表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
151/491

初調合!

 調合の材料も揃い、始めようと思ったところでふと気づいた。


「意気込んで始めようとしてみたものの、さすがに銀貨何枚もするものを最初の材料として使うのは危ないよね」


 私だってお金は惜しい。このために結構な出費をしているのだからまずは調合の感覚を覚えようと思ったのだけど……。


「リラ草すら持ってなかった……仕方ないか。試しにやるだけだし、これでだめならもう諦めればいいんだしね」


 折角の高い器用さを生かせないとしても、出来ないなら割り切ろう。


「じゃあ、まずは用意した材料だけど、キキノコとベル草が四本。ルーン草とサナイト草が十本に、後はシェルオークの葉っぱが百枚ぐらいだね」


 材料を眺めていても仕方ないし、どれから使おうかな? 私は少し悩んだ後、年中取れるルーン草とサナイト草を選んだ。


「二つぐらい薬草を混ぜれば良いんだ。混ぜた後は買ってきたシェルレーネ水と一緒に混ぜるんだけならすぐ出来そう。まずは薬草を投入して混ぜ合わそう」


 独学でやるため難しいやり方じゃなくて良かった。早速、書いてある通りに実行してみる。


「うん……出来たと思うんだけど何だか変な臭い。おかしな味だったら書いてあると思うんだけど」


 大体、前に飲んだ時はこんな変な臭いしなかったよね? ちょっと飲んでみよう……。


「うっ、まず~~~い」


 げほっげほっと思わずむせてしまう。これって明らかな失敗だよね。失敗するような難しい工程がないのにどういうことだろう?


「ううむ、これ以上材料が減るのももったいないし、他の材料も混ぜて作ってみよう」


 まずはキキノコを煮詰める。これは火の魔法があるのでかなり早くできる。こうして、煮詰めたエキスをシェルレーネ水に混ぜれば効果が上がるはず。

 後はベル草を二本とサナイト草四本とシェルオークの葉を十枚ほど混ぜてすったものを、さっきの水に入れ混ぜて完成!


「これが万能薬になるはずだけど大丈夫かな?」


 効果重視で水の量を少なめにして三本分が完成した。次に作るのはルーン草四本とシェルオークの葉十枚を混ぜたもので、最後はすべてを混ぜ込んだ贅沢な逸品を作る。今回が最初で最後の調合かもしれないから頑張って作ろう。


「必要な材料はベル草二本・ルーン草八本・サナイト草四本、そしてシェルオークの葉は三十枚ぐらいと。残りの五十枚ぐらいは保管しておこう」


 一所懸命集中して作業をする。こういうところは細工と一緒だよね。分量は正確なグラムが分からないから、適当になっちゃったけど。


「それにしてもキキノコのエキスはきちんと濾してるから、変な味はしないはず何だけどなぁ」


 作業を始めて二十分。いい感じになってきたので、ここで水を投入してさらに混ぜる。何でいい感じなのが分かったって? そんな予感がしたんだ。


「よしよし、今度はというか二回目からは変な臭いもしないし大丈夫かな?」


 今回できたものは小分けにせず大きめの瓶に入れた。鑑定してもらう時に大瓶の方が楽だと思い直したのだ。何とか完成したから早速、ホルンさんのところへ行ってこよう。時間もいつの間にか十一時だしね。



「こんにちは~」


「あら、アスカちゃんいらっしゃい。今日は依頼の日じゃないわよ」


「分かってますよ~。今日は鑑定をお願いしたくて……」


「じゃあ、一件につき銀貨一枚ね。個人的なことだから別のところでやりましょうか」


 そう言いながらホルンさんはジュールさんの部屋へ行く。ギルドマスターの部屋が便利なお部屋扱いだけど大丈夫かな?


