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アラシェル様(仮)完成!

 今日も忙しくお昼の接客をこなしている。宿の食堂は今日も大繁盛だ。


「Aセットお待ちしました」


「アスカちゃんこっちのBセットは?」


「次の……次です! もうちょっと待っててくださいね」


「じゃあまたな」


「ありがとうございました~」


 目まぐるしくお客さんが入っては出ていく。今日は初めてエレンちゃんがお休みだったけど、私が来る前はいつもこうだったんだなと思うと改めてすごい子なんだと思う。


「ふぅ~」


「今日もお疲れ様」


 ミーシャさんが水を持ってきてくれた。さんざん動き回ったの後なので助かる。


「いつもこんなに忙しかったんですね……」


「そういえばアスカちゃんは三人て回すのは初めてだったわね」


「疲れましたぁ~」


「ふふっ、じゃあ今日はお野菜が多いBセットね」


「お願いします」


 私はミーシャさんが持ってきてくれたBセットを食べ始める。


「そういえば、今日はエレンちゃん見ないですね。お休みといっても家にいる感じじゃないですし……」


「あの子はたまの休みはいつも買い物に出かけるわ。服を買ったり変わった食材を買ってきたりね」


「そうなんですね。気づかなかったなぁ」


「自分だけ休みなのを気にしているのかもしれないわね。私も昔そうだったから」


「そんな、まだまだ小さいんだから別にいいのに…」


「あの子にも言っておくわ」


「そうしてください」


 食事は途中から、ミーシャさんとライギルさんも加わって和やかなお昼となった。



「よ~し! お腹も満腹になったしやるぞ~」


 仕事を終えて部屋へ戻ってきた私は、昨日の続きと言わんばかりに気合を入れて臨む。


「まずはシートを敷いて準備をして……次に道具を確認!魔法もOK」


 カツーンカツーン


 木を大きく削っていく。アラシェル様は髪が多いので頭の方は削りすぎないようにしないとね。たまに横向きにしては深く彫りすぎていないかチェックする。うんうん、このぐらいなら大丈夫そうだ。おおまかに削っていくとこれぐらいかな、というところまで来た。


「よし! これからは絵を見ながら慎重にやっていかないと……」


 まずは足のところからだ。ローブ部分に線を引いていき、それに沿って彫っていく。しわもできるだけ表現できるようにして、完成したら問題の足だ。


「ここは削りすぎるとつぶれるし、慎重に慎重に……」


 一本ずつ指の線を引いていく。ちょっとだけ大きく彫ってしまったところがあったけど、初めてにしてはおおむねいいように思う。


「親指のところだからあんまり目立たなくてよかった~。でも、こうなったら逆の方もだよね」


 片方の足が終わったのでもう片方の足に取り掛かる。……何とか出来た。意図せず大きく彫ってしまうより、自分から下手に彫る方が大変なんだと分かった。思いっきり削れないってストレスだ。


「ふぅ~、次は体から手だけど、手はどうしよう?」


 手前に出したり立体的にするのは無理だと思う。多分折れちゃうから。絵にもパターンを乗せてるんだけど……。


「う~ん、う~ん」


 しばらく悩んでから私の出した答えは、胸元で手を重ねるだ。これなら体に密着しているから腕がごっそり落ちたりはしないだろう。そうと決まれば再開しないと。


 カリカリ


 木を少しずつ削っていく。前半と違ってどんどん部分部分に時間がかかってきている。手を重ねるところだけ別の紙に描き起こしてそれを見ながら彫っていく。


「……ぷはぁ~~。ちょっと休もう」


 流石にずっと集中していたのでいったん休憩を取ることにした。こういう時に時間が分からないのはちょっと不便かも。ベッドにダイブしてごろごろする。


「ん~、この時間を有効に使えないかな~」


 横に置いている袋をごそごそして何かないかなと取りだす。出てきたのは冒険者冊子とキノコのすゝめ。


「どっちを読むべきか。でも、像が完成するまでは出歩かないし、市場でもキノコは売ってるって言ってたからキノコのすゝめかな」


 私はキノコのすゝめを開くと読み進めていく。まずはこの周辺に生えてそうな林や森のキノコ。ふ~ん、背の高い草に隠れて生えるキノコもあるんだ。コークスキノコは貴重だけど取れ高はよくない。他の地方に冒険に行った時に探せるように覚えておかないと……。


 マファルキノコ:干すといい味がする。

 ツルキノコ:細長いキノコ。そこそこ群生する。

 キキノコ:黄色いのが特徴。毒のものと酷似。粉状にして万能薬と合わせると更なる効果が期待できる。


「森や林のだけでも結構色々あるなぁ。絵もついてるから今度入ることがあったら探してみよう」


 他にも色々なものがあったけど、とりあえずは新しく覚えた三つのキノコと、前にホルンさんに教えてもらったキノコを覚えておいた。おかしなのを持ち帰らないようにちゃんと覚えなきゃね。


「さてと、そろそろ再開しよ~」


 とんっとベッドから飛び降りて作業を再開する。

 それからしばらく経って、ようやく腕のところが出来かけてきた。ここでもっと進めたいんだけどな。なかなかその先のイメージが出てこないのだ。


 コンコン


「おねえちゃん起きてる~?」


「エレンちゃん?」


「そうだよ~、ご飯できたよ」


「分かったすぐ行くね!」


 私は彫りかけの像を机の上において、ひとまず食事をしに食堂へ。時間もピークを過ぎたのか、お客さんは少なかった。


「あれ? 今日はお客さんちょっと少ないね」


「おねえちゃん何言ってるの。もう夜の八時だよ」


「ええっ!? そうなの?」


「お母さんたちがきっと集中してるだろうからって待ってたんだけど、おねえちゃん遅いんだもん」


「そうだったんだ。そういえばエレンちゃんはお休みどうだった?」


「楽しかった! おねえちゃんのおかげだよ」


「そんなことないよ。エレンちゃんが日ごろから頑張ってるからだよ」


「だったらうれしいな。はい、今日の夕飯だよ」


 私はエレンちゃんが運んできてくれた夕飯を食べる。今日は肉メインだ。というか、ここに来てから肉が常に出ているような気がする。そんなに簡単に手に入るのかな?


