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いざ!商談と相談

 二人と別れた私たちは目的の商会を目指して進む。確かこの辺りだったような……ここだ。


「アスカ、ここなの?」


「みたいだね。私も中に入るのは初めてなんだけど」


「いらっしゃいませ。どのような御用でしょうか?」


 さすがは商会の受付の人だ。見た目は小さい私相手でもきちんと対応してくれる。


「あの……私はアスカと言います。ここの商会長さんに商品を持ってきたんですけど…」


「どのようなものでしょう?」


「あっ、細工物なんですが……」


「少々お待ちください」


 お姉さんは奥に引っ込むと男の人と話しをした後、すぐに戻ってきた。


「アルバの細工師のアスカ様ですね。お連れの方は?」


「友人です。こちらにある商品を見てみたいということだったので」


「承知しました。奥へお進みください」


 良かった。ちゃんと通してくれるみたいだ。私たちは奥の一室へ通された。


「アスカ、なんだか緊張するね」


「そうだね。自分の商品を出すのもそうだけど、こういう雰囲気のところって今まで入ってこなかったし」


「僕も商品を見に来たのになんだかそういう感じでもなくなっちゃった」


「本当だね。なんだかマネージャーみたい」


 リュートとヒソヒソ話しているとドアがコンコンとノックされる。


「はい」


「すみません、お待たせしてしまって」


「いいえ、おじさんこそ商会長だから忙しいのでは?」


「おじさん……」


 おじさんと一緒に入ってきた人が渋い顔をする。だって、名前知らないし。


「いや、これは名乗っておりませんでしたな。私はドーマン商会のセーマンと申します」


「私はアスカです。こちらは同じパーティーのリュートと言います」


「よろしくお願いします」


 うんうん、ドーマン商会のセーマンさんね。なんだか聞き覚えのある名前だし覚えやすそう。あれ? セーマン商会のドーマンさんだっけ。やっぱりややこしいなぁ、この名前。


「どうかしましたか?」


「あっ、いいえ」


「それで今日はどのような用件でしょう? フィアルさんから何か言伝でも?」


「いえ、前に言われていた細工なんですけど、時間はかかりましたけど持ってきたので……」


「ほう、それは楽しみです。ああ、こちらにいるのはこの店の責任者のトーマスです」


「……よろしくお願いします」


「固いやつですが気にしないで下さい」


「はい」


 自己紹介も終わったところで、私はこの間に作った細工を取りだしていく。まずは昨日作ったシェルレーネ様の像から。これはまだ型しか作ってないからこの場で発注が取れるか確認しないとね。

 後はアラシェル様の像が五体と、花や模様を使った細工と安い魔石を使った魔道具だ。魔道具といってもすごい効果ではないけどね。

 後は貴族も買っているという噂の(会ったことはないけど)ベル草の髪飾りが三つ。はめている魔石は黄色と青と赤だ。それぞれ、金運と清浄と体調に効果があるという魔石を使っている。


「いったん、持ってきたのはこのぐらいですかね」


 テーブルがあまり大きくなかったので、ここまで出したところで相手の反応を見る。どんな感じだろう?


「手に取ってみてもいいですかな?」


「はい、もちろんです」


 実際につけないとわからないだろうしね。セーマンさんは眼鏡を取りだして真剣な目で細工を見ている。


「どう思うトーマス?」


「これがどのぐらいの価格になるかは置いておいて、かなりきわどいです。主に今ある在庫とのバランスが」


「お前もそう思うか。一度、店で値段も確認しているがあまり一気には出せないかもな」


「競合者には何とか交渉してみます」


「あ、あの……だめでしょうか?」


 さっきからの会話を聞いていると反応は芳しくないようだ。


「ああ、不安にさせてしまいましたかな。いえ、確かに品質はいいですよ。ちなみにこちらのシェルレーネ様の像の買取価格はいかほどを考えておられますかな?」


「オーク材を使ったものですし、そこまで大きくないので大銅貨三枚前後ですね」


 魔道具で作れば一体あたり一時間から二時間でできるし、五体作れば銀貨一枚半から二枚なら上出来だろう。手作業だと時間は掛かるけど片手間に少しずつ作れるので、そっちも同じぐらいの値段を考えている。


