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大宴会

 大盛況のまま上演が終わり、服を着替えた私たちは再び食堂へ戻る。孤児院に来てから結構時間も経っていてもう十七時頃だ。


「夕方になっちゃいましたね。それじゃあみんな、食堂を元に戻してくださ~い」


「「は~い」」


 元気のいい返事とともに、みんなで食堂を元に戻す。


「これからどうするのおねえちゃん?」


「今日はね、みんなの誕生日でしょ? そこで誕生日特別メニューを用意しました!」


「え~、どこどこ?」


 子どもたちが目を輝かせる。


「とはいっても、まだここにはありません。お店で作ってもらっています。だから、おねえちゃんたちは今からそこへ行ってお料理を取ってくるから、楽しみに待っててね」


「は〜い!」


「それじゃあ、院長先生。僕やアスカたちは今から料理を運んで来るので、しばらくの間よろしくお願いします」


「任せてください。しかし、リュートもちょっと見ないうちに立派になったわね」


「そ、そうですか? 目標が出来たからかもしれません」


「なるほど、これからも頑張りなさい。ただし無理はしないように」


「はい!」


 私とリュート、それにジャネットさんで料理をもらいに行く。ノヴァはエステルさんとお留守番だ。さすがに院長先生一人でテンションが上がった子どもたちの面倒を見るのは大変だからね。


「ふぅ~、それにしてもやっぱり外は寒いね」


「そうだねぇ。今回の冬は冷え込んでるよ」


「でも、アスカのコートは暖かそうだね。僕は別で帽子も被ってるけど、そんなに暖かくないんだよね」


「材料さえくれれば今度作ってあげるよ。今からだとそんなに使う機会はないかもしれないけど」


「コートは直ぐに買い替えないから数年持つと思うけどね」


「そうですね。ジャネットさんの言う通りだし、今度お願いしようかな?」


「じゃあ、頑張ってウルフの毛皮集めてね」


「はいはい。っと着いたね」


「裏口から入るように言われたけど、良いのかな?」


「さっさと行くよ。駄目なら堂々と表から入ればいいよ」


 さすがフィアルさんと付き合いが長いジャネットさんは気にせず奥へ進んでいく。その決断の速さは見習いたい。

 ゴンゴンと勢いよくノックしてそのまま店に入るジャネットさん。


「フィアル~、いるのかい?」


「あっ、ジャネットさんにアスカちゃんも。こんにちは。料理の方は仕上げの途中だからちょっとだけ待って」


「あっ、はい。でも、どうしてリンさんまで?」


 確かにここの店員さんだけど、年末から年始の間はお休みなのに……。


「店長ったら全部一人でやるつもりだったのよ? ひどいと思わない。相談ぐらいしてくれれば手伝うのにね」


 そう言いながらリンさんはあったかい飲み物を入れてくれる。あったかい格好をしているけど、好意は嬉しいし、染みる。


「アスカ、料理ができましたよ。持っていって下さい。それと、こちらが簡単な食べ方です。この通りにしてもらえればもっと美味しくなりますから」


 フィアルさんからメモ帳を受け取る。そこには各料理の食べ方が記載されている。でも、中には加熱するものまであるけど完成したはずじゃあ……。


「アスカは火の魔法が使えますからね。ぎりぎりまで完成させて、後は現地で完成する形にしました。一部はさすがに無理でしたが……」


「ありがとうございます、フィアルさん。みんなも喜びます」


「リュートも普段から頑張っていますからね。たくさん食べてくださいね」


「はいっ! ノヴァに負けないように一杯食べます」


「それではあまり話をしていると料理が傷みますから今日はこの辺で。そうそう、器や鍋などは終わったらこちらに持ってきてください。洗うのはこちらでやりますから」


「何もかもお世話になります」


「いいえ、自分で言い出したことですから」


 料理を受け取ってフィアルさんと別れた私たちは再び孤児院を目指して歩きだす。料理が入った鍋などはマジックバッグに入れてあるので、楽なのがのが救いだ。


「さあみんな、帰って来たよ~」


「おかえりおねえちゃんたち! リュートお兄も」


「すっげーいいにおいだ~」


「そうだろ? これはあたしの知り合いの店の料理だからね」


「え~、冒険者ってもっとこう肉をまる焼きにしたのとか食べてるとおもってた」


「誰だい、そんなこと言ったのは?」


「でも、前にノヴァ兄が肉なんてやけば食えんだよって……」


「ノヴァ!」


 子どもたちに変なイメージを植え付けないでほしいと、ノヴァをしろりと睨む。


「いや、だってよ。俺は料理できないし。で、でも、最初の頃はリュートだって変な食べ方だったぞ!」


「あれは美味しく食べられるように研究してたんだよ」


「なんだぁ~」


「ふふっ。そういうことだからこの料理はとっても美味しいよ。みんなも楽しみにしててね」


「もう出来てるんじゃないの?」


「料理を作った人がみんなにも一番美味しい時に食べて欲しいからもうちょっとだけ待っててね」


「そんなぁ~」


「なら、今食べちゃう? 少し待てばもっと美味しいけど……」


「じゃあ、がまんする」


 うんうん、食に正直でよろしい。そうでなくちゃね。私はまずスープを食堂横のキッチンに置く。次に冷えた野菜を切るのをエステルさんとリュートに任せる。エステルさんはもちろんのこと、リュートもかなりの手つきだ。ジャネットさんにはみんなの面倒を見てもらっている。


