大型魔道具作成
さて、楽しい時間は終わって一夜明けると、やることが目白押しだ。しばらく滞っていた魔道具を作らないといけない。
「今日のところは冷蔵庫もどきだね。今の考えでは下側に冷凍庫を作って、その冷気が上に行くような造りを考えてるんだけど……」
一番の問題は冷凍室から冷蔵室に冷気が行くにあたって、冷凍室の下側が冷えて上側がそこまで冷えなくなることだ。均等な状態を保てないし、冷やし過ぎてしまうことがある。だけど、これを改善する案がないんだよね。
かといって上と下で温度変化の魔石を使ってしまうと、それこそ高額な魔道具の仲間入りだし、消費魔力も二倍近くになる。
「消費量が増えると魔力持ちの人を雇う必要があるしそれはダメだよね。肝心なのはちょっと魔力がある人でも使えるようにすることだよね」
魔道具がどんなに便利でもその使用者が限られてしまうのなら意味がない。色々な人に使ってもらえるのが重要だと思う。特に今作ろうとしているのは冷蔵庫で生活に関するものだからね。
「まずは、冷凍室からだね。こっちは魔石を置くから魔力が通りやすくなるようにちょっと奮発しないと。出来れば銀がいいよね? 冷蔵室に関してはメンテナンスも考えるとして、金属製の板を使って、簡単に取り外して洗えるようにしよう。外枠のカバーは木でいいよね? 腐食とかは……起きた時に考えよう」
まずは一つ作って試すことが重要だ。後はその後の運用次第だ。替えのパーツも作っておけば何とかなる。そうと決まれば銀を買いに行きたいんだけど……。
「銀の塊って高いんだよね。どうにか安く手に入らないかな?」
そこそこの品質と大きさだったら、後は形を整えるだけだからもっと簡単なんだけど。
「ひとまず、おじさんのお店に仕入れに行ってみよう」
「おう、アスカか。昨日の今日でまた来たのか?」
「おじさん、今日は銀の塊が欲しいんだけど、量が欲しいの。どこかで安く買えたりしないかな?」
「細工物に使うのか?」
「ううん。魔道具で使うんだけど品質はそこそこでいいの。銀であればって感じかな?」
「なるほどなぁ……だったら、再鉄所経由だな」
「あそこって金属買取だけじゃないんですか?」
「一般はな。加工後に業者向け販売をして利益を出してるんだよ。俺のところは品質の悪い銀になんぞ用がないから取引はないがな」
「じゃあ、私が買うのは無理ですね……」
「でも、譲ってもらえばいい。金額は一定だし、確か武器屋の奴が弟子用とか、磨き用に買ってるはずだ」
「それって売ってもらえるんですか?」
正規ルートじゃないし、駄目な気がするんだけど。
「魔槍の件は俺も裏で聞いたぞ。その件を持ち出せば一発だろう。商売は信用だからな」
「なら銅だけ買っておきますね。こっちはそれほど高くないので」
こうして銅を買った後で、何だか悪い気がするけど、ゲインさんの武器屋に行く。今回はいい銀を使っちゃうと金額がとんでもないものになるのでおじさんの話に乗らせてもらおう。
「ゲインさ~んいますか~?」
「おお、アスカか。今日はどうした?」
「ゲインさんのところって鍛冶工房も兼ねてましたよね?」
「とうとうそっちにまで手を出し始めたのかアスカ?」
「ち、違いますよ。その……銀を分けてもらおうと思って」
「銀? 銀なら細工のおっさんのところで間に合うだろ?」
「そっちじゃなくて、そこそこの品質のを大量に欲しいんです!」
「あ、あ~。もしかして再鉄所のか? あれか~……いやでもなぁ」
「魔槍」
ぼそりとつぶやくとゲインさんの肩がびくりと上がる。
「いや、あれはだなぁ……」
「魔槍……」
もう一度つぶやく。正直これで行けるか私には分からないので繰り返すしかない。
「分かった。分かったからその話はしないでくれ! 知られたら若いやつらに示しがつかない」
ほっ、どうやらうまく行ったみたいだ。
「まったく、細工屋のおっさんだな。アスカに余計なこと教えて……」
「まあまあ、矢も一緒に買いますから」
「そりゃありがたい……って足りなくなっただけだろ!」
「良いんですよ。おまけしてくれても」
ちょっとだけからかって見たくなったので、ちょっと言ってみる。
「……仕方ないなぁ。いつも買ってくれるし、ちょくちょくウルフ系の武器も売れるようになったしな。聞いたら、アスカに魔力の通りがいいって聞いたから魔法使いに人気が出たらしい」
「でも、みなさん杖を持ってますよね?」
「念のためにナイフにして魔力を込めて、投げるのにちょうどいいそうだ。おかげで在庫が減って助かってるんだ。今までは矢じりになるぐらいだったから、大きいのは買取もそこそこなのが値上がりしたらしいぞ」
店としてはそこは悲しいがなとゲインさん。そう言えば、ここで買い物する時に冒険者の人に聞かれたことがあったかな。鉄でよくないって? ウルフ製は魔力がよく通りますよ~って気軽に返したんだけど……。
「じゃあ、金額よろしくお願いします!」
「ああ、銀の大サイズでいくついるんだ?」
「数ですか……六面+スペアで八面分。八つですね」
「八つか……それはここに来るよなぁ。合計で金貨四枚だ」
「すごく安い! 正規品の半額じゃないですか! これからもちょっと買いに来ていいですか?」
「こっちも急に大量に買い付け量が増えるのは良くないから、月に二つぐらいだぞ!」
