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ストックと鉄板

《チュン》


「う~ん。おはよう」


 今日も私はミネルたちに起こされる。もうそろそろ自分じゃ起きれないんじゃないかと思うぐらい、二羽ともかいがいしい。


「さて、今日からは細工を一気に片付けよう! ファニーさんとも約束したしね」


 そうと決まれば朝食を食堂で食べ部屋に戻ってくる。


「は~い。ミネルたちもご飯だよ」


 ご飯台に食事を乗せたら、私は細工用のワンピースに着替えて細工を開始する。一つ目はおじさんのところへ納品する魔道具だ。

 この日のためにファイアリザードの魔石をおじさんからもらっている。いくらかは私も代金をもらってないので特に気にしてない。これもウィンドウルフの魔石と一緒で、魔力さえあれば火の魔法が使えるとあってこちらは大人気らしい。


「火起こしからお風呂に戦いと汎用性高いもんね。だったら持ち運びしやすくて、誰が付けても違和感ないデザインだよね! 試しに作るわけだし、女性向けでブレスレットかな?」


 そうと決まればデザインだけど、最初は魔石を中央に置くとして、他の装飾は手持ちの宝石を使おうかな? もうグリーンスライムの魔石も一緒に使おえ。どうせそんなに高くないし! 後、魔力を通すことを考えたらリング部分も銀がいいよね。


「イメージはできたから描き起こそう。中央に楕円形のファイアリザードの魔石を置いて、その左右にグリーンスライムの長方形の魔石と。これは半分にして魔力が通りやすくしよう。形も角を落としてと」


 どんどん、アイデアが浮かんでくるのでそのまま描き進めていく。一時間ほどで具体的な色や飾りも決まったので実際に作っていく。魔石は赤いし、銀の部分はバラの模様にした。


「さて、それじゃ細工開始!」


 魔道具を出してきてささっと削り出しから、魔石の加工までを一気にやってしまう。ここまでは一時間ぐらい。後の仕上げの作業自体も今回は複雑なことをしないのでそこから四十分で完成した。


「ふぅ、最近は本当に加工時間も短くなってきて助かるよ。数を作る必要も出てきたし。後は午後からの細工で何を作るかだね」


 色々な本を出してきて候補を絞る。良さそうなのが六つほどあったので、その絵を簡単に書いて時間になったので昼食を取りに食堂へ下りた。


「エレンちゃんお昼お願い!」


「おねえちゃん、いいところに。ちょうど私もこれからなんだ。」


「そうなんだ。なら一緒に食べよう!」


 昼食はエレンちゃんと一緒にA定食を食べる。最近オークの肉が安いので今日もお昼の肉メニューはオークだ。


「ちょっと薄いけど、お昼からとんかつなんて贅沢~」


「うん、これ美味しいよね。わたしも大好きだよ」


 二人でジュース片手にとんかつをほおばる。今日も美味しいお昼で満足だ。お昼ご飯を食べたら、私は部屋に戻って再び細工を開始する。今回の新作は花が二種類とヴィルン鳥の羽根をデザインに使ったものが一種類。後は既存のデザインの在庫を追加だ。

 今まで細工は一点物が主流だったけど、細工の街からも最近は同様のデザインが出回ることも多いみたいで、お揃いの物を買う文化もでき始めてるらしい。


「流行に乗っかってるみたいだけど、こういう繰り返しで磨かれるものもあると思うしね」


 実際にアラシェル様の像とか神像関連はあまりにもバリエーションを増やすと、布教にも良くないだろうし代表的な形を確立させておかないといけないよね。


「型作りと型に沿って作る練習と思えばそこそこ楽しいし。何よりちょっといい出来になっていくこともあるからそっちが新しい型になることもあるしね」


 本当は金型を作って火の魔法で溶かしたのを流し込んでもいいんだけど、それではあまりにも情緒がないというかそこは手作りしたいので妥協しないでおきたい。


「大体そんなことしてたらあっという間に暇になって、ゆっくりというよりだらけた毎日になっちゃう」


 こうして細工をしているからこそ、日々が充実している部分もあるし、何より私自身細工をすることが楽しい。だから、せっかくの趣味がただの作業にならないようにしたい。私はまだ十三歳なので、これからも続けていける趣味にしていかないと。


「ふぅ、取り合えず新作が二個ずつと既存品が三つと……なかなかいい出来栄えだね」


 物もそうだけどペースもいい。まだ、夕食まで時間があるけどここで七つなら、三日あれば二十個程度。おじさんのところに十個でレディトの方に十個。後は魔道具を二、三個作っても時間は結構できそうだ。買い物や遊びに行ったり、この前みたいに生地作りにも行く時間が作れそう。


「う~ん。そろそろいいかな」


《チィ?》


 細工の後はミネルたちと遊んでいたけど、いい時間なので食堂へ向かう。夕食は二羽がいても何か言われることもないので、一緒だ。


「おねえちゃん、おつかれ~。ちょっと待っててね。ミネルたちもね」


《チッ》


 五分ほどすると私の食事と一緒にミネルたちの食事も運ばれてくる。幸運のヴィルン鳥やシェルレーネ教の信仰するバーナン鳥だからか、冒険者の多い夕方には逆に連れているとありがたがられるのだ。


