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準備完了!

「ああ~、癒される~」


 ミネルたちと一緒にライズと遊ぶ。細工もしたいけどちょっとぐらい遊んでもいいよね?


「アスカちゃん。今日はせっかくだから食べていったらって店長が言ってるんだけど……」


「あっ、いいんですか?」


「ええ、どうかな?」


「じゃあ、お言葉に甘えて……でも、夕食は結構先ですよね?」


「何言ってるのアスカちゃん、もう十七時よ。今から作るから十八時には食べられるからね」


「ええっ!? 何時の間にそんなに時間が……」


 確か、宿を出た時は十四時ぐらいだったのに。しょうがない、今日はもう細工はお休みしてこのまま遊んじゃおう!


「そうと決まれば走るよ、ライズ!」


 裏庭でライズたちと走り回った私は疲れながら食事の時間を迎えた。


「はぁはぁ、ご飯……」


「そんなに走り回っていたの? やっぱりアスカちゃんも冒険者ね」


「そう言われると嬉しいです。最近はあまり言われなくなりましたけど、まだ新人扱いされるんです」


「じゃあ、たくさん食べて大きくならなくちゃね。はいどうぞ」


 お姉さんが持ってきてくれたのは山菜の煮びたしにサラダとオークステーキにパンと美味しい料理のオンパレードだ。それにコース料理というだけで美味しく感じちゃうな。そんなお店に行ったことなかったしね。


「う~ん。いつ食べても美味しいです」


「ありがとうアスカちゃん。それじゃ、これが最後ね」


 そういってお姉さんが持ってきてくれたのはアイスクリーム風のデザートだった。作り方は前世とはちょっと違うけど、それっぽい味だ。やっぱり、急ぎで冷蔵庫を納品した甲斐があったなぁ。

