スパッとナイフを
「みんなしてそんなところで何してるんだい?」
「ジャネットさん。そうだ! ジャネットさん、こっちこっち」
確かジャネットさんの魔力も20ぐらいだったはず。
「何だいアスカ?」
「ジャネットさんの魔力って20ぐらいでしたよね?」
「そうだけど……」
「ちょっとこの銀のところに魔力を流してもらえませんか?」
「はぁ? まあいいけど、どうせあたしの火の魔力なんて役に立たないけどねぇ」
ジャネットさんが魔力を流す。やっぱり光らない。エレンちゃんの時と何が違うんだろう? まって、ジャネットさん今……。
「ジャネットさんは火の魔力なんですよね?」
「使えるレベルじゃないけどね」
「エレンちゃんって、魔力というか得意属性は何なの?」
「水だよ。だけど、生活魔法も使えないよ?」
「う~ん。ひょっとして……」
「何だい。あたしにはさっぱりだよ」
そう言われたらそうだ。私はジャネットさんにも現在の状況を説明する。
「なるほどねぇ。で、今はエレンが何で魔力補充出来たかを調べてるんだね」
「そうなんですけど、ジャネットさんのおかげで分かったかもしれません」
「なんで?」
「この魔石はオークメイジで今はこの中の温度を下げる効果を出しているんです。なので冷気に関連する水の素養があるエレンちゃんの場合は、火しか使えないジャネットさんと違って、同じ魔力でも少ない魔力で発動できたんだと思います。他に試せる人がいないので仮説ですけど……」
「確かにそれはあるかもね。グリーンスライムの魔石だって、風魔法が使えないと発動できないんだし。持ってる属性に近いと優遇されるならあり得るね」
「じゃあ、おねえちゃんさっきの契約って……」
何と、まさかそんな理由でエレンちゃんが補充できるなんて。先に契約書作っておいてよかった~。
「だ、だめですよ! もう契約書は交わしたんだから!」
「そうね。それは仕方ないわね……」
あれ? ミーシャさんたちも食い下がると思ったのに……。ま、まあいいや。結果オーライだね。私も思い通りに進んだし、エレンちゃんの魔力で補充できることも分かったし、誰も損してない。
「しかし、アスカは次から次へとすごいのを作るね」
「う~ん。でも、あったらいいなって思ったものを作っただけですし……」
「そんなこと言って、これだって金貨十枚ぐらいは使って作ってるんだろう? もし役に立たなかったら大損だよ」
「作ったものが駄目でも素材は残りますし、後で形を変えればそこそこ補填は出来ますし」
「やれやれ、そのポジティブさを見習いたいもんだよ。あっ、もうすぐ時間だね。昼食頼むよ!」
「今日は何にしますか?」
「今ので疲れたから一番いいやつで!」
すぐにお店モードになるミーシャさんと、話は終わったとジャネットさん。本当にこの二人は切り替えが早いなぁ。
「おねえちゃんも食べてく?」
「今日は疲れちゃったしそうしようかな。あっ、でもミネルとレダを呼んでくるね」
「は~い。じゃあ、奥の席だね」
「お願い~」
私は部屋へ戻ってミネルとレダを連れてくる。二羽は私の両肩にそれぞれ乗っていて、なんだかちょっと偉い人みたいだ。
「おねえちゃ~ん、待ってたよ……。ぷぷっ、何それ? 森にでもいるみたい」
森と来たかエレンちゃん……。でも、小鳥が肩に乗ってるわけだしそれっぽいのかな? 室内に森ガールとか逆に浮いてないよね? そう思いながらテーブルにつく。ミネルたちの食事は置いてあったみたいで、早速食べていた。
「うんうん、たくさんお食べ~」
私も少しすると料理が運ばれてきたので、それを口にする。ん~、今日も美味しい。幸せな気持ちのまま私は食事を終え、お風呂を沸かして今日のお仕事は終わり。この後順番が来てお風呂に入ってから、いつものように祈りを捧げて後は寝るだけだ。
「みんなお休み……」
《チュンチュン》
「う~ん。レダ? おはよう」
今日の当番はレダのようだ。最近は三羽が交代で起こしてくれていたんだけど、ラネーがいなくなってしまったので、これからは二羽が起こしてくれる。
朝食を取り今日はどうしようかと魔石の整理をしていると思いだした。
「そういえばファニーさんにナイフの作成を頼まれてたよね」
ウィンドウルフの魔石をジャネットさんにもらったし、一度ぐらい試してもいいよね。そうと決まれば銀の塊を取りだす。こっちは品質がいいから私の腕でもいいものになるはずだ。
「これも魔道具のおかげだよね。自分で鍛冶をして鍛えるなんてできないし」
何時ものように着替えると銀の加工を始める。最初はサイズを決めることからだ。刃は30センチは長いから20センチぐらいだね。形は投げナイフだから余分な返しや装飾はいらない。片刃で真っすぐになるように作る。
