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アルバへの帰路

 翌日、目を覚ました私たちは朝食もそこそこにギルドへ向かう。


「さあて、帰りの仕事を探さないとね」


「こっちからだと調査依頼もすぐになくなっちゃうから大変なんですよね」


「護衛依頼も戦争だよなぁ。残り物といったら急ぎじゃないものばかりで報酬も安いし」


「最低でも銀貨三枚は欲しいよね」


「う~ん。となるとこの依頼ぐらいかぁ。テセント商会の護衛、依頼料は銀貨三枚」


「ああ、その依頼は受けなくていいよ。同じ報酬ならこっちの方がいい」


「ラーナルト商会。急ぎではありませんので、報酬は銀貨三枚です。よろしくお願いします……一緒の値段ですけど?」


「まあ、物は試しだね。こっちを受けてみよう。ちょっとだけ待ってな」


 ジャネットさんの意見で私たちはギルドで依頼を受けた後、テーブルで話をしながら待つ。


「そろそろこの商会を選んだ理由を教えてくれませんか?」


「残念ながらここでできる話じゃないからねぇ。まあ、ゆっくりしてな」


 それからさらに四十分ほどして、私たちが受けようとしていた依頼を別の冒険者が受けた。


「この依頼は何時頃出発だ?」


「後二時間後ですね」


「そうかわかった」


「ふむ、二時間後か。うちらのはもう準備に入ってるから先に出発できるかねぇ」


「ジャネットさんひょっとして……」


「まあまあ、こういうのも経験だよ。実際に経験すると疲れるから見てるだけになると思うけどね」


 そうして私たちはギルドを出て、依頼者のところへ行く。


「こんにちは。君たちが今回依頼を受けてくれるパーティーですね。高い依頼料は出せませんが」


「いいえ、私達もそんなに実績がありませんし……」


「随分お若いパーティーですね。この街でも中々見かけませんよ」


「そうかい? 下を見ればいくらでもいるけどね」


「おや、ジャネットさん。合同依頼ですか?」


「単独依頼だって書いてあったろ?」


「おっと、これは申し訳ありません。こちらは準備ができてますがいつ出発を?」


「そうだねぇ。今が九時だから十時半ごろだね」


「承知しました。では、それまでうちの商会で休まれませんか? 奥の部屋も空いてますし、何なら店を回っていただいても構いませんよ?」


「どうするアスカ?」


「私は構いませんよ。リュートは昨日見たけどいいのがないって言ってたし、もう一回ここでも見てみたら?」


「そうだね。じゃあ、店を見させてもらおうかな?」


「それでは案内をつけさせてもらいます」


「良いんですか?」


「ええ、護衛を受けていただく相手ですし、うちも商売ですしね」


 こうして、私たちは商会の部屋に案内された。ジャネットさんは特に見るものがないので、奥で飲み物をもらっている。私たちは昨日いいものがなかったのと、ノヴァも見たいということで一緒に見て廻る。


「なあなあ、これなんかよくないか?」


「確かに綺麗だけど……ちょっとノヴァ。これ高くないかな?」


「まあ、ちょっとするけどさ。アスカはどう思う?」


「う~ん。どうしてもノヴァが欲しいならってところかな。値段からするとお高いかも。それならこっちはどう?」


「こっちだと男ものだろ?」


「ええっ!? ノヴァが誰かに渡すの?」


 あまりのことに驚いてしまった。まさか、ノヴァにアクセサリーを渡す相手がいたなんて、普段の様子からじゃ分からなかったよ。


「アスカってたまに失礼だな。エステルと孤児院の奴らだよ。仕事も頑張ってるみたいだしな~」


「へぇ~、ノヴァもちょっとは大人になったんだね」


「何だよリュートまで。おかしいか?」


「ううん。良いことだと思うよ。でも、これならアスカの作ったものの方が良いと思うけど……」


「そうなんだよな。ただ、アスカのだと数もあるだろ? ちょっとぐらい高くてもいいから一点物をあげたいなって思ってよ」


「ふ~ん、それならいいかもね。でも、買うならこれだけにしといた方が良いよ。これとか、端が欠けてるし、こっちはちょっと金属が混じってるから多分すぐに壊れちゃうと思う」


「そうなのか? いや~、やっぱアスカがいると心強いぜ」


「私もか弱い少女なんだけどな」


 審美眼を買ってくれるのは良いけど、心強いと言うのは解せない。


「ないない。そんなこと思ってるのアスカぐらいだぜ」


「そんなことないよ。ねっ、リュート……何で目を逸らすの?」


「あっ、いやぁ。ちょっとね。ほ、ほら、これなんかいいと思って」


 リュートの指した先には綺麗な金細工があった。確かにきめ細やかな編み目模様で、つなぎ目も自然だ。


「へぇ~、リュートも誰かへのプレゼント?」


「えっ、ああ。院長先生にね。いつも忙しそうで飾りの一つも付けてないし、祝い事とかそういう時だけでも付けて欲しいって思って」


「だけど、これだけの飾りなら結構するんじゃない?」


「そうだけど、いざとなったら売ってお金に換えられるから。お金だとなかなか受け取ってもらえないし、これぐらいならってね」


「リュートは優しいんだね」


 身につける相手の性格まで考えてるなんて。


「優しいのとはちょっと違うかな。自分が生活できたのもそれまで孤児院にいた人たちの頑張りだからね。自分と同じ境遇の子が困らないようになって欲しいだけだよ」


「でも、そのまま出て行っちゃうだけの人っているでしょ?」


「生活していくだけで手一杯ていうのもあるししょうがないよ。僕らだって最初は薄情だなって思ってたけど実際、院を出て暮らすようになってしんどさが分かっちゃったから。何もしなかったんじゃなくて、それだけ余裕がなかったんだって」