「はぁ~い」
二つでも以前やった即売会に銀製のものを出せるし、もしかしたら高い温度で再加熱するといいものになるかも? まあ、炉がいるし簡単にはいかないと思うけどね。
「予定より大幅に安い値段で仕入れができたし、後は帰って作るだけだね。ゲインさんじゃあね~」
「おう、また何か買いに来いよ!!」
ゲインさんと別れて、再び自室へ戻る。今日やっておきたいことはこの銀の塊を銀板にして魔石をつける場所を決めることだね。
「早速始めよう」
銀は魔力が馴染みやすいので魔道具での加工も割と楽だ。ただし、その代わり必要な魔力も大きくなるけどね。加工して平たくしていくと途中で程よい厚みと大きさになったので、いったん作業を止める。後はこの大きさに残りも合わせていく。
「ふう、ひとまずこんなとこかな。時間は……」
《チチッ》
ミネルたちを見るとうんうんと頷いている。どうやらお昼の様だ。私は一緒に食堂へ下りて昼食を食べることにした。
「おねえちゃん、今日はなにしてるの?」
「以前言ってた魔道具を作ってるところだよ。明日中には完成すると思うから楽しみにしててね」
「それって私たちも見れるの?」
「というか、宿で使ってもらうことになると思うからよろしくね!」
「なんだろう? 楽しみにしておくね!」
「楽しみにしててね~」
今日の昼食を食べて、再び部屋へ。
「さて、作業再開だ。今度はオーク材をこの銀板に合わせて切って行って切り込みを入れる。これを六面作って……この作業なら細工よりずっと簡単だね」
残るは魔石をどこに配置するかだ。そこから温度が変わっていくから下の方に置きたい。でも、下に置くとその上に置いたものに阻まれて、あまり冷えなさそうだし、魔力供給時に手も入れづらい。何か工夫がいるかな? せめて魔石に離れて魔力が送れればなぁ……。
「一回試すか!」
私はオークメイジの魔石を取り出して銀で囲み、そこに余った銀を細長く棒状に加工したら固定する。後はこの棒の先から魔力を流してみてと……どうだ!
「ちょっと光って周囲の温度も下がった。成功だ! でも、後はどれぐらいの魔力でこれができるかだよね……」
私が成功しても駄目だ。最終的にはエレンちゃんが出来ないと街の人に広まらないだろうし、この宿でも使えなくなっちゃう。
「隠ぺい!」
まずは魔力を五十にする……成功。次は思い切って三十だ。これも何とか光った。だけど、これだとちょっと冷却能力は低いかも。最後に二十だ。これでも出来るのが良いんだけど……。
「う~ん、反応はないに等しいなぁ。何とか温度変化が分かる程度だ」
冷たいというか涼しい感じになってる。最低魔力三十か。もうちょっと低くても行けるようにしたいけど、さすがにこれ以上は無理かな? 最悪は、魔力を高める魔道具を併用するしかないね。
「気を取り直して銅板を作ろう。後は残りの木や取っ手部分を加工して、ウルフの革を磁石の間に置いて緩衝材代わりにしてと」
いったんこれで完成かな? 冷却部分は魔石を中央に置いて、手前から魔力を通すと左右と上に冷気が行くようにした。当然手前側にも来るので、十分に冷えるだろう。
今後の課題としては冷え方にむらがあるところだけど、専門家じゃないのでそういうのは他の人にやってもらおう。
「完成したし、エレンちゃんを呼ぼう。この時間は廊下かな? エレンちゃ~ん!」
《チチッ!?》
急に大きい声を出したからミネルたちがびっくりしたみたいだ。ごめんね寝てたのに。心の中で謝りつつ、改めて廊下に出てエレンちゃんに声を掛ける。
「エレンちゃ~ん。今暇?」
「うん、時間あるけど?」
「言ってた魔道具完成したよ!」
「本当? 見に行っていい!」
「うん。そう思って呼びに来たの」
私はエレンちゃんを連れて部屋へ戻る。
「じゃ~ん、これが新しい魔道具の冷蔵……んん、コールドボックスだよ」
冷蔵庫ってなんだかそのまますぎるし、オリジナリティを出したくなってつい変な名前を口にしてしまった。合ってるのかな? 合ってるよね?
「これってただの箱じゃないの?」
「そう見えるけど違います。箱の下に手を入れてみて!」
「こう? つめたい!」
下のドアを開けてエレンちゃんに手を入れさせると、冷たかったのかすぐに手をひっこめた。マイナス五度ぐらいだけど、初めてだからびっくりしたんだろう。
「次はこっちに手を入れてみて」
「大丈夫?」
「大丈夫だから。ねっ!」
恐る恐るエレンちゃんが上のドアの中にも手を入れる。
「涼しい……こっちはそこまで冷たくないね」
私も手を入れて確認する。冷蔵室は下が一度で上の方が四度ぐらいだろうか? まあまあ冷える方だと思う。
「でも、これで何するの?」
「ふふ~ん。これで、宿にある肉とか野菜をそのまま長期保存できるようになるんだよ」
「すごい! じゃあ、何日でも生のお肉が置けるの!?」
「長期は無理だけど、数日は行けると思う」
「すご~い! 早速、お父さんのところへ持って行こうよ!」
「うん、これぐらいの大きさなら私の風魔法で一発だよ!」
自信満々に断言した私だったけど……。
「おねえちゃん。これドアより大きいね」
「そう……だね」
「おねえちゃんのあほ……」
余りに自然な呟きは私の胸にぐさりと突き刺さった。