本職?の仕事
「ふわぁ~」
昨日は依頼疲れからかすぐに寝たので今日の朝はちょっと早め。ミネルたちを見てもまだぐっすり寝ているようだ。私は起こさないように注意して、祭壇を出す。
「アラシェル様、昨日もありがとうございました。本日もよろしくお願いします」
感謝の言葉を捧げて食堂へ下りる。
「おはようエレンちゃん」
「おはようおねえちゃん。昨日はよく眠れた?」
「うん。疲れてたみたいでぐっすりだよ」
「よかった。ああそうだこれ、昨日手紙を預かってたんだった。はい」
「ありがとう。誰からだろう……」
早速手紙を開けて中身を見る。相手はムルムルさんからだ。どうやら、最近アルバ周辺が危険になったとシェルレーネ教でも噂があり、激励のため次の地方巡礼の行き先になったみたい。来る日はと……三日後か。だったら来る日までに色々用意しようかな。この前の細工の即売会には結局来れなかったしね。
「そうと決まれば午前中は仕入れに行こう!」
「おねえちゃん。はい、朝ごはん。どうしたのそんなに気合入れて?」
「今度、ムルムルさん……シェルレーネ教の巫女様がこの町に来るんだって。その準備をしようと思って」
「商売敵だもんね」
「ちょ、そんなんじゃないよ」
「あはは。それじゃ、今日はお買い物でも行くの?」
「そうだよ。色々この機会に揃えようと思ってね。ジャネットさんたちにもお願いして、来週は依頼休もうかな?」
「確かに昨日も帰ってこなかったし、週の半分ぐらい使っちゃったもんね」
「そうそう……って、待って!」
私は? となっているエレンちゃんの横で計算してみる。私の一週間の予定は依頼・予備日・休日・細工・細工・細工・休日のはずだ。でも、今週は1日目を野営、二日目はレディトで宿泊、三日目に帰ってきて寝た。今日からは細工の日だ。
「んん? 一日休日減っちゃってる……」
「急にどうしたのおねえちゃん」
「ううん。私の週間計画がすでに狂ってたってことを痛感したの」
「なんだか分からないけど冷めちゃうよ?」
「そうだね。いただきます」
さっき考えたことはいったん頭の隅に置いて朝ご飯を食べないとね。決して考えることから逃げたわけじゃないから。
「ごちそうさまでした」
朝食を終え、ミネルたちのご飯を貰うと私は部屋へ戻る。
《チチッ》
「おはようミネル。どうしたのそんなにバタバタして」
私が早起きしたから置いていかれたと思ったのかな? 冒険にも連れていきたくても、まだ危ないんだよね。
「お友達も一緒に食べていってね」
近頃ずっとこの子たちは一緒にいるなぁ。たまに、小さいバーナン鳥はどっか行っちゃってる時もあるけどね。
「そういえば、もうすぐ冬だけど君たちは大丈夫なの?」
《チッ》
問題ないというようにみんな羽を広げて飛び回る。ミーシャさんに聞いたところ、年間で気温がそこまで激変することもないから、過ごしやすいとは言っていたけどね。
でも、実際に体験してみないと分からないから、私も一年はこの町にいることにした部分もある。思ったより寒くなるなら防寒着を買わないといけないし。
「この後はムルムルさんへの贈り物を作るためおじさんの店へ材料を仕入れに行くんだけど、お店が開くまでまだ時間があるしどうしようかな? この時間で開いてるところか~。そうだ! 冒険者ショップへ行こう。この前作った魔道具を見てもらいたいし」
《チッ》
「ミネルたちも来るの? 店の物は汚さないようにね」
《チュンチュン》
バーナン鳥たちは分かってるよ答える。行き先も決まったので、私はワンピースに軽く上着を羽織って準備を済ませる。秋とはいってもまだ肌寒くはないから軽装だ。
「行ってきま~す」
「いってらっしゃい」
ミーシャさんとエレンちゃんに挨拶をして宿を出て冒険者ショップへ。ホルンさんに聞いたんだけど、冒険者ショップでは一人二個までなら無料鑑定してくれるらしい。ホルンさんの鑑定より精度は下がるし、鑑定するまでもない物は駄目だけどね。
「こんにちは~」
「あら、アスカちゃんいらっしゃい。どうしたの今日は?」
「ちょっと見てもらいたいのがあって……」
「この前言っていたポーションかしら?」
「いいえ、これなんですけど……」
私はマジックバッグから防護の魔道具を二つ取り出し店長さんに見せる。
「これは?」
「テントや身に付けている人を守る防護の魔道具です。そこまで強いものではないですし、グリーンスライムの魔石なので、風魔法の素養が必要ですけど何度か使えると思います」
「へぇ~、面白い物を作るわね。これなら野営の時に冒険者たちが助かるわ。だけど、グリーンスライムの魔石ってところは一長一短ね」
店長さんが私の話を聞きながら魔道具を鑑定している。
「そこは他の魔石を使えば再充填できるように改良できます」
「う~ん。悪いけど実際の強度が分からないと、冒険者には勧められないわね。ちょっとそこの!」
「お、俺?」
「そう、あなた冒険者ランクは?」
「Cランクだが……」
「ちょうどいいわ。アスカちゃんこれ一つ買うわね。値段は効果を確かめて払うわ」
「はい」
「じゃあ、この魔道具を発動させてくれる?」
「分かりました」
私は魔道具を発動させ、自分の周りにバリアを張る。
「あなた、この子の手前に斬りかかってみて」
「お、おい。こんな町娘に斬り掛かって大丈夫なのか?」
「この子も冒険者よ。今日はオフだからこの格好なだけよ。ほらさっさとやる!」
店長さんって私と話をする時は優しそうなのに、男の人には厳しいのかな?
