素材売却と採取結果
宿に着いた私たちは早速、二部屋取る。駆け出しなら一部屋なんだろうけど、一応女の子としてね。でもまだジャネットさんたちは着いていないみたいなので、二人で部屋にこもって話をする
「そう言えばアスカ。グリーンスライムの魔石を使った細工物出してなかったよね?」
「あっ、忘れてた……今からだと間に合わないなぁ」
う~んと、しばし考えた私だったが、よくよく考えてみたらあれが必要になるのって、初心者とか中級者までの冒険者の方が多そうだし、冒険者ショップに持ち込めばいいんじゃないと思い忘れることにした。
「そっちは別に当てがあるから大丈夫。それよりリュートは特に何も買わなかったけど、どうするの?」
「お土産とか? 確かに欲しいんだけどこれといって何もないんだよね。孤児院の子たちが変に高価な物を身に着けてって言うのも危ないから、革製のものがいいかなと思ってるんだけど」
「革かぁ。サンドリザードとかじゃ駄目だよね」
残念ながら今手持ちにある革はサンドリザードぐらいだ。さすがにこんな凸凹した革を身につけて喜ぶ子どもはいないだろう。裏表をひっくり返して張り合わせたらどうなんだろう? だけど、その状態で加工できるかどうかが問題だよね。
「お~い。こっちの部屋か~?」
「あっ、ノヴァ。こっちだよ」
あれこれ考えていると、ノヴァの声がした。どうやら向こうも用事が終わったようだ。
「よっと、こっちは相変わらずいい部屋だな。それにしても、お前ら早かったな。商談って言うのはもっと時間がかかると思ってたぜ」
「私も突然だったから待ち時間とかも考えてたんだけど、早くに通してくれたから後は街を回ってたんだ」
「なんだい。それならあたしたちももっと早く切り上げればよかったねぇ。武器屋で無駄に剣とにらめっこせずにね」
「ひょっとして今まで武器屋にいたんですか?」
「ああ、ノヴァがマジックバッグを買うか剣にするかでずっと迷っててね」
「結局、どっちを買ったの?」
「買わなかったぜ。ちょっとだけ重く感じたし、もうちょっとあの剣は大きくなってからだな」
「へぇ~、ノヴァったらそんなことまで考えて武器買ってるんだね。私は貰いものと拾いものだからよく分からないんだ」
「お、おう」
「さてはノヴァ。今のセリフはジャネットさんの受け売りでしょ?」
「そ、そんなことはどうでもいいんだよ、リュート。さっさと荷物置いてギルドに行こうぜ!」
「はいはい。それじゃ、アスカ。僕たちも行こう」
「そうだね」
私はベッドわきに置いていた荷物から必要な分だけを持って部屋を出る。この町のギルドは宿からちょっと離れた場所にあるけど、道も広いし迷わず行けるのでありがたい。小径に入ったところにある町もあるんらしいからまだマシだ。
「いらっしゃいませ」
「よろしくお願いします」
依頼から帰ってくるには少し早い時間だったので、ギルド内は整然としていた。私はその列の後ろに並ぶと四分ほどで呼ばれた。
「次の方~」
「はい!」
「はい。元気な子ね。じゃあ、依頼をどうぞ」
「アルバからレディトへの街道以外の経路の調査です」
「えっ、はい……。確認いたしました。調査依頼が銀貨五枚で討伐結果が金貨二枚ですね。その他買取はありますか?」
「はい。でも、大きいので解体場でお願いします」
「分かりました。それでは先に討伐報酬のみ処理いたします」
お姉さんが私の言った通りに報酬を配分してくれる。これで、依頼は完了だ。後は解体場に行かないとね。
「それじゃ行くとするか」
「はい!」
「ん? なんだお前らか。今日は何の買取だ?」
「サンドリザードとオーガなんですけど、サンドリザードの方はちょっと見てもらいたいのがあって……」
「わざわざ言うくらいだからつまらんかったら許さんぞ」
「デルディンさん。またそんなこと言ってると怒られますよ」
「うるさいのう。そう言ってつまらんものを持ってくる方が悪いんじゃ」
「あはは、とりあえずこれを見てください」
私はマジックバッグからティタが押し潰したサンドリザードの皮を取り出す。
「うん? ただのサンドリザードじゃねぇか。……なんだこれ、つるつるしてるぞ」
「ほ、本当ですか!」
解体師さんたちが次々に皮を触っていく。みんな一様に驚いているみたいだ。
「これはどこで加工したんだ。うちでもこれぐらい滑らかにはできないぞ」
「これはゴーレムのティタにやってもらったんです」
「ゴーレムか、なるほど。あの一撃ならこうやって凹凸をなくすこともできるだろうな。ちょっと悔しいぜ。ここまでの力を加えるのは俺たちじゃ出来ないからな」
「ちなみにこの皮って買取価格変わったりします?」
「ああ、もちろんだ。どうしてもこいつの皮はざらざらの凸凹がつきものだからな。ここまで平らになるんだったらさらに買取価格も上がるだろう。他の四体分がそれぞれ銀貨九枚だが、こいつは金貨一枚と銀貨二枚だな。それぐらい加工は手間なんだ」
