孤児院にて
「そう言えばプレゼントの話だったよね。じゃあ、まずは年長の子から。はいこれ」
私は持ってきたマジックバッグから、全員分作ったネックレスを取り出して首にかけてあげる。
「わぁ、綺麗……」
「ほんとだ!」
わいわい年長の子が感想を言いあっていると、年少組も気付いたのか、わらわらとこっちに集まってくる。
「なになに~」
「すげ~かっこいい」
「ちがうよ~、かわいいんだよ」
「どっちでもいいじゃん。いいな~」
「ふふっ、きちんとみんなの分もあるよ。はい、並んで並んで~」
軽くぱんぱんと手を叩くとみんな一斉に列を作る。普段から院長先生が何かやっているのかな? びっくりするぐらい綺麗に並んでる。
「おねえちゃん、はやくはやく!」
「はいはい」
私は先頭になった子に次々とネックレスをかけていく。
「本当にありがとうございます。私ではそこまで手が回らず……みんなもお礼を言いなさいね」
「「「ありがとう!」」」
「どういたしまして!」
「だけど、院長先生もすごいと思うけどねぇ。限られた予算で、みんな飢えることなく暮らしていけてるんだから」
「そう言っていただけると私も頑張っている甲斐がありますわ」
「でも、無理はいけないわよ院長先生。この前も腰が痛いと言っていたでしょう? 言ってくれれば手伝うから……」
「でも、あなたも院を出て大変でしょうエステル」
「院長先生ほどじゃありません。それに宿の方たちのお陰で私もずいぶん楽をさせてもらってますから」
「そうね。うちからも数人雇っていただいて助かっているわ」
私たちがそんな会話をしていると我慢できなくなったのか子どもたちが話しかけてくる。
「ねえ、おねえちゃん遊ぼう?」
「まだ、話の途中だからちょっと待ってね」
「いいえ、今日ぐらいは目いっぱい遊ばせてあげたいので構いませんよ」
「分かりました。それじゃ、何して遊ぶ?」
「冒険者ごっこ!」
「冒険者ごっこ? ど、どうやるのかな?」
冒険者も色々だし、さすがに予想がつかない。
「わたしが冒険者でおねえちゃんがまものね」
「なんと! それじゃあ、やっちゃうぞ~」
私は両手を広げて、がお~と少女に向かって迫る。
「おりゃ~」
ぺこっとかわいい音が私のお腹に当たる。まあ、こんなもんだよね。相手は七歳ぐらいだし。
「うぐぐ、わ、私を倒しても第二第三の敵がきっとお前の前に現れるだろう……ばたっ」
「おねえちゃんよわ~い。ノヴァ兄はもっと強いよ?」
ノヴァはいったいどんな魔物を演じているのだろう? まさか、子どもたちをなぎ倒しているとか?
「まあ、おねえちゃんは魔法使いだからね。力はあんまりないんだ」
「そうなんだ? ねえ、魔法見せて?」
「う、う~ん。危ないからここじゃあね」
「だめ~?」
「え~と……」
誰か助けてと辺りを見回す。院長先生と目が合った。
「あら、どうなさいました?」
「この子が魔法を見たいらしいのですが……」
「では、見せてやってくださいませんか? たまにリュートがみんなに見せてくれますが、他の人のはあんまり見たことがないので、いい経験になると思います」
それだと私が使うとしたら火になっちゃうんだよね。万が一にも火事になっても困るし……。
「それじゃあ、子どもたちが絶対にここから入ってこないようにしてもらえますか?」
「はい。みんなこっちにいらっしゃい」
院長先生の声でみんなピタッと動きを止めて半円状に集まる。私はその向かい側に立った。
「危ないから絶対近づかないでね!」
「「「は~い!」」」
「それじゃあ、いくよ~」
私はまずは両手に小さな火の玉を作り出す。そしてそれを軽く上に上げるとそのまま円を描くように2つの火の玉をぐるぐると回す。
途中からは八の字に回したりふよふよと浮かせたり、その場に留めたりする。動きも最初は両方同じ動きをしていたのを、途中からは左右で変化を加える。
「最後はちょっと離れててね」
私も一歩後ろに下がって、前の方にいる子どもたちを下がらせる。大丈夫だと思うけど一応ね。
「二つの玉よ、合わさり弾けろ!」
ぽんっと新たに生まれた火球が弾ける。でも、元々の大きさが小さいから合わさって弾けた火の玉の勢いも周囲三十センチほど。火も下に落ちることなく空中で霧散する。ほっ、一先ずは安心だ。
「す、すげ~」
「きれ~」
「ほんとにリュート兄ちゃんよりすごい」
う~ん。最後の一言はリュートが落ち込むからやめてあげて。
「あんなに細かく動かせるものなのですね。リュートに見せてもらうのとはかなり違いますね」
「院長先生。アスカは魔法使いのスキルがあるからです。僕じゃとても無理ですよ」
「そうなのですね。貴重なものをありがとうございます。子どもたちの中には冒険者になりたいものもいまして、きっといい経験になったでしょう……」
まださっきの魔法で興奮冷めやらぬ子どもたちを置いて、私たちは話をする。
「でも、良いんですか? 冒険者はとても危険ですよ」
「そうだね。ノヴァたちの先輩とやらもなったんだろう?」
