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そうだ!ローンにしよう!

 賢い私の作ったコールドボックスは実用的であることが証明されたので、いったん解体して調理場へと持って行く。まあね、試作品ていうのは研究所で試験運転までしてから、実運用が始まるんだからね。ぐすん……。


「お、アスカどうした?」


「以前言っていた、厨房に置きたい魔道具が完成したので早速持ってきました!」


「持ってきたって、かなり大きいスペースを確保してただろ? 小さいのか?」


「組み立てたら大きいですよ。風魔法で運んできましたので!」


「わざわざ、細かくしたけどね」


「エレンちゃんそれは内密に……」


「よく分からんが、今の時間なら置いてくれて構わないぞ。まだ、料理を作らないからな」


「は~い」


 ライギルさんの許可をもらって私は組み立てに入る。ここまで来たら魔法を駆使しての組み立てなので、そこまで難しくはない。三十分ほど頑張って、再び組み上げた。


「後は魔石にもう一度魔力を流してと……」


 恐らく一度のチャージで、十二時間は持つと思っている。割と密閉もいい感じだし、熱も持たないだろう。何より、本物の冷蔵庫と違って熱源が無いからね! そこはこっちの方が優れている。意外に冷蔵庫の周りって暖かいんだよね。


「ライギルさん出来ました!」


「おおっ! ってただの箱じゃないか。それなら、わざわざ作ってくれなくても……」


「お父さん。おねえちゃんがそんな普通のことするわけないよ。ささっ」


 エレンちゃんは自分の時のようにびっくりさせたいのだろう。下のドアを開けて手を入れさせた。


「何だ!? 冷たいぞ!」


「はい。オークメイジの温度変化の魔石の効果を使って周囲の温度より二十五度ほど下げる設定にしてあるんです。夏は、これより温度上がっちゃいますけど冬はもっと冷えますよ」


「まあ、冬は元々何とかなってたが、これって食料保存のための入れ物か?」


「そうです。下が一応冷凍室で。凍らせることができます。多分夏は無理だと思いますけど……。上はそれより温度が高いから野菜とか肉とかですね」


「なるほどな。食材は仕入れてすぐに使わないとと思っていたが、少し持たせることができるのか。いやすごい。だが、かなり高額だろう? 貴族の邸にあるようなものだと思うぞ?」


「そうですね……大体金貨九枚前後ですかね?」


「これでか? 嘘だろう? もっとするだろう。金貨三十枚とか……」


「いやいや、そんなものですよ~」


「季節に関係なく一定の温度で冷やせるんだぞ! 料理人としてももちろんだが、一般的に見てもすごいことだぞアスカ」


「う~ん、本当にそれぐらいで作ってるんです」


「そうなのか。だがそこにお前の作成費はないよな?」


「そうですね。今のお話は材料費だけですね」


「……何とか支払いを待ってもらえないか? 金貨三十枚といえば今宿に出せる当てはないが、必ず渡すから。これがあればもっと色々な料理も出来るし、腐るのも遅れるし店としても助かるんだ」


「そ、それは構いませんけど、金貨三十枚は言いすぎですよ!」


「いや、街でもし誰かに聞いたらそれでも安いという商人もいるはずだ。だから、何とかそれで売ってくれ!」


「う~ん。やっぱり、金貨三十枚というのはいくら何でも高すぎます。せめて、金貨十五枚で!」


「そ、それは安いだろう。エレンも何とか言ってやれ!」


「わ、わたしじゃお金のことなんてわかんないよ~」


「そうか。ミーシャ! いるか!」


「はいはい、さっきから声を荒げてどうしたのあなた?」


「アスカがまたやってくれた! これを見てくれ」


「これただの箱……な訳ないわよね」


 すっとミーシャさんがドアの中に手を入れる。


「すごいわ。入れた手が冷やされてる。ど、どうしたのアスカちゃんこれ?」


「その、前に言ってた厨房に入れたい魔道具がこれなんですけど……」


「確かにこれはどの店でも欲しいわね! いくらなの? 金貨三十枚? 四十枚?」


「えええっ!? 二人して何でそんな高額になるんですか?」


「当り前です。これで、どれだけ店が助かるか……新鮮なままで置いておけるし、物持ちも良くなるでしょう。これは貴族でも買うわよ」


「で、でも、私としては原価金貨九枚ぐらいなんです。いくらなんでもそれを三倍以上の値段でというのは……」


「少なくともアスカちゃん以外でこれを作った人を私たちは知らないわ。それなら材料があっても手に入らないんだから当然よ。そもそも、魔道具は魔石以外にも加工料や付与料が価格の半分以上と言われているわ。これだけ有用なら変じゃないわよ。すぐに壊れたりしないんでしょう?」


