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劇の練習


 無事に本の購入依頼を出した私は再び部屋に戻って、細工の仕上げに取りかかる。


「これが完成すれば、とりあえずは在庫確保だ~」


 在庫確保のための物なのでスイスイ作業が進み、二時間ほどで作業は終わった。


「ふぅ~。結構最近は根を詰めてたしちょっと休憩しよう」


 私は食堂へ向かうと、エレンちゃんにお願いしてジュースを出してもらう。


「こうやって午後に休憩が取れるって素敵だね」


「おねえちゃんごめん。ちょっと洗濯してくるから誰か来たら呼んで~」


「は~い」


 まあ、こんな中途半端な時間に来る人なんてあんまりいないけどね。な~んて思ってたら男女の旅人っぽい人がやって来た。


「エレンちゃ~ん、お客さんだよ」


「おねえちゃんお願い出来る?」


「は~い」


 どうやらエレンちゃんは手が離せないみたいなので、代わりに受付をする。でも、部屋の数で揉めている様だ。一応二人部屋の方がちょっと安いと説明すると女性の方はそっちがいいといった。


「お風呂もありますからね」


 そう言うと男性の方が宿にお風呂があるなんて珍しいなと言った。ふふふ、お風呂文化はここから広がっていくんだから。それからカギを渡すとエレンちゃんが戻ってきた。


「どんな人だったの?」


「う~ん。世間知らずな感じ?」


「おねえちゃんに言われるなんてかわいそうだね。その人」


「なにを~」


「きゃあ!」


 エレンちゃんをちょっと追いかける。だけど、思い返してみても美男美女のカップルだったな。リードしてるのは女の人みたいだったし、私もあんな大人の女性になれたらなぁ……。

 そんなことを思いつつ休憩を終えた私は、部屋へ戻って人形作りに入る。孤児院で催す劇用の人形を作り終えれば、後は劇本番を残すのみだ。


「だけど、ちゃんと劇の練習もしないとだよね。明日、ジャネットさんに頼んで二日ぐらい練習日を設けなきゃ」


 ノヴァやリュートは親方さんやミーシャさんに頼めば比較的休ませてくれるけど、ジャネットさんは結構依頼を受けに行くことも多いから、きちんと相談しないとね。こういっては何だけど一銭にもならないことだし。


「まずはこれを作っちゃいますか!」


 気合いを入れ直して人形作りを始める。それから私はしばらく作業を続けた。


「そろそろ、ご飯の時間だ。ミネル、レダ行こう!」


《チッ》


《チュン》


 二羽を誘って一緒に食堂へ下りる。最近は今日みたいにのんびりできる日は十八時ぐらいに食事を取るようにした。後ろの時間が空くと色々便利だからね。


「あっ、おねえちゃんもう夕食?」


「うん。お願いできるかな?」


「ちょっと待っててね。今日はこの前のサンドリザードのお肉を使ってるから、さっと焼いてから出してるんだよ!」


 へぇ~、薄切り肉か~。ライギルさんも手間のかかることするなぁ。なんて思ってたんだけど……。


「思ったよりぶ厚いね」


 出てきたのはステーキプレートに乗った厚切り肉だった。さっと焼いてからってそういうことだったんだ。ライギルさんはすでにこのお皿を使いこなしてるな。

 さりげなく、野菜も乗っていてさっぱり感も楽しめそうだし。それにソースは奥に置かれている。手前側だと直接かけ易いからわざと奥においてつける物って認識させてるのかな? 細かいところまで考えられているなぁ。


「ん~、この状態でも火はきちんと通っていておいしい~」


 サンドリザードって皮は固いのに肉は柔らかいんだよね。脂も結構あって食べたって感じも味わえるし。


「でも、お皿を改良したいと言われた時は面食らったっけ」


 今日出されているお皿がそれだ。元々は木の板に金属のプレートを乗せるだけだったのが、右上に小鉢が置けるようになっている。そこにソースを置くことで、一皿で完結するので下げる時に便利だし、見栄えもいいんだよね。


「ちょっとしたものを作るとすぐに改良するんだからラ、イギルさんの料理にかける情熱はすごいな」


 食事を進めながらつぶやく。でも、美味しい料理がどんどん作られているから私としては嬉しい限りだ。食事も終えた私はお風呂の準備をして部屋へ戻る。戻ったら人形作り再開だ。


「今日中の完成は難しいかな? 明日か明後日には終わりそうだけど……」


 とりあえず、ウルフの人形を作り終えた私はお風呂に入って今日はもう休むことにする。



「ん~、良く寝た~」


 今日も一日が始まる。なんて思っていると大事なことを思い出した。


「そうだ! 今日は劇の練習の日だった!」


 あれから、ジャネットさんたちと連絡を取って三日後に練習をしようとなったのだ。もう一日はとりあえず今日の出来具合を見て判断するとなった。

 ちなみにエステルさんに見つからないよう練習場所は東門を抜けたすぐのところだ。森の手前は以前は薬草を取る人もいたけど、現在はいないのでいい練習場所になる。


「さて、朝ご飯を食べて早く行こう!」


 待ち合わせの時間も通常の依頼を受ける時間と一緒なので、ぐずぐずしていると遅刻だ。


「それじゃあ、行ってきま~す!」


「は~い」


 エレンちゃんに見送られながら私は東門に急ぐ。


《チッ》


《チュン》


「ミネルたちも一緒に来るの?」


 てっきり私についてきたから練習を見てくれるのかと思っていたのだが、途中でフィアルさんの店の方に行ってしまった。


「なんだ。方向が一緒だっただけか……」


 ちょっと寂しいけど、魔物同士で仲がいいのはよいことだと思う。


「というかほとんど毎日会いに行ってるんだけど、迷惑になってないかなぁ?」


 今度、フィアルさんに聞いてみよう。東門に着くとちょっと時間より早いけど、すでにジャネットさんが来ていた。これも依頼という考えなのかこういう時のジャネットさんは早いのだ。


