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アスカの休日の過ごし方

《チチッ》


「う~ん、今日はミネルの番か~。おはよ~」


 目覚めたので部屋着に着替える。そのまま食堂で朝食を取って部屋へと戻ってきた。


「さあ、今日はミネルもレダも一緒に遊ぼうね~」


 二羽とも嬉しそうにこっちへやってくる。さすがに部屋だと狭いので、宿の裏庭に出て二羽と一緒に遊ぶ。簡単に宙に浮いて飛び回るぐらいだけどね。ここは壁が高いから多少なら目立たないだろうし。


「ほらこっちにとまろう」


 私は一本の大きな木の枝に座る。大きい木なので私が乗っても折れないだろう。


《チュン》


 レダが先にそしてミネルもついてくる。う~ん、今日は秋晴れといった感じでとっても風が気持ちいい。ちょっと寒気がするこの頃だけど、そんなことを感じさせない温度だ。


「気持ちよくてこのまま寝そうだよ……わっ!」


 気を抜いたら枝から滑り落ちた。危ないと思った時には身体がふわりと宙に浮いていた。ミネルがとっさに風魔法をかけてくれたのだろう。私より早くかけられるなんてすごい!


「あ、ありがと、ミネル」


《チッ》


 ちょっと怒った感じで返事をするミネル。心配してくれたんだね、ごめんね。


「でも、本当にいい天気だな~。そうだ! ちょっと出かけよう。そうと決まれば準備だ!」


 私はミネルたちと一緒に部屋へ戻って、冒険に行く時の格好に着替える。後は食堂へ行って……。


「ミーシャさん! パンってありますか?」


「お昼の分? 今ちょうど作り終えたのがあるわ」


「じゃあ、それください!」


 ミーシャさんにお金を払ってパンを売ってもらう。その足で宿を出てベルネスへ。


「いらっしゃい、アスカちゃん。早くからどうしたの?」


「お姉さん、糸が欲しいんですけど……」


「また、何か作るのね。ちょっと待っててね」


 私はお姉さんに糸を何種類か出してもらう。服が高いこともあって、こうやって糸から買う人も結構いるんだ。


「今はこれぐらいだけど、どんなのがいるの?」


「質はできればいいもので、白と赤か緑がいいです」


「今だと一番いいのはシャインスパイダーの白糸とグリーンボンビクスの緑糸よ。赤色の糸はちょっと品質が落ちちゃうわ」


「うう~ん、どうしようかな? やっぱり、いいものにしたいし……じゃあ白糸と緑糸で! 赤色の糸の良いのが入ったらまた教えてくださいね」


「はい」


 そう言いながらお姉さんに代金を渡す。ちなみに価格は金貨一枚と銀貨四枚だ。質が良いのは分かるけど高いなぁ。


「さて、それじゃあ行こっか」


《チッ》


《チュン》


 二羽を肩に乗せて私は西門を通り、ばれないように空を飛んでシェルオークのある林まで飛んで行く。


「よっと、今日もうまく来れたみたいだね。さあ、林に入ってと……」


 私はシェルオークのところまで来ると木に祈りをささげて太い枝のところまで飛び上がった。


「ここなら大丈夫だね。ミネルたちもここならいいでしょ?」


 満足そうに二羽とも枝から枝へ飛んだり、葉をついばんだりしている。特に何も起こらないから、木からも認められているんだろう。そんな二羽を見つつ、私は織機を取り出して布の作成に入る。別に生地を買ってもよかったんだけど、一度ぐらいは体験したかったからね。


「ふんふ~ん。いい天気だし、こういう日に少しずつ進めるのもいいよね~」


 時たまミネルたちも構って欲しくてこっちに来る。その相手をしながらも少しずつ生地を作っていく。そう! こういうのが私の望んだ生活なんだよ。思い返せばこの半年ほどはバタバタしていた気がする。

 最初の頃は宿の手伝いと採取だけだったからゆっくりしてたけど、最近は細工と依頼に追われてた感じだし、たまにはこうやって自然と触れ合うのもいいよね。


「ふわぁ~。ちょっと疲れたかな? お昼にしよっか」


 ミネルたちを呼んで一緒にお昼ご飯を食べる。私は持ってきたパンだったけど、ミネルたちは持ってきた食事よりもシェルオークの葉を食べたせいで、そんなに食べなかった。


「まあ、滅多に食べられないだろうし、しょうがないか」


 もぐもぐとパンを食べながらそう納得する。それよりも午後からどうしようか。ひとしきり遊んだみたいだし飽きちゃわないかな? そんなことを思っていた私がばかだった。久し振りに自然の中に出られたせいか、午後からも二羽はその辺を飛び回ったり、私に構ってきたりとすごく元気だった。う~ん、この子たちの体力を甘く見てたかな?