「そういえばエステルさんもうちに決まるまで、かなりギリギリの生活だったもんね」


 仲良くなるうちに色々とエピソードも話してくれたけど、うちに決まるタイミングも生活がギリギリだって言ってたし。


「そうそう。ちゃんと、仕事につけるだけでも幸運だったんだって思ったらね。だけど、改めてみると金貨一枚か。ちょっと考えちゃうな」


「でも、これは結構お値打ち品だと思うよ。これだけ細かく金属を編むのって大変だし」


「アスカが言うなら買ってみようかな。損はしないと思うし」


 二人とも買いたいものが決まったようで、カウンターへと向かった。私はこれというものが見当たらなかったので今回もお預けだ。違うお店だけど、仕入れ先が同じなのかそこまで違いがないんだよね。さっきみたいな掘り出し物はわずかで、価格に対して品質も悪くて割高だ。


「アスカ様は買われないので?」


「えっ、はい。気に入るのがなくて……」


「それは残念です。ですが、あまりよく見られていなかったようですが?」


「実は昨日別の商会でも見て廻ってたんです。そことここで見た中に同じようなものも多かったので……」


「それは申し訳ありません。確かにこの辺りだと同じような仕入れ先になってしまい、後はわずかな価格差が売りになっておりまして」


「そんな、失礼なことを言ってすみません」


「いいえ、実際同じことを言われる方もいらっしゃいますし、どうにかしたいところではあるのです。どなたかお知り合いがおられませんか?」


 う~ん、自分でも作れるけど、結局私が作ったら暇な時間が取れないし、昨日の商会と同じものが並んじゃうしなぁ。何かいいところか……。


「そういえば、アルバには細工師で店も持っている人がいるんですけど、そちらからは仕入れていますか?」


「アルバからですか? あっち方面は海の向こうの工芸品が主なので、途中の街で仕入れることはありませんね」


「だったら、アルバのその店で私の商品も販売してもらっているんですけど、そこのおじさんなら何か作ってくれるかもしれません」


「ほう? では、お願いしてもよろしいですか。その方にぜひこちらの商会へ商品を卸してほしいと、すぐに手紙を書きますから。もちろん運送費はこちらで持ちますので」


「本当ですか? きっと、おじさんも喜ぶと思います」


「後は職人ということですから、こちらをお渡しください」


 商人さんから戸棚から取り出した小さな箱を渡される。


「こちらは高価なものなので、お譲りすることはできないのですが、一度この作品を見て欲しいと。きっとお役に立てると思うので」


「は、はい」


 中身は分からないけど、おじさんのためになるんだろうなと預かった小箱をマジックバッグに入れる。


「アスカ~、支払い終わったぞ~」


「は~い。それじゃあ、私たちは奥の部屋で休んでますから」


「はい、早めに手紙を持って行きますので」


 私は商会長さんと別れてみんなと合流した。


「何の話だったんだい?」


「新しい商売相手を知らないかって」


「アスカは卸先をまた広げるの?」


「ううん。今回は細工屋のおじさんにね。じゃないと私のお休みがなくなっちゃうし」


「少しは分かってきたじゃないか。ほら、アスカも飲みなよ。ここの紅茶は美味しいよ」


「ふわぁ~、本当ですね。ありがとうございます」


 私はお茶を入れてくれたお姉さんにお礼を言う。その後はみんなで時間まで談笑して過ごした。


「さぁ~て、そろそろ時間だね」


「みなさんお願いしますね」


「ああ。まあ、何も出ない幸運な連中もいるみたいだしそう心配しなさんなって」


「そうだぜ。俺たちだってそこら辺の奴よりは強いからな」


「では、お任せしましたよ」


 私たちは商会を後にして今回護衛する商隊のところに向かう。


「あなたがラーナルト商会の方ですか?」


「はい。そうするとあなた方がフロートの?」


「はい、私がリーダーのアスカです。よろしくお願いします」


「え、ええ、こちらこそ。では早速ですが出発してもよろしいですか? せっかく早い出発なので……」


「構いませんよ。それじゃあ、みんな行こっか」


 私たちは商会の人と一緒に門まで行く。今回も馬車は二台だ。何もないようにと簡単だけど馬車に風の魔法を掛けて危険がないようにする。


「ふぅ~。しかし、助かりましたよ。なかなか、この金額だと受けてくれる冒険者さんがいないので、前は一週間待ちましたからね」


「そんなに出発が遅くなって大丈夫なんですか?」


「ええ。うちは食料品じゃなくて、細工物とか工芸品の取り扱いばかりで。ですからいつでも出発できればいいんです。こういうのはそこまで大きく流行り廃りがないですから」


 ふ~ん。前世では流行なんてすぐに変わってたけど、アルトレインじゃ情報の伝達が遅いせいか、そこまでじゃないみたい。まあ、神像は流行とかもないだろうし、そのせいもあるのかもね。


「じゃあ、いつも荷物はこんなに多いんですか?」


「今日は多い方ですね。どれだけ短い期間で出発出来たかで、商会の在庫も変わるので、それに合わせて馬車の台数も変わります。普段は一台が多いのですが、この前の在庫も残っているので二台なんです」


「でも、それだと普段から二台の方が安く済みません?」


 出発を急がないなら二台分溜まってから依頼を出せばもっと良いのではないだろうか?


「そうすると、今度は一回の仕入れの金額が大きくなるから、金銭的にも場所的にもうちじゃなかなか難しいんです」


「商売って大変なんですね」


「いやいや、あなたのような小さい子が冒険者をやるのに比べてたら安全ですよ。私なんて最悪は他の店に勤めればいいんですからね」


 そんな話をしながら、商会のお兄さんと和やかにアルバへの道を進んでいった。



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