「いただきま~す」


 今日の夕食は煮魚だ。白身のお魚にだしが効いていてとっても美味しい。その他も野菜物とあっさりめのメニューでこういう日もいいなって思える食事だった。ミネルたちのものも見てみると、調理中に出た魚の身のかけらを野菜と混ぜたものみたいだ。


「私とお揃いだね」


《チュン》


 食事を食べたら後はお祈りをして休むだけ。今日はお風呂のない日だし、そんなに汗もかいてないのでそのままお休み。



 こうして次の日も細工をして午後にはおじさんの店へ卸しに行く。代わりに私はこれまでの売り上げを受け取るのだ。


「今週の売り上げは……金貨三枚と銀貨六枚だな。相変わらずほぼ在庫ははけてる。今回の新作もいい出来だし、今後も頼むぞ」


「はい! 無理しない程度に持ってきます。そういえばおじさんの細工、レディトでの売れ行きはどうですか?」


 紹介した手前、ちょっと気になったので聞いてみる。


「うん? ああ、そこそこ売れているみたいだな。アスカと一緒で仕入れのルートが異なるから物珍しさもあるんだろう」


「そんな! おじさんの細工って綺麗だから、きっと向こうのよりいいんですよ」


「売り場を見たことないから何ともだな。今度見に行ってみるか」


「ふふっ、きっと感謝されると思いますよ。それじゃあ、銀の塊一つください」


「うん? 材料はこの前、武器屋で買ったんじゃないのか?」


「あれはもう使っちゃいました。大きい魔道具を作ることになりまして」


「えらく金のかかるものを作ったんだな。まあいい、ほれ金貨一枚だ」


 私は受け取った金貨から一枚を取りだして、おじさんに渡す代わりに銀の塊を受け取る。これで続きが作れる。


「あっ、そうそう。おじさんから頼まれてた魔道具なんだけど、ちょっとだけ仕様と違っちゃってるから」


「このブレスレットか? ちゃんと火の魔道具になっているが……」


「横の石はグリーンスライムの魔石だから熱風とかも出せると思います。風の属性限定ですけど」


「そういうことか。それなら、買いたいってやつにちょいと説明して、高めに売りつけておく」


「あっ、そういうつもりじゃなかったんですけど……」


「仕様よりいい品になってるんだから気にするな。風の属性持ちじゃなきゃそのまま黙って売ればいいだけだ」


「ごめんなさい。手間をかけちゃって……」


「いいや、宝石かと思っていたがこんな形で魔石を使うとは思わなかった。確かに使用の範囲を広げられるし、いいものになってるな」


「それじゃあ、よろしくお願いします!」


 私はおじさんに今回の分も頼むと店を出て、おばあさんの本屋へ寄る。


「おやいらっしゃい。今日は何の本かね?」


「火の魔導書と風の魔導書なんですけど……」


「火は中級書がまだだったね。風は……うちにあるものでこれ以上となると次の仕入れを待ってもらうしかないねぇ」


「そうですか……」


 火属性と違って風属性は使う場所をあまり選ばないから欲しかったのに。


「すまないねぇ。ここは最近まで安全な町だったから在庫になくてね。一緒に火の魔導書も頼んでおくよ」


「ありがとうございます!」


「それじゃ、火の中級魔導書が金貨一枚と、これなんてどうだい? 銀貨二枚だよ」


「これは……」


 おばあさんが出してきたのは私が読んでいるシリーズの小説だった。次も出たんだ! お金もかかるし、続刊が出ないことも多いからとっても嬉しい。


「か、買います! ええ~と金貨一枚と銀貨二枚ですね」


 私は嬉々として支払いを済ませる。今日の収入の半分くらい使っちゃったけど、とってもいい買い物だったな。楽しみが抑えられない私はすぐに宿へ戻って小説を読み始めた。


「この前は少女の反対を押し切って冒険者ランクがEになったのを少年が喜んでるところまでだったよね。続きはと……」


 何々、素性の分からない女魔法使いがどんどん前に出てきてるな。君の才能は素晴らしいとか言って、危ない森に連れていって無理やり修行させるなんてやりすぎだよ。ジャネットさんたちみたいにもっと考えてやらないとね。

 それに心配だからこっそり後をつけていった少女を怒鳴るなんてかわいそう。もっと、気持ちを汲んであげたらいいのに……。魔法使いも私が付いてるから大丈夫なんて言ってるけど、町に流れ着いただけの冒険者だし、顔もよく見えない怪しい人だしね。


「むむむ、もうちょっと優しくしてあげてもいいと思うんだけどな~。少年はいつものやり取りって言ってるけど、たまには優しくしてほしいよね~」


 うんうんと唸りながら、本を閉じる。ふう一気読みしちゃったな。ああ~、続きが早く読みたいよ!


「ね~、ミネル~」


 ミネルの喉を触りながらベッドでくつろぐ。今日こそは本当に何もしない一日だ。そう決めて、まったりする。そういえば、依頼とかって何が残ってたっけ? 

 細工物とは違う依頼の残りをふと確認する。案としてあるのは……燻製や乾燥を促す魔道具。これは肉屋さんからだね。後はステーキプレート。これは宿だね。一気に数を渡さないといけないから明日からはこれかな? 店だから持ち手は両側に二つでいいかな?


「こうしてみると次は鉄をいっぱい買わないとね~。せっかくだしお昼食べたらもう一回行こう」


 だらだらするのもいいけど、ちょっと運動もしたいし。そう思った私はお昼までベッドで二羽と戯れるのだった。



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