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ヴェゼルスシープ捜索


「それじゃあ、今からヴェゼルスシープを探すわけだけど……」


 そう言いながらジャネットさんは村の西側を出てすぐのところで打ち合わせを始める。


「いいかい。いつ出るか分からないし、こっちの動きに合わせて逃げる可能性も高いから、必ず静かに動くようにすること。特にあたしの剣やアスカの弓が木に当たって音が響くのはまずい。そういう音は自然の音とは違うからね。足音はまだ他の動物と思ってくれるかもしれないから大丈夫だろうけど」


「なるほど。じゃあ、弓は仕舞っていた方がいいですかね?」


「見つけた時に焦らないならね。相手に構えて撃つぐらいの時間を与えればその間に逃げると思う」


「頑張って気を付けます」


 抜き足差し足忍び足ではないけど、ある程度村から離れると頑張って音を消しながら進んでいく。


「この森、色々居そうですね」


「ああ、他にも魔物が色々いるって触れ込みだよ。気をつけなよ」


 そこからさらに進むこと五分。奥でがさがさと音がした。


「居た?」


 2人で合図をしながら少しずつ進んでいく。その先にいたのは……。


「なんだボアか……って、え?大きい……」


 普通のボアは体長1.3mぐらいだけど、このボアの体長は2mをゆうに超えている。しかも、家畜用の首輪もないことから野生種だと分かる。


「おやおや、グレートボアとはね。幸先良さそうだ。行くよ!」


「はい!」


 小さく、けど勢い良く返事をした私はウィンドカッターを上空に放ちグレートボアのやや後ろに落とせるようにする。準備OKの合図を出すと、ジャネットさんがわざとらしく跳びかかる。


「おりゃぁぁ!」


 ブモォ


 驚いたグレートボアはすぐに体をひるがえして逃げようとする。そこにウィンドカッターを地面に叩けつけて衝撃で穴を掘ってボアの体を丸ごと穴に落とす。そのまま掘り進める勢いで足を動かすボアだったが、肝心の体の動きが止まっていてはいい獲物だ。


「はいよっと」


 ザシュ


 動きの少ないボアの脳天にジャネットさんが剣を突き刺してとどめを刺す。剣を突き刺してしばらくするとボアは動きを止めた。


「よし!夕食というか村にいる間の食料ゲットだね。このまま〆ちまうよ」


「はい!」


 やった~。ボアの肉は串屋のおじさんのとこでよく食べてるけど、おいしいし期待大だね。それに、グレートボアは初心者には突進攻撃が痛いから、Dランク位のパーティーからでないと、安心して狩れないからちょっとレアなんだ。さっきみたいに罠を活用すれば問題ないけど、ボアのためだけに大量の罠を使うと赤字になっちゃうしね。


「じゃあ、まずは首にロープをかけるからアスカはそこの大木にロープを回して、ボアの体を浮かしてくれ。そしたらあたしが木にロープを結び付けて解体するから」


「はい」


 言われた通りにボアの巨体を持ち上げる。それでも木にロープを括り付けた後に魔法を切ると、つるされた状態になる。丈夫なロープでよかった。安物だったら、切れちゃってたかも。


「それじゃあ、今から解体するから見張りは任せたよ」


「任せられました」


 おいしいお肉のためなら頑張って見張りしちゃいますよ~。そう意気込んで私は見張りをしていたのだが、流石にこの周辺は平和らしく特に何もなかった。まあ、グレートボア自体この周辺にはめったに出ないから、この血の匂いで獣は寄ってこないだろうけど。


「あれ?ジャネットさん、今グレートボア倒しましたけど、ひょっとして魔物寄り付かなくなっちゃいます?」


「ん?ああ、そうだね。まあ、日にちもあるし何とかなるだろ。食料が確保できたんだし、予定を延ばせるしね」


 なるほど!確かに最初に持って来ていた食料とかを考えたら、村と森を往復しないといけなかったし、見た感じ村にはレストランと言うより、飲食店自体がないかもしれないような感じだったしなぁ。


「それなら安心ですね。そろそろ解体終わりました?」


「ああ、もうすぐだよ。というわけで、穴に内臓とか入れたから埋めてくれ」


「は~い」


 私は罠用に使った落とし穴に内臓を入れて埋めていく。それとは別に解体で出た血も別の小さな穴に埋めていった。


「さて、それじゃ奥に行くとするかね。今ならまだ血の匂いも広がってないだろうし、ねらい目かもね」


「それじゃ行きましょう!できれば早いうちに捕まえたいですしね」


 私たちはさらに奥へと進んでいく。この森は東側と違って、オークもほぼいない。ゴブリンでさえほとんど見かけない森なんだって。だから、ボアみたいにそこまで強くない魔物でも住んでいられるそうだ。普段は村の狩人が森に入って狩っているらしい。もちろん、たまにゴブリンと出会ってケガをすることがあるみたいだけどね。だけど、こういうところで肉が取れるのは貴重だし、どこでも見られる光景なんだって。


「そろそろ暗くなってきたね。いったん戻るとするか……」


「仕方ありませんね。それじゃ帰りましょう」


 結局その後は、ちょっと薬草が取れただけで何とも出会わなかった。村に戻ると、村の人が何人か出迎えてくれた。オークも出るところだし、私たちを心配してくれたんだって。いい人たちだなぁ。


