冬の足音
お昼ご飯も食べて私はもう一度細工屋のおじさんの店へ行く。
「おじさ~ん。鉄の塊頂戴!」
「おう、アスカ。買い忘れか?」
「そんなとこ。鉄の塊の大を五つください」
「それなら金貨二枚だ」
「は、は~い……」
さっき受け取ったお金を大幅に上回る赤字だ。まだお金はあるけど、大量仕入れはこういうのがあるからなぁ。私は鉄をマジックバッグにしまい込むと宿へ戻る。
「う~ん。本当に何もしないのも暇だし、絵でも描くかな!」
せっかくだから次に作るステーキプレートをイメージして描いていく。
「丸形、楕円、長方形っと、下のお皿はそれに合わせるだけだし後は意見を聞いて決めればいいね。後は燻製と乾燥ができる魔道具か~。一個は作ったけどあっちは燻製特化だから、乾燥は難しいんだよね。熱風というとウィンドウルフの魔石が必要か~。そっちは取れないし手に入るのを祈るしかないね」
こうして午後は次の依頼の完成を思い浮かべながら、絵を描いたのだった。後は次に作る燻製・乾燥機だけど、こっちは材料がないし絵を描くのもそろってからだね。
こうして冒険者としての依頼がない週を過ごした私は、最近ではかなりまったりした生活を送った。
細工の日も午前もしくは午後だけ仕事をして、あとは本を読んだりミネルたちと戯れていただけだ。そんな日々を送っていると宿にファニーさんが来たと知らせを受けた。
「こんにちは、アスカちゃん」
「ファニーさんにユスティウスさん! こんにちは。今日はどうしたんですか?」
「ああ、大変言いにくいことだが、この前作ってもらったナイフだが……」
「何か作りに問題ありました? やっぱり、私も鍛冶をしないで作ったからダメかなぁと密かに思ってたんですよ」
ナイフの形にしたといっても削っただけだしね。そうじゃないかとは思ってたんだ。
「いや、違うのよ。私もあれから森で使ってみて、実際にオークとも戦ったんだけど、すごく使い易かったの!」
「そこでだ。ファニーにもう二本と、私用に普通のナイフの形で構わないから一本作ってくれないか?」
「えっと。でも、もう材料持ってませんよ?」
「それなら安心して、私たちの方で魔石は用意したから」
そういいながら、ファニーさんが魔石を出す。確かにウィンドウルフの魔石だ。
「それなら良いですけど、ちょっと時間貰いますよ?」
「もちろんよ」
「よろしく頼む」
うむむ、前に作った二本はいいとしても新しくきちんとしたナイフか。私が持ってるのって採取用だけだから、今度リュートに見せてもらおう。
「それじゃあ、これは預かりますね。他にはありますか?」
「大丈夫よ。無理言ってごめんね。それじゃ」
ファニーさんたちと別れた私は一度部屋へ戻る。明日は依頼の日だし、とりあえず簡単な銀の加工と魔石の加工だけ先に済ませてしまおう。
「やりすぎると明日全快せずに依頼を受けることになるから注意しないと……」
《チッ》
「そうだね。そこそこ魔力使ったら教えてくれる?」
私はミネルたちに魔力の使い過ぎを防ぐように頼んで作業へ入る。魔力に関してはアラシェル様の言われた通り、最近はほぼ上がっていない。以前は上昇分がステータスにも反映されてたけど、最近は自分で完全隠蔽で数値をいじって伸びてるように見せかけている。
ホルンさんには伸びてよかったわねって言ってもらえるけど、実際は止まってるんだよね。
「何とも言い難い状況だなぁ。と、もうちょっと形を良くしてと……」
作業すること一時間。ぺちぺちとレダが私を叩き、ミネルは風の魔法でトントンと衝撃を与えてくる。
「ん~? どうしたの、遊びたいの?」
私がそういうとさらに強く魔法を放ってくるミネル。ああっ、そうか私が頼んでたね。
「ご、ごめんごめん。ありがとね二人とも」
よしよしと頭を撫でてご機嫌取りにはしる。うむうむ、満足そうで私もニッコリだ。辺りを見ると暗くなってきてるからもう十七時ぐらいかな? 私は時間を確認するために食堂へ下りた。
「ん? おねえちゃん、まだ夕ご飯の時間じゃないよ」
「分かってる。時間の確認だから」
「それだったら、今は十七時ぐらいかしら? まだ、食事の時間まで一時間はあるわよ」
「やっぱりそのぐらいかぁ。エステルさんありがとうございます。それじゃ、明日は依頼もあるからお風呂を先に沸かしときます」
「それじゃあ、宿にいる人と受付に来た人に言っておくわ」
私は火魔法でパッとお湯を沸かしたら再び部屋に戻ってくつろぐ。ふう~、それにしても最近ちょっと冷えてきたなぁ~。ちらりと窓の外を見る。日もくれるのが早くなったし、そろそろべルネスに行って冬物を買わないといけないかも。
「そんなに気温の変化がないって言ってたけど、この調子だと一桁ぐらいまでは気温も下がりそうかな?」
それならさすがにコートや上着を探さないとね。冬に思いを馳せながらだらだらすると、ご飯の時間になったので食堂へ下りる。
今日の食事はボアの洋風すき焼きだ。たれが肉にしみ込んでいる上に、野菜には肉汁とたれが染みてとっても美味しい。後は鉄器に入ってると風情もあって、いいんだけどな。
「よぉ~し、サクッと鉄板製作をこなしてこっちも話してみよう」
幸いこの世界では個人鍋が一般的ではないので、パーティー単位でメニューが来る。メインの皿だけは個別で、副菜のサラダとかは複数人いれば大皿が当たり前。この文化ならすき焼き鍋でも簡単に受け入れられるだろう。
「そうと決まれば、明日からまた頑張らなきゃね」
当面の目標も決まったので、私は部屋で鍋の絵を描いて今日はおやすみなさい。こうして冬の気配高まる中、私の日々が過ぎて行った。