誕生日プレゼント
コートが完成してゆっくりしていると、私に来客があるとエレンちゃんが言ってきたので、慌てて食堂に下りる。
「あれ、フィアルさん? どうしたんですか宿までくるなんて」
「ふと、ジャネットの誕生日を思い出したので、アスカに伝えておこうと思いましてね。実は来週なんですよ」
「何日ですか?」
「十一月二十八日です。自分からは恥ずかしいから言わないと思いまして」
「ありがとうございます。それなら新作のデザインがあって……」
私はフィアルさんに今考えているネックレスの案や誕生日会について話す。
「アスカの細工に役立つよう、これを渡しておきます。私もパーティーメンバーのためですから、それぐらいはさせてもらいますよ」
そう言ってフィアルさんが魔石をくれた。臨時パーティーを組んだ時に見つけたものらしい。その時の取り決めが報酬は発見者が各自で持ち帰るということで、黙って持ち帰ったんだって。
「誕生日会の話、リュートとノヴァには?」
「当日は彼らにエスコートを頼もうと思っています。私が誘っても来てくれないでしょうから」
「分かりました。当日を楽しみにしてますね」
それならコートはさっさと渡して、当日は新しい細工でびっくりさせよう。グッと手を握った私は手のひらの魔石を見つめる。
「これがあればきっと驚かせるぞ~!」
それから数日後、レディト行きの依頼を受けた私たちの行き帰りの道中は大変だった。ノヴァが変に意識して言いそうになるんだもん。
リュートもいつも以上に疲れていて、帰ったらミーシャさんに言って仕事を休ませてもらうって言っていた。
「何げっそりしてるんだいリュート。今回は疲れでもたまってたのかい?」
「いえ、行くまでは元気だったんですけど……」
「何だよリュート。体調管理ぐらいしっかりしろよな!」
リュートの眼が一気に細くなり、お前が言うなと思いっきり主張している。
「あはは、きっと私と一緒に商会へ行ったからじゃないですかね……」
「そういや、レディトに行く時お前らいっつも一緒だけど、何を見てるんだ?」
「私は普通に納品してるぐらいかな? 見るとしても置物とか、ポプリとかかな?」
「僕は孤児院の子とかお世話になってる人に贈るのにちょうどいいから利用してるんだ。アルバで買ってもいいんだけど、どうせなら普段手に入らないものの方がいいと思って」
「へぇ~、そいつは知らなかったね。てっきり、アスカに引っ付いてるのかと思ってたよ」
「ジャ、ジャネットさん、よしてくださいよ」
「そうですよ。リュートみたいなしっかりした人にはきっともっといい人が見つかりますよ」
私はちょっと魔法は使えるけど、ぼーっとしてるって言われるし横に並ぶのは失礼だよね。
「ま、まあ、一人歩きさせないで助かってるよ。これからも頼むよ」
「はい!」
まるでリュートが保護者のような扱いだ。うむむ、たった二歳しか違わないのにな。
「そういや、アスカ。コートありがとね。あれすっごく使いやすいよ。これまで銀貨五枚ぐらいの奴を使ってたんだけど、段違いだね」
「そう言ってもらえると嬉しいです。それに私とお揃いですしね」
「ああ、何なら今度一緒に着て買い物にでも行くかい?」
「本当ですか? 絶対、約束ですよ!」
「お、おう」
もう一度絶対ですからねと念を押して、先に宿へ戻る。誕生日まで後三日しかないのだ。最初にネックレスのチェーンだけは出来たものの、デザインが未完成なのだ。
「前のデザインじゃ、フィアルさんに貰ったレッドワイバーンの魔石に合わせられない。だけど、すごい魔石をくれたなぁ」
レッドワイバーンはBランクの魔物であるワイバーンの亜種で手強い魔物だ。ワイバーンが咆哮の威圧のみに対して、簡単ながらも火のブレスを吐くことが出来る。空も飛んでいるのでいかに地上に落として戦うかが重要視される魔物だ。
皮も硬くて本来はBランクパーティーが戦う相手だ。Cランクのフィアルさんが同行した理由を聞いたら、そのパーティーには水魔法の使い手がいなくて、水魔法が使えるフィアルさんに白羽の矢が立ったらしい。
加えてレンジャー職の人間がいない戦闘型のパーティーで、設営や簡単な食事にかく乱の仕方も教えて感謝されたみたい。
