練習後…
劇の練習で休憩を取っていた私たちだったけど、長々と休んでもいられないので練習を再開する。そこからは全員冒険者ということで体力の続く限り練習に打ち込んだ。
ちなみに帰りにギルドへ寄ってみると、リュートに剣術LV1が付いていた。確かにジャネットさんから熱心に教わってたと思ったけど、劇でスキルを身につけちゃうなんてあるんだな。
「リュートどうしたんだよ~。別に俺には何もついてなかったぞ!」
「いや、ノヴァが付くなら体術でしょ。それはもう持ってるじゃないか」
「そうそう、あの練習で体術LVが上がるならあたしももっと真剣にやったよ」
「でも、すごいよね。まさかスキルを身につけちゃうなんて……」
「一番びっくりしてるのは僕だけどね。短剣スキルがあったからかな?」
「いいや、短剣と剣じゃ間合いからして違うし、ちゃんとした騎士を演じようとした結果だよ。最も騎士はあんな構えを取らないけどね」
そうからかわれるリュートだけどちょっと嬉しそうだった。うんうん、やっぱりスキルが増えると嬉しいよね。
「俺なんて最近は工作とか本格的に大工スキルが上がるだけだぜ!」
「でも、腕力は順当に伸びてるからいいでしょ?」
「まあな。それだけはリュートよりもずっと高いまんまだし、この前エステルにも褒められたんだぜ!」
「それはよかったね」
「あいつに褒められるなんてちょっと意外だったけどな」
「余計なことしては怒られてばっかりだったもんね」
「しょうがないだろ。ちょっと稼ぎに行ったりしただけじゃんか!」
「子ども時代に薬草採取で森まで行っていてよく言うよ」
「でも、反省して二度と行かなかったぜ」
「ノヴァ。最初からやめとけばよかったのに……」
「そうは言ってもさ、何年かに一度は物の出来が悪い年があるからな。ろくに働けない俺たちにはきついんだぜ」
「ああ、そういやそんなこともあったねぇ。あたしもその時に冒険者になろうって思ったっけ」
「ジャネットさんが?」
ジャネットさんって最初から冒険者志望じゃなかったんだ。
「あたしの村もそん時は大変でね。月に二度は人買いが来てたよ。うちはまだ大丈夫だったけど、妹がいたからね。あんまり長居もできないなって思ってね」
「人買いって……」
「地方じゃ珍しくはないね。人手が足りないとこはどこでも存在するからね」
「でも、妹さんのためにってジャネットさん優しいんですね」
「優しいというかそん時には妹は村の奴とできてたからね。あたしがいたせいで離ればなれにさせるのもどうかと思っただけだよ」
「ちなみにその時、妹さんっていくつでした?」
「十一歳ぐらいだったかな?」
「おおう。進んでる~」
エレンちゃんと同い年で恋人かぁ〜、本当にアルトレインの春は早いなぁ。
「まあ、狭い村だからね。どうしてもそういうことになりやすいのさ。街じゃそこまで早くないよ」
「ふ~ん」
《チッ》
《チュン》
そんな話をしているとミネルたちが私の肩に降りてきた。
「あれ? 今フィアルさんのとこから帰ったんだ」
「なんだ、こいつらまた行ってたのか?」
「ノヴァも知ってるの?」
「ああ、俺が出先から帰る時にもよく見かけるからな」
「これは挨拶に行かないといけないね」
「良いんじゃないかい別に。あいつのところだし」
「いいえ。ここまでお世話になってるのにいけませんよ。そうだよね?」
《チッ》
ミネルがすぐに返事をしてくれたけど、単純にまたライズに会う理由ができたと思ってるんだろうなぁ。入り浸ってるし本当に今度何か持っていこう。
でも、フィアルさんの喜ぶものかぁ……多分、ステーキプレートの試作品とかが一番喜びそうだよね。仕方ない、行く時までに作って持っていこう。
「それじゃあ、みんなお疲れ様」
「ああ、次は明後日だからきちんと覚えといてくれよ」
「は~い!」
私はみんなと別れて部屋へ戻る。
「さて、さっき思いついた通りにステーキプレートの試作品を作ろう。まずは大きさだけど、宿と違ってコース料理もあるし、一品の量自体は少ないお店だからプレート自体は小さめだよね。後は鉄板にも飾りを足して形も考えてと……」
こうして試作品を三種類作る。簡単な装飾以外は鉄板なので、大した手間ではない。これが魔道具でなければ、鉄の加工が大変なんだろうけどね。完成したプレートを見て満足した私は、アラシェル様に祈りを捧げて眠った。
「さて、今日はフィアルさんに挨拶に行かなきゃ」
朝食を取って、しばらく部屋でのんびりしたのちに出かける。フィアルさんのお店はお昼から夜までだから、十一時ぐらいまではお店に行っても、準備に忙しくてお話しできないんだよね。
「こんにちは~」
「あらアスカちゃんいらっしゃい。今日は何の用?」
お店に着くとホール責任者のリンさんが出迎えてくれた。
「今日はお昼ご飯を食べにと、ずっとミネルたちがお世話になってるから挨拶に来ました!」
「ふふっ、アスカちゃんは偉いわね」
なでなでと頭を撫でられる。普通のことだと思うけど撫でられるのは好きだから、特に何も言わないでおこう。
