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年末

 あれから二日が経ち、とうとう今日は劇の練習最後の日だ。本当は今日が今年の依頼を受ける最終日だったんだけど、みんなが集まれる日ということで、急きょ今日が練習日になってしまった。

 仕事納めができなくてごめんなさいと言うと、割とみんな好きなタイミングで休みに入るから、この世界では仕事納めって言うのはないみたいだ。


「それじゃ、待ち合わせ場所に向かわないと……」


 先日と同じように東門のところで待ち合わせだ。私は準備を終えるとミネルたちと一緒に宿を出る。


「それじゃあ、あんまり迷惑かけないようにね」


 東側の商店街のところで、ライズに会いに行くミネルたちと別れて私は東門前に到着する。


「ようアスカ!」


「おはよう、ノヴァ。今日はみんな揃ってるんですね!」


「それじゃあ、仕上げと行くかね」


「ひょっとして……私遅れました?」


 いつもの時間に出たと思っていたけど、遅かったんだろうか?


「違うよ。いつも待たせてばかりだったからね。年末ぐらいは先に来ようってみんなで話してたんだ」


「ありがとう」


「まあ、本当は何時も早く来れればいいんだけどな!」


「本当にね」


 予定より早く合流を果たした私たちは、早速前の練習に使った場所に移動し練習を始めた。


「さあ、ここまでだ! 私がこの子に変わってお前を討つ!」


「グルルルル」


「せぇい!」


「ギャン!」


「こうして、ウルフを倒した騎士様は娘と協力し、お腹を開き母親を助けたのでした」


「う~ん。なぁ、ジャネットが腹に入ってるなら、俺ってめっちゃでかい腹になるのか?」


「そうだよ~。出来るだけ違和感がないようにでっかくするから当日は覚悟してよ?」


「それって前見えるの?」


「多分ね。それよりリュートの方の騎士装備はどうしよっか? あんまり騎士に似すぎても後で問題になっちゃいそうだし」


 出し物と言えど、騎士は領主様の管轄する組織だ。その格好を真似たなんて知れたら最悪捕まっちゃう恐れもある。


「まあ、剣に盾に鎧を揃えりゃいいんじゃないか? 周りもそこまで意識して見てないだろ?」


「それじゃあ、基本は剣と盾と鎧に簡単な装飾を入れるって感じにしましょう」


「でも、鎧なんてどうやって作るんだ? 本物か?」


「さすがに本物は使わないけど、木を薄くして作ってそこに金属箔を貼り付ける感じかな?」


「なるほどな。木でも十分危ないけど、本物よりましだしな」


「管理は院長先生にお願いすることになると思う。ノヴァみたいな元気な子もいるだろうし」


「いくら俺でもそこまではしねーよ」


「そうかなぁ?」


「おっと、そろそろ練習を再開しないと、間に合わなくなっちまうよ」


「そうでした! さあ、再開再開」


 再び練習を始める私たち。話は頭に入っているだけあって、後は動きとかの確認が主になってくる。剣をどう振るか? 相手の動きに対してどう動くかというのが主だ。

 後は実際の劇の場所を見ていないけど、そこまで広くないという話なので、動作を大きくし過ぎないということも求められる。でないとこけたりすると大変だからね。


「ふぅ。こんなもんかね」


「上出来だと思いますよ」


「それじゃあ、後は各自気になったところを練習ってことで」


「うん。当日楽しみにしててね」


「おう、それじゃあな!」


「そうそうアスカ。言い忘れるところだったよ。フィアルが店に来て欲しいって」


「フィアルさんが? この前のステーキプレートの件かな?」


「用件までは聞いてないから自分で確かめな。それじゃあね」


「はい! ありがとうございます」


 ジャネットさんたちと別れて、私はフィアルさんに会いに行く。今日はちょっと早めに解散したので、ちょうど夕食の時間前で会うこともできそうだ。


「ライズにも会いに行きたいし出発だね」


 こうして私はフィアルさんのお店に向かった。



「こんにちは~」


「アスカちゃんこんにちは。この前はゴメンね。店長を止めるのに気を取られて、結局お昼食べなかったでしょ」


「大丈夫です。宿できちんと食べましたから。それより、フィアルさんに呼ばれてきたんですけど、なんだか分かりますか?」


「う~ん。私は特に聞いてないわね。じゃあ、そこの席に座ってちょっと待っててね。呼んでくるから」


「はい」


 そう言ってリンさんにテーブルまで案内され、フィアルさんが来るのを待った。奥で料理をしている音がするから最後の仕込みなのかな? 数分後にフィアルさんが奥から出てきた。


「待たせてすみませんアスカ。来てくれたのですね」


「はい。何の用事ですか?」


「まずはいただいたステーキプレートのお礼と思いまして、ありがとうございます」


「いえ……」


「それとですね。お礼という意味もあるのですが、同じパーティーの一員として孤児院での催し物に何か協力できないかと思っていたのです。そこで、新年パーティーの場で料理を提供できればと思いまして」


