依頼品の受け渡しと
「ファニーさん!」
「あらアスカちゃん、珍しく一人なのね。ちょっと待っててね。ファーガソン代わりに報告よろしく」
ファニーさんたちは調査依頼を受けていたようで、受付にファーガソンさんを残してこっちに来た。
「アスカ、久し振りだね」
「はい。ユスティウスさんも元気ですか?」
「ああ、今日はオーガとオークだけだったから特に問題はなかったよ」
「へぇ~、だけどそういう集団が普通になっちゃったんですね」
「まあそうだな。おかげで私たちは前より稼げるようになったが、旅人はつらいだろうね」
「そう言えばアスカちゃんは一人でどうしてここに?」
「前に合同パーティーで依頼を受けた時にナイフを作成して欲しいって言われてたじゃないですか。それが完成したので持ってきました!」
「あっ、あれね。ごめんね~。家とか教えてたらそこへ持ってくるだけでよかったのに。ずっと待ってたんでしょ?」
「一時間ぐらいしか待ってませんし、他の人ともお話しできたので大丈夫です」
「……本当にいい子ね。それでどんなものになったの?」
「鍛冶職人じゃないので、これでいいか分かりませんけど」
私はマジックバッグから出来立てのナイフを二本とも取り出す。
「へぇ~、綺麗ね……ってこれ銀製? 大変だったでしょ?」
「魔力はかなり使いました。だけど、魔石を使うならその方がいいと思って……」
「ありがとう。この魔石は何なの?」
「ウィンドウルフの魔石です。これなら風属性が使えない人でも発動させられるみたいです。私じゃ試せないので使ってませんけど」
「ふぅ~ん。ちょっと使ってみていい?」
「良いですけど、ここでですか?」
「奥の訓練所借りるわ」
パッと席を立ったファニーさんは受付の人に声をかけて訓練場に入る。続いて受付の人が的を持ってきた。なるほど、ああいうのも頼めるんだ。
「それじゃあみんな見ててね。……はっ!」
ファニーさんがナイフに魔力を込めて続けざまに投擲する。
丸太製の的にグサッと突き刺さるナイフ。かなりのところまで刺さっている。
「すごい! 重量バランスもいいし、真っ直ぐ飛ぶわねこれ」
「はい。先端には切れ味を、後ろ側には真っ直ぐ飛ぶように付与してあります。結構な距離を行けると思います」
「なるほどね~、てっきり風属性付与だと思ってたけど、ちょっと違うのね」
「最初は風魔法で考えてたんですけど、私が付与できそうなのってファニーさんたちのランクだと、たいして役に立たないと思いまして。真っ直ぐに鋭く長い距離を飛ぶように考えました!」
「アスカは魔道具作りのセンスがあるな」
「ファーガソンさん!」
「久し振りだな。なかなかいいのを作ってもらったみたいだなファニー」
「予想以上だわ。私ってあまり力はないから、こういう物の方が役に立つわね。それにこの穴とかくぼみも身につけるのが楽でいいわ。鎧とかを考えないでいいから。嫌なのよね、デザインで装備が決まっちゃうの」
そういうファニーさんはさすがに大人の女性って感じだ。確かに今着てる鎧も似合ってると思う。
「それじゃあ明日はそのナイフの有効距離を測るとするか」
「そうね。森の方で少し練習もしないとね。それより、キチンとお代を払わないと。いくら?」
「うう~んと材料から行くと……っていうか魔石がもらいものなので正確には値段がわからないんですよね」
「ウィンドウルフの魔石は市場だと今は金貨1枚ぐらいね。珍しくもないけど誰でも使えるってところが利点ね。ただ、あまり強い魔法が込められないから、武器とかにはそこまで使われないの」
「じゃあ、材料は金貨二枚ぐらいですね」
「う~ん、それならその倍ぐらいが妥当かしら? 二本分だから金貨八枚ね」
「は~い」
私は金貨八枚をファニーさんから受け取る。利益も出たし、ファニーさんもさっきからナイフを持って嬉しそうだし、やってよかったな。
「そうそう、アスカちゃんの細工って次に入るのは何時なの?」
「次ですか? 今は在庫がはけてるんで、早くても三日後ですね。レディトだったら二週間ぐらい先でしょうか?」
あっちはこちらと違って毎回魔道具を考えないといけないから、ちょっと時間かかるんだよね。商会の人からはそれでちょうどぐらいのペースって言ってもらえてるけど。
「そうなの。それじゃあ、今度また見に行くわね」
「ありがとうございます!」
それからもちょっとお話をしてファニーさんたちと別れる。追加でおつまみを頼んだんだけど、ちょっと塩気が多い物ばかりだった。みんな運動してきてるから仕方ないんだろうけど、たまには甘いお菓子も欲しいなぁ。そんなことを考えながら宿へ戻る。
「ただいま~」
「あっ、おねえちゃん。おかえり〜」
「あら、アスカが出かけてるなんて珍しいわね」
「えっ、エステルさん。私ってそんなに引きこもってます?」
「当たり前じゃない。依頼を受けない日は大抵部屋でしょ? 細工もいいけど外にも出なさいよ」
「はぁ~い」
うう~ん。実年齢はともかく、最近本当にエステルさんは十五歳なのかと思う。前世の歳からいくと年下のはずなんだけど、まるでお姉ちゃんみたいだ。
「エステルねぇ。その人だれ?」
「だれ~?」
視線を下へ向けると、エステルさんの横に小さい女の子が二人いた。身長は私より低いし、十歳ぐらいかな?