「じゃあ、行くぞ。はぁっ!」
私の手前を狙った一撃はガキンと音を立て、見えない壁に阻まれた。
「あなた、きちんと力入れたんでしょうね」
「あ、ああ……」
「力はどのぐらい?」
「一応、200はあるんだが……」
「武器はみたところ銀製のようね。銀+200の力ならオークの攻撃には耐えられそうね。オーガ相手でも時間を稼ぐことはできるか。初見じゃ見えないわけだし。じゃあ、今度は魔法を使って試しましょう。あなたの相棒は風使いよね」
「そうだが」
「ちょっと協力して。今度安くしてあげるから」
「分かった」
店長さんの指示で男の人は別の人を連れてきた。それにしても店長さん、行動が早いなぁ。できる人って感じだね。
「魔道具の実験だって?」
「ええ、この魔道具の強度を確認したいのだけど、一応自己防衛できる人が良いと思って」
「それじゃ私は魔力を充填しますね」
「ああ、それなら裏を借りられるか? 風魔法は結構範囲が広いからな」
「分かったわ」
みんなで店の裏へ行き、来てもらった人に魔道具を渡す。
「よろしくお願いします」
「ああ、ってアスカちゃんか。こちらこそよろしく」
「何だお前、この冒険者を知ってるのか?」
「ああ、鳥の巣の店員さんだよ。最近はほとんどいないけどな。それに、冒険者としてもかなり期待できるって話だ」
「そ、そんな」
自分よりランクの高い人に褒められると照れちゃうな。
「はい、それじゃあ、アスカちゃんお願い」
相手の人に風の壁を作ってもらってから、魔道具を展開してもらう。私は今魔力160で相手は180ぐらいって言ってたから大丈夫だろう。
「じゃあ行きますね。風の弾丸よ、ウィンドブレイズ!」
「ちょっと、大丈夫なのかこれ!わわっ」
最初はちゃんと防いでいたが、数十発当たったところでとうとうバリアは破られてしまった。
「う~ん、駄目ですか?」
「ちなみにアスカちゃんの魔力は今どのぐらいなの。おおまかでいいから教えてくれる?」
「160ぐらいですかね?」
「160……Cランク並みの魔力だ。時間は長くないとはいえ、先程の威力に耐えられるならかなり実用的だな」
私が本気でウィンドブレイズを放ったら消し飛んじゃうと思うけどなぁ。でも、一般的な用途としては良いのかな? 後で、ジャネットさんたちにも強度はこのぐらいって教えてあげよう。
「それじゃあ、後は値段だけね。ある程度繰り返し使えるし、さっきみたいに破られても張り直せるから割と使い易いわね」
「正直、俺は今すぐ買いたいぐらいだ。この魔道具を買っても見張りの負担は同じだが、安全度が違う」
「そうだな。うちはお前がいるからこのグリーンスライムの魔石で十分だしな」
「そうねぇ。グリーンスライムの魔石だったら銀貨八枚かしら? それぐらいでどうかな」
「グリーンスライムの魔石が銀貨一枚程度でしたよね。そこに銀を使っても細工に力を入れないでいいからそれぐらいでいいですよ」
「後は普通の人でも使えるものだけど、それはどうやって作るつもりなの?」
「そっちはウィンドウルフの魔石を使おうと思うので、仕入れをお願いしたいんですけど……」
「おっと、俺たちは向こうに行ってるな」
「……ありがとね」
店長さんと話を詰める前に冒険者さんたちは店内へ戻っていった。お金に関することだから気を利かせてくれたのだろう。
「ウィンドウルフの魔石ね。大体、銀貨六枚から銀貨八枚ぐらいね。どのぐらい仕入れるの?」
「最初は十個ぐらいお願いします。ちなみに在庫は今ありますか?」
「ウィンドウルフの魔石の在庫は五個ね。良品が三つに、そこそこのが二つね」
「じゃあ、良品を三つください」
「それじゃあ、金貨二枚と銀貨四枚なるわ」
「後、グリーンスライムの魔石もお願いします」
「あっちはどうだったかしら? 色味が綺麗だから細工の材料としても売れるのよね。冒険者向けとしては使いづらいからあったかしら……」
店長さんと店へ戻って魔石を探してもらう。結果、以前に仕入れたまま放置されていたものが六個あった。
「品質としてはいいものだけど、さすがに長いこと余ってた物だし銀貨八枚でいいわ。市場だともうちょっとするんだけど売れない在庫も困りものだし」
「ありがとうございます!」
「お礼は商品化して返してくれればいいから。それと、似たようなものはあると思うから商人ギルドで確認だけはしておいてね。同じ物を作って流通させる場合、自分が思いついても使用料を取られちゃうから」
「そうなんですね……どうしようかな?」
「何だったら私が調べておきましょうか?」
「良いんですか?」
「ええ、人気商品が増えるのは嬉しいし、これぐらいならいつでも言ってね」
「はい!」
私は商品の確認を店長さんに任せて、仕入れた魔石をマジックバッグにしまい宿へ戻る。思いのほか時間を取ったけど、それでもまだ九時ぐらい。せっかくだから、調合を試してみよう。
「そうと決まれば、商品を並べてと……さあやるぞ~!」
服装も細工をする時の格好に着替え、力も開放して臨む。いざ、挑戦だ!