「あ~、いい日だった~」


 もう夕暮れ時だ。最近は冬めいてきたし、日暮れも早い。そろそろ帰らないといけないだろう。


「さあ、ミネルもレダもそろそろ帰るよ~」


《チッ》


 《チュン》


さすがにこの時間まで動いていたから満足したのか、私の肩にそれぞれつかまる。つかまったのを確認して、私は風の魔法で飛んで行き街道まで戻った。


「あれ? アスカちゃんじゃない!」


「ヒューイさんにベレッタさん!」


 声を掛けられたので振り返ると、一人で依頼を受けている時に知り合ったヒューイさんとベレッタさんがいた。二人は同じ町から来た冒険者でランクは共にEランク。ヒューイさんが水魔法使いでベレッタさんが剣士だ。だけど、まだランクも低いしヒューイさんが回復寄りの適性なので、採取依頼を普段はしている。


「どうしたのこんなところで会うなんて? ずっと東側に行ってるって聞いたけど……」


「ふふっ、今日はお休みなのでちょっとゆっくりしてたんです」


「アスカってやっぱり強いんだな。いくら、こっちがEランク指定の場所だからって普通は野外でゆっくりなんてできないぞ」


「安全なところを見つけて過ごしてましたから。そんなでもないと思いますよ?」


「私たちじゃその場所すら見つけられないわね。今日もほら、こんな感じよ」


 そう言ってマジックバッグの中身を見せてくれるベレッタさん。中にあったのはリラ草が40本ぐらいとムーン草が十本ぐらいだった。


「これでも二日かけたんだけどね。最近はみんな同じ場所になるからあまり取れなくて…」


「ちょっと見せてもらってもいいですか?」


「ああ、いいよ」


 ヒューイさんにも断って、薬草を見させてもらう。採る時にちょっとだけ力を入れ過ぎてる感じかな?


「もうちょっとムーン草は優しく採った方がいいですね。リラ草は逆にゆっくり採って茎が傷んでます」


「そ、そうなの? こういう風に採った方がいいって聞いたんだけど?」


「多分、逆に覚えちゃってるんじゃないかと。採り方は悪くないので、多分ランクが一つぐらい上がると思います。これだと半分ぐらいはCランクですね」


 これまでのホルンさんの鑑定結果からそれぐらいじゃないかなと思う。


「げげっ! それだと宿代がギリギリ払える程度じゃないか。まいったな……」


 生活に困ってそうだし、ちょっとだけならいいかな? 


「ちょっとだけ待っててくださいね」


 私はちょっと草むら入り、風魔法で一気にシェルオークの近くまで飛ぶ。この辺に生えてたはず……。


「あった! ムーン草とルーン草だ。これをちょっとだけ掘ってと……」


 スコップとかはないので、風魔法で各五本をくりぬいてヒューイさんたちのところへ戻る。


「ただいま~」


「ああ……」


 二人とも何か変なものを見たみたいになってるけど、どうしたんだろう? まあいいや。


「ここにムーン草とルーン草が五本ずつあるので、ちょっとさっき言った摘み方で試してもらってもいいですか?」


「えっ、そんなのどこから……」


「そこは冒険者なので秘密です。さあ、どうぞ!」


「どうぞって言われてもな」


「さあ、さあ!」


 とりあえず一回やってもらって、自信が付けば次からもっとうまくなるので促す。これはノヴァとリュートで実証済みだからね。


「じゃ、じゃあ、ちょっとだけ……」


 恐る恐る採るベレッタさん。初期のリュートよりは若干うまいかな? リュートたちは最初から討伐依頼に手を出してたからね。ヒューイさんはノヴァよりはうまいけど初期リュートより荒いかな?


「ヒューイさんちょっと荒いです。もうちょっと優しく採ってください」


「優しくと言われても、これでも慎重にやったんだが……」


「う~ん、そうですね。お花のプレゼントを選ぶ感じですね。大事な人に渡す感じで」


 一瞬えっ? て顔をしたヒューイさんだったけど、再び採っている。うむむ、これだとまた傷んじゃうかな?


「もうちょっと積極的でもいいですよ。選んでるというか選び終わって採る感じですね」


「こ、こうか?」


 うんうん、前回前々回よりかなり良くなった。これなら、Bランクといわず、Aランクも採れるようになるかもしれない。対してベレッタさんは安定して採れている。今後はさらにうまくなっていくだろう。


「採り終わったけど、こんな感じでよかったの?」


「はい。これからはギルドで査定が出た時にどう採ったか覚えていたら、もっと安定しますよ」


「ふぅ~ん、アスカちゃんはこうやって色々試してたのね。みんながすごいっていうから何か特殊なアイテムでも使ってるのかと思ってたけど……」


「あ~、サナイト草はナイフを使った方がいいですし、手で採るのと同じような採り方でナイフを使った方がいいかもですね」


「参考にさせてもらうわ。ナイフも予算が出来たら買ってみる」


「そうしてくださいね。それじゃ、私は帰りますね~」


 二人に教えられることはもうないし、そろそろ帰ろう。


「このムーン草とルーン草はどうするんだ?」


「それはお二人が採ったものですからどうぞ!」


「どうぞって……」


「じゃあ、また会いましょうね〜。ミネル、レダ帰るよ〜」


《チッ》


 それだけ言うと、そそくさと私はその場を離れる。もちろん風魔法でホバーみたいにダッシュしながらだ。街道でさすがに飛んだら目立つからね。そして門のところまで辿り着いた。


「アスカ、お疲れさん。今日はどうだったんだ?」


「良い休日でした。それじゃまた!」


 門番さんに挨拶をして町へ入れてもらう。そのまま宿に戻ったら私の休日は終わりだ。気持ちを切り替えるためにミーシャさんにお願いして、今日もお風呂へ入り、疲れを癒して明日に臨む。

 明日の冒険はお休みで細工をするつもりだから、そんなに張り切っても仕方ないけどね。


「それじゃ、おやすみなさい」


 ミネルたちにお休みを言って私は休日を終えた。




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