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新年度

 食事も終わりゆっくりしていると、小さい子たちがうつらうつらと眠たそうにしている。私たちが来る前も遊んでいたらしいし、そろそろ帰ろうかな。


「院長先生。それじゃあ、私たちはそろそろ……」


「そうですね。子どもたちもこの調子ですし」


「お姉ちゃん帰っちゃうの?」


「うん、またね!」


「ほら、挨拶しなさい」


「一緒にねよう?」


 私が帰ろうとするとラーナちゃんが声をかけてきた。嬉しいけど孤児院の人にも迷惑がかかるよね。


「こら、困らせては行けませんよ」


「アスカ、どうするんだい?」


「う~ん。でも片付けとかあるし……」


「それぐらいなら私も手伝うし、いいわよ」


 エステルさんがそう申し出てくれる。


「じゃあ、一緒に寝よっか?」


「うん」


 ラーナちゃんに連れられてそのまま寝室へ。寝室は二段ベッドだらけだ。まるで合宿みたいだなぁと思いながら、一緒のベッドに入る。周りを見てみると、ベッドの数が足りないから普段からみんな何人かで寝てるみたいだ。


「それじゃあ、おやすみなさい」


「うん。おやすみ」


 話でもするのかなと思ったけど、どうやら本当に眠いみたいでラーナちゃんは直ぐに寝てしまった。私もそれを見て寝ることにする。



「おはようございます、アラシェル様……」


 昨日はまた神託をもらった。ちょっと大変な内容だったけど、頭の中で整理したいのでまだ誰にも話さないことにする。気を取り直して、朝ご飯だ。

 朝も用意が大変みたいで、院長先生と年長の子たちがせかせかと動いている。正直、ここに洗濯や遊び相手などをしているのなら、院長先生も疲れて当然だろうと思う。


「本当はお手伝いさんがいたらいいんだろうけど、その人を雇うわけにもなぁ……」


 そんなことを考えながら、起きてきたみんなと一緒に朝食を取る。


「パン……なんだか美味しくない……」


「うっ、げほげほ」


 慌ててパンを水で飲みこむ。ラーナちゃん禁句を……どうやら昨日の食事との落差が大きいみたいで、みんなもよく見ると大なり小なり同じ表情をしている。これは困ったな。


「企画者としては嬉しいんだけど、さすがにこれは放っておくとまずいよね」


 私は院長先生をこそっと呼ぶと、マジックバッグからドライフルーツを取り出す。パンに混ぜ込むなり、簡単な料理と一緒に出してもらうなりして気を紛らわせてもらおう。


「何から何まですみません……」


「いいえ。むしろここまで昨日の料理を楽しんでもらって嬉しいです。あっ、それとこれ」


 そう言って私は昨日渡しそびれた、二つ目の子供たちへのプレゼントを取り出す。


「本当は昨日あげたかったんですけど、みんな眠そうだったので。私から渡すより趣味が分かる院長先生から渡してあげてください」


「良いんですか? アスカさんが細工師として作られたものでは?」


「いいえ。これは子どもたちのために作ったものですから。良かったら十五日ぐらいにまた即売会を開くので来てくださいね」


「何とお礼を言っていいのやら。今まで、あの子たちに何もできなかった埋め合わせが出来ます」


「そんなこと言わないでください。子どもたちは感謝してますよ。だからノヴァたちだってここに戻って来てるんですから」


「……そうですね。これからも子どもたちが戻って来れる様、続けていきますわ」


「その意気です。でも無理しないでくださいね。みんな心配してますよ」


「はい。気を付けますわ」


「じゃあ、私はこれで」


 食事を終え、孤児院を後にする。もうちょっと遊びたかったけど、あんまり入り浸っても良くないしね。ちなみにミネルたちはジャネットさんたちに付いて行ったみたいで、おそらく昨日はライズと一緒に寝たのだろう。




「ただいま~」


「あっ、おかえりおねえちゃん。昨日はどうしたの?」


「うん。出先で泊まってきたんだ」


「珍しいね。あんまり宿とか開いてないのに」


「実はね、孤児院に泊まらせてもらったんだ」


「孤児院に行ってたんだ。じゃあ、エステルさんも一緒だったの?」


「そうだよ。エステルさんも帰ってたみたい」


「へぇ~。それで今日はどうするの?」


「う~ん。店は開いてないし、ゆっくりするよ」


「じゃあ、ここでお話ししようよ!」


「いいよ~」


「ありがとうおねえちゃん! 実はしばらく暇なんだよね。冒険者ギルドが開けて欲しいからって開けてるけど、まずお客さんは来ないし、宿にいる人も食事の時間以外は出てこないから」