「料理ですか?」


「はい。アスカたちと違って、掃除や在庫確認などの業務があり参加をするのは難しいのですが、料理であれば協力できると思いまして」


「忙しいんじゃないですか? それに在庫も変わってきてしまいますよ?」


「そこは料理の追加をなしにしてもらえれば問題ありません。使う量を決めてしまえばきちんと合いますから」


「良いんですか?」


「構いません。パーティーリーダーの意志でもありますし、私としても彼らに思うところがありますから。リュートやノヴァはこのまま冒険者としてある程度は成長するでしょうが、他の子たちはそうもいかないでしょう。少しでも私の料理を食べていつか、店に来てもらえればと思うのですよ」


「それはエステルさんみたいに料理人としてですか?」


「別にお客様としてでもですよ。かつて美味しいものを食べたと思って来てもらえればと思いまして……」


「それじゃあ、お言葉に甘えます。リュートから院長先生に伝えてもらいますね。そうだ! 私も当日はステーキでも出そうかと思っていたんですが、折角フィアルさんが作ってくれるなら、材料渡しちゃいますね!」


 私は持ってきていたマジックバッグから、グレートボアの肉とオーク肉を渡す。二つともライギルさんにお願いして長期保存できるように加工してもらっているのだ。


「おおっ! グレートボアですか。冬にこれはありがたいですね。様々な料理に使えます。当日まで残りわずかですが、必ずあっと言わせて見せますよ」


「ふふっ、期待してますね。用事はそれだけですか?」


「はい。……後この前はすみませんでした。食事を出す前に帰らせてしまいまして」


「大丈夫ですよ」


「お詫びと言っては何ですが、今日はこちらで食べていってください」


「良いんですか?」


「ええ、アスカに食べてもらうことは私にとっても重要ですので」


「ならいただきます!」


 フィアルさんの料理は美味しいし大好きなのでここは好意を受け取っておこう。もちろん宿の料理も美味しいんだけど、あっちを洋食っていう大きなくくりだとしたら、こっちはフランス料理やイタリア料理って感じの料理だ。

 ちょっと堅苦しいところもあるけど、普段と違う感じもあってこれはこれで好きなのだ。毎日って言われたら、私は宿の料理の方がいいけどね。


「それでは、もう少しで開店の時間ですから、すぐに作ってきますよ」


 それではとフィアルさんは厨房へと消えていく。


「アスカちゃん。今日は気合入れて食べていってね」


「へ? どうしてですか?」


「店長、せっかく来てもらったお客様に料理を出さずに帰らすなんてって落ち込んでたから、すごいのを出すと思うわ」


「そ、そんな悪いですよ」


「まあ、無理だと思ったら言ってね。こっちで量を調節するから」


「お願いします!」


 私はそこまで大食いじゃないから、先に言ってくれるのはありがたい。そしてリンさんの言う通り、運ばれてきた料理はどれも、味・見た目・量とすごかった。いつもは皿の中央にちょこんと乗っているのが、どんと乗っていた。

 しかも、目立たないように周りの飾りも綺麗だった。それがかえって全体の量を増やす結果となり三分の二ぐらいでギブアップした。最後の方はスプーンに乗せた料理など、代わりに見た目が綺麗な物ばかりでフィアルさんの腕のすごさを実感した日になった。


「う~ん。お腹いっぱいです。ありがとうございました」


「いいえ。こちらも作りすぎたようですみませんねアスカ」


「美味しかったから構いません。今度は普通に来ますね」


「次に来る時までにはプレートを使った料理を考えておきますから、楽しみにしておいてください」


「はい! それじゃあ、ミネルたちも帰ろうね」


《チッ》


 途中から一緒にご飯を食べていたミネルたちを連れて私は宿に帰った。


「それにしてもあれだけ新しい料理をいつも考えるなんて、料理人って大変なんだな~」


 外食と言えばチェーン店が主だったので、個人経営の大変さを知ったのだった。


「年末まで体調を崩さないようにしないといけないし、お風呂に入って早めに寝よう」


 実際、十二月に入ってから毎日のようにコートのお世話になっているし、寒いんだよね。暖房とかもないしみんなどうやって暮らしてるんだろ?

 私は金貨二枚を出して熱を出す魔石を使った魔道具を作って、ストーブ代わりにしてるから快適だけどね。さすがに火を直接使うのは木造の宿ではNGだからこういうもので代用している。


「とはいえ、魔力供給型だから二時間ごとに供給がいるんだよね。だから、朝はめちゃくちゃ寒いし温度変化も大きいから、あんまり温度上げないようにしないとね~」


 そう言いながらも私は寒いのが我慢できないので、今日も二十二度設定で寝るぎりぎりまで魔力を供給するのだった。



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