 久し振りにエレンちゃん一家が外食でここにきて冷蔵庫の話をしたから出来たんだよね。いきなりフィアルさんが部屋に来るからびっくりしたけど……。


「どうですかアスカ? 気にいってもらえましたか」


「はい! フィアルさんありがとうございます!」


「いいえ。私こそこんないいものをもらって助かりましたよ」


「もらってって依頼料をかなりもらいましたけど……」


「それは当然ですよ。こんな良い物を買える機会は中々ありませんから。街で見かけても大手の店に価格で競り負けますよ」


「そう言ってもらえると嬉しいです」


 おほんと咳をしてフィアルさんが表情を変える。


「時にアスカ。ステーキプレートなるものがあるそうですね」


「ああ、宿で使っている鉄のお皿ですね。それが何か?」


「ああいったものは、他にどこか卸していますか?」


「今のところはどこにも卸してませんよ。お皿も特徴的ですし、ライギルさんぐらい料理へのこだわりがないと洗うのも面倒なものですし」


「出来ればあれに似たようなものをうちでも使いたいのですが……もちろん、お代は別途払いますよ」


「構いませんけど……年明けでもいいですか?」


「もちろんです! ああ、よかった。お皿ですと冷めるのが早くて色々考えていたんですが、あれなら焼き加減の調節すら可能だと思ったのです」


「ま、まあ、元々そういうものですし。そうそう、焼き加減といえばペレットっていうのもありますよ」


「ペレット?」


「石とか鉄を平べったくして熱を加えたもので、そこに肉を置いて好きな焼き加減にできるんです。鉄板にはあまり焼かずに置いて細かい調節は客がするんですよ」


「何と! それも宿で?」


「さすがに宿じゃないですよ。宿でそんなことしたら人手がいくらあっても足りませんし。この店だったら店員さんも多くいるし大丈夫かなって」


「それは素晴らしい! ぜひセットでお願いします。一セット銀貨一枚でどうでしょう?」


「それは構いませんけど、油とかが跳ねるので飛んでもいいように布で覆うか、汚れてもいい格好で来てもらわないといけませんよ?」


「それは店として対応する部分ですから、アスカは気にしなくても大丈夫です。これでますます料理の幅が広がりますね」


 フィアルさんはそういうと新しい料理のことで頭がいっぱいなのか、目の焦点がどこにもあっていなかった。


「あらら、店長ったら。この前からずっとこうなのよ。冷たいデザートが作り放題だって」


「でも、冬に温かい格好で食べるアイスは絶品ですよ。寒い中で冷たいものを美味しく食べるなんて贅沢ですよね」


「何それ! 絶対美味しいわね。店長が正気に戻ったら推しておくわ」


 名残惜しいけど食事も終えた私たちは店を後にする。


「ミネル、レダ。今日も行ったんだから明日はお休みだよ。ライズだって街の暮らしにまだ慣れていないんだから」


《チッ》


《チュン》


 うんいい返事だ。それにそろそろ私は細工だけじゃなくて冒険者のランクアップに向けた対策もしないといけないんだ。ジャネットさんが言うには大丈夫だってことだけど、やっぱり心配だしね。

 Cランクからは試験内容に実地訓練もあるって話だから野営にももう少し慣れた方がいいのかな?


「そう言えばなんだかんだで最近レディトに行ってないなぁ。納品するものは出来てるからそろそろ行ってみたいんだけど……」


 新年パーティーに即売会に隣町への納品とやることがいっぱいだ。そこに加えてランクアップだなんて、私のだらけた生活はどこに行ってしまったんだろうか?


「年が明けたら絶対にまったりできるように動かなきゃ!」


 そんな決意をしつつ、部屋に戻ってきた私は午後に全く出来なかった細工を行った。


「最近ちょっとデザインもマンネリ化してるし、新しい本の入荷はまだかなぁ……」


 植物の本もあの寒冷地の本以外はこの辺りでも見かけられるものばかりだし、魔物辞典は有用だけど細工には使えない。はっきり言って題材不足なんだよね。色々な町に出かけないっていうのもあるんだろうけど。


「でも、ここから近い場所って言ったら港町と王都なんだよね。港町は船に乗ったりするわけじゃないから意味ないしなぁ~。王都は論外だし、ああいうところは転生者にとっては鬼門だからね。なにが起こるか判んないよ」


 私は転生物もよく読んでいたので、王都や貴族のこともよく知っている。王家は無能と有能しかいないし、貴族は高位貴族は外れが多くて伯爵家が有能。

 知識の深さに関わらず、転生者は捕らえられるなど数々の本の内容をちゃんと覚えているんだから。

 国を超えた組織の冒険者ギルドや商人ギルドが問題なく活動できるこの国は良い国だと思うけど、他の国は未知数。しばらくは力を蓄える時なのだ。


「だけどな~。王都には珍しい本がいっぱいあるって本屋のおばあさんも言ってたし、一度ぐらいなら……駄目駄目、その一度が最後なんだよ。街中で貴族の馬車に会ったら目いっぱい避けなきゃ知り合いになっちゃうし、市場じゃお嬢様とは目も合わせたら駄目なんだよ。そんな窮屈なの耐えられない! でもな~、図書館も使えないし品揃えを考えたら……」


 最近はデザインも詰まることが増えたし、ここら辺で一発逆転じゃないけど新しい知識を加えたいっていうのもあるし……。何かいい手はないかなぁ。そんなことを考えながら私は一日を終えた。



《チッ》


「おはよ~、ミネル」


 ミネルに起こされ今日も私の一日が始まる。今日は昨日悩んだ末に王都の本を手に入れる算段を試してみようと思ったのだ。


「エレンちゃんおはよう」


「おねえちゃんおはよう。今日はそんな格好してどこかへ行くの?」


「うん。ちょっとギルドまでね」


 私は朝食を食べるとすぐにギルドへ向かう。


「こんにちは、ホルンさん」


「あらアスカちゃん。今日は一人でどうしたの?」


「今日は依頼を出したいなって思って」


 そう、私が導き出した結果は誰かに本を買ってきてもらうということだった。どのみち本を買うには結構お金ががかかるということと、仕入れのためや他の依頼で王都に向かう人も大勢いるので、いっそのこと依頼を出してしまおうと思ったのだ。


