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本番!


「さあ!今日は頑張らないと!」


 ぺちぺちと頬を叩いて気合を入れる。今日は待ちに待った新年パーティーの日だ。昨日は日本なら大晦日だったけど、年の変わり目も時計が一般家庭にないこの世界では、普通に過ごしているようだ。寒い中、街の時計に群がるわけにもいかないしね。


「とりあえず持っていくものの確認から。人形四体よし! 細工物よし! ぬいぐるみよし! 後は衣装だけど……リュートが持っていってくれるんだったね。今はまだ朝だからお昼までは時間があるなぁ」


 集中して何かをやって夜に響いてもいけないし、何か簡単なことはないかなぁ? ベッドの上でそんなことを考えていると、ミネルたちが飛び乗ってくる。


「わわっ!」


 急な出来事でぼふっとベッドに倒れ込む。そこにミネルたちが乗ってきてしまったので、私は身動きが取れなくなってしまっぁ。


「なあに、も~。一緒に寝たいの?」


《チッ》


 ぴょんぴょん飛びながら答えるミネル。しょうがない……お昼までは時間があるし、このままごろんとしてよう。たまにはゆっくりすることも大事だよね。


「そんなこと言ってこの四日間ぐらいはほとんど何もしてないけどね~」


 唯一動いたのが、劇の練習日だけだ。他は明日からもやることがないということで、わざと置いている。六日以降にならないと店も開かないから、積極的に動いて買い物に行きたくなっても困るし。


「それじゃあ、おやすみ~」


 せっかく早くに起きたけど、持ち物チェックも終わったしおやすみなさい。



《チュンチュン》


「ん……?」


 この声はレダかぁ。


「レダどうしたの?」


 レダに何かあったのかと聞こうとすると、ドアがノックされた。


「は~い」


 誰か来たから教えてくれたのかな? ドアを開けてみるとそこにはエレンちゃんがいた。


「エレンちゃん。何か用事だった?」


「えっと、おねえちゃん今日出かけるんだよね? もうお昼だよ」


「へっ?」


 慌てて私は窓に向かって太陽で時間を確認する。いつの間にかお昼になってる。


「わわっ!? 急いで食べないと!」


「ちょ、ちょっと待っておねえちゃん。部屋着だよ!」


「本当だ! 早く着替えなきゃ!」


 急いで着替えて食堂に下りる。食堂では昼時ということで賑わっている。さすがにこの時間帯だと座るところはないなぁ。


「どうしよう……」


「アスカちゃん起きたのね。はいこれ! 悪いけどお部屋で食べてね」


 ミーシャさんから渡されたのはチキンサンドと野菜サンドとジュースが乗ったプレートだった。


「ありがとうございます」


 急ぎ部屋に戻って食事を取る。


「んん~。もうちょっと時間があればもっと味わって食べるのにな」


 咀嚼とまではいかないけど、サンドウィッチを食べジュースを飲むという行為を繰り返し、短い昼食を終える。


「んぐんぐ。ぷは~、さて行くよ!」


 私はミネルたちと一緒に待ち合わせ場所に向かう。ちなみに待ち合わせ場所は孤児院近くの店の前だ。今日はそのお店は閉まってるんだけどね。


「さて、予定よりちょっと早いけどどうかな?」


 待ち合わせ場所に着くとすでにリュートがその場にいた。


「リュート! 新年あけましておめでとう!」


「う、うん。おめでとう?」


 ああそうだった、新年を祝うことはあってもその挨拶なんてなかったっけ。騒ぐ理由と年の区切りをつけるぐらいの意味合いなんだった。


「それより早いね。結構早くからいたの?」


「そうでもないけどさすがに寒空の中、待たせちゃ悪いと思って」


「でも、ノヴァはいないね」


「ノヴァはもう孤児院に行ってるよ。子どもたちの相手は大変だからね。なんてったって今日は誕生日だし」


 そっか。子どもの時の誕生日って特別だもんね。ジャネットさんがまだだというので、少し二人で話をしながら待つ。二分ほどでジャネットさんも来たのでみんなで一緒に孤児院に入った。


