アフターパーティー
私の誕生日に触れられちゃったけど、どうしたものか……。
「私ですか……えっと……う~んと」
前世のは違うと思うし、そうなるとこの世界に来た日だよね。いつだったっけな? 確か六月一日だ。
「私の誕生日は六月一日です……多分」
「多分って何だい。まあ、来年のその日を楽しみにしておくんだね」
「そこまで言われるとなんだかちょっと怖いですね」
楽しい時間はあっという間に過ぎていく。新作の料理なんかも並べられてすごくお得なパーティーだった。
「しかし、フィアルにも悪いね。わざわざ二階を貸し切りにしてもらって」
「いいえ、これぐらいなんでもないですよ。有償でよければいつでもとは言いませんが、相談に乗りますよ」
「しっかりしてるねぇ」
料理も片付けられて飲み物だけが残るテーブルで私たちは歓談する。そろそろ出してもいい頃かな? ちらりと、フィアルさんに目配せする頷いたので、こっそり小箱を渡すも返されてしまった。
「私からでいいんですか?」
「はい。説明は私がしますので」
「アスカどうしたんだ?」
「ちょっとノヴァ、いいところだよ」
「あん? どうしたんだい」
「誕生日パーティを開くにあたって、ノヴァたちにはここに連れてきてもらったのと、私とアスカからはこれを」
小箱をフィアルさんが渡す。
「これってまさか……」
「運よく手に入りましてね。私はもう冒険に出ることも少ないでしょうし、今後は君にこそ役立つと思ってアスカに頼んだのですよ」
「これはレッドワイバーンの……」
「ええ、火の加護と魔力を高めるものです。アスカには十分な魔力がありますし、あなたがつけた方がいいでしょう」
「一応、私も色々な神様にお祈りして作ったんですよ。きっと、魔道具として成功しているはずです!」
「ちょっと席を外していいかい?」
喜んでくれるかと思ったらジャネットさんはちょっと奥の方に行ってしまった。
「どうしたんでしょうか?」
「ジャネットは恥ずかしがり屋ですから。嬉しくて泣いてるところは見られたくないんでしょう」
「へぇ~、意外だな」
「普段は年長者ですから、頑張ってそういうところを隠しているんでしょう」
「じゃあ、これからそういうところも見せてくれますか?」
「アスカなら大丈夫ですよ」
「勝手に言うね。あたしはそんな簡単な女じゃないよ」
ジャネットさんがちょっと赤い目をしてこっちに来る。本当に泣いてたみたいだ。でも、言ったらきっと怒っちゃうから黙っていよう。レア顔だしね。
「なあジャネットちょっと目が……もがっ」
「はいはい、ノヴァはちょっと奥に行ってよっか」
リュートがすかさずノヴァを連れていく。ふぅ、よかったよかった。ジャネットさんのこの顔はもうちょっと見ていたいしね。
「みんなして全く……。だけどありがとね。こんなに楽しい誕生日なんて初めてだよ」
その後も色々な話をした。今日はフィアルさんも居るから、ジャネットさんが駆け出しの頃の話も聞けてとっても楽しかったな。次はノヴァとリュートの誕生日だし、その時が楽しみだ。せっかくだから一月一日は孤児院の院長先生とも相談して、みんなと一緒にできたらいいな。私の細工を買ってくれた子たちにもまた会いたいしね。
「おねえちゃん……おねえちゃん。もうお昼だよ」
「うん……」
エレンちゃんの声が聞こえる。昨日は確か……遅くまで四人で飲んでたんだっけ? 店の人も何人かは残ってくれてたみたいだけど、帰ってきてすぐに寝ちゃったんだっけ?
