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巫女友達への贈り物

 さて、昨日はムルムルさんへの贈り物を作ったけど、確かシェルレーネ様の巫女は三人いたはずだから後二つ作っておこう。でも、かんざしにするのはいいとして、同じデザインっていうのは駄目だよね。


「それに新しいデザインで作った方が私のためにもなるしね。最近は器用さがすごい勢いで上がっているから、このまま継続したいし。でも、デザインかぁ~、何がいいかな? スズランとかどうかな?」


 だけど、スズランって根に毒があったはずだ。変な(いさか)いのもとになっても困るし、よくないよね。他に私の好きな花だったら、チューリップとショウジョウバカマかな? でも、後者は大変そうだなぁ。きっと、一日仕事だよ。


「時間もかかるし、早速進めていこう。まずはチューリップからだね。シェルレーネ様は水を司っているから青い色に白い線を加えた品種のものにしよう」


 形はすぐにイメージが出来たので、ささっと絵に起こす。ちょっと修正を繰り返して納得がいく出来になったので、後はひたすら作っていくだけだ。


「その前に、ちゃんと試作を作らなきゃね」


 一時間ほどかけて試作品を作ってみる。うん、チューリップはそこまで複雑じゃないからいけそうだ。だけど、雑に作ってしまうと綺麗な花の開き方が、汚くなっちゃうから気を抜かないようにする。


「ふう、試作品はこれでいけそうだね。気になるところは開き具合だけど、垂直より少し開いてるほうが好みだからそんな感じで……」


 後は大きく削って少しずつ成形していくだけだ。次はかんざしの軸になる部分を二股ではなく棒状にしてみる。魔石を入れるのにこの形の方が良さそうだと思ったからだ。

 二股だとどうしても別れるところで大きな魔石を入れられないので、十分な効果が得られないという前回の反省を生かした構図だ。単純にこのデザインも作りたかったのもあるけど。


「うう~ん、この開きと重なり具合はもう少し……いや、でもこれ以上開いた感じは厳しいかな?」


 簡単と思われた作業だけど、意外にもちょっと苦戦中。やっぱり花は開き具合が肝心だからね。大きく花開いたものが綺麗なら単純だったけど、チューリップは結構好みが出る花だと思う。


「う〜ん。でも、ちょっと外側に開いたような感じが好きだしここは自分を信じよう!」


 作っていたところから少しだけ開かせて、強度も失わないようにする。


「ふう、思ったより時間かかっちゃったけど、何とか型は完成だね。後は色を塗るだけだし少し休憩~」


《チュン》


「レダとラネーもお腹減ったの? 実は私もなんだ。すぐに持ってきてあげるね」


 二羽とも最近はずっとアルナの巣にいる。ラネーだけはたまにどこかで寝てるみたいだけど、ほとんど三羽一緒だ。


「仲が良いのはいいんだけど、お嫁に行けなくならないか心配だよ」


 この世界の鳥というかヴィルン鳥やバーナン鳥が何年生きるかは分からないけど、番を見つけてあげないとね。こうして世話をしているからにはそういうところも気にしてあげないと。


「それじゃちょっと待っててね」


 食事をもらいに食堂へ行く。今日のお昼ご飯は何かな~。


「あら、アスカ出かけてたんじゃないの? お昼は終わったわよ」


「ええっ!? でもまだお昼じゃ……」


「何言ってるの、もう十五時過ぎよ。あなたまさかまた……」


 食堂へ行くとエステルさんから残酷な事実が告げられた。しかも、お昼を食べてないのがバレてしまう。


「ちょっとお腹すいたので何か買ってきます!」


 また問いただされたらたまらないので、話を打ち切って外へ食事を買いに行く。ただ、あまり多くお店も知らないしどうしよう? 久しぶりに肉串でも食べようかな。最近は西側に行くこともなかったしそうしよう。