「おっ! みんな来たな。こっちこっち!」


「えっ? 二人ともどうして……」


 事前に何も知らされていないエステルさんがとってもびっくりしている。よし、まずはサプライズの第一段階は成功だな。


「こんにちはエステルさん。ノヴァも」


「おう! さあ座れよ」


 とノヴァが言うものの、孤児院の食堂は人であふれかえるほどで、もう座るほどのスペースはない。椅子も足りないし。


「どこに座ったらいいの?」


 思わず私がそう聞くと。


「ん~そうだな。ベル! お前の椅子貸してやれよ」


「いいよ~」


 私より小さい子……多分七歳ぐらいの子が席を空けてくれる。心苦しいなと思っていると、座ってと促される。仕方なく座ると……。


「それじゃわたしも~」


 ひょいっと椅子に座った私の膝に飛び乗ってきた。なるほど! こうやって椅子不足を解消させるのか。


「重くない?」


「平気だよ」


 さすがに七歳児がちょっと乗ったぐらいで耐えられない鍛え方はしてないからね。横を見ると私と同じようにジャネットさんが子どもたちを乗せている。でも、ジャネットさんは片膝に一人ずつ人を乗せていた。


「びっくりしたかい? これでも村にいる時は子どもたちの相手をしてたからねぇ」


「ところでおねえちゃんたちだあれ?」


「そ、そうだよね……」


 そういえば自己紹介すらまだだったね。


「こっちのおねえちゃんがアスカでそっちのお姉さんはジャネットさんっていうんだよ。僕とノヴァの冒険者仲間なんだ。僕らがたまに持って来ていた魔物の肉も、この人たちと一緒に倒したものなんだよ」


「へ~、リュート兄ちゃんより強いの?」


「……まあ、そうだね」


 若干悔しそうだけど、私たちの前で嘘も言えないのでリュートは正直に答える。


「まあ、そこのジャネットは俺の師匠だしな!」


「へ~、ノヴァ兄がおとなしく教えてもらってるなんて意外。付き合ってるの?」


 おおっと、急に子どもならではの恋愛ぶっこみ攻撃だ。どうするノヴァ?