「そうなんですね。ちなみにこういうので代用できるかもしれないんですけど、どうですか?」
私は絵を描いて説明する。金属の台に上から鉄球を落として平べったくするか、ローラー上のものを動かして押しつぶしていくかだ。鉄球はむらができるだろうけど作るのも簡単。ローラーは巻き込みと皮の固定方法をちょっと工夫しないといけない。だけど、仕上がりのことを考えればローラーの方がいいと思うけど……。
「なるほどな。これを導入すれば手間が省けるってわけか。俺たちも助かるし、滑らかに加工できるとなれば自分たちの買取価格も上げられるってことだな」
いや、そこまで考えてたわけじゃないけど。加工範囲が広がるからそういうことにもつながるんだ。
「よし、これは俺の権限でどうにか作ってみるぜ! この作業にかかりっきりで、他の作業が手につかないことも多いくなるからな」
「よろしくお願いします。後、肉の方も一緒に買い取ってください」
「おう。こっちは銀貨五枚だな。四体いるから銀貨換算で二十枚だ。さっきのと合わせて金貨六枚と銀貨八枚だな」
「はい分かりました。じゃあ、分けてください」
ギルド窓口と同じように報酬を分けてもらう。それから私は薬草も取り出した。
「ついでにこれも見て欲しいんですけど……」
「おう、薬草まで取ってたのか。ルーン草が十五本、サナイト草が十七本、ベル草が八本、キキノコが十二本。これで全部か?」
「はい。でも今回は一部使いたいので、ルーン草とサナイト草が十本ずつ。それにベル草とキキノコが四本ずつは残してください」
「わかったぞ。ランクはどうする?」
「薬草は私の方に全部Aランクを回して欲しいんです」
「構わんがAランクの本数はそんなに……って、何だこの品質は?」
「アスカは採るの上手いから、何とかなるんじゃないかい?」
「おお、確かに。じゃあ振り分けるぞ。ルーン草はAランクが十本、ランクが五本。サナイト草はAランクが十一本、Bランクが五本、Cランクが一本。ベル草がAランクが五本、Bランクが三本。キキノコの品質は十分だ。全て規定の価格だな」
「じゃあ、売るのはルーン草のBランクが五本と、サナイト草のAランク一本とBランク五本とCランク一本。ベル草のAランク一本と、Bランク三本。キキノコ八本ですね」
「そうだな。この分の価格は……金貨七枚と銅貨八枚だな」
「じゃあ、買取お願いします」
こうして私が代表して売却分をもらう。
「じゃあ、みんなには私が貰う分と売却分を合わせた価格を人数で分けて渡すね」
「えっ、いいよ。アスカじゃないと分からないものばかりじゃないか」
「でも、一緒に冒険したのに渡さないのは違うよ」
「それなら一人金貨一枚でどうだい。私たちは誰も採ってないからね。見張りの相場と一緒の三割程度だよ」
「ええ~!」
「ええ~、じゃないよ。働いた分の報酬をもらうのが冒険者だよ」
「は~い」
私は渋々、みんなに一枚ずつ金貨を渡す。今回は自分でせっせと採り続けちゃったし、ちょっと注意しないと。
「それじゃあ、用事は終わったし帰ろう。あ、おじさんそのローラーとかができるまでだけど、魔石とかをあげたら、ティタ……ゴーレムさんが現地でやってくれるかも」
「そうなのか。じゃあ、冒険者にも言っておく」
「お願いします。腕に私のスカーフを巻いているのですぐに分かると思います」
素材も売り終え、私たちは宿へ戻る。宿ではお風呂に入ったり食事を取ったりと、いつも通りの時間を過ごしてちょっとだけ寝るには早いのでマジックバッグの整理を始めた。
「う~ん。種類ごとに道具をまとめる箱とか欲しいなぁ」
「どうしたんだい、いきなり」
「ええっと、今マジックバッグの整理をしてたんですけど、結構物がごちゃごちゃしてるんですよね。種類別にまとめられるように箱でも作ろうかと」
「でも、それに場所とか重量を取られないかい?」
「そこは木の皮とかをうまく使ってかごを編もうと思います。中身が濡れたりしませんし」
「へぇ~、便利そうだね。あたしにも作ってくれないかい?」
「良いですよ。どれぐらいのサイズがいいですか?」
「ん~、服とかをまとめて入れたいからねぇ……」
「あっ、じゃあ任せてください! 私もちょっと欲しかったんで考えたサイズにしますね」
私の考えているサイズは衣装ケースの半分ぐらいの大きさだ。物を詰めすぎると持ちづらいし、天気によっては出した時に濡れたりするので、それぐらいかなと思っている。作り方は本を買うとして、取っ手付きのデザインに一応上からすっぽり覆えるように上蓋を作ろうかな? ああ~、他にも色々作りたいけど時間がいっぱい必要だよ~。
「ほら、悶えてないでそろそろ寝なよ。明日もあるんだよ」
「は~い」
ジャネットさんの注意を受けて私は祭壇を出して祈りをささげた後、毛布をかぶり眠りについた。