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お家と成果物

「ここがフィアルさんの家かぁ。昨日も来たけど、結構広いお家だね」


 ギルド前から歩くこと数分、フィアルさんの店の裏手には立派な家があった。とはいっても大きすぎない程度で、簡単な庭もあるという感じだ。

 この辺にしたら店舗と家が別ということ以外はあまり違和感はないかな? 大体の店が一階の奥や二階が住居になってる建物が多いんだ。


「おや、いらっしゃいアスカ」


「フィアルさんお世話になります!」


「はい。まだ仕込みまで少し時間がありますから、とりあえず小屋の大きさを教えてください」


「大体これぐらいですかね。一応お庭の広さが分からなかったので、二階建てにしたんですけど……」


「羊の家が二階建て……まあ、いいでしょう。このサイズなら家にも置けますね。場所を決めておきましたからこの枠の中で済ませてください。木材に関しては店舗補修用の物がありますからそれを使ってください。」


 ちらりと家の前を見るとなかなか質の良さそうなオーク材が並んでいる。これならいいお家ができそうだ。


《ミェ~》


《チッ》


《チュン》


 そんなことを考えていると、家の奥から一匹と二羽が出てきた。


「みんな、元気だった?」


 ライズを抱きつつミネルたちに話しかける。二羽は直ぐに私のそれぞれの肩に別れて止まるとこっちをじーっと見てる。


「ごめんね。これからライズのお家を作るから、遊んであげられなくて。暇だったら見といてね」


「それでは申し訳ありませんが、私も店に行きますので」


「はい! ありがとうございました」


 フィアルさんにお礼を言ってすぐ作業に取り掛かる。まずは土台となる杭を作って四隅に打ち込むところからだ。石灰を混ぜた土を使って周りを固めて、そこに板を固定していく。ちょっと隅のところを使って排泄物は簡単に処理出来るようにしてと。


「後は階段が危ないからスロープだね。手前からちょっと角度をつけてと、そして下には簡単なクッションを置いて二階部分には使い古しの布団と」


 木組は細工物で慣れているから、後は物の配置だけだ。雨の日でも水が中で飲めるように工夫を凝らす。ある程度部屋作りが進んだので、ライズの意見を聞いてみよう。


「ライズ、ちょっと入ってみて感想を聞かせて?」


《ミェ~》


 ミネルたちと遊んでいたライズを呼んで実際に家へ入ってもらう。まだ屋根は付けていないのでどんな感じかよく分かる。下でお座り、上でごろ寝と色々な態勢で確認するライズ。