持ち手は刃の方より若干細くして、境目には少しくぼみを作る。これでくぼみを使って固定することができる。さらに持ち手の間にも穴を開けて服に付けられるように加工すれば終わりだ。
「ファニーさんは結構身軽な装備だからね。こうしておかないと荷物になっちゃう。せっかく作るんだから使ってもらえるものを作りたいしね」
後は魔力をうんと通して魔石の力を発揮できるようにする。ただ、ナイフの形状からそのままつけられないので魔石を四個に切る。それを持ち手の上下に二つの魔石のかけらをあしらえれは二本の風魔法が込められた魔道具が完成だ。
この魔石はウィンドウルフなので、風属性の素養は必要ない。魔力さえあれば発動する便利な魔道具だ。
「さて込める魔法はと……」
ナイフを投げるんだからそれに関するものだ。考えられるものとしては風をまとわせるものだけど……。
「ただ、風をまとわせても、ウィンドカッターが効かない相手に手で投げるナイフだと意味ないよね」
ファニーさんは風の魔法が使えない。だけど、ウィンドカッターの威力があるナイフが役に立つなんてことがあるだろうか? それなら狙ったところに当てられる方が良いと思った私は、先端部には風の刃のような切れ味を、後方には風を切り裂いてまっすぐに飛ぶようイメージで魔力を込める。これなら、まずまずの力で投げてもまっすぐ飛ぶし、目標にも刺さるだろう。
「ふぅ~。一先ずは完成かな。そこまでは疲れてないけど……MPの消費は大きいね」
ステータス!で確かめてみると、残りは200程度だ。昨日もかなり消費したからその分もあるんだろうけど、ここまで消費するなんて、やっぱり銀を扱うのは大変だなぁ。
「ん~、ちょっと寝よっかな」
疲れた私はベッドにダイブして寝始める。最近は色々大変だったから、たまにはこうしてゆっくりしないとね。
「ふわぁ~。今何時かな?」
食堂に下りて時間を確認する。今はと……十六時か。寝たといえば寝たけど四時間程度だね。そうだ! せっかくナイフを作ったことだし、ファニーさんに持っていこう。そうと決まれば部屋へ戻って着替えだ。
「格好はと……秋だからカーディガンと下にちょっと厚手のワンピース、それに合った靴だね。後はナイフを簡単な入れ物に入れて、しゅっぱ~つ」
勢いよく宿のドアを開けて私はギルドへ向かう。前にジャネットさんが住まいを持ってるって言ってたけど場所は知らないし、ギルドなら会えるだろう。
会えなくてもたまにはギルドの酒場で過ごすのも悪くないかもしれない。いつもはジュース一杯しか頼まないしね。
「お邪魔しま~す」
ギルドに着くと、見回してもファニーさんはいなかったのでジュースと簡単なおつまみを注文して奥のテーブルに座る。ここなら入ってきた人に目を向けても自然だしね。ホルンさんがお休みの日じゃなかったら誘ったんだけどなぁ。
「嬢ちゃん、依頼を張りたいならそこの受付に相談しなよ」
「ボードウィンさん久しぶりですね。最近は宿を手伝わないからご無沙汰してます」
「ん? あんたに会ったことあったか?」
「何言ってるんですかアスカですよ」
「アスカ…ちゃん? おお、よく見るとそうだな。そんな格好でどうしたんだ?」
「ファニーさんを知りませんか?」
食堂の常連さんにファニーさんのことを聞いてみる。
「ファニー? ああ、朝依頼を受けているのを見たな。護衛がないってぶつくさ言ってたし、もうそろそろ帰ってくるかもな」
「本当ですか? ありがとうございます」
「ファニーを待ってんのか?」
「約束はしてませんけどね」
「そりゃ根性あるな。あのパーティーは結構遅くになることもあるからな。割と帰る時間はバラバラなんだ」
「へ~、よく知ってますね」
「週に四日も五日も冒険者やってりゃ誰でも分かるよ。そういやアスカちゃんのところはそんなに受けないんだったな。なら無理ないか」
「今は週に一回ですからね。来週はお休みですけど」
「病気の奴でもいるのか?」
「あはは、私がちょっと忙しくてお休みなんです」
「そういや、宿の手伝いのねえちゃんが新しくなってから、細工を始めたんだってな」
エステルさんのことかな? どっちかっていうと細工の方が先だけどね。ボードウィンさんみたいに飾りっ気のない冒険者の人にも私が細工師をしているってことが知れ渡ってるぐらいには人気でよかったよ。
「そうですね。細工もあるんですけど、それ以外の物もちょっと作ってて……」
「まあ、器用さがあると色々出来るっていうしな。俺には縁のない世界だけど、頑張れよ」
がははと笑い飛ばすボードウィンさん。こうやって普段話せない人とも話せるならたまには来てもいいかな?
そこから待つこと四十分ぐらい。代わる代わる色々な人と少しずつ話をして待っていると、ファニーさんのパーティーが帰ってきた。