「おそらくあまり取引をされたことがないでしょうが、最低でもこれなら大銅貨五枚になります。神像ということを差し引いての価格なので他の細工なら大銅貨七枚でしょう」


「そ、そんなに高いんですか……」


「売る側としてはそこに利益などを加味して銀貨一枚程度ですね」


「う、う~ん。なんだか高いような……」


「そこなんですよ。うちとしてはこれを大銅貨四枚程度というだけでも嬉しいのですが、他の方だと大銅貨六枚程度の取引がこの品質では多くて。端的に申しますと安すぎて他の売り上げが落ちてしまうのです」


「あ~、それは困りますね」


「どういうこと?」


 リュートは価格差についてわからなかったので説明する。


「リュートも店に銀貨一枚のと大銅貨七枚のがあって、品質も同じようなものなら安い方買うでしょ?」


「うん、まあ」


「それで、大銅貨七枚が売り切れだったら銀貨一枚のを買う?」


「どうしてもって時なら買うけど……あっ!」


「そういうことですな。ある程度、数を並べてしまうと他の商品が価格差でだぶついてしまいます。それではうちが困るんですよ。かといって、安く仕入れたものを高くしすぎてはこちらも困ります。神像ですからね」


「まあ、急ぎでお金が欲しいわけでもないので、ちょっとずつ売ってもらえますか。もし、売り上げに影響が出るなら次から買取価格を考えてもらうという事で」


「良いのですか?」


「はい。それに神像は信仰のためのものですし、あんまり高くはしたくないんです」


「ですが、デザインも新しく、きっと話題になると思うのですが」


「なら、また新しいのを作ってきますから。といっても今回のは型ですけど」


 トーマスさんはなんだか不思議な顔をしていたけど、こればっかりは仕方ない。神様で儲けるなんて気持ちいいものじゃないしね。私はアラシェル様の像も同様の価格で売ってもらえるようにお話をする。


「ふむ。こちらの神像は知名度もありませんから、まずはこの商会用に一体買わせてもらい飾っておきます。その方が宣伝にもなるでしょう」


「ありがとうございます」


「いえいえ、これだけのものを仕入れさせていただけるなら構いません。こちらこそ縁ができてありがたいです。こちらの花飾りなども……ふむ。これは銅製ですか、であれば銀貨一枚ですね。もう少し大きめのものなら銀貨一枚と大銅貨四枚で買わせていただきますよ」


「本当ですか? アルバだとその半分ぐらいの値段なんですけど……」


「まあ、そこは輸送代とでも思って頂ければ。実際、アルバからでも最近は危険ですからね。それに細工師の拠点のところが安い方がこちらとしては売りやすいのです。わざわざ仕入れたと言えますからね」


 なるほど、ブランド化してくれる気なのか。でも、仕入れといっても私は持ってきてるんだけど、深くは考えないでおこう。


「今はアルバ行き乗合馬車も片道、大銅貨三枚と銅貨がいくらか要りますしそこまで影響しませんよ」


「なら大丈夫ですね。こっちのはどうでしょうか?」


「ベル草の飾りですね。見事な銀細工ですがこの宝石は?」


「あっ、それ宝石ではなくて魔石なんです。一応魔道具として作ってみたんですが、どうでしょう?」


「魔道具ですか……どれ」


 セーマンさんが眼鏡を触ってじっと見る。もしかして、ギルドで使われている鑑定効果のある魔道具なのだろうか?


