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続・コート製作

 私はライギルさん作であろうオークカツとスープを頂くと、再び作業に目を向ける。


「その前にちょっとジュースで口直し」


 口の中もさっぱりしたところで、続きを始める。ウルフのコート作りも残すところ裏地の縫い付けのみだ。


「先ずは、フードの裏部分からだね。それが終わったら袖口を両方やって……最後に中央の背中の部分だね」


 出来るだけ違和感なく且つ、合わせ目は重なるようにして縫い付けていく。隙間が空いてたら水が入ってきた時に大変だし、風が入ってきても嫌だからね。


「うん。大体の縫合は終わったね。縫い合わせも違和感ないし後は実際に袖を通してみてと……」


 縫い終えたコートを着てみる。肩口がやや重い気がするけど、ごつごつしてないし引っ掛かりもない。初めて服を作ったにしては上出来だ。


「何とか形になったし、後はもう一回裏返してほどけないように縫い付ければいいよね」


 縫合を丁寧にやっても一部には生地の余りが残っている。それを落として綺麗な形にしていく。


「うん! これだけ出来れば上出来かな? 後はべルネスのお姉さんとジャネットさんにみてもらおう!」


 べルネスのお姉さんには服としての質を、ジャネットさんには実際に旅の途中でコートとしての役割に問題が無いか確かめてもらうのだ。


「色々試したけど、結局のところ服には詳しくないしね~」


 食堂で時間を確認すると十六時以降になっていた。うう~ん、お姉さんのところに行くにはちょっと時間が遅いかな? 後はジャネットさんだけど、都合よく食堂にいないし十八時ぐらいまで待ってみよう。


「そうと決まれば部屋に戻って時間を潰そう」


 十八時まで一時間半ほどあるので、既存品の細工物を二つ作ることにする。三つはさすがに時間が足りなかった。

 作ったのは根強い人気を誇るプリファの二輪飾りだ。小さい花が二つ絡み合っているのがかわいいと評判で、今でも売れ続けている。


「最初からあるデザインなのにかなりの期間売れ続けてるよね。ちょっと複雑な形だけど、ずっと作ってたから慣れて、短時間で作れるようになっちゃった」


 手を動かしながら売れ筋について考える。人気のないものに関してはスペースを取るだけだし、回収しようかな? アルバの人口を考えたら一定期間売れ残ったものは値下げしないと売るのは難しいと思う。代わりにレディトに持って行ってじっくり売れば、物珍しさで買ってくれるかなと期待しているのだ。


「それでも残った場合は旅に出る時に持って行って売るしかないかなぁ~。荷物を増やしたくないけど、不良在庫を抱えたままじゃだめだし、さすがに細工師として買取屋さんへ持って行くのは嫌だしね」


 あれこれ考えながら作業を進める。作業自体は慣れてるから大丈夫だけど、銅を使っているので手元は気をつけないとね。金属で作っているのは複雑な形のところが割れちゃうからだ。オーク材だとたまにそこから割れちゃうんだよね。


「出来た~。でも、まだ鐘は鳴らないしもうちょっとやっておこうかな?」


 余った時間で最近作っていないオーク材を使った細工を作ることにした。割れることもあるし、普段作るとすれば置物ぐらいなのだ。


「そうだ! さっき作ったウルフのコートにボタンを付けてみよう。服に切り込みを入れずに、ひもを縫い付けてボタンも大きくしてひっかけるタイプで……」


 この形ならちょっと形を整えるだけでいいから楽だ。飾りとしてちょっとウルフの模様を入れておこう。


「完成! これでもっと温かいし、デザイン性も出たかな?」


 程よい時間になったので、マジックバッグを付けて食堂へ下りる。


「ミネルにレダも一緒に行こ」


《チッ》


《チュン》


 二羽を連れて降りると、お客さんが入ったばかりなのか料理のあるテーブルはまばらだ。


「あっ、おねえちゃん今日は早いね。ちゃんと食べられるの?」


 お盆を受け取りながらエレンちゃんが聞いてくる。


「多分ね。それよりジャネットさんはもう来た?」


「今奥に座ったところだよ。一緒に食べる?」


「そうさせてもらおうかな。あっ、ジュースも一緒にお願い」


「は~い」


 エレンちゃんに注文を言って、ジャネットさんの隣の席に座る。


「ああ、アスカか。この時間に一体誰かと思ったよ」


「ごめんなさい。誰かと約束でも?」


「まさか、それにしても今日はどうしたんだい?」


「えっと、実はちょっと見てもらいたいものがあって……」


 私は早速本題に入る。早くしないと食事が出てきちゃうしね。


「これは? 普通のコートに見えるけど?」


「はい、フード付きのコートがなかったんで自作したんですけど、出来を確認してもらいたくて……」


「はぁ? あんたまたそんなことに手を出して。まあいいや、今さらだし」


「自分では問題ないと思っているんですけど、実際に使ってる人に感想をもらいたくて……」


「ふぅん……ってこのサイズじゃ私は着れないね」


「あっ!」


 そういえばジャネットさんと私は二十センチ以上身長が違うんだった。さすがにこれだけ違ったら着れないよね。


「まあ、袖を通すことぐらいはできるからそっちで計ってみるよ」


 そういいながらコートに手を入れるジャネットさん。他にも背中の部分やフードの部分、ボタンなどを順番に触っている。お願いしたのは私だけど、なんだか品評会みたいでちょっと緊張するなぁ。


