表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
172/492

新作と魔石の確保

 次の日は昨日作った花束の細工を仕上げる作業だ。


「まずは花びらに魔石を埋め込む作業だよね。この世界は質の悪い魔石が手に入るからいいよね。ガラスより見た目も質もいいのに、魔物を倒せば手に入るから安い。それじゃ、魔石クズをこの花びらに埋め込んでいこう」


 埋め込むと光の加減で色合いが変化するのもいい。宝石はそこそこするので面積が多いものには魔石を使っている。人工ダイヤがないこの世界で、こういった代用品が手に入るのは幸運だろう。


「さて、次は花弁のところだからこっちは宝石を使ってと……」


 ちょんちょんと小さく削った宝石を型にはめ込んでいく。


「こうやって完成していくのを見るのはやっぱり気持ちがいいね。それに魔石も薄く削れたから、このままやれば違和感なくできるかな? だけど、細かい作業も多いから時間もかかるなぁ。単価をどうするかが問題だよね。削るだけならいいけど、こうやって宝石とか魔石を使う場合は銀を使って元から高級品にしないと駄目かなぁ?」


 型抜きに三時間超、そこから魔石の加工や宝石の加工、さらにはめ込み作業を入れると一日に一つがやっとだ。これまで難しいと思ったものでも、二つ三つ作れるペースだったから、過去最高に時間がかかる。


「残念だけど、これを銅とかで作っちゃうと大銅貨四枚ぐらいになるんだけど、それじゃあ一日分の出来高としてはどうかと思うし……」


 一日大銅貨四枚と言えば、余りの材料で作った即売会の一日の売上だ。きちんとした材料でこれでは駄目だよね。これは銀で作って銀貨二枚前後で売ろう。それなら原価とも合うし、作る意味もある。


「う~ん。大勢の人につけてもらいたいけど、削る部分も多いからちょっとこれは無理だね」


 何とかしてコストカットというか、細工時間のカットができないかな? しばらく悩んだうちにあるひらめきが思いつく。


「駄目で元々だし試してみるか!」


 横長の魔石を取り出し花の形に削っていき、中央部には宝石をはめる。次の花も別の色の魔石で作る。こうやって色々な花のパーツを先に作っておき、最後は後部に穴を開ける。この穴に金属ひもを通して、土台に固定する。これなら四時間あれば何とか作れる。


「魔石の使用量は増えるけど、安いのを使えば節約できるし、銅とか銀で作っても少しは安く出せるかな?」


 問題があるとすれば、いくら安いといっても魔石を安定的に入手できないということだ。初心者やお金に困っているパーティーなら、傷のついた魔石でもわざわざ回収して売ってくれるけど、魔道具に使えない魔石は放置することも多い。

 おじさんもギルドからあったら売ってくれっていう形で買っているみたいだし、旅先だと他の細工屋で買えるか分からないなぁ。


「ホルンさんに相談してみようかな?」


 ギルドの買取の問題だし、ホルンさんなら何か良い案が思い浮かぶかもと考え、着替えを済ませてギルドへ向かった。



「こんにちは~」


「あらアスカちゃん。こんな時間にどうしたの?」


「ホルンさんちょっと今いいですか?」


「ええ、もうすぐ上がる時間だしいいわよ」


 ホルンさんのカウンターに行って私は魔石の件について相談してみる。


「~〜なので魔石の確保をどうしたものかと……」


「なるほどねぇ。確かに一定数作るためには安定した供給が必要だものね。それなら依頼を出すということが出来るんだけど……」


「冒険者でも依頼を出していいんですか?」


「もちろんよ。自分で採れない素材を取ってきて欲しいなんて依頼はいくらでもあるわ。採取依頼の一部もそうよ」


「そうだったんだ」


 初めて聞く話だ。


「薬師の腕に応じてギルドが供給量を変えるから、別途欲しい人が依頼しているの。依頼人名義がギルドになってるだけで元は個人の依頼なのよ。ポーション用の薬草は在庫があっても困らないし、常時依頼なだけなのよ」


「そうだったんですね。じゃあ、私も依頼を出せばいいんですか?」


「普通だったらそうなんだけどね……」


 ホルンさんが浮かない顔で私の方を見る。何かあるのかな?


「ランクが足りないとかですか?」


「クズ魔石だったら報酬が払えるなら問題ないわ。ただ、アスカちゃんの場合はティタがいるから、依頼からだとティタのためなのか、アスカちゃんが使う分なのか判断がつかないのよね。冒険者の中にもティタに助けられた人が増えていて、あなたからの依頼は良くないと思うの」


「ああ~」


 確かにティタは私が身元保証人みたいになっていて、赤い布を左腕に巻いたゴーレムってギルドにも伝えてある。そこに価値の低い魔石ときたら、相手からは目的が分からないから、魔石の使い道を勘違いするのか。