「おじさ~ん、串を三本と別で二本下さい!」


「おう、嬢ちゃんか久しぶりだな」


「最近はどうですか? 冒険者が減ってませんか?」


「ああ、町全体じゃ減ってるらしいが、こっちは稼ぎが増えたぜ」


「どうしてですか?」


 お金を払い貰った串を一本食べてから聞き返す。


「ゴブリンやオークを狩りに東側へ行く奴らは減ったが、連中もこっちに来るようになったのさ。採取の奴らにプラスってわけだ。それに港経由の商隊も増えて、仕事帰りに買う奴も増えたんだよ」


「ふ~ん、そうなんですね。でも、メニューが一種類ですし厳しくないですか?」


 ここのボア肉を使った肉串は美味しいけど、秘伝の塩味しかない。後、一つか二つはあるともっと売れそうなのに。


「ま、そうなんだけどよ。今使ってるのと違う肉は高いし、色々使うと後処理が困るからな」


「それなら値段は分かりませんけど、市場で肉を出してるおじさんが変わり種の肉を売ってますよ。日持ちもしますし、他の肉屋にも並んでないので差別化できますよ?」


「じゃあ、あいつの店だな。今度話してみるとするか。実際にメニューがボアの肉だけじゃ毎日は買っていってくれないからな」


「そうですね。後はタレとかどうですか。ちょっと、焼いてる時の匂いと処理がきついですけど……」


「タレ? だが、付けたとしても落ちちまうだろ?」


「そこでちょっと粘り気を出して、何回かつけて焼いてくんですよ。絶品ですよ!」


 想像したら、よだれが……。塩のあっさりとした味付けもいいんだけど、あのじゅわっとした味も好きなんだよね。


「へぇ、嬢ちゃんが言うんなら試してみるか。にしても色々してるんだってな。街でも評判だぜ!」


「ふぇ? 別に何もしてませんよ。依頼をこなしてるだけです」


「そうか? 食堂で働いたかと思えば、細工も作ってしてるだろ。俺の娘もこの前買ったらしいからな。また新作よろしくな!」


「あっ、それはどうも。そうですね……近いうちに何点か細工屋のおじさんの店に出しますね」


「おう、よろしく頼むな!」


 串も食べ終わり宿へ戻る。忘れずミネルたちにご飯の串を渡すと、ちょっと串の塩っ気が強くて喉が渇いたので、宿でジュースを注文した。


「アスカちゃん、はい」


「あっ、ミーシャさん。ありがとうございます」


「ふふっ、今日はお昼食べ損ねたのですって?」


「ち、違います。たまには外食しようと思ったんですよ」


「そうなの。何にしても無理しないようにね。ちゃ~んと休日は休むのよ」


「は~い。普段から休んでないミーシャさんもきちんと休んでくださいね」


「これは一本取られたわね。気を付けるわ。でも、本当に無茶は駄目よ。この宿にも怪我をして入ってくる人も増えたんだから」


「そうですね……」


 魔物が強くなって以来、宿に泊まる冒険者たちも怪我をして入ってくる人が増えた。荷物だけ置いて治癒院に行ったり、ポーションを使って傷を治したり対応は違うものの、やっぱり難易度が上がった証拠なんだと改めて思わせる瞬間だ。私たちは私が回復魔法を使えるから大丈夫だけど、それでも完全には治らないしなぁ……。


