ミニパーティー?
教会の護衛の人に実力を見せることになったジャネットさん。目立ってはいけないので、教会奥の庭で勝負をすることになった。
「準備はいいか?」
「着いた時からあたしは別にいいけどね」
「では、行きますよ。始めっ!」
ムルムルの合図とともに戦いが始まる。というかムルムルも何だか乗り気みたいなんだけど。
「ちょっと、わくわくしてない?」
「普段見てると、怒られちゃうからね。巫女には必要のないことだって」
「そうなんだ。もったいないね」
ジャネットさんは荒々しく戦うように見えるけど、繊細な動きもできる。伊達に剣術LV5ではないのだ。
「はぁっ!」
「ふっ。どうしたんだい。もっと踏み込んでもいいんだよ?」
「舐めおって!」
何度か打ち合うものの、お互いに決定打は与えていない。
「そ、そろそろ降参したらどうだ?」
「そんな力みながら言われてもねぇ。もう少し気を抜いたらどうだい?」
「ほざけっ!」
護衛の人が一気に切りかかる。ちょっと、危ないんじゃないかな。何て言うか実戦に近くなってきてるような……。
「あ、アスカ、危なくないあれ?」
「そうだね。もういいだろうし止めるよ。ジャネットさん」
「はいよ」
私は弱めにウインドボールを両者の間に放ち、距離を取らせる。
「何だ!? 二対一とは卑怯だぞ!」
「何を言っているの。護衛として問題ないことは明白でしょう。それ以上何かありますか?」
キリッとさっきまでの不安げな顔を隠してムルムルが護衛に告げる。
「で、ですが……」
「そもそも、アスカが止めなければ本気になっていませんでしたか? 私の護衛でありながら相手を倒すことに意識を向けるなど言語道断です!」
確かに護衛なら護衛対象のことを考えなきゃだめだけど、ちょっと言いすぎなんじゃ……。
「申し訳ありませんでした。私の不覚です」
「分かればいいの。私は出かけるから、ここの守りはよろしくね」
「はっ!」
まだ何か言いたげだったけど、とりあえずこの場は納得してくれたみたいだ。
「はぁ、ごめんなさいね二人とも。護衛って彼みたいな硬い人ばかりなの。もっと、柔軟でもいいと思うんだけど……」
「護衛側からしたら、言いたいことは分かるけどね。あそこまで頑なじゃ息もつまっちまうよな」
「そうなの! あなた話が分かるわね」
「そりゃどうも。こっちも思わぬところで巫女様と知り合えて嬉しいよ」
「ふふっ、こちらこそ。じゃあ、行ってくるわ」
三人そろって教会を出る。とは言っても裏からだけどね。表からじゃ目立つし。
「で、どこに行きたかったんだい?」
「昼間食べたパンが硬いパンだったんです。それで、フィアルさんの店を夜借りられないかと……」
「あそこなら教会の人間でも大丈夫だな。分かったよ、あたしも一緒に交渉してやるよ」
「二人とも知り合いなの?」
「ああ、一緒のパーティーなんだよ。今は店長兼料理長みたいなもんだけどね」
「やはり冒険者って色々な人がいるのね」
「まあね。だけど、アスカみたいなのは珍しいよ」
「どういう意味ですか?」
別に冒険者で兼業している人なんて珍しくないのに。
「それは分かるわ。冒険者って思わないもの」
「これでもパーティーリーダーなんだけどな~」
「嘘っ!?」
「それは本当だね。アスカはそういうのに向いてると思うよ。人をまとめるっていうか引き付けるっていうか」
「そうですか? 自分では分かりません」
今でも経験とかを考えるとジャネットさんの方が向いてると思うし。
「まあ、そこは同意するわ」
「ムルムルって結構厳しいよね」
「これでも巫女として頑張ってきてるからね」
「やっぱり、大変なのかい?」
「それはもう。祝詞や舞や礼儀作法はもちろん、巡礼する土地の歴史や国ごとの違いもあるし……そうそう、うちは神託もあるからね」
「そういや、シェルレーネ様のところは神託が多いんだって?」
「そうよ。アスカともその神託で知り合ったんだもの。強制力って言うの? すごいわよ」
「へぇ~、そうなんだ。私は神託とか来ないけどなぁ~」
あるとしても、アラシェル様とお話するぐらいだし、巫女として忙しさが全然違うんだろうなぁ。
「何言ってるのアスカは。巫女じゃないんだから当たり前じゃない……よね?」
「あはは、何言ってるのムルムルさん。やだなぁ」
「……アスカ、やっぱりこの話題を抜けきれなかったね」
「や、やっぱりって何ですか! ジャネットさん私を信じてくれてなかったんですか!?」
「こういうことに関してはまだまだ信用はないねぇ」
「そんなぁ」
「ぷっ! いいわよ。私も誰かに話したりはしないわ」
「ありがとぅ~」
「こらアスカ!」
ムルムルがせっかく黙っていてくれると言うのに、何故かジャネットさんには注意された。
「嘘がつけない性格なのねアスカって。そのまま、黙ってたら誤魔化せたかもしれないのに……」
「え、え~と……」
「こりゃ、ノヴァの方がまだましな交渉するかもね」
ばれては仕方ないと簡単にアラシェル様の巫女になったと道すがら話をする。もちろん会話が漏れないようにちょこっとだけ風魔法を使ってね。
「ふむふむ。それじゃあ、やっぱり高位の神様なんだ。巫女も力のある神様じゃないといないし、メジャーでもないのに巫女になれるんだから」
「そう……なのかな?」
「きっとね。それで、ご飯はどこなの?」
それ以上は聞かずにいてくれたので私たちも店の話をする。
「ほらここだよ。結構、いい店だろ?」
「はい。思ったより小さい店だけど、外も綺麗ね」