「どうしてそうなるんだ? ただの師匠だぞ?」


「だって~」


「何で私に振るのよ。セティ」


「べつに~」


 エステルさんもこの子たちの前だといつもより子どもに見える。というか年相応なんだろうけど。


「あらあら、よくいらっしゃいました。私がここの院長のアルクルです。いつもノヴァとリュートがお世話になっています」


「いいえ、こちらこそ」


 ぺこりと挨拶をする。ジャネットさんも丁寧に挨拶を返している。


「特にアスカさんはまだ若いのに大変でしょう? エステルから聞いたところによると身寄りもないとか?」


「はい……。でも、ジャネットさんやみんながいるから大丈夫です。それにこの子たちもいますし」


《チッ》


《チュン》


「まあ、噂のヴィルン鳥とバーナン鳥ですね。とても賢いとか」


「ええ、私の言うことも理解できるとてもおりこうさんなんです」


「うわ~、俺初めて見た! ちょっと触ってもいい?」


「良いと思うけど、力は入れちゃだめだよ。小さい子たちだから」


「「は~い!」」


 子どもたちの興味は早速、私たちからミネルたちに移ったみたいで、年少の子たちはみんなそっちに行ってしまった。


「すみません。元気が有り余っていて……」


「いいえ。元気いっぱいでいいと思います。私はちょっと前まで体が弱かったので、うらやましいぐらいですよ」


「そうですか。ではお言葉に甘えさせていただきます」


「それにしても、アスカやジャネットさんが来るなんて聞いてないわよ」


「びっくりさせたかったんです。どうでした?」


「それはびっくりしたけど、どうせアスカのことだからそれだけじゃないんでしょ?」


 言い方がちょっとだけ引っかかるけど、実際にそうなのでにやりと微笑む。


「何だか怪しい笑みね。たまにやるその変な笑みはやめなさい。せっかくのかわいい顔が台無しよ」


「ええっ、かわいいなんて……」


「何なら次は鏡を向けて言うけど?」


「気を付けます……」


「まあ、エステルったら失礼でしょ。今日は彼女はお客様ですよ」


「あっ、ごめんなさい。つい……」


 エステルさんも実家の雰囲気だからかかなり気安い感じだ。孤児院にいた時はこうだったんだろうな。


「エステル怒られてやんの」


「うるさいわねノヴァ」


「あっ、またおねえちゃんたちの喧嘩だ」


「べ、べつに喧嘩じゃないわよ」


「じゃあ、漫才?」


「それも違うぞ?」


「何で疑問形なのよ。それで今日はわざわざ来てくれてどうしたの?」


「院長先生には話してるんだけど、孤児院の子はみんな今日が誕生日なんですよね。そこで、簡単なプレゼントと劇をと思って……」


「簡単なね。まあいいわ。それで劇って荷物がないみたいだけど?」


「どっちもマジックバッグに入ってるんです」


「そう言えばみんな冒険者だったわね」


「アスカ、フィアルのことも思い出してあげなよ」


「そうでした。フィアルさんからも年末までに余った食材があるということで、夕食を運んできてくれるそうです」


 実際はそうじゃないけど、建前上はね。


「フィアルさんが? でも、良いのかしら。あの店って高いのよね?」


「ええ、でも店は年末から閉めるので余った食材は使い道もないし問題ないそうです」


「そう。今度お礼を言いに行くわ」


「きっと喜ぶと思いますよ」


「エステル。そのフィアルさんというのは? 夕食をいただけるということまでは聞いているのですが……」


「東通りの道を一つ外れたところにある、レストランのオーナー兼料理長ですよ。私の勤めている宿にパンを教えてくれた人です」


「あの噂のパンを作った方なのね。良いのでしょうか?」


「はい! 本人もこの子たちのために何かしたいといっていましたから」


「ああ、シェルレーネ様に感謝を……」


 感激で院長先生がちょっと涙ぐんでいる。そんなに喜んでくれて嬉しいな。その横で、年長の子たちがちょっとそわそわしている。どうしたんだろう?


「あ、あの、さっき言ってたプレゼントって……」


「こら、あなたたち。貰う前にお礼が先よ。アスカは前に行った細工屋さんの店にも品物を出してる立派な細工師さんよ」


「そういえば、前に見たことある……」


「ん? あの時来てくれた子なのかな?」


「これ……ありがとう」


 その子が大事そうにネックレスを取り出すと、アラシェル様の像が顔を出した。この子があの時、買っていってくれた子なんだ。確か名前は……。


「ラーナちゃんだっけ? 大事にしてくれてありがとう」


「ううん。私が大好きだから」


「ラーナはいつも持ち歩いてるんですよ。神聖な雰囲気もありますし、お気に入りみたいで……」


「へぇ~、どれどれ」


 子どもから解放されたジャネットさんがじろっとネックレスを見る。


「あっ!」


「アスカこれ……。頑張ったんだねぇ」


「は、はい頑張りました」


 ふぅ~、何とかシェルオークだと言われずに済んだ。変に意識させちゃうと申し訳ないしね。


「お姉さんもこの人好き?」


「ああ、ほら」


 ジャネットさんもマジックバッグからアラシェル様の像を取り出す。だけど、やっぱり初期に作ったものだから、結構粗が見えるなぁ。


「わたしと一緒……」


「そうだね。まあ、あたしのはアスカが最初に作ったものだけどね」


「わたしのはかみさまがいる」


 二人して張り合わなくても。特にジャネットさんは大人げない。


「あら、ラーナがむきになるなんて珍しいわね」


「……そんなことない」


「そうだね。同じ神様の信仰者同士仲良くしようじゃないか」


「うん」


 よかった。仲直り出来たみたいで。それからもぽつぽつと話が苦手そうなラーナちゃんとジャネットさんは話をしている。その姿を見る限り本当に子どもの相手が得意なようだ。


『最近じゃアスカで慣れてるからねぇ』


 どこからか変な声が聞こえた気がするけど気にしない気にしない。



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