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特別読み切り エレンと鳥の巣

今回はエレンちゃんがまだまだ、店の手伝いを始めた頃のお話です。お楽しみいただけたら嬉しいです。


 わたしはエレン。鳥の巣っていう宿屋の1人むすめだ。お父さんは料理を主にしているライギル、お母さんは料理を配っているミーシャっていうんだ。

 宿はいつもにぎわっていて2人ともとっても忙しそう。それにこの前まではおじいちゃんたちがいてくれたんだけど、わたしも大きくなったし自分の店を新しく作るって町を出ちゃった。


「このままじゃ、お母さんたち倒れちゃうよ……」


 そう思ったわたしはお母さんに話をしてお手伝いをさせてもらえるようにした。


「んしょ、んしょ」


 シーツを頑張ってはいでいく。わたしは背もあんまり大きくないからなかなか外すのも大変だ。


「エレンちゃんは頑張り屋ね~。まだ小さいのに偉いわ」


「えへへ、お母さんたちに楽してもらいたいから」


 なでなでと頭を撫でられる。冒険者さんたちはみんなが言うよりやさしいと思う。こうやって頭をなでてもらうのも日課みたいなものだし。


「うう、おもいよ~」


「おう、貸してみな」


「わっ!」


 後ろから来た冒険者の人がシーツの入ったかごを持って下りてくれる。まだ三枚ぐらい入れると運べる限界のおもさになるから大変なお仕事だ。


「それじゃな」


「ありがとう、おじさん!」


「こら、こういう時はお兄さんっていうんだぞ」


「は~い!」


 元気よく返事をしてまたシーツ取りにもどる。ぺりって一気に取れたらうれしいけど、まだあんまりうまく取れない。お母さんはもうちょっと大きくなったら簡単って言ってたけど。

 お母さんも昔は手伝いから始めたからよく分かるんだって。がんばってシーツを集め終わると次は洗たくだ。


「んしょ、ざば~」


 たらいに水をちょっとずつ入れていく。がんばって何度もいれるとようやく洗たくできるほどになった。


「じゃ、いたおいて。それ~」


 シーツを勢いよく放り込んで一気に手をつっこんでまぜまぜ~。


「うひゃ、つめたい~」


 だけど、これもお母さんたちの為、がんばんないと!


 -------------------------------------




「って感じでこれまで頑張ってきたんだよ!」


「さっすが、エレンちゃん! 頑張り屋さんだね。私はその歳ならとことこお母さんの後ついて行ってただけだよ」


「でしょ? おねえちゃんもそう思うよね」


「でも、よくそんなに頑張ったね。どうしてだったの?」


「それは……恥ずかしいんだけど、おじいちゃんたちが家を出て一気に時間が出来ちゃったんだ。お父さんたちはずっと仕事で寂しくって……」


「ふふっ、エレンちゃんかわいい!」


 ぎゅー


「おねえちゃん痛いよ。……主に胸が」


「エレンちゃん、そんなこと言うならもうこれあげません」


 そういうとおねえちゃんはごそごそとバッグから包みを取りだす。


「これなに?」


「……オークです。今日は残念ながらオークが十一体の大群でものすごく肉が余ったんだよね。きっと、明日と明後日ぐらいは値段も落ちてるかも……」


 オークっていうのは魔物でとっても大きいらしい。わたしは直接見たことないけどね。おねえちゃんは冒険者だからこうやってよく戦果を持って帰ってくれる。正直、うれしいけど無理してないか心配だよ。だって、他の冒険者はもっと宿から出るのに、おねえちゃんってばいつもこもりっきりだし。


「でも、おねえちゃんも十一体も魔物が出たのに余った肉の心配なんて、ベテランさんみたいだね」


「そ、そうかな~。えへへ」


 うう~ん。ちょっと褒めたらこの調子だし、これで旅に出るっていうんだから心配だ。せめてこの町にいる間にもうちょっと危機感を身に付けて欲しいなぁ。それはそうと……。


「ありがとう、おねえちゃん。お父さんに渡してくるね!」


 タタッ


「おとうさ~ん。おねえちゃんから!」


「またアスカか。あいつはもうちょっと遠慮してもいいのにな。いつものように持ってきて……」


「そんなこと言ってうれしいんだよね」


「ま、まあな。正直、市場でもあんまりでなかったり、高いとこばっかりだからな。アスカが美食だから助かる」


「でしょでしょ。おねえちゃんが来てから店もメニュー増えたし、いつものようにお願い~」


「はいはい」


 こうして今日もおねえちゃんの食材が夕食に並び、しばらくの間おねえちゃんの皿にはこっそり他の人とは違うものが足されていくのです。


「あ~あ、おねえちゃんの将来が心配だよ~」


「あら、エレンまたその話? 寝る前になるといつもそれね」


「だって、お母さん。ほんとに心配なんだもん」


「大丈夫よ。ジャネットやリュート君もいるのよ?」


 どうやら、母はもう本人には期待していないようだ。これが人生経験の差か……。まあ、おねえちゃんのことだしきっと大丈夫かな? そう思い直して今日も寝ることにした。


「おやすみなさ~い」


「はい、おやすみ」


「おやすみエレン」


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