「お嬢ちゃんみたいなのが冒険者だなんて大変だね」


「でも、そんなに毎日依頼をこなしてませんし、楽しいですよ?」


「うちの男衆にも聞かせてやりたいね。また、獲物を逃がして帰ってきちまってね」


「ばあちゃん。そんなこと言って相手はでっかいボアだったんだぜ!さすがに俺たちの弓じゃ無理だよ」


「そこを、罠なりなんなりで仕留めるのがお前たちの仕事じゃろう。爺さんたちが浮かばれんわい」


「えっ、おっきいボアってグレートボアのことですか?」


「ああ、嬢ちゃんも気をつけな。そんなひょろひょろの体じゃ吹っ飛ばされちまうぞ!」


「そ、そうですね」


 まさかそこまで言われてしまっては、今更もう倒しましたよとは言えない。ぶつかったら吹き飛ばされるのは間違いないとは思うけどね。



 ----

「それで、村の人には説明せずに私の宿に来たんですね」


「そうなんですよ。ヘレンさんも見ます?」


「見たいです!最近はほんとに獲物自体そこまで見る機会がなくて……。特に前までは気晴らしにって冒険者さんも来てくれてたんですが、アルバの東が結構稼げるようになってからは皆さん来られなくなってしまって」


「そういや、街の奴らも結構羽振りよくなったね」


「この前商人さんに聞いた話だと、オーク肉が安くなってるんですよね。うらやましいです」


「買いに行ったりはしないんですか?」


「街道といっても私たち一般人には危険ですから。乗合馬車もここには来ませんしね」


 寂しそうに言うヘレンさん。ちなみに宿に着いた時に自己紹介してもらったのだ。父親と母親はと聞いたら、今も農業で忙しいから日が完全に落ちるまでは帰ってこないらしい。今は家に招いてもらって夕食の準備をしてもらっている。


「弟もまだ12歳なのに手伝いばかりでかわいそうなんですよ。たまには街に行かせてあげたいんですけど……」


「まあ、多少戦えないとさすがに街道とはいえ3時間の道のりはつらいねえ」


「そうなんですよ。あっ、すぐにお料理作っちゃいますね!」


「それなら、このボアの肉も使ってください」


「……良いんですか?」


「はい!たくさんありますから、それに弟さんにも喜んでほしいですし」


 そう言ってマジックバッグからグレートボアの肉を出すとヘレンさんに渡す。


「おお~、これが村の人が言っていたボアね。確かにいつも見る物より一回り以上おおきいわ」


 感動しながらお姉さんが捌いていく。普段から料理をしているみたいで、手際がいいと思ったけど、宿の経営者なんだし当たり前か。


「は~い。出来ました。ボアのステーキと野菜スープです。野菜スープにもボアの骨肉を入れて味付けしてありますよ」


「わ~、おいしいそう!いただきま~す」


 パクリとまずはステーキから。調味料は限られていて、塩がかかっているだけだけどおいしい。スープの方も骨からだしが出ていていい味とにおいだ。出先の村でもこんなにおいしい料理が食べられるなんて!



「ただいま~、帰ったよ!」


「あっ、お母さんたちだ。ちょっと待っててね」


 ヘレンさんが玄関に行って私たちのことを説明してくれる。


「あらあら、この村にお客さんなんて久しぶりね。こんにちは……まあ!かわいい女の子ね」


「は、始めましてアスカです」


「なんでも、宿の片づけを手伝ってくれたんだって、悪かったな。ヘレンがどうしても続けたいといって開けてるんだが、最近は俺たちも忙しくてな」


「僕、お腹すいちゃった。今日は何?」


「今日は野菜スープと……」


「ええ~、また~。たまには違うのがいいよ~」


「ふっふっふっ、今日はこの人たちのお陰で豪華な食事よ!なんと、ボアのステーキと肉の入った野菜スープなの!」


「ねえちゃんほんと!」


「分かったら手を洗いなさい。手が泥まみれよ」


「うん!」


 弟さんはすぐさま手を洗って、夕食に飛びついていた。成長期の男子だなぁと思わせる光景で私は和んだ。


「ありがとうございます。冒険者さん。村では最近農作物があらされてしまって、肉どころではなくて……」


「何かあったのかい?」


「ええ、恥ずかしい話ですが、この村には魔物と戦えるものはほとんどおらず、最近グレートボアというボアの大きいのが現れてからというもの、数日おきに田畑を荒らしているのです。その都度、修繕をしているのですが捕らえることもできず頑張って現状復帰をするのが精いっぱいで困っていたんです」


「そうだったんですね。それなら大丈夫ですよ。多分そのボアってこれですから」


 私はおじさんたちにヘレンさんの弟が食べているボアのステーキを指さす。


「ん?どうしたのみんな。父さんたちも早く食べなよ」


「え、ああ。それは本当ですか?」


「ああ。今日一の獲物というか、ほぼそれだけだけどね。別に突進に気を付ければそこまで強い相手じゃないからね」


「なんと……ありがとうございます!」


「ありがとうございます」


 おじさんとおばさんに頭を下げられて恐縮してしまう。ジャネットさんはともかく私にまで……。


「まあ、あたしたちが倒したのはたまたまだけどね」


「それでもですよ。これで村の連中にも説明して、明日からはもっと頑張れます。今度は荒らされませんからね!」


「でも、そんなにこのボアって強かったですか?」


「ねえちゃん知らないの?ボアの体って脂肪が多くて矢がうまく刺さらないんだ。だけど、近づくと危ないから手出しできないんだよ」


「そうだったんですね。オーガと最近はよく戦ってるから、あれぐらいだと特に危なくはないかなって」


「……えっと、お2人とも冒険者ランクは?」


「あたしがCランクでアスカはDランクだね。ちなみに普段はアルバの東側の依頼を受けてるよ」


「そうでしたか、いや村を救っていただいただけでなく、その肉までいただいて。数日はここでゆっくりしてください」


 こうしてヘレンさん一家にて、ワインツ村での一日目は終了したのだった。


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