「魔力を足せばずっと使えるとは思います。金属を使ってるので錆びたりするかもしれないですけど……」


「じゃあ、その部分を変えるのにはかなり費用が掛かるのか?」


「あっ、それは大丈夫です。魔石が無事なら、板一枚原価で言えば銀板なら銀貨五枚、銅板なら銀貨一枚です」


「倍にしても、そこまで高くないな。それでも年間のコストを考えたら安い位だ」


「ちょ、ちょっと待ってください。これ魔道具ですよ! みんな込められたらの話ですよね」


「……確かに。魔道具ってことならアスカがいない時も使えないといけないのか」


 ようやくライギルさんも落ち着いてきたみたいだ。このまま、何とか値下げの方向に持って行かないと……。


「そ、そうですよ。これ魔力が三十ぐらいないと使えないんです。だから、制限も大きいので金貨十五枚でいいですよ」


「ミーシャは魔力いくつだ? 俺は八あるかどうかだが」


「私は十二ぐらいかしら? エレンは?」


「う~ん。確か、前に鑑定持ちの冒険者の人に見てもらった時は二十ぐらいだったかな?」


「うちのみんなが補充できないんじゃ仕方ないのか……なぁ」


「そうですよ。誰かそれ専用に人が必要なんですよ!」


 このまま勢いで押し切っちゃえ!


「それでもあなた。金貨十五枚なんて最近改装続きのうちには無理よ? どうするの」


「それなんだよなぁ。金のあてがないんだよな……」


 銀行とかの融資はないんだ……。こういう時に確かいいものがあったはず……え~と! そうだ、ローン!


「それならローンを組むのはどうですか?」


「ローン? なんなのそれ?」


「ローンか! 確かにいいなそれは。それならうちでも使えるかもな」


「お父さんとおねえちゃんだけで話しないでよ~」


「エレンちゃんごめんごめん。ローンっていうのは何度かに支払いを分けて、お金を払うの。だけど、今お金があるとかじゃなくて、例えば今月に金貨一枚、来月からは毎月○日に銀貨八枚って感じで決まった額を支払って行くんだ」


「だけど、それじゃあ支払ってもらう側が損しないの?」


「もちろんそこは、元の値段より少し高くなるように払ってもらうんです。だけど、それでも自分の収入以上のものに手が届くんですよ……使いすぎたら駄目ですけど」


「ふ~ん。それ便利だね。私でもきれいな細工物買えたりするんだ」


「エレンちゃんには早いよ。騙されてすっごく高いもの買っちゃうよ?」


「大丈夫。おねえちゃんの作ったものだけにしとくから」


「エレンちゃん……」


 ジーンと来てしまった。身内の欲目何だろうけど、嬉しいよ。


「まあ、その話は置いておいて、確かにそれならうちでも払えるかも。だけど、かなり回数待ってもらうわよ?」


「それは大丈夫です。ライギルさんたちを信頼してますから。確か、お金ってギルドの口座に振り込めましたよね?」


「ああ、冒険者ギルドから商人ギルドや同じギルド同士でも可能だ」


「なら、毎月銀貨三枚。年間で銀貨三十六枚でどうです?大体四年と二か月です」


「ふむ、それなら十月から四年後の十二月まででいいか。それなら支払えるし、もっと価値が実感できたら多めに渡す」


「そ、それはいいですよ。定額です定額!」


「しかし……」


「まあまあ、あなた。アスカちゃんがこう言ってるんだから」


 そして、ミーシャさんがライギルさんにぼそぼそと耳打ちしている。何だろう?


「ふむふむ。確かにそうだな! そうするか」


「大丈夫ですか?」


「おお、アスカの言う通りだな。だけど、四年後の十二月まで。これだけは譲れないぞ!」


「はぁ~、分かりました。それじゃお願いします。それじゃあ、契約書を作りましょう!」


「おいおい、そういうところはちゃっかりしてるんだな」


 へへっ、今のうちに作っとけば、後で何かあった時に取りだせるもんね。これ以上高く支払われても困っちゃうんだから。こうして、私とライギルさんの間で契約書を交わした。きちんと定額を支払っていくって文言もいれたもんね!


「じゃあ、後は魔力を注ぎ込めるかどうかだけど……宿の人にも一回試してみる?」


「そうねぇ。だけど、この魔道具をあまり知られたくもないから、信頼できる人がいいわね」


「エステルさんはどうですか?」


「エステルさんは自分で魔力がほぼないって言ってたよ」


「そっか、残念だね。エステルさんなら将来的にも使ってもらえたのに……」


「まあ、仕方ないわ。一応私たちも試してみる?」


「一応な」


 ミーシャさんとライギルさんが試すももちろん魔力不足で無反応だ。次はエレンちゃんの番だ。


「次は私だね。って言ってもお父さんたちのを見てるから結果は分かってるんだけどね……」


 そういいながら、冷凍室の銀部分に魔力を注ぐエレンちゃん。


 ぽわっ


 えっ、光った!? 私が完全隠ぺいを使ってやっても反応しなかったのに……。


「えっ、えっ? お、おねえちゃんどうして? 私魔力三十もないよ」


「わ、私に聞かれても。私の時は確かに……」


 何だろう? どうやったらエレンちゃんが条件を満たしたんだろう? 謎の現象に私は立ち尽くすのだった。



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