私もジャネットさんも子どもたちのことが心配になり、院長先生に問いかける。
「ええ、あの子は残念でした。ですが、他になれる仕事がほとんどないのも実情でして、どんなことでも経験させておいてあげたいのです」
院長先生も話し方からあまり冒険者になって欲しくないのだと分かる。だけど、現実問題として雇用先が無いのだ。飢えたり盗賊になるよりはということなのかもしれない。
でも、雇用に関しては院長先生にも私たちにもどうしようもないことでもある。そう思っていると……。
「なにこれ? 石があかくひかってるよ」
「ん、何かあったのか?」
子どもたちの方を見るとみんなペンダントを前に突き出している。よく見ると何人かは石が光っている様だ。
「あれは?」
「そう言えば説明していませんでした。あの石は程度は低いのですが、一応魔石なんです。魔力を通すことが出来ると淡くですが、自分の適性の高い属性色に光るんです。ちょっとした遊び心だったんですが……」
「みんな夢中だねぇ」
原理が分からずとも、さすがは子ども。順応力が高く、ほとんどの子がそれぞれの適性の属性色に光らせられている。
「ね~ね~。おねえちゃんこれどうしてひかるの?」
「これはね。みんなの魔力に合わせて光るようになってるの。一番得意な色になるようになってるんだよ。赤いのは火、水色は水、緑は風、茶色は土って感じかな?」
「へぇ~、すご~い」
「ふふっ、もしかしたら一人ぐらいは二色ぐらい光らせられるかもね。ほら見てて」
私がその子からネックレスを借りると、赤から緑に色を変える。
「頑張るとこんなこともできます!」
「すご~い。あかとみどりだ~」
先に試しておいてよかった。きっと子どもたちならこれぐらい聞いてくるって思ってたんだ。きちんと得意属性の魔力をある程度近づけて石に込めると、両方の色に光るんだよね。
「ねえ、わたしにもできる~?」
「どうかな? 頑張ったらできるかもね。おねえちゃんも練習したからね」
「ええ~、おねえちゃんが練習しないといけないなんて、むりだよ~」
「そんなことないよ。きちんと調べないと分からないけど、出来るようになる子もいるかもしれないよ?」
「じゃあ、がんばってみる」
「うん」
魔力に関しては才能でかなり決まってしまうけど、この石を光らせるぐらいならほとんどの人が出来る。生活魔法を十分に使えない子でも、二属性持ちぐらいならいるかもしれない。
「おねえちゃんみて」
「あっ、ラーナちゃんもできたんだね……って白!?」
「うん。すごい?」
「う、うん。すごいけど、何の色だろ?」
「これはきっとかみさまのいろ。この、ネックレスの女の人とおなじ」
「アラシェル様と?」
う~ん。ラーナちゃんが言う通りなのかな? だけど、巫女である私も同じことができるはず……。ちょっとだけ頑張ってみよう。私は試作品のネックレスを取り出すと、頑張って風と火の力を抑えてアラシェル様のことを想ってみる。
「……」
「おねえちゃんもいっしょだね……」
「えっ!」
見ると私のネックレスも淡く白く光っている。ラーナちゃんよりは暗いけど。でも、どうしてラーナちゃんがアラシェル様の色に……。
「アスカ、そろそろやめさせないと収拾付かないよこれ」
「はっ! そうですね。みんな~、いったんちゅうも~く」
「「は~い」」
「さっき光った人も無理だった人も、このネックレスはみんなの分しかありません! なので、使うのは院にいる時だけね。約束だよ」
「なんで~」
「でないと、おねえちゃんが回収しに来ます!」
「ちぇ~。折角、街の人を驚かそうと思ったのにな」
「いたずらに使う人にはお仕置きします。いいですね~」
「「は~い」」
う~ん、ここまで言っとけば大丈夫かな? 後はエステルさんとかリュートとかにもしばらく見ててもらおう。私もしばらくは寄るようにはするけどね。それにしてもラーナちゃんの石の色、気になるなぁ。今度調べてみよう。
「じゃあ、なにかべつのあそびしよ~」
「それじゃあ、僕らの出し物を見てみる?」
「出し物~?」
「うん。アスカたちとちょっとね。みんな見たい?」
「「みた~い」」
何とか劇の方向にもっていった私たちは持ってきたマジックバッグを取り出し、準備にかかる。
「なんだろ~」
「エステルねえ知ってる?」
「私はアスカたちが来ることも知らなかったから分からないわ」
「どんなのだろうね~」
隣の部屋で着替えていると子どもたちの期待の声が聞こえてくる。うう~緊張する~。
「ほら、ここで緊張してたらすぐにとちっちまうよ!」
「は、はい!」
ジャネットさんに喝を入れられ気を取り直して、舞台に向かう。私がさっき火の魔法を披露したところだ。ここ思ったより狭いかも……。
「な、なあ、アスカ。これリアルすぎないか?」
そう言いながらウルフの被り物を持つノヴァ。本物の毛皮使ってるからね。でも、魔物が危険だって思ってもらうには仕方ないと思うのだ。さっき、簡単にやられた魔物役の私がいうことでもないけど。
「じゃあ、行くとするかねぇ」
「はい!」