「サラダの方は二人に任せとけば大丈夫だね」


 私はサラダを二人に任せ鍋を火にかける。そしてその横には油たっぷりの鍋がもう一つ。今日のメニューはパンとグレートボアと野菜のスープ。それにサラダとオークカツだ。

 脂も貴重なのに底の深い鍋に並々に入っていて、一気にみんなの分が揚げられる。脂もどうやら動物性油中心のようでかなり美味しく揚げられそうだ。


「それじゃあ、私は火の番をしなくちゃね」


「なあアスカ、俺にも何か手伝うことないか?」


「ノヴァは子どもたちの相手をお願い。後、これが揚がったらすぐに食べたいから、お皿とかの準備をしておいて。そうだ! それとパンに切れ込みを入れてもらえると嬉しいな」


 今日のパンはコッペパンみたいな形だ。好みでサラダを挟んでタレをかけて食べられる。そこまで時間がなかったはずなのにフィアルさんたら張り切ったんだな。まるでその時の光景が浮かぶようだ。カツに関しては私もライギルさんに教える時に何度も揚げたからそれなりに上手いんだよね。


「よっしゃ、聞いたなお前ら。このねえちゃんたちの手伝いだ!」


「「お~!」」


 元気よく答えると子どもたちはそれぞれ、指示を仰ぐ。


「このお皿は?」


「それはパンを乗せるから切ったものから置いていって席に運んで。そっちのちょっと大きいお皿はサラダとカツを乗せるから、こっちに並べておいて。ちょっと深いのはスープ用だからそれはある程度重ねてそこに」


「は~い」


 てきぱきと子どもたちが動いていく。食べたいのもあるんだろうけど、手伝いができるということが嬉しそうだ。


「う~ん。そろそろいい感じかな?」


 スープの方は問題ないけど、カツの方はどうだろう? 小さいのを一つ取り出して切ってみる。


「きちんと火も通ってる。もういい頃だね。エステルさん、リュート。サラダの盛り付けは?」


「終わってるわよ」


「じゃあ、先にスープを入れちゃいますね。二人はカツを上げたら、すぐに切って行ってください。冷めちゃいますから」


「分かったわ」


「任せてよ」


「後は熱いのでこれを」


 私は二人に皮手袋を渡して、切ってもらうようにする。切ろうとしても熱すぎて火傷しちゃうからね。


「それじゃあ、行きます!」


 私がスープを入れ始めると同時に二人もカツを上げては切るを繰り返す。


「はい、おねえちゃん。次の器……」


「ありがとうラーナちゃん」


 ラーナちゃんから器を受け取り、スープを入れるとそれを別の子に渡す。そしたらまたラーナちゃんから器をもらう。この動作を繰り返してスープの方は入れ終わった。


「先にスープが入れ終わったので、カツを持って行っちゃいますね」


「お願いアスカ」


 エステルさんの後ろにある切り終わったカツをサラダと同じサイズのお皿に盛ったら、次々と食堂に運んでいく。


「うわ~、すげえいいにおいだ~」


「こんな料理いままで見たことない!」


 口々に子どもたちがほめてくれる。良かったねフィアルさん!


「さあ、みんなの分がもう少しで揃うからもうちょっとだけ待っててね」


「わ~い」


「アスカ、これで最後よ。お願いね!」


「はい、エステルさん」


 席はちょっと足りないけど、ラーナちゃんが私の膝に座ったりして何とか食堂に収まっている。


「それじゃあ、簡単な挨拶をしてもらって食べましょうか。アスカさんお願いします」


「私ですか?」


「ま、言い出しっぺだしねぇ」


「で、でも……」


「ほらアスカ。早くしないと子どもたち食べられないわよ」


「……分かりました。みんな、お誕生日おめでとう。色々大変なこともあると思うけど、今日のことを、楽しかった時のことを思い出してこれからも生きていってね。それじゃあ、いただきます!」


「「「いただきま~す!!!」」」


「うわ~これなんだ! 肉汁があふれ出す」


「パンはどうするの~?」


「こうやってサラダを挟んでタレをかけてもいいし、そのままでも食べられるよ」


「うっそだ~」


「パンは固いんだよ。おねえちゃん」


「じゃあ、一回食べてみて?」


「はぐっ! なんだこれやわらけ~」


「でしょ」


「アスカおねえちゃん。それ取って……」


「ん? ラーナちゃんはスープだね。はい!」


 膝に乗ってバランスが悪いので、ラーナちゃんの食べたいものを私が取ってあげることにした。そう言えばふと食堂を見ると、ノヴァとエステルさんがいない。頑張ったけど席が足りないから奥で食べてるのかな?



   ✣ ✣ ✣


「驚いたわノヴァ。こんなことを考えてたなんてね」


「俺もちょっとびびってるけどな。相変わらずアスカは全力だな~」


「そうね。だけど、これからはちゃんと教えてよね。私が何もできなかったじゃない!」


「良いんだよエステルは。これまでだって院のためにずっと頑張って来ただろ? 給料だって渡してんじゃねえか?」


「それは……でも、ノヴァたちも一緒でしょ?」


「俺たちは院を出てすぐは、狩りができるようになっても自分たちのことを優先してた。お前はその間もここに来てくれてたんだろ?」


「仕事が見つからなかっただけよ」


「それでもだよ。だから、あんま無理すんなよ?」


「ノヴァに言われるなんて癪だけど、ちょっとずつ頑張って見るわ」


「ああ、そうしろよ」


「だから、覚悟しなさいよ!」


「はぁ? どういうことだよ」


 結局エステルはそれ以上口を開かず、料理を黙々と食べだした。仕方ないので俺も一緒に食べる。


「それにしてもフィアルさんの料理本当に美味しいわね」


「そうだな」


 こうしてにぎやかな食堂とは裏腹に、ゆっくりした時間がキッチンでは流れていった。



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( ̄_ ̄)……………… 青春だねーww
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