「ほら起きてよ! そろそろ起きないと生活リズム狂っちゃうよ……」
「それはヤダぁ……」
仕方なくむくりと起きる。寝ぼけ眼をこすりながら着替えて部屋を出る。
「ちょ、ちょっと待って。ドア閉める!」
「うん、べつにいいよ~。すぐに終わるし……」
「よくないよ~。早く起きておねえちゃん」
のそのそと起きて食堂に降りる。
「おはようアスカ」
「あら、おはようアスカ。昨日は楽しかったみたいね」
「ふぁい……」
あくびを噛み殺しながらリュートとエステルさんに返事をしてテーブルに着く。すぐに今日のお昼ご飯が運ばれてくる。この匂いは……。
「ボアバーグ! ひっさしぶりだ~」
ばくばくと口に運んでいく。残念ながらひき肉にする道具がまだできていないので、こういった肉料理はまだまだ珍しいのだ。
「ん~、この口に広がるじゅわっとした感じがたまらないな~」
「あら、さっきまで寝ぼけてたとは思えないわね。今度からエレンを起こしに行かせる時は匂いの強いものを持って行かせるわね」
「エステルさん、それは辞めてください。匂いが付いちゃいます」
「それだけ返事ができればもう起きたわね。服にこぼさないようにしなさいよ」
そういうとエステルさんは奥に引っ込んでいってしまった。どうやら今の時間はエステルさんが厨房に入っているみたいだ。最近になって追加の料理を作る時はたまにエステルさんが厨房に入っている。追加を作る時間は客が減っている時間なので、焦らず作れるからいい練習になるというライギルさんの計らいだ。
「アスカはよく眠れたみたいで良かったよ」
「リュートは帰った後、寝れなかったの?」
「そこそこかな? 結構冒険談が面白くて、思い出したりしてたからちょっと寝るのが遅くなって……」
「私は逆にすぐに眠っちゃった。この時間までぐっすりだったよ」
「それだけ一所懸命にパーティーの用意してたんだね。ジャネットさんも嬉しかったと思うよ」
「そのことなんだけど……」
まずはリュートに孤児院の子たちとの合同誕生日パーティーについて話をする。私が急に行って話をするのは違うと思うしね。
「……うん。良いと思うよ。ノヴァやエステルもきっと賛成してくれると思う。院長先生も色々貰って、一度お礼をしたいって言ってたし。後はジャネットさんたちに話をするだけだね」
「よろしくお願いね。私は今から準備をしなくっちゃ! 人数とか教えてね」
「はいはい」
よし! そうと決まれば準備をしないと。今日が十一月二十九日だから後一か月か……。最近は洋裁もできるようになったし、ぬいぐるみとかもいいかも? 他には銅を使ったアクセサリーとかかな? 本当は銀も使ってあげたいけど、あんまり豪華なものを使って普段付けてもらえないと悲しいしね。
「そうと決まれば、いざ買い物にしゅっぱーつ!」
「アスカ、その前に片付けるから器持ってきてもらえる?」
「……はい」
気を取り直して部屋に戻った私は、着替を済ませると一路べルネスへ。もちろん、子どもたち用のぬいぐるみに使う布を買うためだ。ドルドの布でもいいんだけど、あっちは実用性重視でざらざらしてるから抱いたりするのには向いてないからね。
「そういえば、綿をどうしよう?」
向かいながらふと思った。大体、ぬいぐるみにはポリエステルが使われてたと思ったけど、ここにはないしなぁ。羊は見たことないし、ちょっと、誰かに聞いてみよう。べルネスへ行く前に私はギルドに向かうことにした。きっとジュールさんなら何か知ってるはずだ。
「こんにちは~」
「あら、アスカちゃん。今日はどうしたの?」
「はい、ジュールさんに用事があったんですけど、今大丈夫そうですか?」
「マスターなら大丈夫よ。上にいるわ」
私はライラさんにOKをもらったのでそのまま階段を上る。
「失礼します!」
「ん、アスカか。今日は何の面倒ごとだ?」
「面倒何てかけてませんよ。今日は聞きたいことがあって……」
「それならいくらでも聞いてくれ。ただし、俺に分かることならな」
「はい。今度ぬいぐるみを作ろうと思ってるんですけど、そこにつめる綿とかが取れそうな魔物とかいませんか?」
「ぬいぐるみにつめる綿……。それならベルネスにでも行けばいいだろ?」
「それが、布とかの代金を考えると結構な金額になりそうなんですよね。現地調達できればと思って」
手作りの方が温かみを感じると思うしね。
「そういうことか。アスカが今更金額を気にするなんてとは思うが、それなら心当たりがある。西の門から出て湖に沿って北上したところにワインツ村という村がある。そこからさらに西へ行けば布の材料になる毛を持つ魔物がいるはずだ」
「本当ですか!」
「ああ。ただし、警戒心の強い魔物だから十分に気を付けることだな。逃げ足も速いぞ!」
「情報ありがとうございます。あっ、ちなみにその魔物って美味しいですか?」
「……お前というやつは変わらんな。やや硬いがな美味いそうだ。倒せればの話ではあるがな」
「なおのこと、必ず倒して見せます!」
期待以上の情報をもらった私はお礼を言ってギルドを出る。可食部が多ければ情報料代わりにジュールさんにもあげよう。そう思いながらとりあえず必要な布地をベルネスで買って私は宿へ戻る。とりあえず場所は聞いたけど、ワインツ村までしか行ったことがないしジャネットさんにでも聞いてみよう。
「今は夕食までの時間つぶしだね。この前の細工の納品に足りないものは何だっけかな……」
細工リストを取り出して見てみる。レディトのお店ともおじさんとも紙でやり取りをしている。フォームを決めて、カタログから商品の名前を書いてもらうことで数量を設定してもらっているのだ。
「これによるとヴィルン鳥の翼がレディトでは人気で、アルバの人気は髪飾りと置物かぁ。やっぱり町ごとに流行りは違うんだね」
しばらく行く予定のないレディトは後回しで、アルバ向けに髪飾りを作っておこう。今回作るのはバレッタにしようかな? まだ作ったことがなかったし、この機会にサイドテールとかポニーテールを見てみたい。自分でもできるけど、鏡越しでしか見れないし街行く人のを見てみたいしね。