「ほう。おお! これは」


「どうかなさいましたか?」


「トーマス! お前も見てみろ」


「では……」


 トーマスさんもセーマンさんの魔道具を借りてベル草の飾りを見る。


「これは!? しかし、うちで今すぐ扱うのは……」


「まあ、得意先への営業にも使えるし、それなりの客相手にはちょうどだろう」


「ですが、値段がしますが?」


「そこは仕方ないだろう。大体、王都経由で来るものも年々、質が低下している。安くはなったがな。代わりに常連の方の来訪も減っている今、これは渡りに船だ」


「きちんと効果ついてました? 一生懸命やったんですけど、自信なくて……」


「ええ、十分すぎるほどついてますよ。こういう身近なものでは効果があるものすら珍しいですからね」


「ちなみに買取価格はいくらぐらいですか?」


「細工物としては銀製ですので銀貨三枚ぐらいでしょうか。ただ、魔道具となりますのでこの効果を考えても金貨二枚が妥当な線かと」


「金貨二枚! いいんですか?」


「ええ、毎回仕入れるかはわかりませんが、そのぐらいの価値はあります。月に一つはひとまずいただきたいですね。こちらも宛があるので」


「頑張ってみます。後は……」


「まだあるのですか?」


「はい。たまにしか来れないのでと思って頑張りました」


 私はヴィルン鳥の羽根をモチーフにしたネックレスやゴーレムのキーホルダーなどを出していく。


「ほう、魔物の細工物ですか。ですが、どことなく大衆向けの感じもして怖いものではないですね。これぐらいなら問題ないでしょう」


「本当ですか? 魔物をモチーフにしていいものかちょっと気になっていたので……」


「ですが、なぜこのようなモチーフを?」


「実は……」


 私はアルバ南東にゴーレムがいて、冒険者たちを助けていることを伝える。


「ほう、それは初耳ですね。では、そういう話しも含めて宣伝させていただきますよ」


「よろしくお願いします! きっとティタ……そのゴーレムも喜びます」


「いえ、今回は取引をしていただいてありがとうございます。一先ずここにあるものは買わせていただきますので、よろしくお願いいたします」


 トーマスさんが一度、部屋を出て行き戻ってくる。そこにはお金が入っているだろう小さめの金庫が握られていた。


「ひとまずはですね、金貨七枚と銀貨六枚それに大銅貨七枚です」


「アスカ良かったね。結構な額になって」


「うん。だけど、こんなにもらっていいのかな?」


「ええ、これでも相場からすると少し安い位です。残念ですが、この街ではまだそれほど知名度がありませんからな。もし、売れるようになりましたらもう少し勉強させていただきます」


 私の言葉を聞いてセーマンさんが励ますように言ってくれる。人気細工師かぁ。いつかなれるかな?


「ありがとうございます。そうだ! 少し店のものを見せてもらってもいいですか? リュートが見たいものがあるとのことだったので……」


「そちらの方が? もちろんです。それではトーマス、案内を」


「はい」


「そ、そんな店長さんは忙しいのに悪いですよ」


「いいえ、私も作品を見て考えが変わりました。こちらからお願いいたします」


 丁寧にあいさつをしてくれるトーマスさんについて行き私たちは店を見て廻る。


「どう、リュート。何かいいものあった?」


「う~ん、ちょっと身に付けるぐらいのものだとしても結構するなって思って。それにほら、パーティーコインとか従業員証を見てると、ちょっと細工の質が悪いかな」


「……おっしゃる通りで。最近こういった小物の質が悪いのですよ。売り上げとしては大きく響きませんが、品ぞろえとしては問題なのです」


「そうだね。リュートの目はいいと思うよ。質の割にちょっと高いかな? こことか欠けてるしね」


 同じく細工をしているからだろうか。私もやっぱり粗があるのが目に入ってきてしまう。でも、店長さんの目の前で言ってしまっても良かったかな?


「そういう意味でも新しい作風が入ってきてこちらとしてはとてもありがたいので、これからもよろしくお願いします」


 問題なかったみたい。肝心のリュートはというとやっぱり買いたいというところまではいかなくて何も買わずに出てきた。


「何も買わなくてよかったの?」


「うん。あの値段だったらアスカに依頼して作ってもらうよ。その方がずっといいものができると思うし」


「本当! じゃあ、作ってあげるよ。ノヴァには内緒ね」


「ど、どうして?」


「また、うるさく言われそうだし。それにリュートならきちんと材料を持ってきてくれるけど、ノヴァだとついでに作ってくれ~って言いそうだし」


「ああ、そういう……うん。じゃあ、無理せずに待ってるから、デザインがまとまったら言ってね。材料を渡すから」


「あっ、どんな魔石がいいかは考えててね」


「了解」


 こうして私たちは残りの時間を散策に費やし、集合時間になったので宿へ入ったのだった。


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ドーマン商会のセーマン…! 科学ではどうにもならない魑魅魍魎に立ち向かう、神妙不可思議にして胡散臭い男なイメージがする…
困ったときにすぐに呼び出す人が居そう
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