「この子たちは?」
「ライギルさんたちに頼んで、今日から孤児院の子たちを少し働かせてもらってるの。まだお手伝いみたいな感じだけど。少しずつ慣れて行ってもらって、十五歳になる時には少しでもお金が持てるようにね」
お給料はというと一人銅貨五枚で一日二人までということらしい。しばらくはこれで様子を見て、後々出来ることが増えたら、少しずつ給料も上げてもらえるようだ。
宿も広くなったしパンを持ち帰りでも売ってるから、店番だけでも人が増えたら嬉しいよね。孤児院としては収入より、仕事の経験ができるのと街の人と交流できるのが助かるらしい。
「それなら、エレンちゃんもお暇になるのかな?」
「あら、エレンはアスカのお陰でコールドボックス係よ。そう簡単には暇にはならないわよ」
「そうなんだよね~。お父さんがあれから張り切って食材いっぱい買っちゃったんだ。お母さんも怒ってたよ」
「ああ……最初はいっぱい買っちゃうよね~。だけど、傷むことを経験すればすぐに収まるから」
「それならいいけどね。だけど、アスカ。あれって本当にすごいわね! 私も店を持ったら欲しいわ」
「……それなんですけど、魔力が30以上か水の素養があって20以上ないと使えないんです」
「そうなの? じゃあ、そういう人を雇わないといけないのね……」
「それだとちょっと雇用費用が高くなっちゃうんじゃ?」
「あれがあると無いとを考えたら些細な事よ。肉も色々な使い方が出来そうだし、凍らせておけばかなりの間持ちそうだし。今から考えておかないとね」
「でも、あれってかなり高いんだよ? エステルさん」
「分かってる。それまで貯金ね。ちなみにいくらなのアスカ?」
「金貨十五枚ですね。材料がそろえばですけど……」
「材料って何かいるの?」
「オークメイジの魔石が必要なので、それが手に入るかどうかなんですよね。いるならそれまでに確保しておきますよ」
「お願いね」
「後、メンテナンスというか、中身は金属なので錆びたりするかもしれないので、そこだけはお願いします」
「そこは仕方ないわね。どんなものでも一緒よ。それよりあれを使ってできることの方が多いわ。特に私たち魔力がほぼない人でも、冷やせるってことが大きいわね」
「確かに、夏とかだと冷えてる飲み物とかって良いですよね……」
確かに魔法は便利だけど、普通に飲食店で働いてる人で水魔法を使える人っていないから、飲み物は常温のものが多いんだよね。グラスを冷やしてってことが前世だとあったけど、こっちじゃ井戸水につけておくことしかできない。水も洗い物に使うからそんな面倒なことする店もないし。
「それだとフィアルさんの店は最高ね。あの人は水魔法が使えるんでしょう? 冷やしたい放題よね」
「あはは、そう言えば食べる時の水っていつも冷えてましたね」
さすがに洗い物の水は出してないだろうけど、飲み水は確かに魔法で出してそうだ。そう考えるとやっぱり、火や水の属性持ちって重宝されるんだな。
土は農業とか建設業ならいいのかな? 風は……何だろう? 特に思いつかないな。単独だと使いにくいのかもしれないね。
「そういうことだから頼んだわよ!」
「まだ先のことですけど頑張りますよ。それまで使っていて感想や意見があればお願いしますね」
「ええ、その際は良いものをお願いするわね」
みんなで話をしていると、夕食の準備をする時間になったので、私はお暇させてもらってお湯を沸かした後で部屋へ戻った。明日は久し振りの休日だし、さっぱりして迎えたいからね。
《チチッ》
「ミネル、待った?」
お風呂から上がるとミネルたちが遊んで~と飛びついてきた。うむむ、これだけ素直に来られると結構放任していたんだなと反省する。特にラネーがいなくなって寂しいだろうしね。明日は、ゆっくりして付き合ってあげよう。
「それじゃあ、今日も祈りをささげておやすみなさい」
祈りをささげる時には寝間着だ。残念ながら神官の服がお店に売っているわけもなく、仕方ない。
「う~ん、この格好で祈るのも何とかしないとな~。そうだ! 明日は服でも作ってみようかな?」
高い器用さのおかげか、服も作れるんだよね。この前もグローブを作ったし、服を作った後でミネルたちの相手をしよう。そんなことを考えながら床に着いた。