「まあ、元々それほど価値のあるものでもないからそこまでうるさく言う人もいないだろうけど、あまりいいことじゃないのは確かね」


「う~ん。それじゃあ、どうしたらいいんでしょう?」


「いっそのこと細工屋のおじさんに頼んで依頼を出してもらえばどう? それなら冒険者たちも勘違いしないし」


「そんなことが可能なんですか?」


「ええ。ただ、金銭の支払いに関してはアスカちゃんと細工屋の人との話になるわ。ギルドは口を挟まないから問題の無いようにね。それと……これもティタがらみなんだけど、ティタに魔石を上げる人が増えたせいかちょっとクズ魔石の買取が上がってるの。前より流通量が減ってるのよね。だからそこはよろしくね。相場は三つで大銅貨四枚よ」


「むぅ~、ちょっと高いですね。オーク肉も安くなったし、素材の買取も考えるとちょっと痛いです」


「一応、三つもあれば何とか魔道具にできるぐらいの物が一つはあるから仕方ないわ」


「分かりました。おじさんとも相談してきますね」


「ええ。それじゃあね」


 ホルンさんと別れた私は一度宿に戻って考える。


「う~ん。今の魔石のサイズから考えると、魔石一つで四つ前後の細工に転用可能かな? 色味もあるし少し多めに買えば次は買わなくていいけど、ちょっと高いかな? 後は代行料も合わせると大銅貨五枚ぐらいかな?」


 おいそれと銅製品には使えなくなっちゃうな。色味が増えるし、絵付けとは見栄えも異なるからこれからも使っていきたいんだけど、価格を考えると難しそうだ。

 自分で採りに行けたらいいんだけど、グリーンスライムはここから東に結構行った町の森。ウィンドウルフは王都の東側。ブルーバードは北西の町という感じで生息域が違うから全部は取れないんだよね。


「この辺りで採れるのはオークメイジの魔石だけど、あれは使い道もあるしなぁ。クズ魔石って回数は使えない代わりに必要な魔力が低くて同じ効果が出るから、使い切りとしては優秀なんだよね」


 着火用の魔石も繰り返し使えるタイプは魔力が30前後必要だけど、使い切りの方は10ぐらいあれば使える。コストパフォーマンスは悪いけど、貴族とかが使うのなら便利だから需要もあるって話だし。


「質の悪いオークメイジの魔石でも冷蔵庫一日分とかお湯をお風呂一杯分作るぐらいにはなるだろうしね」


 そう考えれば有用に感じる。ただし、市場価格は使い捨て効果で大銅貨五枚程度になるので、お風呂一杯大銅貨五枚+水となり、かなり利用者がいないとマイナスなんだけどね。

 仮に一人銅貨五枚なら十人必要だから流れ作業のように入ってもらわないとすぐに温くなっちゃう。

 

「だけど、エレンちゃんの負担軽減とかも考えるとたまには誰かが代わりにやって欲しいしな~。でないとまた外出できなくなっちゃうし」


 孤児院から人が来て代わりの店員さんもいるけど、コールドボックスとお風呂の湯沸かしに補充人員はいないからなぁ。


「今はまだリュートが代わりにしてくれるからいいけど、リュートもしばらくしたら孤児院の子に代わってあげたいって言ってたしなぁ」


 自分たちは冒険者として生活できる目途がついたからメインを孤児院の子に変えて、その子たちが院を出る時の生活を安定させたいみたいだし。


「魔道具って最初は単純に便利だって思ってたけど、こう考えると結構デメリットもあるんだよね。何にしても使うことは間違いないんだし、幾分かは依頼出しておこう」


 出すとすれば数なんだけど、取り敢えずは十二個分でいいかな? どんなのが来るか分からないし。これなら銀貨二枚だから別にどんなのが来ても大したダメージにならないしね。


「そうと決まれば夕食だね。ミネル、レダ行くよ!」


《チッ》


《チュン》


 二羽の返事を聞いて私は食堂へ向かう。食堂は相変わらず繁盛していて、時間をずらしたのに席もまだほとんど埋まっている。


「アスカ、こっち来なさい」


 私が周りを見ていると食事中のエステルさんが声をかけてくれたので、ありがたく私はそのテーブルに座った。


「ありがとうございます。でも、珍しいですね。いつもはもっと後ですよね?」


 たしかエステルさんの夜の上がり時間は大体、二十時近くのお客さんの入りがなくなってからだと記憶している。


「ほら、リュートも慣れてきたし、実は今日のメニューはサンドとスープなの。パンを大きくして不満も出ないようにしてあるし、配膳も片付けも楽なのよ」


 そういえば今日はみんなぱくぱく食べてるなぁと思ってたけど、そういうことだったんだ。


「アスカこそまだ十八時ちょっとよ? 早いんじゃない」


「今日はエレンちゃんに試してもらいたいことがあって……」


「ふぅん。なら、今日は楽だから途中抜けても大丈夫よ。ミーシャさんにも言っておくわ」


「ありがとうございます」


「あっと。私は戻らないといけないから」


「はい。頑張ってくださいね!」


「勿論!」


 私はエステルさんの背中を見送ると、目の前の食事に目を向けた。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