「その報酬としては貰いすぎなように思うけど……。それはそれとして、きちんとこの石に見合ったものにしないとね」
いくつかある自分のデザインを並べていく。翼に六角長方形のデザイン、剣の刀身を魔石にしたデザイン、十字の中心に魔石をつけ、そこに銀をかぶせることで魔石を削る工程をなくし、魔石の能力を100%発揮できるデザインなどなど。
「でも、なんか違うんだよね。しっくりこないっていうか。一つ目はかわいいし、他のも今一つだ」
うんうんと唸っては、また違うと思い直す。そうこうしているうちにもう三日しか残っていない。加工とかも考えると、そろそろ限界なんだけど……。色々な飾りを試してみたものの、とうとう何も思いつかなかった。
「むむ~。こうなったらシンプルにいってみよう。魔石に枠だけ付けたものは駄目だね。次は傾けて固定したものは何かしっくりこない。次はねじって……ってねじると魔石が割れちゃうよね」
その時、私にひらめきが舞い降りた。なにもねじるデザインだからといって、魔石までねじる必要はない。要は魔石を中心に置いて金属を巻き付けていけば良いのだ。しかも、凹凸も付いていいデザインではないか。ついでにワイバーンの姿も上につけ足しておこう。
「よし、そうと決まれば作ってみよう! ただし、魔石を削らないように慎重に作らないとね」
早速、銅を持ち出して削り出しを行う。一時間ほどで型は出来たので実際に巻き付けてみる。
「うん、いい感じ! だけど、もしも魔石が落ちちゃったら嫌だし後ろで固定して、底のところには尻尾のデザインを加えてと」
決まったらどんどんアイデアが浮かんできたので、私はすぐさま実行していく。銀もちょっと良いのを仕入れて使っているし、これでようやく完成すると思うと手も進む。まずは底の部分ができて、そこから続いてねじり部分ができた。
「よし、最後にずれないよう魔石のところに固定爪を作って、後ははめ込むだけ」
そう思って私は魔石をちょっと手に取って見る。よくよく見ると傷がある。
「うう~ん。ほんのちょっとだけ傷があるなぁ。これは削ろう!」
細工用にと買ってあった磨き粉を使って磨いていく。魔石を必要以上に削らないように慎重に……。
「ふぅ~、終わった。これで誕生日まで枕を高くして眠れるよ」
安心した私はそのままベッドに倒れ込み、気づくと眠ってしまっていた。
「~ねえちゃん、おねえちゃん!」
「ふぇ?」
どうしてエレンちゃんの声が? ぱちりと目を開けると、外は真っ暗だった。
「もう~、お昼も来ないしミネルが来たと思って見に来てみれば、いつから寝てたの?」
「えっと……よく分かんないかな?」
「わかんないじゃないでしょ! しっかりしてよもう……」
「ご、ごめんなさい」
最近みんなから怒られることが増えた気がする。前までは仕方ないね~なんて言っていたエレンちゃんですらこうなのだ。エステルさんには年齢ごまかしてないわよねとまで言われてしまった。
むしろ、前世なら年上なんだけどなぁ。そうこうしているうちに着替えて食堂へ下りご飯を食べる。
「うう~ん。今日はボアの串焼きかぁ。これ食べると屋台のおじさんを思い出すなぁ」
「あら、アスカがライギルさんの料理より気に入るなんて珍しいわね」
「あはは、やっぱりああいうのは屋台で食べてこそですよ。食堂だと串から抜いて食べないといけませんし」
「そう言えば、前から思っていたんだけど、アスカってマナー良いわよね?」
「どうなんでしょう? 私のところでは一般的なものばかりですけど」
「貴族説再燃かしら」
「やめてくださいよ。めんどくさくなりそう何で」
「おねえちゃんってほんと変わってるよね。普通貴族様って言われたらみんな嬉しがるのに」
いやぁ、上に下にの気遣いの嵐と断罪フラグの嵐でしょ貴族って。そんな嵐の中に入りたいなんてみんな不思議だな。私なら絶対に拒否するね。
美味しい料理を平らげた私は、エレンちゃんに起こしてもらったお礼を言ってから部屋へ戻る。そして祈りを捧げてから寝ようとしたのだけど。
「寝すぎて眠れない……」
こうしてなかなか寝付けない夜は過ぎて行った。