「この宿にアスカさんがいるって聞いたのだけど……」


「私に用事ですか?」


 声がしたので振り返ってみると、以前にオーガの集団に襲われたお姉さんだった。


「ああ、よかった。まだこの町にいたのね。隣町へ依頼を受けに行くって聞いてたから、そのまま王都まで行ったかのと思ってたわ」


「まだまだ、この町にいますよ。王都は危ないですし」


「そうなの? そうそう、今日は以前の報酬を渡そうと思って来たの。ちょっとお金がなかったから工面するのに今日までかかっちゃったけど……」


「アスカちゃん、お知り合い?」


「知り合いというかなんというか……」


 助けられましたなんてことは言われたくないだろうし何というか考えていると、お姉さんが説明してくれた。


「以前、アスカさんに助けていただいたんです。死んでもおかしくなかったのですが、おかげで普通に生活するぐらいはできるようになりました」


「そうだったの。さすがはアスカちゃんね。でも、生活できるぐらいって?」


「ちょっとだけ右腕が曲がってるんです。ほら」


 お姉さんが腕を動かして見せと、ちょっとだけ動きがおかしかった。やっぱり腕の怪我は完全に治らなかったみたいだ。


「ふふっ、これでも治癒院に行ったら王都で金貨を十枚積んでも多少ましになる程度だって言われたんですよ。そんな大金は持ち合わせてませんし、最初の状態を言ったらここまで動くことに驚かれました」


「大変だったわね。でも、お金を工面したってこれからはどうするの?」


「友人に商会を紹介してもらってそこに御者兼簡単な護衛として勤めることになったんです。冒険者は廃業ですね」


「そんな……」


 もうちょっと私が上手く治せていれば……。


「そんな顔しないでアスカさん。私の実力がそこまでだった。いいえ、自分でそこまでにしてしまったの。この腕を見るたび私は自分を見失わずに生きていけるわ。ありがとう。ということでこれを受け取って」


 お姉さんが小さい袋を渡してきた。中を見ると金貨が五枚に銀貨が十枚も入っている。


「こんなにたくさん……」


「言ったでしょ? このお金も私が生きていたから意味があるの。アスカさんが居なかったらあのまま死んでいたし、これから亡くなった仲間の分も頑張るから大丈夫ですよ」


「そういうことなら……」


 渋々だけど、そこまで言われて受け取らないわけにもいかない。きっとこのお姉さんも帰ってくれないだろうし。


「そういえばお姉さんの名前は?」


「私? 言ってなかったっけ。ミスティよ」


「じゃあ、ミスティさん。このお金はありがたくいただきます。でも、無茶しないでくださいね。そうだ! これを貰って下さい。きっと、良いことがありますよ」


 私はここぞとばかりにアラシェル様の木像を渡す。


「この人は?」


「私が信仰してる神様です。知名度は低いですけど、アラシェル様といって運命のようなものを司ってるんですよ」


「アスカさんが信仰するぐらいだからきっと素晴らしい神様ね。ありがとう。そうそう、私の働き先はベール商会といって主に海の向こうの大陸と取引をしているの。何か売れそうなものがあったらよろしくね」


「ふふっ、そうですね。手が空いたら持って行きます」


 もう商売の話に移るなんて、やる気にあふれてるんだなミスティさん。


「いけない、仕入れの時間! それじゃあ、またね。アスカさん」


「はい、ミスティさん」


 ミスティさんが帰り、食堂に残される私とミーシャさん。しばらくゆっくりしていると、声を掛けられた。


「アスカちゃんも本当に色々やってるわね」


「嫌ですよ、ミーシャさん。冒険者同士協力しただけですってば」


「本当かしら。ジャネットに聞いてみるわね」


「最近みんなが私を信じてくれない……」


「そう思うならもうちょっと規則正しく生活しましょうね。アスカちゃんぐらいの頃にだらけた生活したら身体に悪いわよ?」


「反論できない……」


 ミーシャそんに言い負かされ部屋に戻った私は、かんざし作りに戻る。途中だったチューリップかんざしの彩色を終わらせると、残った時間でショウジョウバカマのデザイン画と試作までをやり遂げた。


「ショウジョウバカマのデザインは疲れた〜。ユリとかの花は一つだけど、こっちは花が最初からいくつも重なってるから、細かい部分が多くて大変だよ」


 だけど、手抜きはできないので頑張って仕上げた。本当は試作工程を削ればもっと早く作れるんだけど、やっぱり良いものを身に付けて欲しいしね。


「それじゃ、今日もおやすみ」


 アラシェル様に祈りを捧げた後、ミネルたちにお休みを言って私は眠った。




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