「依頼ねぇ。何か細工のための仕入れでも頼むの?」


「いいえ、それもありますけど単純に王都で本を買ってきてもらおうと思って」


「今のアスカちゃんの実力なら自分で買いに行けるんじゃないかしら?」


「いいえ、王都は危険がいっぱいなんですよ! 絶対近寄ってはいけないんです!!」


 私はぐっと握りこぶしを作り力説する

 

「そ、そう。なら依頼内容を細かく詰めたいから、この用紙に必要事項を書いていって」


 渡された紙には依頼者と依頼報酬、依頼内容を書く欄がある。まず依頼者名はアスカと……次は依頼報酬は一冊につき銀貨一枚で最大五冊まで。依頼内容は、王都専売の文学書もしくは風・火魔法の上級以上の魔導書及びそれに類するもの。その他は温暖な気候の植物や魚などの辞典。


「これでどうでしょうか?」


「……結構あいまいな内容ね。本当にこれで大丈夫なの? 一種類の物が五冊って可能性もあるわよ?」


「大丈夫です。そういうのも含めて一度王都の本を欲しいので」


「分かったわ。貼りだしておくからそうね……二週間後ぐらいに一度確認しに来て。王都への往復だと最短一週間はかかるから、本を選びながら帰りの依頼を探すとなると多分そのぐらいになるわ」


「は~い!」


 よ~し、この依頼で届く本がどんなのか今から楽しみだ。私の完璧な計画に穴はない! そう思いながら意気揚々とギルドを出た。




   ✣ ✣ ✣


 アスカがギルドを去って数時間後……。ホルンが店番をしていると見たことのない冒険者の会話が聞こえてきた。


「はぁ~。地方から王都へ行くのは大変だな」


「だから、馬車を使えばよいと言ったのですが」


「社会勉強になるって言ったのはクリスだろ。俺はその助言を信じたんだぞ?」


「確かに言いましたが、同時に大変ですよとも言いましたよ? 現に無駄に高いものを買わされて、路銀が尽きかけこうして冒険者になってるんでしょう?」


 あら、訳ありの人たちみたいね。腕は良さそうだけど、どこから来たのかしら?


「とにかく簡単な依頼と討伐依頼を受けながら向かうしかありません。ディオー……ディオスもまだEランクですから」


「それが面倒だ。実力からいえばもっといい依頼をこなせるのに」


「仕方ありませんよ。ただ討伐依頼を受けるだけが冒険者じゃありませんから」


「それはそうだが……」


 そういうと二人組は依頼票の前に向かう。残念ながら今の時間帯を考えればろくな依頼がない。せめて一の鐘の鳴る時には来ないと。


「はぁ~、やっぱり無理にここまで来たのが駄目だったか。ろくな依頼がないな。これじゃ、王都についたらすぐに金欠だな」


「流石に王都へついたら宿に泊まらなくても大丈夫ではありませんか?」


「そうか! クリス、お前頭いいな! だが、どうせなら依頼でも受けておくか。ちょっとでも道中受けておけばDランクには今回の旅でなれると思うしな」


「まさか帰りも徒歩ですか!?」


「でないとこの依頼を受けられないだろ?」


「これは……随分変わった依頼ですね。お金さえあれば、子どもでもお金になりますよ」


「おっ、やっぱりそう思うか? 討伐依頼だと出会わないと困るし、これなら確実だろ?」


「確かに数日は滞在しますが……仕方ありません。受けるとしましょうか」


 こうして私の初めてのギルドへの依頼は謎の二人組に即日受付されたのだった。



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― 新着の感想 ―
貴族との出会いから避けるための依頼を(多分)貴族の子弟に引き受けられる罠ww
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