「店長~、アスカちゃんですよ」
「どうしましたアスカ?」
「何時もミネルたちがお世話になってるって思って、挨拶に来たんです」
「それぐらい構いませんよ。ライズの世話も引き受けてますし」
「でも、さすがにほとんど毎日お邪魔してるなって思って……ミネルもレダもお礼を言うんだよ」
《チッ》
《チュン》
「ライズはまだ街や私たちにも慣れていませんし、こちらも助かっていますよ」
「いいえ、せめてものお礼にと思ってこれ貰ってください」
私はバッグからステーキプレート三種とそれを乗せる木型とペレットを渡す。
「これは?」
「この前、お話していたものです。こっちの小さい円形のがペレットで、火に入れて熱を持たせてこの上で肉を個別に焼くんですよ」
「ほ、ほう、そうですか。ありがとうございます!」
何だかフィアルさんのテンションがおかしい気がするけど、まあいっか。
「プレートはこの中から気に入ったものがあればそれで仕上げますし、何か変更が必要ならまた今度言ってください」
「いいえ。こんなに早くもらえるなんてありがたいです。まずは装飾うんぬんよりすぐにでも使い勝手を確認しますよ。アスカ申し訳ありませんが、少し所用ができましたので今日はここで……」
「あ、はい」
それだけ言うとフィアルさんはすぐに厨房へ戻っていった。まだ仕込みの途中だったのかな? 悪いことしたなぁ。
「あっ、ちょっと店長! まさか今からですか?」
「当たり前ですよ。これを目の前にして何か他に優先すべきことがありますか?」
「店は今からなんですよ? そこは空けといてください!」
「奥の一つあれば十分でしょう?」
「バカなこと言ってないで空けといてください。いいですね!」
リンさんも奥に行ってしまったし、フィアルさんは取込み中みたいだから邪魔しては悪いと思い、私たちは店を後にした。お昼もと思っていたけど、忙しそうだから宿で食べよう。
「ミネルたちはどうする?」
このまま遊んでいくというので、三十分ほど私も遊んでから一人で宿へ帰った。新年パーティーの準備は出来たけど、即売会の準備はまだ途中だからね。それから細工をやっていると、部屋の扉がノックされた。
「アスカ居るかい?」
「ジャネットさん、どうしました?」
「ああ、これからドルドに買い物に行くんだけど一緒に行かないかと思ってね」
「行きます! ちょっと待っててください」
二人で買い物なんて久し振りだと思って、すぐに着替えて部屋の外に出る。
「お待たせしました」
「ああ、早かったね」
「はい。それはもう」
こうしてお出かけなんて滅多にないし、気合も入っちゃうよね。
「ところで今日はどうしたんですか?」
「いやもうすぐ年末だろ? ほとんどの店が閉まるから保存食を買いこもうと思ってね」
「でもまだ十日ぐらいありますよね?」
「実際に閉まるまでは一週間だね。それにあんまり際に行っても売り切れだよ」
「誘ってくれてありがとうございます」
危うくご飯なしで年末年始を過ごすところだった。
「あたしも初めて街に来た時は大変だったからね。そこまで活気がなくなると思わなかったし」
「そうなんですね」
二人でそんな話をしながらドルドに着いた。
「いらっしゃい。おや、二人で来るなんて珍しいね」
「まあね。年末の買い込みさ」
「なるほどね。今日はちょっとは安くするからいっぱい買っておくれよ」
「ありがとうございます!」
「お礼なんていらないよアスカ。どうせ年末まで残ったら、捨てるか値引いて売らないやつがあるから言ってるだけなんだよ」
「かわいげないねぇ、あんたは」
「そんな年でもないんでね」
そんな会話をはさみつつ、私たちは店の商品を見ていく。私としては普段から買っているドライフルーツの在庫を買い込み、補充とお休みの分を確保した。ついでにまだ食べたことのない保存食をいくつか買った。ジャネットさんは干し肉はもちろん、まだ冒険に行くのか携行食を買っていた。
「はあ~、あんたたちは本当に違いが出るね。アスカの方は味寄り、ジャネットは味と腹持ちをバランスよくって感じだね」
「まあ、冒険に出る頻度も違うからね。それにあたしはアスカほど高級志向じゃないんでね。街じゃ気にしないけどね」
「そ、そんなことないです」
「とはいっても、携行食でドライフルーツを買い込むのはあんたぐらいだよアスカ。他の客はたま~に買うぐらいさ」
「でも、結構在庫の変動してますよね?」
「そりゃあ、保存食以外にも金持の商家の使いがお菓子の材料とかで買って行ったりもするからねぇ」
そういえば街の人も結構来てるみたいだし、そういう需要もあったんだね。食料の他にはちょっと服を買い、お店を出た。
「アスカ、荷物持ってやろうか?」
「マジックバッグがあるから大丈夫です」
「全く、かわいげのない妹だねぇ」
「でも……どうしてもって言うならいいですよ?」
「なら貸しな」
「はい!」
荷物をジャネットさんに持ってもらい、私たちは宿に帰った。夕焼けに二人の影を映しながら……。