「そういえば、いつも店の前って掃除が行き届いてますね」
「あいつは綺麗好きだからね。じゃあ、入るよ」
「いらっしゃいませ。ただいまの時間はお菓子しかお出ししておりませんがよろしいですか?」
「ああ、今日はちょっと頼みごとがあってね。フィアルは居るかい?」
「すぐにお呼びしますね」
ジャネットさんに気づいた店員さんがすぐに呼びに行ってくれる。行きつけのお店って感じだ。
「へぇ~、内装も綺麗だしいい店ね」
「これは、気に入っていただきありがとうございます」
「フィアル。早いね」
「二人の気配がしたので、ちょっと出てきただけですよ。ところで何の用でしょう?」
「ああ、今日の夜なんだけどちょっと上を借りられないかと思ってね」
「上ですか? 大部屋は全部空ければ十人ほどの収容ですが……」
最初こそ仲良く話していた二人だけど、ムルムルの姿を確認すると、フィアルさんはすぐに営業モードへ切り替えた。
「ならそれで頼むよ。詳しいことはその時に話すからさ」
「……分かりました。では、何名ほどのお食事で?」
「ねぇ、どのくらいになるんだい?」
「私のほかに四名ほどでしょうか?」
「それじゃあ、八人ぐらいにしておこうかね」
「分かりました。注文はあらかじめ取っておいた方がよろしいでしょうか?」
「長時間は不味いだろうから、一緒のコースに追加する感じでいいんじゃないかい?」
「そうですね。護衛もいますし、それが良いと思います」
「最後にお酒はいかがいたしましょう?」
「飲むって言ってもあたしぐらいかねぇ」
「では、多少ということで承りました」
「ああ、それじゃあな!」
「またね。フィアルさん」
さすがに何年も一緒のパーティーだっただけあって、スラスラと話が進んでいった。食事の時間も決まり、十八時半ぐらいからになった。今が、十六時頃だから後二時間だね。
「話は付いたんだし、ちょっとだけ街を見に行っていい?」
「ああ、それじゃどこに行きたいんだい?」
「まだやってるなら、市場の方に。そうでないなら商店を見て廻りたいかな」
「じゃあ、一応市場に行ってみるか。閉めるところだからものはあんまりないだろうけどね」
ムルムルの希望で市場を目指す。今の時間は午後市だから午前の売れ残りや、ちょっと保存が効くものや細工物が多い。今は秋口だからいいけど、夏とかだと傷んできちゃうから大変だ。
「ここが市場だけど、まあこの時間はこんなもんだね」
「お世辞にも活気はないわね……これは時間帯で?」
「そうだね。十六時ってのが大体目安だね」
「では、明日改めて来るしかないわね。一先ず見て廻るわ」
市場を見ていく間、何人か知り合いと出会ったので挨拶しながら進んでいった。
「アスカってさっきから色々な人に挨拶してるけど、店を出してるの?」
「違うよ。細工はそんなに大量に作れないもん。泊まってる宿の食堂で働いてたから、そこの常連さんとかだよ」
「ふ~ん。そんなことまでしてるのね」
「でも、普通だと思うよ。そうでもしないと初心者は稼げないからね」
「そういうものなの?」
「言ってることは正しいんだけどねぇ。アスカはそ最初からそれなりに稼いでたからね」
「ほら、やっぱりね」
「何がやっぱりなの!?」
三人でお喋りしながら歩いていると声をかけられる。
「アスカちゃん、久し振り。あんときは助かったよ」
「あっ、肉屋のおじさん! あの魔道具、役に立ってる?」
「おうよ。あれに魔力を込めれば、木くずを入れるだけで燻製ができて助かってるよ。ゴミも簡単に集められるし、妻も自分の魔力が店の役に立つって張り切ってたぜ!」
「無理はさせちゃだめですよ。体が一番ですからね」
「おう! そっちは友達かい?」
「はい。普段は手紙でやり取りしてるんです」
「そうかそうか。アスカちゃんをよろしくな! ほら、これ持って行ってくれ」
ポンとおじさんはムルムルに燻製肉を渡す。
「いいの?」
「ああ、燻製のこともだけどアスカちゃんたち冒険者にはこの町も世話になってるからな。その友達なら別にいいさ。最近は王都方面が危ないのにみんな頑張って依頼受けてくれるって聞いてるぜ。うちの店も仕入れが少しだけ値上がったけど、商人も褒めてたよ。ここいらの冒険者は真面目なやつが多いってな」
「そうなんだ」
思わぬところで褒められてちょっと照れるなぁ。
「別にアスカのことじゃないと思うけど。その依頼受けた記憶あるの?」
「はっ!」
「まあ、アスカちゃんならきちんと受けてくれてるよ。宿の常連のお墨付きだからな!」
「もう……おじさんったら」
恥ずかしくなってきたので、おじさんにお礼を言ってからその場を離れる。
「外から見たらあんまりなさそうに見えたけど、この時間でも思ったより色々あったわね」
「そりゃよかった。しかし、アスカ。何時の間に肉屋のおっさんの魔導具なんて作ったんだい?」
「燻製の方法を一緒に考えてちょっとしてですね。手作りだと手間だし、魔石があれば何とかできるかもって思って」
「アスカってやっぱり子どもね。これがあったらな~って思って作ってるでしょ」
「ムルムルひど~い。まあ、その通りなんだけど……」
実際、細工のデザインとかだって色々見ながら、こういうのあったらな~とか思ったものを作っている。花の細工も図鑑一ページ全部作るとかはせずに、気になったものだけ作っているし、魔道具もこれ出来るかなっていうのが始まりなんだよね。
それからも私たちは市場を少し見て廻った。