「うん、大体分かったよ」


「本当ですか。どうでした?」


「初めてとは思えないぐらい、いい出来だね。結構いい値段するよこれなら。そうだね……銀貨七枚以上かねぇ? 毛皮自体はウルフで安いけど、これだけ裏地が良くて空気の入りもないからね」


「本当ですか?」


「ああ、これならあたしも欲しいぐらいだよ。これが初めてっんだからすごいねぇ」


「あはは。でも、もっといいコートとか見たことありますからまだまだですよ」


 前世のお母さんが使っていた毛皮のコートはもっとふわっふわだった。ミンクかなんかを使っていたと思うんだけど、あの手触りには及ばないよ。


「そういうところがいいものを作れる秘訣かもね。この冬は寒そうだし、あたしにも作ってくれよ。ほら!」


 コンとジャネットさんが私に向けて一枚のコインを転がしてくる。


「これは……金貨ですか?」


「材料費と加工費込みでね。頼んだよ」


「は、はぁ」


 う~ん。被服に関しては本当に何も知らないから、本をかじった程度なんだけど、そこまで言われたらちょっとがんばっちゃおっかな。


「頼んだよ。さぁて飯だめしだ」


 断る暇もなくエステルさんが持ってきてくれた夕食によって会話は途切れてしまった。断る気もなかったし別にいいけどね。その後は食べながら二人で近況を話し合った。

 ジャネットさんは当然だけど、私が細工をしている間にもフリーの冒険者として、他のパーティーに加わり依頼をこなしているらしい。一人で大丈夫かなと思ったら、前衛が足りてないパーティーにはとても喜ばれるそうだ。


「まあ、前衛ってのはとにかく金がかかるからね。あたしだって剣に鎧に靴に結構掛けてるしね。剣だって一本じゃない。これが重戦士ならプレートアーマーに大盾にと、さらにお高くなるからねぇ」


 言われてみればゲームでも前衛の人はマネージメントが大変だって言ってたなぁ。私はそこまでやってないから、本当の苦労は知らないけどね。でも、初めてのパーティーって結構大変なんじゃないのかな?


「ジャネットさん。パーティーってファニーさんのところばっかりじゃないですよね?」


「ん? ああ、ファニーたちとはあまり行かないね。あそこは手の内も結構知ってるし、組みやすいんだけど、入るなら前衛一人と中衛一人はいないと微妙だからね。私が入っても四人だろ? 大体入るところは前衛一人、中衛と後衛で三人とかの場所だよ。前衛一人の合計四人以上の方が一人を受け入れやすいんだよ」


「でも、連携とかどうするんですか?」


「そりゃ、やってみてだね。盾持ってりゃ後ろは任せるし、魔法使いが多けりゃちょっと下がり気味に立ってる感じかね?」


 ポンポンと戦い方が浮かんでくるあたり、ベテランの余裕を感じるなぁ。その後もどんなパーティーと組んでいるのかを聞いていた。私は他の人と殆ど組まないから、こういう話は新鮮だ。


「そんなに興味があるなら、アスカも臨時で入ってみたらどうだい?」


「でも、私って冒険者になって日も浅いですし、大丈夫でしょうか?」


「大丈夫だって。テントに防護魔法もかけれるし、食事も簡単にしてくれるし、薪さえ用意すれば火も使える。泊まり込みには逸材だよ」


「なんだか、褒められている気がしません……」


「あはは。たまにはいい経験になるだろうから考えておきなよ」


「自信が付いたらそうします」


 そう言いながら食事を終える。食後にはジャネットさんの服のサイズを測らせてもらうため、部屋へ行って測らせてもらった。でも、大人の女性って感じがしてちょっとドキドキしちゃった。私もあんな感じになるのかなぁ……。

 それはそうと、明日は忘れないようにベルネスへ行ってあっちでも服の出来を見てもらわないとね。その前にやることが一つ。


「じゃじゃ~ん。初巫女服でのお祈りタイムです! アラシェル様、決してコスプレじゃないですから。真剣にやってますので誤解のないようにお願いしますね」


 衣装のレベル的にはコスプレっぽくなってしまっているので、言いわけを済ませてから祈る。


「なんだか今日は集中してお祈りできた気がする。明日からもできればこの格好で続けよう。それじゃおやすみなさい、アラシェル様、ミネル、レダ……」




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