「おう、今日はどうした? 相談なら何時でも言え。俺もお前ぐらいの時は伸び悩んでた気がするなぁ~」


「ほぼ最速でAランクに上がった方が何言ってるんですか。鑑定依頼ですよ」


「何だそうなのか……」


「残念そうにしないでください。そういえば、鑑定ってどんな細工物なの?」


「今回はポーションです。ちょっと材料が採れたので自分で作ってみたんです!」


 元気よく返事をしたものの、作っている過程から考えると不安しかないけど。


「ほう、そいつは面白そうだ。俺も参加するぞ!」


「参加って、マスターは鑑定使えませんよね?」


「大丈夫だ。俺ぐらいになると鑑定無しでも善し悪しは分かるぞ! 何たって実際に戦場で死ぬ思いしながら使ってるわけだからな」


 ガハハと笑っているジュールさんだけど、笑いごとじゃないと思う。


「じゃ、じゃあ、まずはこれからです」


 私は不味くて大変な思いをしたマジックポーションを出してみる。


「言いたくないけど、これを鑑定してもいいのね?」


「一応、初めて作ったものですし結果が知りたいんです」


「はぁ、分かったわ。これはマジックポーション(大失敗)不味いだけでなくMP減少効果が付いているですって……」


 がーん……いやね、失敗してるってのは分かってましたよ。だけど、マジックポーション(MP減少)はひどすぎる……。


「はっはっはっ、アスカは相変わらず凄いものを作るな。これは見習いでも作れないものだぞ。逆にレアかもな」


「ジュールさんひどいです……」


「全くですよ。冒険者のやる気を削ぐようなこと言わないでください」


「すまんすまん。しかし、アスカは何でもできると思っていたから、苦手なものが出てきてついな」


「そんなことないと思いますけど……」


「さあ、次をお願い」


「次はこれです」


 ジュールさんに謎のフォローを入れられつつ、私はサナイト草の効果を中心としたポーションを出す。


「これね……万能薬(良)各種異常状態を回復するだけでなく、風邪や伝染病など中程度までの病にも効果がある。へ、へぇ、念のため聞くけれど、調合自体は初めてなのよね?」


「はい。お手伝いで潰したりはしましたけど、実際に自分で混ぜたのは数えるほどですね」


 つい最近、困っている子を助けるため一度だけ調合のようなことをしたけど、あの時はもっと簡単なやり方だったしなぁ。


「そ、そう……」


「じゃあ、次はこれですね」


 次はルーン草を使ったMP回復薬だ。これも変な臭いもなかったし大丈夫だと信じてるよ。


「何々、マジックポーション(特)、消耗したMPも回復し継続して戦える。数分間の自動MP回復効果付き。回復量大。ええ……」


「ホルン、よくアスカをここに連れてきた! 下でやったら大問題だったな」


「最後ですね。最後は残りの材料を全部混ぜてみたんですけど……」


「とりあえず見せてもらえる?」


「はい、これです」


「……多重回復ポーション。HPを少し、MPを大幅に回復。また、病にも効く。服用後しばらくは覚醒効果が付く。う~ん、初めてとは思えない出来ね。どう思いますマスター?」


 ホルンさんが私の作ったポーションを鑑定し、何か疑問を覚えたようだ。私も出来過ぎだと思うので、ジュールさんなら何か知ってるかな?


「一つだけ思い当たる可能性がある。アスカ、スキルを確認させてもらってもいいか?」


「あっ、はい」


 別にホルンさんには前にも見せてるし、今更だろう。この前も新しいギルドカードを発行してもらう時にお世話になったしね。


「それじゃあ確認するぞ」


 名前:アスカ

 年齢:13歳

 職業:冒険者Dランク

 HP:186

 MP:460/460

 力:70

 体力:74

 早さ:88

 器用さ:189

 魔力:160

 運:67

 スキル:魔力操作、火魔法LV3、風魔法LV4、薬学LV2、細工LV3、魔道具LV3、弓術LV3、特異調合LV1


「おおっ……すでにCランク中堅ぐらいの強さじゃねえか。それよりやっぱりついてるな」


 カードを機械に読み込ませると私のパラメータが表示される。そしてスキル欄の最後に見慣れないスキルが……。


「あの~、この特異調合って何ですか?」


「これはな。薬屋を目指す奴が絶対に取得してはいけないスキルと言われている。別名『貴族スキル』だ」


「でも、スキルって勝手につきますよね?」


 取得するなと言われても、スキルは勝手に生えてきてしまうのだ。何か対処法はないのかな?


