほらエレンちゃん。年末近くに来た私が話してた人だよ」


「ああ、おねえちゃんに変わってるって言われてた残念な人だね。わたし、見るチャンス逃したんだよね。この人がそうなの?」


「そうそう。ねっ、言ったとおりでしょ?」


「う~ん。確かに商家のお兄さんか貴族っぽいよね」


「ええと……そういうのも宿の人間は分かるのか?」


「ごめんなさいお客さんに。客商売ですからある程度は見たら分かりますよ。おねえちゃんほど変わってはないと思いますけど」


「ええっ、そんなに私ひどい?」


「最近はそうでもないよ。最初のころは……あっ、ごめんなさい。今日はお泊まりですか?」


「いや、料理を作っている人に話があるんだが……」


「お父さんに? ちょっと待っててくださいね」


 エレンちゃんが厨房に行っている間に私はふとあることに気が付いた。


「あれ? ディオスさんとクリスさんがしてるネックレスって、私のですね。ありがとうございます」


「はっ?」


「えっ!? あなたがこれを?」


「はい。私、冒険者のかたわら細工師をしてましてその作品は二つとも私のですね」


「これをあなたが? どこかの工房で修業でもしたの?」


「いいえ、独学ですけど。あっ、もちろん本は買って勉強はしてますよ」


「そう……ディオスちょっとだけいいかしら?」


「ああ」


 私の話を聞いてクリスさんがディオスさんと話をしだした。どうかしたのかな?


「ん? あんたたちか呼んだのは?」


「ああ、ちょっとお願いがあってな。その前に一人呼びたい人が居るんだがいいか?」


「あ、ああ、別に構わんが……ちょっとこっちも待ってくれるか」


 それから三分ほどして、ディオスさんの方は初老の男性が、ライギルさんはミーシャさんを呼んできた。


「あんたは?」


「私はミューゼンと言います。ラスターク領にて商会を営んでおります」


「これはご丁寧に」


 ミューゼンさんとミーシャさんがお互いに挨拶を交わす。


「それでいったいどんな用でしょうか?」


「はい、実は今回この町を通り、領地へ帰るところなのですが、この護衛に雇った二人が大変料理の美味しい宿を見つけたということでお邪魔しようかと」


「それはありがとうございます。今日はまだ本格的に営業しておりませんので、お昼の残り物になりますがよろしいですか?」


「ええ、お願いいたします」


 そう言うとミーシャさんは奥に引っ込んで、野菜サンドを持ってくる。


「ふむ。それでは……これは確かに味わい深いですな。二人が言うのも頷けます」


 初老の男性は野菜サンドに舌鼓を打つ。


「ミューゼン。俺の言った通りだろ?」


「……それで、ご用件とは? 先ほどのパンを召し上がっていただいて終りでしょうか?」


「いいえ、一口食べて確信しました。実はこちらのパンを王都の店で売らないかというお話なのです」


「王都で?」


「はい。我がラスターク領は麦などの一大穀倉地帯です。その麦を王都に運んでいるのですが、いかんせん作られる料理が限られておりまして。そこで大量に麦が使われる大衆向けの料理を探していたのです。このパンならば条件を満たしています。どうですかな?」


「お断りいたします」


「どうしてです?」


「まずこのパンの製法自体うちのものではありません。ですから、勝手なことはできません。それに、隠しごとをしている人と商売はできません」


「隠しごとですか?」


「そこにいる護衛の方は護衛ではないでしょう? そのような不誠実な方とは取引はできません」


「えっ?」


 ディオスさんたちって護衛じゃないの? でも、見た目は冒険者だし……。


「これは失礼しました。確かに私たちの関係は推察された通り、護衛と商人ではありません。しかし、先ほど申し上げたことは事実です。どうかお考えいただきませんか?」


「二度は言いません。うちのものでない技術について何かするつもりはありません」


「こちらの方はさる貴族のご子息ですがそれでもですか?」


「余計にですね。身分をかさに強要する相手に何も渡す物はありません。これ以上話をするおつもりでしたらこちらにも考えがあります」


「おい! ミーシャ大丈夫なのか?」


「ええ。こちらは冒険者ギルド公認の宿です。まさか越境組織のギルドとことを構えますか? 今回のような強硬策を商人ギルドに話しても構いませんか? 不当な儲けに対しては制裁が下りますよ?」


「申し訳ありません。そう言うつもりではなかったのですが……」


「先程までの態度でよく言われますね」


 珍しくミーシャさんが怒りをあらわにして話している。こんな姿は私が宿に来て初めてかも。


「あの、貴族って……」


「ああ、黙っていたが俺はラスターク家の長男だ」


 ディオスさんが貴族? しかも、長男ってことはいずれ当主になるの!? こ、これは関係を絶ってしまわなければ。


「あ、あの、私は関係ないので失礼します!!」


 大慌てで食堂を後にする。ごめんなさい、ミーシャさん。私にはハードルが高い案件です。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