《ミェ~》


「二階が広くないかって? 将来、お嫁さんとか来たら必要な場所でしょ。ちょうどに作ってたら後で苦労するよ?」


 分かったとライズはその場にくたっと寝転ぶ。実際に自分ともう一匹いた時にどのくらいか確認しているんだろう。

 私も想像ではやっているけど、実際どんな態勢を取っているかまでは分からないからね。ひとしきり家の中を堪能したライズは、私に飛び込んできた。


「わっ!」


 慌てて道具を放り出してライズを受け止める。


「こ、こら危ないよライズ。気に入ったの?」


《ミェ~》


 嬉しそうに声を上げるライズ。うんうん、そこまで喜んでもらえると私も嬉しい。


「それじゃあ、屋根をつけるね。これでちょっと暗くなったり狭くなったら言ってね」


 屋根をつけて実際に中へ入ってもらう。ミネルたちまで嬉々として入っていったものの、一向に出てくる気配はない。


「みんなどうしたのかな?」


 気になって中を覗いてみるとみんな眠っていた。


「まあ、昨日はこっちにお泊まりしたし、夜更かしでもしたのかな? 起こすのも可哀そうだしこのまま寝かせておいてあげよう」


 私はみんなを起こさないようにその場を離れて、宿へ帰る。一応、安全のために魔石で結界は張っておいた。




「さて、ライズの家の心配はなさそうだし、羊毛の処理に移らなきゃ」


 私は、ミーシャさんに言って井戸の使用許可をもらう。


「血がついてる部分もあるし、落とさないとね。だけど、羊毛を扱ったことはないし、普通に洗剤で洗っていいのかな? ちょっと試しに血の付いた部分でやってみよう」


 桶に温めた水と洗剤を入れて洗ってみる。


「う~ん。中々汚れが取れないなぁ。仕方ないつけ置きにしよう」


 羊毛の処理をいったん諦めた私は部屋へ戻る。先にぬいぐるみなど毛を使ったガワを作るためだ。


「どんなデザインが良いのかな? 私じゃ分かんないしエレンちゃんに聞いてみよう」


 まずは前世で大人気のテディベアのようなデザインを描き起こしてから食堂へ下りると、エレンちゃんを見つけた。


「エレンちゃ~ん。今時間ある?」


「おねえちゃんどうしたの?」


「今度ぬいぐるみを作ろうと思ってるんだけど、こんなのどうかな?」


「これってワイルドバーグの子ども? 凶暴な魔物だよね~」


 どうやらこっちの世界でのクマは凶暴な魔物扱いの様だ。さすがにエレンちゃんでもこの認識ならぬいぐるみの題材としてはないだろうな。


「ん~。じゃあ、エレンちゃんならどんなぬいぐるみを貰ったら嬉しい?」


「もう、おねえちゃんたら。わたしはもうそんな年じゃないよ。ぬいぐるみも高いしね。でも、どうしてもって言うならおねえちゃんのぬいぐるみとか良いかもね」


 あっ、エレンちゃんちょっとその気になってるな。これは作ってあげないといけないやつだ。


「貴重な意見をありがとうエレンちゃん」


「どういたしまして~」


 エレンちゃんと別れて部屋に戻る。


「う~ん。この世界じゃクマは駄目そうだ。かと言って人物はなぁ」


 色々案が浮かんでは消えていく。そもそも、街中でもそんなに動物は見かけないし、高価という話だからなじみがないのかも。

 本も高くてイメージも浸透しにくいから、こういう時に困るなぁ。昔話の登場キャラもみんな口頭だからイメージが違うしね。


「う~ん。題材として適当なものか~。ミネルたちは小さいし、鳥なら細工物の方が喜ばれるだろうしね。……ちょっと変かもだけどライズをデザインに使ってみるのはどうだろ?」


 羊の毛を中綿に使って外が普通の毛糸なんておかしいかもしれないけど、中綿は洗って使い回せるしその方がいいかも。後はどう作るかだけど、まずは毛のない状態で体を作って行こう。


「足と体は元より丸くして、怪我しないようにしてと……。後は毛をどういう風につけるかだね。簡単に縫い付けちゃおうかな?」


 そしたら、ちょっと破れてもすぐに直せるって思ったんだけど、子どもって加減ができないからびりびりになっちゃうよね。


「ちょっと手間になっちゃうけど、きちんと強めに縫い付けよう。糸もそこは太くしてと……。後はぬいぐるみとはいえ一匹だと寂しいから二匹作っておこう」


 デザインが決まるまでは一向に進まなかったけど、決まれば早いもので次々と進んでいく。


「後は別のデザインが思い浮かんだらだね。ヴェゼルスシープ二匹分ならまだ余裕ありそうだし。となると私のぬいぐるみかぁ。自分の姿を作るって恥ずかしいな」


 鏡を見ながら自分の絵を描いていく。完成した絵を見ると、きちんとかけているたので次はそれをデフォルメして描く。


「よし、これで後は余りものを使って作ればいいよね?」


 余りものといっても色は統一してある。さすがにつぎはぎの体は嫌だからね。


「さあ、次はと……」


 次の工程に取り掛かろうとしたところで、コンコンとドアがノックされた。


「おねえちゃんいる~?」


「はいは~い」


 エレンちゃんが何か用のようだ。ドアを開けて招き入れる。


「もう~、また精出しちゃって食堂に行くよ!」


「えっ、うん?」


 エレンちゃんに手を引かれて食堂に行く。


「あら、アスカ。本当に今日いたのね。外に出るのを見たから出かけてると思ってたわ」


「ちょっとして帰ってきてまた部屋にこもってたのよ」


「ミーシャさん、それ本当ですか? 全く、仕方ないわね」


「ええ、エレンがまだ食事するところを見てないっていうから、連れてきてもらったのよ」


 何だろうこの、うちの子は本当どうしようもないのよみたいなママさん会話は。でも、ミーシャさんの目つきがちょっと鋭いので黙っておく。お説教は受けたくないからね。


「はい、おねえちゃんお昼だよ」


「ありがとうエレンちゃん。エステルさんたちは休憩ですか?」


「ええ、もう十五時よ。アスカも根を詰めすぎないようにしなさい」


「はぁい」


「アスカちゃん、そう言えば水場を借りてたけど、どうだったの?」


「まだ様子見です。思ったより汚れの落ちに時間がかかりそうで」


「何々、また何かしてるの?」


「ちょっと新しいものを作りたくて……」


「そうそうおねえちゃんったら……」


「エレンちゃん!」


 食事中だったけどちょっとだけエレンちゃんを呼んで食堂の端に行く。


「エレンちゃん。ぬいぐるみの一部は孤児院の子にあげようと思ってるの。びっくりさせたいからエステルさんには内緒ね」


「わかった。だけど、細工以外にも色々するようになったね」


「自分でもびっくりしてるの。でも、楽しいし休日の時間も使えていいよ」


「おねえちゃん……」


 何だかエレンちゃんに残念な目で見られてしまった。何かおかしいこと言ったかな?


「どうしたのアスカ? ご飯はきちんと食べなさいよ」


「はい。すぐに戻ります! それじゃ、よろしくね」


 エレンちゃんに口止めをして食事を再開する。これが終わったら、井戸へ戻って確認しないとね。



「ごちそうさまでした」


 食事を終えた私は早速、井戸に向かう。


「どうかな? きちんと色は落ちてるかな?」


 つけ置きしていた羊毛を手に取る。まだちょっと色が残ってるけど、それ以外の部分はかなりいい感じだ。


「これならもうちょっと手を加えれば綺麗になりそう。それじゃ、魔法でもうちょっと温度を高くして……」


 再び温水にすると繊維まで浸透しやすいように風の魔法を駆使して洗う。しばらくすると血の汚れもほぼ見えないぐらいに綺麗になった。これなら他の部分も洗えるだろう。


「よし! いったん水を捨てて、水を入れ直したら残りを一気に洗ってしまおう」


 エステルさんに見つかりたくないしね。私は桶に温水を作り、残りの羊毛を一気に入れて風魔法で洗う。今度はものの二十分で洗うことが出来た。魔法万歳だ!


「これで後は乾かすだけだけど、これは部屋でやっちゃおう」


 私は部屋に帰って窓を全開にしてから洗い終わった羊毛を干していったのだった。



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エレンがだんだん、犯罪者に………………
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