「ええ、だからこのスキルを取った人間は、薬師になるのは諦めろって言われてるわね」


「ホルンさんも知ってたんですか?」


「噂程度だけどね。レアスキルだから持っている人を実際に見たのは初めてよ」


「ちなみに効果は?」


 二人の口ぶりからしてあまり良さそうなスキルじゃなさそうだけど……。


「アスカは調合で上級と初級どっちを作るのが難しいと思う?」


「上級ですよね。材料だっていいものが必要なんですから」


「そうだ。だが、このスキルはある意味それを逆転させることができるんだ」


 ひょっとして、上級ポーションが作りやすくなるのかな? それならAランクの薬草を入手できる私にぴったりかも!


「喜んでるところ悪いんだけど、アスカちゃんの想像とは違うわよ」


「えっ、じゃあ……」


「その前にこの薬に変わった材料を使わなかったか?」


 変わった材料……しいて言うならシェルオークの葉っぱかな?


「シェルオークの葉っぱなら使いましたけど……」


「それだな。このスキルはな、珍しい材料が調合材料として加わっていると、作成した薬の効果が1.2倍ぐらいになり成功率も1.3倍ぐらいになる」


「すごいじゃないですか!」


 興奮して声を荒げる私にとんでもないことをジュールさんが告げた。


「だが、もちろんデメリットもある。これまでの報告から通常のレシピで調合すると失敗確率が5倍以上になる。要するに百回中三回失敗する奴は二十回近くは失敗するようになるだろう」


「ええ~、それって普通の薬を作るのが難しいってことですか?」


「そうね。ベテランですらこのスキルがあるだけで、初級ポーションの作成に失敗するって言われてるわ」


 安くて大量生産で、薬屋の花形とまで言われてる初級ポーションが作れないなんて。


「それとな、もう一つ問題があって……」


「まだあるんですか?」


「普通、スキルってのは使い続けて上げるもんだろ?」


「そうですね。剣とかも振っていれば一定までは上がるって聞きました」


 ジャネットさんだって最初は1だった剣術のLVが今は4だし。


「このスキルは通常の薬を作っても経験にならない。珍しい材料を大量に集めて、頑張って作って初めてLVが上がるんだ。だから、そのな……冒険者じゃスキルレベルを上げるのが非常に難しいんだ。特に珍しい薬草は金になると言って売ってしまうパーティーも多いからな」


 ああ~、確かにシェルオークの葉もキキノコも高く売れたよね。


「アスカちゃんが貴族だったらよかったんだけどね。資金に余裕のある貴族だったら男女関係なく領地か薬学研究所で出世できたのに。冒険者の資金力だと上げにくいからみんな作らなくなっちゃうのよ」


 確かに今回この薬を作るのに金貨数枚はかかっている。これだけの資金があれば冒険者なら装備も買えるし、色々できるもんね。ましてや、作成に失敗した時のことを考えると……。私はマイナスを考え身震いする。


「まあ、これだけ貴重な薬が作れれば儲けもでかいし、頑張ったらどうだ? 一応高ランク冒険者の大規模パーティーなら採用の目もあるしな」


「そ、そうですよね! 高く売れたらいいんですよね」


「売れればね。これだけの薬だと単価がね。間違いなく金貨数枚の品よ」


「まあ、この辺もランクの高いパーティーが来ることになったから、そこそこ行けるだろ。無理ならレディトに行って卸せばいいしな」


「マスターの言う通り、レディトなら何とかなるかもしれません」


「販売価格ってそんなに高いんですか?」


 効果は良いと思うけど、アルバの冒険者だと手が出なくなる程なのかな?


「言っただろ? このスキルがあるからアスカでも成功してるが、一般の調合スキルならLV5は欲しいところだ。街の奴らは3前後で止まってるのも多いから、かなりの貴重品だぞ」


「でも、今後普通の薬は作れないんですよね……」


「何言ってるんだアスカ。元から作ってなかったんだからプラスだろ?」


「……そう、そうですよね!希少な薬を作れるってことですもんね。ありがとうございます」


 私はジュールさんにお礼を言って、ホルンさんに鑑定結果を署名付きで発行してもらう。こうすることで薬の効果を保証できるのだ。

 今回うまくできた薬は今度冒険者ショップへ行く時に見せてみよう。価値が下がらないよう、それまで保管には気を付けないと。



「アスカは行ったか。何とか納得させられたな」


「勢いでですが。でも、本当にすごい効果ですよ」


「まあ、あれを使うとなるとBランク以上だから、さすがにほとんど売れないだろうがな」


 こんな会話もいざ知らず、私はウキウキ顔でおじさんの店に行ったのだった。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