「ねえ、エレンちゃん。ずっとお肉出てるけどこの辺だと安いの?」


「割と安い方かなぁ。西側にもたまにオークが出ることもあるし、東の王都からの道でもよく出るって聞いたことあるよ。それにこの辺は草も豊富だから牛さんとかもいっぱいいるよ。あっちは高いけどね~」


「そうなんだ。今度見に行こうかな?」


「一度は行った方がいいよ。見てよし食べてよしだよ」


「あはは……」


 この辺りの感覚はちょっとまだ馴染めないなぁ。私にとって肉は並んでるもので、そういう考えまでいかなかったから。

 食事も終えて今日もお湯をもらうことにした。これでまた、明日から頑張れる。部屋に戻った私は今日出た細工ごみをごみ箱に入れて道具も手入れする。


「それじゃあ、おやすみエレンちゃん」


「おねえちゃんもね」


 お湯を下げに来てくれたエレンちゃんにおやすみを言って私も眠った。




 翌朝、目が覚めると今日も小鳥たちがさえずっている。ただ、本日は雨のようだ。


「でも、今日の私には関係ない! どうせ像を作る続きをするだけだから」


 いつも通りに食堂へ下りて朝食を食べる。


「おねえちゃんは今日もお手伝い?」


「そうだよ。しばらく部屋でやりたいことできたから」


「何してるの? 物音は聞こえないけど」


「実はね……特別な女神様を彫ってるの。他の人には内緒だよ」


「ええっ!? 会ったことあるの?」


 さすがにありますとは言えないので濁しておこう。


「夢で見ただけだけどね」


「な~んだ。何て言う女神様なの?」


「アラシェル様って言うの」


 ちなみにこの国で女神といえば、慈愛の女神シェルレーネという神様が一般的らしい。教会もこの女神様を信奉していることが多い。


「そんな名前の神様、聞いたことないなぁ」


「私のいた村の人も多分知らないと思う。あんまり有名じゃないの」


「そうなんだ。それなのに像まで作るなんて信心深いんだね」


「どうだろうね」


 特に経典とかがあるわけじゃないからわかんないや。食事も終えた私たちはお馴染みのシーツ替えへと向かう。そこからはいつもの通りといって差し支えないぐらい。変わったことといえば、シーツを手で八枚洗えるようになった。ちょっとずつだけど体力もついてきたんだろう。



「シーツの洗濯終わりました」


「ありがとうアスカちゃん。はいこれ」


 お昼前の一杯の時間だ。ちなみに最近はなんだかこの時間に、宿に泊まっている人と会うことが多くなった気がする。気のせいかもしれないけど。何はともあれこれを飲んだらお昼時だ、気合入れないと。


「エレンちゃん、こっちも注文お願い」


「はいは~い。おねえちゃん代わりに料理運んで!」


「分かった」


 いつも通りに仕事をする。ただ、今日は雨が降っているからお客さんは少なめだ。でも、こういう日は逆に冒険者が外に出なくなり、お昼を食べに来るから気が抜けない。


「おう、アスカ。Cセット大盛でな、それとエールも」


「いいんですかバルドーさん。まだ昼ですよ?」


「どうせ、外になんぞ出やしないよ。ほれ」


 勘定を受け取ってからカウンターに注文を伝える。やっぱり、雨の日はみんな出たがらないようだ。それからしばらくすると客足は落ち着いた。


「二人とも、もういいわよ」


 ミーシャさんが今日はここまでと言わんばかりに料理を運んできてくれる。はぁ~、いつ見てもおいしそうだ。私は運ばれてきた料理を頂き、今日の仕事はここまでなので、食事を終えたら部屋へ戻る。


「さ~て続き続き」


 細工の準備を終え、昨日の続きから始める。まずは困っていた上着の裾のデザインだ。これはゆったりだけど、腕は少し出すという事で決めた。そうと決まれば後は彫っていくだけ。


 カリカリ シャッシャッ


 少しずつ削りながら作業を進めていく。前髪はサイドが少し前に伸びるぐらいだから胸にちょっとかかるところかな。さてさてっと。


「う~ん、これ以上は無理かな……」


 ちょっと角ばってはいるものの、これ以上やると折れそうで怖い。次は胸のところに移ろう。ここからは髪の毛も入ってくるから気をつけないと。

 それから集中すること早四時間。十八時の時間を知らせる鐘の音とともに私の作業は終わったのだった。


「できたぁ~! ……一応だけど」


 初めてという事もあるが、やはりお世辞にもいい出来ではない。ところどころ角ばってるし、顔や手のところは直したい。だけど、これ以上は削りすぎるかもしれないなぁ。明日、道具を売ってくれたおじさんに聞きに行こう。


「そうと決まればごはんごはん~」


 さすがに長時間の作業で疲れ、お腹はぐるぐるなっている。早く栄養補給しないと。



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