「よう!」


「おはようございます!」


「んで、いつも通りあいつらはまだか」


「みたいですね」


 それから数分後にリュートが、時間ちょうどにノヴァが来るといういつも通りの光景となった。


「おっ、みんな揃ってんな!」


「いつも通りにね」


「それじゃあ、門を出て練習だね」


 私たちは門を出て練習に良さそうな空き地にシートを広げる。


「今から練習をしたいんだけど何か質問がある人!」


 そう言うとジャネットさんから手が上がる。


「そもそもあたしらまだ台本を読んだことないんだけど?」


「へっ?」


 私はてっきりリュートがみんなと一緒に見てるものだと思っていたので、面食らってしまった。


「あれ? アスカが見せてるんじゃないの?」


「あ~、コピーするのが大変だったから台本は一冊しかないの」


「じゃあ、みんなで読むところからにしよう。手直ししたところもあるしね」


「は~い」


 こうしてまずはストーリーを追っていくところから始まった。


「昔々、森の近くに一軒の家がありました。そこには母親とその娘が住んでいました。母親はとても真面目で優しく、町の人のためにいつも森で薬草を取り、町の人に薬を持っていってあげました。」


「ちなみにこの母親役は?」


「勿論、ジャネットさんですよ?」


「あんた、あたしをいくつだと……」


「し、仕方ないんです。他に適役がいないんですから」


「まあ、確かにアスカが母親でジャネットが娘なんて変だよな」


 ほら、と言ってジャネットさんをなだめる。


「じゃあ、続けますよ? ある時、母親は働きすぎて倒れてしまいました。娘は薬で治したかったのですが、自分では作れません。仕方なく、町に薬を買いに行くことにしました。しかし、そのことを聞いていた者がいたのです。それこそがウルフでした。~~」


 その後もストーリー説明を続けていく。一応この物語を選んだのにも理由がある。この物語の舞台は森と町。森の危険性と町の人間の安全性を伝えることで、不用意に外へ出て行かないように子どもたちに教えることだ。小さいうちは言い聞かせようとしても、なかなか難しいからね。


「う~ん。話は分かったけど、剣とかはどうするんだい? 本物を出すわけにはいかないし……」


「そこは鉄を引き延ばしたものを木の板に巻いてそれっぽく見せるから大丈夫ですよ」


 その為に武器屋からぼろぼろの剣を一本仕入れて来ている。着るものとかはさすがに各々のサイズがあるからまだだけどね。


「大体分かったぜ! それじゃあ、実際にやってみるか!」


 ノヴァの掛け声を合図に練習が始まる。ちなみに今は練習なのでリュートが読んでいるけど当日のナレーションは院長先生にお願いしようと思っている。登場人物が読んでるとちょっと変になりそうだし。


「長年の恨みを思い知れ~」


「う~ん。もうちょっと真剣な方がいいのかな?」


「だけど、あんまり力を入れちゃうと子どもたちが泣き出すかも……」


「それは不味いねぇ。あのぐらいの子たちは一人泣き出すと一斉に泣き出すよ」


「それじゃあ、ノヴァぐらいがちょうどかな?」


「なあ、それ褒めてるよな?」


「うん」


 演技がうまい人には逆に難しそうだしね。ノヴァがウルフ役でリュートが騎士の役だ。話が進んでいくところで一つ問題が発生した。本来は猟師の人が倒すところを騎士が倒すことにしたんだけど、ウルフへのとどめにどこを狙うかだ。


「これって、頭を刺すのでいいの? お腹とかだとお母さん死んじゃうよね?」


「あ~、でも頭だと痛そうだし……」


「ならちょっと頭の上の方に詰め物して、ずらせばどうだい?それなら頭に刺してもいたくないだろ?」


「流石ジャネットさん!それで行きましょう」


 疑問点も消え、練習は進んでいく。


「大体こんな感じかな?」


「うん。この調子ならもう一日練習すれば大丈夫そうだね」


「任せとけ!」


「あんたは楽でいいよ。セリフも少ない上に叫んでりゃいいんだから」


「まぁまぁ。そろそろ休憩というかお昼にしましょう」


 通しでやったら、やっぱり初めてだからかなり時間を使ってしまった。時間もお昼時だということで各々お昼ご飯を出す。


「それじゃ、食べながらでいいんでみんな採寸させてくださいね」


 私はジャネットさん、ノヴァ、リュートの順番で採寸していく。ジャネットさんはすらっとしていてかなりいいプロポーションだ。ノヴァとリュートは……。


「二人とも身長伸びてる?」


「ん、そうか?」


「そういえば、僕はエステルにも同じことを言われたね」


 試しに二人の身長と自分の身長を比べてみる。この前までほとんど違わなかったのに、今では明確に二人の方が高い。


「私は伸びてないのに……」


「アスカはまだもうちょっと先だよ」


 そう言って慰めてくれるジャネットさんの気遣いが痛い。だけど、今はそれを信じて生きていこうと思う。あ~あ、またリーダーって言った時に何か言われることが増えちゃうな……。




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― 新着の感想 ―
赤ずきんのアレンジバージョンかぁ…確かに原作も「子供に森は危険だと言う教訓とする」意味合いがあったという説があるからぴったりな題材だね。 しかし母親役のジャネットさんなら ウルフ「喰ってやる~」 母…
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