「洗濯とかは?」


「お母さんがやってくれてるんだ。といってもこの時期は冒険者の人もだらけてるから、シーツも交換しなくていいって人もいて本当にすることがないの」


「でも、開けないといけないんだね」


「そうなんだよね~。まあ、宿の人を追い出すわけにもいかないし仕方ないよ」


「追い出されたら私も困る」


「でしょ?」


 エレンちゃんとひたすらグダグダとお昼まで話をする。内容はと言えば、最近来た困ったお客さんとか私の冒険のお話などを交互に話していった。


「エレン。そろそろお昼だから」


「は~い」


 エレンちゃんが昼の部の用意のため、ゆっくりと立ち上がる。宿が開いているといっても、外部の食事は断っている。いつもは忙しいお昼も泊まり客にのみ提供するので、なんだか気が抜けている様だ。

 ライギルさんに泊まり客だけなんですかと聞いたら、そんなに長く食材を持たせられないし、足りなくなっても買いに行くことが出来ないからやらないんだそうだ。来てくれたからには何らかの形で食事を提供したいこだわりが垣間見えた。


「さて、私もごはんにしよう!」


 だらけた体をほぐし、ご飯を注文する。ちなみにこの期間の食事は一種類しかない。休みの前にあらかじめ聞いていた食数を作るのみだ。だから、どうしても後半の食事は干したものなどを使った料理が多くなる。冷蔵庫が出来たといってもお店として考えれば、まだまだ十分な量を貯えられないのだ。


「まあ、この時期にご飯が出てくるだけでも良しとしなきゃね」


 安宿に至っては自分で用意しろと言わんばかりで、その間は基本どんなサービスも中止するらしい。高い宿でもいくつかのサービスは停止するというのだから、この宿はかなりいい方なのだ。


「ふぅ~、今日もごちそうさま!」


 食事を終えて私は部屋に戻る。


「はぁ~、やっぱり部屋は落ち着くなぁ~。ごろごろ」


 ベッドに即ダイブしてごろごろする。今日はちょっとだけ細工をしようと思っていたけど、昨日も頑張ったしまあいいや。




「こうしてすでに三日経ったわけですが……」


「おねえちゃん大丈夫? パジャマで食堂に来るのはさすがにまずいよ」


「そうよアスカ。さすがにだらけ過ぎよ。年頃のあなたがエレンに注意されるとか恥ずかしくないの?」


「エステルさん。そうは言っても一度だらけるともう駄目なんです! この誘惑には勝てません~」


「……エレンちょっと借りるわよ?」


「は~い」


 ぐいぐいとエステルさんに引っ張られてお外に連れていかれる。さっむ~。


「ちょ、エステルさん寒いです!」


「いいから来なさい!」


 私はそのまま連れていかれた。着いた先は孤児院だった。


「ほら、アスカおねえちゃんが来てくれたわよ。この前のお礼をちゃんと言いなさい。私は仕事があるから帰るけど、キチンというのよ」


「「は~い!」」


 子どもたちは相変わらず元気だなぁ。


「アスカねえちゃんこの前はありがとな。俺たち二つももらえるなんて思ってなかったよ」


「ありがと。ひつじさん、セティと一緒にだいてねてるんだ」


「そうなの。どう?」


「とってもあったかい!」


「良かったね」


 口々に子どもたちからお礼を言われる。本当に作ってよかったなと再認識した。


「よし、そうと決まれば即売会はもちろんのこと、次の納品分を作っちゃわないと!」


「おねえちゃん、帰っちゃうの?」


「今日はお休みだよ」


「やったぁ!」


 子どもたちが入れ変わるように飛びついてくる。う~ん。本当に元気いっぱいだなぁ。


「そう言えば、アスカお姉はどうしてパジャマで来たの?」


「へっ?」


 そう言えば、そのまま来たんだっけ。ま、まあ、知らない人じゃないしいいかな?


「ミリィ、そういうことは言っちゃいけないんだぞ! ねえちゃんは他に服がないんだよ!」


「あっ、いや、そんなことは……」


「そっか……ごめんなさい」


 いや、違うの。服はいっぱいあるんだよ。ただ、めんどくさかったのと、今日はエステルさんに無理に連れて来られただけなんだよ。だからその目をやめて~。


「違うの! 話を聞いて!」


 結局、必死の説得により子どもたちも分かってくれたようだ。ああ。うん……そうだねという何とも言えない表情をしていたけどね。きっとこの子たちなら大丈夫だよ。


「それじゃあ、一緒に遊ぼうか!」


 その後も子どもたちのパワーに翻弄されながらも、お昼をいただいたりして何とか乗り切ることが出来た。


「それじゃあ、またね!」


「またきてね~」


 こうして私は宿に帰った。


「うん。あの子たちの笑顔も見れたし、心機一転明日から頑張ろう!」


 そう心に誓った私は、店が開き始めるまでの残り二日間を細工に費やしたのだった。ちなみにこの時に作ったのは魔道具だ。依頼も受けないし、魔力を大量に使ってもいい期間は限られるからね。



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